PLATEAUのピッチイベントにスタートアップ9社が集結!"サステナブルな3D都市データの整備を支援するAI"「Deep3」がグランプリ
ASCII.jp / 2023年3月3日 18時0分
この記事は、国土交通省が進める「まちづくりのデジタルトランスフォーメーション」についてのウェブサイト「Project PLATEAU by MLIT」に掲載されている記事の転載です。
PLATEAUの3D都市モデルを活用したビジネスアイデアを競う「PLATEAU STARTUP Pitch」が1月20日、CIC Tokyoにて開催された。スタートアップ9社が登壇しアイデアを競うとともに、会場では登壇企業やPLATEAUのプロジェクトパートナーによるサービス、プロダクトのデモ展示を行った。
3D都市モデルは社会実装のフェーズへ
2020年度から国土交通省が推進する3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化プロジェクト「PLATEAU(プラトー)」、3年目にあたる2022年度において、その活動は社会実装を意識した動きになっている。
ハンズオン・ライトニングトークや、全国各地でのハッカソンイベントの開催を通じて、東京だけではなく、全国各地のエンジニアコミュニティとの連携を図っている。このPLATEAU×コミュニティの一連の活動の集大成として、PLATEAUを活用した作品コンテスト「PLATEAU AWARD 2022」も行われた。
こうした開発イベントでは、いかに使いたくなるサービスか、社会に必要とされるプロダクトなのかといった点が問われる。その一方で、実際のサービスにいかにつなげるかというフィジビリティについても、ハッカソンの各審査員からの講評ではこれまでも言及されてきた。
PLATEAU活用におけるノウハウが提供する側・利用する側ともに着実に蓄積され、次はいよいよ社会実装のフェーズになってきている。今回、満を持して行われたスタートアップ企業を対象にしたビジネスピッチイベントには9社が登壇。果たして、起業家たちは3D都市モデルを使ってどうビジネスをしようと考えるのだろうか。
今回は各社7分のピッチを行い、次の5点を中心に審査された。
①3D都市モデルの活用 ②プロダクトアイデア ③課題解決力 ④ビジネスとしての可能性・期待度 ⑤ピッチ自体の魅力・プレゼン力
審査委員は、国土交通省都市局都市政策課課長補佐 内山裕弥氏、株式会社ANOBAKA代表取締役社長/パートナー 長野泰和氏、凸版印刷株式会社情報コミュニケーション事業本部未来イノベーションセンター事業創発本部・部長 名塚一郎氏、Symmetry Dimensions Inc.事業開発部シニアディレクター 清水直哉氏の4名。
なお、協賛企業の株式会社PR TIMES、SOLIZE株式会社、電通 glue sprint for CVCの3社による賞の授与および賞品提供も行われた。
3Dデータから最大の成果を引き出す「Deep3」
グランプリを受賞したのはAIを使って3Dデータの活用を容易にしようと提案するローカスブルー株式会社。同社代表取締役の宮谷聡氏は、3D都市モデルの整備における課題を次のように提示する。
1. 作成時に膨大な手作業が必要となること 2. 都市の成長とともに定期的な更新が必要であること
点群データの取得では、航空レーダーや車両レーダーなどレーザースキャナを搭載した作業となるが、例えば東京都のデータを取るだけでも準備期間を含めて半年から1年はかかるという。点群データから3D都市モデルの標準フォーマットであるCityGMLに変換するには、手作業でのクリーニングやモデリングが必要であり、さらに属性情報も付与することになる。
データ更新時にもこの作業が必要になる。いま、日本各地で高度経済成長時代に作られた街の更新が急ピッチに進んでおり、都市の再開発や成長に合わせて、都市データの定期的な更新は欠かせない。
この「取得した点群データから3D都市モデルとして整備する過程のコスト」をAIを使って削減しようというのがローカスブルーの提案だ。彼らが開発しているのは3Dデータ解析エンジンAPI「Deep3」。3Dデータを深層学習で学習させたAIモデルを使って、電線、植物、建物、地面を自動で仕分けるというもの。画像や動画の自動分類は深層学習の得意分野だが、それを3Dデータでやろうという話だ。
専用のソフトウェアを用いて判別する従来の方法では、このような樹木の下に隠れている建物の抽出は難しい。誤った分類を手作業で修正するなどしてきたわけだが、例えば、静岡県が推進するVIRTUAL SHIZUOKAのデータは3テラバイト超あり、その量のデータを手作業で修正していくコストだけでも膨大になるが、Deep3の高い認識性能により、発生していた修正作業を抑え、7割の作業改善が見られたということだ。
このDeep3、自動運転、送電線点検、街路樹点検など、さまざまな分野から注目されているという。想定する利活用のモデルは下図のとおり。APIの提供は2023年4月の予定だ。
点群データに加え、今後、画像データや都市区画データを使って分類精度を向上し、分類できる物体の種類を増やすことを目指す。最終的には点群データからのモデリングの自動化を実現したいという。
審査員の名塚氏からは、3D都市モデルの普及においてその更新性は大きな課題となるとして、空撮データ以外の衛星データ、歩行者目線のテクスチャ情報などへのDeep3の対応状況について質問があった。これに対して、試みとして取り組んでいると宮谷氏。
また、内山氏からは、Deep3のビジネス領域と、高い分類精度が出せる理由について質問があった。最初の質問に対しては、別製品の「ScanX」では建設業が主力のドメインとなっているが、Deep3は自動運転や電力系など建設業以外の領域への事業展開を模索し、チャレンジしているとのこと。2つ目の質問では、従来のソフトウェアが汎用性を重視しているアルゴリズムであるのに対し、Deep3では何を判別するか、ユーザーの希望に対してチューニングすることで精度を上げることができるのだという。
グランプリに選出された理由は、3D都市モデルならではの課題の解決にとどまらずデジタルツインソリューション全般にもたらすインパクト、また、その技術力で国内技術の発展にも寄与する点が評価された。宮谷氏は受賞の喜びとともに、今後、3D都市モデル含め3Dデータの活用を促進できるようがんばっていきたいと決意を語った。
メタバースとの連携からゲームまで、PLATEAU × ビジネスの可能性
昨今のメタバースの盛り上がりも相まって、メタバースとの連携やデジタルツインをテーマとしたアイデアが目立ったが、トラッキングや空間マッチング、ゲームと、そのアウトプットはさまざまだ。ピッチでの各社発表を紹介していく。
■PLATEAUとメタバースの連携(株式会社Urth)
Urthは、観光客が都市部に一極集中するという課題を、PLATEAUとメタバースの連携により解決しようというメタバースプラットフォームとして提案。代表取締役CEOの田中大貴氏は、メタバース空間内に地方の観光地を作ることで旅行前にその土地を体験できるとアピールした。
また、PLATEAUの3D都市モデルを取り込んで、同社のメタバースプラットフォームであるV-air上にアセットを作成し、誰でも編集可能にすることで、子どもでも容易にV-air上でまちづくりを体験できる。データ測定が可能なことからデータ分析とマーケティングへの活用も可能だ。
■メタバース自販機 × PLATEAUによる販促(株式会社PRENO)
5Gにも対応する、大型モニター付きのDX自動販売機を開発するスタートアップPRENO。代表取締役の肥沼芳明氏はメタバース自販機にできることとして、人流データのセンシングのほか、フィジカルだけではなくデジタルアイテムの販売もできる点を挙げ、NFT企業と連携してスマートフォンで買えるように開発を進めているという。肥沼氏はPLATEAUを使った販促施策として「宝探し」を提案する。
米Snapchat社が行ったメガネ型ウェアラブル「Spectacles」の販売手法(オンラインのマップ上に現われ、24時間経過すると移動してしまう専用自販機が"宝探し"のようだと話題になった)を参考に、それをメタバース上で行う。PLATEAUの3D都市モデルを用いる意味は、仕掛け上3Dならではの没入感や、そのビジュアライズで注目を引く点が大きな要素となるとした。
同社はPR TIMES賞を受賞した。
■MAMORIO × PLATEAU × 空間IDでシームレスな物・人のトラッキング(MAMORIO株式会社)
MAMORIOは、スマートフォンと紐付け、忘れ物の発生を検知したり、置き忘れた場所を確認するなど、紛失を防止するトラッキングタグ。MAMORIO株式会社の提案は、MAMORIOと、PLATEAUおよび「空間ID」(実空間における3次元位置情報を異なる種類であっても一意に特定できる共通技術仕様)を組み合わせて空間単位でトラッキングするというもの。
PLATEAUの3D都市モデルと空間IDを組み合わせることによって、「同じ位置情報にはいるが同じ空間にいる/ない」の判別ができる。MAMORIO代表取締役 増木大己氏は、広域施設内でのグルーピングや同一空間内の検知情報を使って、例えば新型コロナウイルス感染状況などの可視化にも応用できるだろうとする。今後、さまざまな応用シーンを想定した実証実験を進めていきたいという。
■人と空間のマッチングサービス「hanatsumi」(植松千明建築事務所)
植松千明建築事務所は、PLATEAUを使った女性活躍を促進させる建築計画のアップデートを提案。同社は、女性にとってのトイレの課題解決として、都市全体のトイレの情報をつなぎ、情報を提供するプラットフォーム「hanatsumi」を会員制有料サービスとして提供している。使い方は、「hanatsumi」プラットフォームでトイレを検索し、スマートフォンの鍵で開錠する仕組みだ。スマホ認証と有料とすることで、施設を提供する側の敷居を下げることができる。
男性中心に成り立った建築業界では、無意識に男性上位のデザインになりがちで、トイレに不満を抱えている働く女性は少なくない。女性たちが気軽に行ける綺麗なトイレを増やすことで、女性が働きやすい都市づくりを目指すものだ。PLATEAUの属性情報としてhanatsumiのトイレ情報を付与すれば、トイレの足りていないエリアを可視化でき、建築計画にも活かせるというアイデアをプレゼンした。
■PLATEAU × ARシューティングバトル(Graffity株式会社)
Graffityが提案するのは、"ARらしさ"の肝となる「体を動かす体験」と「マルチプレイ」、そしてPLATEAUを連携させたARシューティングゲームだ。同社はこれまでマルチプレイARシューティングゲーム『ペチャバト』、『Leap Trigger』、グラス型のARデバイスを使ったゲーム『GrooveWave』、『SushiCraft』などを開発している。CEO森本俊亨氏はPLATEAUデータを活用することでリアルな街を舞台に、VRとARのユーザーが混じってプレイできるゲームのアイデアを提案した。都市を舞台としたスケールのゲームでは大きなデータのハンドリングが問題になるが、ARであるためプレイヤー周辺の建物データ等のロードだけで済み、データの重さは問題ないと考えているという。これからPLATEAUの3D都市モデルで実際に試していくそうだ。
■3D都市モデル × 屋内3D位置情報(MetCom株式会社)
MetCom株式会社の提案は、PLATEAUの3D都市モデルとMetComが持つ垂直測位技術「Pinnacle」で取得した屋内の3D位置情報を組み合わせることで、街全体の3D化を実現しようというもの。
Pinnacleは基準点の気圧データとGPSの位置情報から地上高を特定する技術。サービスとして実装されており、一般的なスマートフォンに内蔵された気圧計のデータを使って、GPSの位置情報から測位地点の高さ情報を計算できる。近隣の高精度な気圧計(MetCom社が設置)のデータと比較することで、2~3メートルの精度で測定が可能だ。この技術を活用して屋内の3D位置情報を取得・蓄積すれば、建物のフロアや階高の情報を特定することができ、3D都市モデルの属性情報として付与できるという。
■PLATEAUで都市をリアルタイムでデジタルツイン化(Idein株式会社)
エッジAIによるデータ収集プラットフォーム「Actcast」を開発・提供するIdein株式会社の提案は、エッジAIとPLATEAUを組み合わせることで都市を丸ごと、リアルタイムのデジタルツインにしてしまおうというもの。都市の可視化の先には、予測の最適化、自動化といった展開も考えられる。ユースケースとして、都市の運営、設計等公共政策の基礎データの収集、災害時のリアルタイムな人流の把握、または屋外広告やモビリティ、出店計画等の最適化にあたっての基礎データの収集を想定しているとのこと。SOLIZE賞、および電通 glue sprint for CVC賞を受賞した。
■PLATEAU × 位置情報ゲーム「PLATEAU MATRIX」(リアルワールドゲームス株式会社)
「地図」と「歩く」をテーマに事業を展開するリアルワールドゲームス株式会社では、自社で3D地図エンジン「TERRA」を開発している。このTERRAとPLATEAUを掛け合わせることで、「歩くことによってCO2を削減する、それによって得られた光のエネルギーで街を照らす」というコンセプトのゲーム「PLATEAU MATRIX」を提案。ユーザーの歩行に合わせてゲーム内のプレーヤーが街を歩き、CO2を削減すると光の玉となり、街を照らしていくというストーリーだ。キャラクターのカスタマイズ、防災スポットや地域の店舗情報を表示可能で、地方自治体への提供も視野に入れている。
「3D都市モデルでできること」を会場で体験
ピッチ会場では、登壇企業以外にもPLATEAUを活用した注目のサービスやソリューションのデモ展示が行われていた。メタバース、AR/VR、デジタルツイン、3D都市モデルでどのようなことができるようになるのか、少し紹介していこう。
■PLATEAU × XRコンテンツ(株式会社シナスタジア)
株式会社シナスタジアの展示スペースでは「PLATEAU × XR」というAR/VRコンテンツを展示。PLATEAUの3D都市モデルを活用して、ユーザーは実際に走るバスに乗りVRゴーグルを装着し、現実の空間の中にバーチャルの造形を重ね合わせた体験ができる。例えば街の中が水族館になったりする。こうなるともう、バスは移動の手段ではなくエンターテイメント施設という位置づけだ。
また、PLATEAUを使った自動運転シミュレーションの開発にも参画している。LOD3の空間上に自動運転車を走らせて、交通をシミュレーションすることで自動運転の開発に伴う課題の検証などに取り組んでいる。シミュレーションで何十台と走らせればそれだけ膨大なデータを収集することができる。こうした分野ではどうしても実証実験のコストが高くなるので、大きなメリットがある。
■自治体と市民のためのワークショップツール(株式会社ホロラボ)
株式会社ホロラボでは、自治体と市民のコミュニケーションを円滑に行うためのワークショップツール「Fieldwork AR」「WorkShop AR」、「HoloMaps」を開発した。PLATEAUの3D都市モデルとXR技術をフル活用したもので、八王子市北野の公共施設の大規模再編計画における市民との対話のためのワークショップ全10回で使われた。
Fieldwork ARでは1チーム10人くらいの参加者がXR機器を装着し、街歩きを行う。市の職員が立体映像で表れ、要所要所で説明をしたり、この建物がなくなったらどんな風景になるのか、PLATEAUデータを消すことで目の前に表示する。参加者はプラットフォーム上につぶやき動画を投稿できるようになっていたが、その反応は非常にアクティブで、1チームだけで1時間で400件もの投稿がアップされたという。
Fieldwork ARで街歩きをし、その土地の特性を知ったうえで、今度はWorkshop ARでボードゲーム的な要素にARを組み合わせて、再開発のアイデアを話し合う。「高層ビルがあったらどうなるだろう」と高層ビルのカードを置くと、AR上で3Dの高層ビルが表示されるという具合に、ARで配置することで「どうなる?」の部分をより具体的なイメージをもってディスカッションできる。
■誰でも簡単に3Dの地図を作成できるプラットフォーム(株式会社ユーカリヤ)
株式会社ユーカリヤが提供する「Re:Earth」は誰でも簡単に3Dの地図を作成できるプラットフォームだ。3Dの地図というと、従来は、専門のファイル形式を専門のソフトウェアで扱うというプロのカテゴリー。それを誰でも、ブラウザ上でノーコードで扱えるようにしたものだ。
Re:Earthはフィジカル空間の情報をバーチャル空間に再現するデジタルツインの基盤という位置づけで、防災や交通、都市計画などさまざまな分野、用途で使われているという。例えば、ある地域における交通事故の発生を時系列で可視化することで、どのあたりで何時頃に事故が起きているかを直感的に掴むことができる。あるいは地域に住む人たちがどういう活動を行っているかを集めることで、地域の人たちがコミュニケーションを取る場所が可視化できたりするという具合だ。
技術的には、世界で初めてWebGISにプラグインシステムを導入し、拡張性・汎用性に優れていることが挙げられる。Re:Earthは東京大学渡邉英徳研究室との共同研究により開発を進めているもので、オープンソースとして公開されている。今後、解析やリアルタイム処理の部分も強化していきたいという。
新たな領域でのシナジーに期待
最後に、ピッチイベントとして9社の登壇を終えた後の審査員の講評をまとめたい。
スタートアップ企業でデジタルツイン事業に取り組むSymmetry Dimensions Inc.の清水直哉氏は「多彩なアイデアに非常に刺激を受けた。自分たちだけで実現できない部分がどうしてもあるので、ぜひみなさんと協力していきたい」と述べた。
株式会社ANOBAKAの長野泰和氏は、ピッチを行った9社に向け、「ある程度事業が形になっているところはこのまま上場を目指して欲しい、まだシード期の企業は事業を固めているところだと思うので、何かあれば相談を」とエールを送った。
凸版印刷株式会社の名塚一郎氏は、「取り組み自体のおもしろさから進める状況から、社会にどういう課題があるのか、それを解決し得る方法は何か、考えるところへ進んでほしい。また凸版としてもデジタルツインやメタバースに取り組んでおり、スタートアップ企業とシナジーをどうやって起こしていけるか検討していきたい」と述べた。
プロジェクトをまとめる国土交通省の内山裕弥氏は、「いずれも興味深く意欲的なアイデアが聞けて、非常に勉強になった」と述べた。PLATEAUと関わりの少なかった分野との接点が生まれたのも大きな成果だったとしている。
ピッチを行った9社および会場での展示企業も含め、PLATEAU × ビジネスの種がこの先どう展開されていくか期待したいところだ。
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