来るよ、自宅にスパコンの時代。西和彦氏、次世代MSXの壮大な展望明かす
ASCII.jp / 2023年3月20日 9時0分
西和彦氏が、1983年に発売された8ビット用パソコンの共通規格「MSX」を復活させようとしています。クラウドファンディングサイトCAMPFIREの「MSX0」支援者募集には2000人以上が集まりました。しかし、今回のMSX0は「イントロみたいなもの」と西氏は言います。「MSX0」の発売後には、西氏が提案する新しいコンピュータ規格の「MSX3」と、スーパーコンピュータ「MSX Turbo」が控えています。今回は西氏へのインタビュー後編として「理想のパソコン」を追い続けてきた西氏が考える未来のコンピュータの構想を紹介していきます。
現代の技術でMSXを拡張する「MSX3」
MSX3は、90年代に実現できなかったMSXの新型機を現代の技術にアップデートすることを目標として作られています。
「MSX3は、CPUがものすごく速くなったLinuxの上で動く9990ビデオチップ(V9990、E-VDP-III)というイメージで開発しています。OSがLinuxになったMSXです」(西氏)
V9990は1991年に発表されたビデオ用プロセッサのこと。当時MSX3が生まれていれば搭載される予定でしたが、結局日の目を見ませんでした。新しいMSX3は当時の設計思想を引き継ぎながら、現代の最新の環境で動作するMSXということになります。
「ただ、そういう新しいコンピューターが本当に売れるのかと。MSX3は、WindowsやMacと競争するわけでもなく、iOSやアンドロイドといったスマホとも競争するわけじゃない。PlayStation 5とかXboxとかNintendo SwitchやSteam Deckといったゲーム機と競争するわけでもない。そうではなくて、Linuxの上で動く、手軽なコンピュータで、5万円ぐらいから基本セットを買えるというものです。発売から何年かすると、ソフトウェアがMSX-DOSからLinuxへと変わり、大きなプログラムも動くようになっていく。BASICとPythonでプログラムができて簡単に扱うことができるので、まずは個人がソフトウェアを作って楽しむにはMSX3でもいいんじゃないかと。ニッチなハードではあるけど、これは多くの人に触ってもらえるのではないかと期待しています」
しかし、ニッチではあるものの、最大の売りとなるものがあります。MSX3がターゲットとするのは4Kや8Kといった現代の超高画質を簡単に扱える世界です。
「MSX3は8Kもサポートする。MSX3では(2Dの描画技術)スプライトの世界が4Kや8Kといった映像サイズでも完全に動作するようにしたい。ベースはLinuxのグラフィックスコンピュータなんだけど、2Dに強いグラフィックスコンピュータというコンセプト。ベースとしてはMSXのカートリッジモデルを出していくのだけど、モジュールとマザーボードを組み合わせ、多数のCPUを搭載した商品を生み出せるようにしたい。8Kを表示できたらすごいでしょう。どなたでも、これはセクシーって感じるでしょう」
検証中の機材を見せていただいたところ、複数のHDMIで映っている入力を簡単に切り替えるような仕組みが試されていました。
「MSX3では、4Kのディスプレーでのリアルタイムでのマルチスクリーン表示を実現できるようにしたい。スマートテレビみたいに簡単に切り替えられるのを実現したいなと。今の4Kのテレビの使い方とぴったり合います。MSX0の開発に力を入れている影響で遅れているけど、『ワンチップMSX3』を年末に投入できるようにしたいなと思っています。MSX3はその後の展開も考えていて、ポケットタイプや、キーボードを備えたもの、ノートPCタイプのハードも考えています。全部クラウドファンディングにして最少1000台注文が来たらつくるという形でやりたいと思ってます」
販売台数の目標は控え目に検討しているようですが、すでに強いプラットフォームがいくつもある状態で正面からぶつかっていくことは考えていないと言います。
「どの機種もMSX3ではあるけど、どこまで行ってもLinuxを搭載したパソコンなわけです。MSXがたくさん売れて勝てる理由はどこにもないわけです。ニッチの中で使われるようになればいいのです」
ただし、MSX3の売りは別の点に用意されています。
「拡張性がものすごく大切です。裏ぶたをねじ回しで開けて、基板を差し込んだら拡張ができるっていう手軽さが大切だと思うんです。昔のMSXがMSX0になり、MSX3になる。カートリッジタイプの拡張キットを提供して、昔のMSX上でも動作するようにしたい。そうすることで30年前にMSXを買った人がよかったと思ってくださることが大切だと思ってます」
MSX3のコアとなる考えは、基板をつなぎ合わせることで性能を向上させること。MSX3のボードを接続して拡張させることもできれば、NVIDIAの組み込み用のコンピューティングボードのNVIDIA Jetsonを組み合わせることで、機械学習や画像処理の計算速度を引き上げることもできます。
さらには、原理的にはCPUも最大16枚つなぎ合わせて性能向上をさせていくことができます。この機能拡張の延長線上に位置づけられるのが「MSX turbo」とされるスーパーコンピュータです。
安価なスパコンを実現するMSX turbo
次々に、基板を積み重ねて接続していくことにより、高性能化を進めることができるというのがMSX3の鍵となる設計思想です。
「あとはMSX3を拡張する形で、スーパーコンピュータを実現したい。今、スパコンで一番大きな問題は値段が高いってことです。64コア128スレッドのCPUとしてRyzen Threadripperがありますけど、デスクトップを組むと120万円くらいはします。もし128CPUのパソコンが1CPU1万円じゃなくて、1CPU1000円だったらみんなうれしいと思う。128スレッドのCPUが12万8000円にできないだろうかと。それにハードがこんなに進歩してるんだからソフトも進化したらいいと思うわけ。そういうスパコン向けのプログラミングできるプラットフォームを提供することができないかと思うわけです」
BASICを使って簡単に扱えるスパコンから拡張する。西氏の原点のイメージはそこにあるように感じられます。
「MSX3に12万8000円のMSX turboのボードを接続したら128スレッドのCPUのコンピューターが動くと。もう12万8000円出すと256スレッドのCPU。4枚買ったら、50万円で1024スレッドのCPUが動くと。それ気持ちいいと思いません? とりあえずうち帰ったらスパコンの答えが出てるから早く帰んないといけないんだと。そんな時代が来ると思うんです。家へ帰んないといけないだけじゃなくて、スマホに連動させて『動いてるわぁ〜〜』とか言って、出先から見たりしてるかもしれないけど」
そうなると、大学などの研究機関が中心となって扱われていくのでしょうか。西氏は違うとします。目標は個人がスパコンを簡単に扱えるようになることです。
「利用するのは個人だと思う。ベンツ1台分の費用で、4096スレッドが買えるという感じで。奥様方が『うちは4096CPUザマス』『いえいえ、タクは8000超えてるザマス』とか言って。『主人が退職して10000CPU買ったザマス』『シェー!』とか言ってね。もし身近にスーパーコンピューターがあったら使う可能性はたくさんあると思うんです」
しかし、そうした巨大な計算力を何に使うのでしょうか。
「それはね。ビデオか、3次元データだと思うんです。専用機器は使わないで、2次元モニターかもしれないけど、メタバースといったものを簡単に扱えるようになるとか。もっとカジュアルな、創造的な、新しい使い方が出てくると思うんです。学術研究だけじゃなく。やっぱりゲームとかかもしれない。だって、三次元のグラフィックディスプレーの研究とか言ってゲーム作ったんだから。昔の人が簡単に触れるようになったら、思ってもいなかった使い道を色んな人が考えていったでしょう。それ、同じことが起きると思うんです」
フォーマットプロポーザーとして大切なこと
過去のMSXの復活とその拡張をしているMSX0、現在の速いコンピュータ環境に合わせて設計されるMSX3、さらにその応用と拡張をスパコンにまで拡張するMSX turbo。過去と現在と未来を結びつける構想ではありますが、西氏はなぜ今それを実現させようとしているのでしょうか。
「コンピュータを作っている人間としてね、今のようにコンピュータが進化したとき、昔のマシンは乗り捨てするのかと。してもいいですよ。でもそうじゃなくて、昔のマシンを、エンジンを積み替えたり、トランスミッションを積み替えたりして拡張していける。そういうメーカーというか、フォーマットプロポーザーとしての姿勢。それがすごく大切だと思っています。恥ずかしい話だけど、(旧MSXのアップデートを終えた)1993年から30年間それをぼくは放棄していたの。何を今ごろ言うんだという話になるんだけど、やっと気が付いたわけです。やるんだったらそうしないと死んでも死にきれないと。そこだと思うんです」
果たして新生MSXというコンピューティングプラットフォームは社会にどう受け入れられ、新しい未来を生み出していくのでしょうか。最初の段階となるMSX0のクラウドファンディングは3月31日まで、そして今年7月には製品リリースが始まります。
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