1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. IT
  4. IT総合

少年ジャンプ+細野編集長「令和の大ヒットは『ライブ感の醸成』で決まる」

ASCII.jp / 2023年4月2日 15時0分

今回は、大ヒット戦略の核となるキーワード「ライブ感」について解説

第1回はこちら

ライブ感とは「同時代性・共有・愛着」

 まつもとあつしが担当する大学講義にて2022年に開催された、「少年ジャンプ+」編集長・細野修平氏による特別講義もクライマックス。週刊少年ジャンプを超えるための戦略、最後の1つにあたる「ライブ感」の意味とその効用などについて語っていただきました。

「少年ジャンプ+」は自社のオリジナル作品のみで勝負するマンガアプリだが、それでも強く支持されている理由はランキングを見れば一目瞭然だろう。このラインナップの最新話を無料で読めるというアドバンテージは極めて大きい

細野 3つ目が「ライブ感の醸成」。ライブ感とは同時代性、共有、愛着の3つがポイントかなと思っています。

戦略3:ライブ感の醸成

 もうちょっと詳しく説明しますと、ライブ感とは「同時に体験し共有でき、一体感を強化し、作品・IPへの愛着を高めるもの/こと」と定義してみました。これだけだとわからないと思うので、事例を挙げていこうと思います。

ライブ感とは?

 バルス祭りってみなさん聞いたことありますか? 最近、ジブリ作品が若者に観られなくなっているのでは、という記事を読んだので、どうかなと思ったのですが。

 これは『天空の城ラピュタ』という作品のクライマックスに出てくる「バルス」という合言葉を叫ぶタイミングでTwitterでも「バルス」と書き込むというもので、調べると2011年に当時のツイート量の世界新記録を叩き出しているようです。

 それ以降、金曜ロードショーで放送されるたびに「バルス祭り」というかたちで盛り上がりました。2022年8月にもこのバルス祭りが実施されましたが、サーバーも落ちずに保ったということで、Twitter Japanは「今回も耐えられた」とツイートしています。

 このバルス祭りの動きを見ながら私は『「ラピュタ」なんか、みんなもう何十回も見てるじゃん』と思っていたのですが、同じタイミングで体験する、そして共有するということがすごく大事なのだなと実感できた出来事でした。

 これに関連することで、最近は結構TVの復権があるのかなと思っていまして。直近だと大河ドラマの『鎌倉殿の13人』や『水星の魔女』といった作品が、TVで放送されるたびにトレンドに上がっています。奇しくも同じ日曜日に放送されているのですが、この2作品がトレンドの取り合いみたいなことをやっているわけです。

 「同時に体験して(同時代性)、それをみんなでシェアして(共有)、さらに作品への愛につながっていく(愛着)」という、これはまさに先ほど挙げたキーワードを体現していると感じています。

 TVって一時期オワコンだとか「誰も見てないよ」なんてことも言われて、メディア界ではかなり「終わったもの」みたいな流れもあったのですが、じつは「みんなが持っているインフラで同じものを体験できる」という意味では、非常に貴重というか、まだまだパワーを持っていますし、今後もすごく大事なのでは。

配信サービスの「一気見」形態はライブ感と相反しがち

細野 一方、TVの凋落と共に語られていたのが、「Netflixをはじめとした動画配信サービスが席巻し、世界を支配するんだ!」といった言説でした。そしてその当時、頻出したキーワードとして「ビンジウォッチング」が挙げられます。みなさんご存知かちょっとわからないのですが、簡単に言うと「一気見」のことですね。

 『ストレンジャー・シングス』や『ハウス・オブ・カード』といった人気作を全話一気に見る、という楽しみ方/受容の仕方が最先端であって、それによってエンタメが変わっていくんだ、というふうに言われました。

 ですが、Netflixで最近ヒットしたアニメ『サイバーパンク:エッジランナーズ』を私も見て、めちゃくちゃ面白くてまさにビンジウォッチング、一気見したのですけれど、世間はそんなに盛り上がっていないなと思っていまして。

 これこそが同時代性の欠如なのではと。みんなが同じタイミングで見るという視聴方法ではなかったので、(作品は面白くても)あまり話題になりにくく、共有・愛着につながらなかったのかなと。

ビンジウォッチング

まつもと 今、エッジランナーズ観た人に手を挙げてもらったところ、22人中4人でした。話を先取りしてしまうと、毎週更新という視聴行動の習慣付けが重要なんだろうなと思ったりしています。すみません、先回りしちゃいました。

細野 いえいえ、ありがとうございます。他方でアマゾンプライム・ビデオの『力の指輪』――『ロードオブザリング』関連の作品なのですが――が毎週金曜日に最新話を配信するというかたちになっており、配信サービス側もこのへんに気づき始めている/気にし始めているのかなと思いました。

 一方、動画配信のすごさや影響力は非常に強まっていると『サマータイムレンダ』という作品で逆説的に感じました。2022年4月からTVで2クール放送したのですが、動画配信に関してはDisney+限定でした。アニメの出来はすごく良かったと思うのですが、ちょっと広がりが強くなかったのかなと思っています。

 対して『鬼滅の刃』の場合は、配信サービスが後伸びに大きく影響したと感じています。放送後半に火がつきましたが、ほとんどの動画配信サービスで視聴できたため、みんなが後追いで観て、さらに話題になって一気に広がりました。

Webtoonは「待てば無料」だからこそ、ライブ感に欠ける

細野 他方、Webtoonについて。「待てば無料の功罪」と書きました。Webtoonには面白い作品がたくさんあると思っていますが、なかなか日本では大ヒットが出てこないなとちょっと感じたりしています。

 第1回でご紹介した飯田さんによる記事『韓国の「NAVER Webtoon」と日本の「LINEマンガ」の致命的な違い』という記事(「現代ビジネス」2022年10月27日)では、なぜ日本からヒットが出づらいのかなどを考察した内容だったのですが、そこでは3つのことが語られていました。

 それは「コメント機能がない」「シェア機能がない」「新人作品の優先順位の低さ」。こういった機能の問題があるので広がらない、ヒットしないのではと書かれていたのですが、私は読ませ方、習慣化の違いかなと思っています。

 「待てば無料」とは、待ったら無料で読めるということなのですが、逆に言うと、待たないと読むことができない。そして、待ち方は人それぞれ違ってくるので、先ほどのライブ感の項で話した「同時代性」が生まれづらいのではと思いました。こういったところが、Webtoonからヒットが今一歩、出てこない理由じゃないかなと感じている部分があります。

Webtoon――「待てば無料」の功罪

「同時代性・共有・愛着」の究極は音楽ライブ

細野 そしてライブ感と言えば当然、音楽のライブとは切っても切り離せません。

 ぴあ総研が調べた2020年までのライブ市場のデータを見ると、この黄色いバーがステージ、いわゆるコンサートやライブを全部足したもので、2019年のコロナ禍前までは、市場規模が音楽(CDなど)の倍以上あるという流れで、2011年くらいから増加傾向にありました。

 実際、私がコロナ禍の前によく聞いていたのは、「音楽は簡単には儲からないから、ライブで儲けていくんだ」という話でした。

 その流れは残念ながら2020年からのコロナ禍によって完全に寸断されてしまい、今はまた次のステージ、「ストリーミングの時代だ!」となっていて、音楽は色々大変な市場だなと思っています。

 ですが、だからこそ見直されてもいます。音楽のライブは本当に「究極の同時代性・共有・愛着」だと感じていますので。

音楽のライブ市場

 ……こんなことを言いつつ、『ライブ感についてはみなさんのほうが本当は詳しいのでは』と思っています(笑) 現在はYouTubeのゲーム実況や、スマホで楽しんでいらっしゃるライブ配信が非常にたくさんありますから。

 むしろ、みなさんのなかには『ライブ配信がなかったら見ないよ』くらいの人もいるのでは? この傾向こそ現代的なヒットの仕方なのかなと思っています。

 そして当たり前ですが、マンガもライブ感というものが大事なのではと。直近でも『HUNTER×HUNTER』が久しぶりに連載再開したり、『ONE PIECE』も2022年の春くらいにルフィの正体が明らかになるなど、日本だけでなく海外でも非常に盛り上がりまして、最新話を追いかけていくみたいな流れがまた復活と言いますか、強まりました。

マンガもライブ感で

次のエンタメを制するのは、「場」になることができた者だ

細野 私たちにとっては「最新話」こそが同時代性だと思っています。

 それを語りたくなる(共有)、そして語ることによってファンになっていく(愛着)ので。マンガをライブ感というキーワードで紐解いていくと、同時代性・共有・愛着の3つがしっかりつながってくると思っています。

 従いまして我々「少年ジャンプ+」は、アプリのダウンロード後、初回全話無料という仕様を続けているわけです。これによってライブ感を感じてもらい、やがてヒットにつながっていくのでは。

 ですから、繰り返しになりますが、今後のエンタメで大事なことはライブ感であり、「ライブ感を感じる場になれるか?」ということが重要かなと。

今後のエンタメで大事なこと

 これからも「少年ジャンプ+」は、「場」になることに挑戦していきたいと思っています。……ただ、その挑戦はプラットフォーマーとのせめぎ合いになるかなとも思っておりまして。

 プラットフォーマーのみなさんは、自分たちこそがライブ感を感じる場になりたいという野望があると思うので、今後は「場」を巡って戦っていくことになると言いますか、それに勝利すればエンタメを制することができるのではと。

第1回はこちら

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください