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ChatGPTが人々を魅了する理由 はたして魔法(マジック)なのか?

ASCII.jp / 2023年3月14日 16時0分

自然な返答をしてくれるチャットボット

 このところ、毎日のようにメディアで話題に上がっている最新チャットボット、ChatGPT。

 ChatGPTは、サンフランシスコのOpenAI社が開発した「オリジナルの文章を生成できるチャットボット」。2022年11月に登場し、人間の問いに自然な返答をしてくれることで、瞬く間に有名になりました。

 その評価は「すごい!」を始め、「検索の革命が起きそう」「ついにシンギュラリティを超えるかも……」など、歓迎の意見が目立ちます。一方で「不正確な情報をつたえかねないリスクのあるサービスだ」など、否定的な意見も見かけます。

 この原稿を書くにあたり、ChatGPTに「いくつの言語に対応していますか?」と質問したところ、「多数の言語に対応していますが、具体的な言語の数は正確にはわかりません。」とのこと。

扱える言語数はわからないというミステリアスに答。その言い訳は長めです

 自分のことがわからないなんて、すこしミステリアスな答えではあります。そのあたりは「取り扱い言語数は公開しない」という、オトナの事情によるものかもしれません。

 筆者は大学でAIを研究したこともあり、機械と付き合うのもすこしだけ慣れているほう。なので、質問を少し変え「代表的な対応言語を教えてください」と質問してみます。

質問の仕方を変えると代表的な取扱言語を教えてくれる。質問するスキルが少々必要かも

 すると……対応言語は、英語、スペイン語、フランス語、ドイツ語など、世界で使われるほとんどの言語で質問することができるそう。もちろん、ご覧のように、日本語で質問すれば、日本語で答えてくれます。人間の答えと錯覚してしまいそうな、とても自然な言葉づかいです。

GPTで訓練されている

 ChatGPTが自然な答えを返せるのは、OpenAIが開発した言語モデルであるGPT(Generative Pre-trained Transformer)が使われていることから。これは「大規模言語理解モデル(LLM、Large Language Model)」とも呼ばれます。

 簡単に説明すると、質問の答えとしてテキストを生成するとき、自然に見える単語や接続詞を選択して組み合わせるために、膨大なデータを参考にするのがその原理。具体的には、「ChatGPTは」という言葉の次に句読点「。」「、」が登場する確率などを、人間(の作った文章)を参考にしながらテキストを生成しています。

なぜ「間違った返答」をしてしまうのか

 いまのところ、LLMで効果を発揮しているのは、コンピュータが生成した文を自然にすること。逆に言えば、答えの正確性や論理性はイマイチなときもあるようです。

 たとえば「画像ファイルの解像度を変換するスクリプト」を教えてくれるよう頼んでみます。すると、ChatGTPがコードを教えてくれました。

ユーザーの勝手な難題にもすぐに答えてくれる

 さっそく、そのコードを使ってみようとしたのですが、動作しません。

残念ながら教えてもらったコードは動作しない

 コードのどこが間違っているのか、ちょっとネットで検索してみた程度では、すぐにはわかりませんでした。

 つまり、スクリプトに詳しくない筆者のように、ユーザーにとって専門外のこと、純粋に答えを求めている人にとっては、ChatGTPの答えは、さらにネット検索が必要で二度手間になるなど、少々リスクがあるように感じます。

 では、筆者のような門外漢ではなく、リアリストでもある専門企業による、ChatGPTへの評価はどうなのでしょうか。

アップルのアプリ審査部門はChatGPTに懸念

 3月3日、米アップル社が、ChatGPT搭載のアプリの承認拒否をしたことが各種メディアで報道されました。その理由は、電子メールアプリの新バージョンで利用されるChatGPTが「子供にとって、不適切なコンテンツを生成する可能性があるから」と記事は伝えています。

 ChatGPTで使われるLLMなど、新しいテクノロジーの登場は好意的に迎え入れられるべきかもしれません。しかし、「自分が何を説明しているか?」の意味や論理、そして倫理性をAIが理解するのは、もう少し先のことになりそうです。

 AIが超えるべきハードルの高さについてご興味のある方は、哲学者のジョン・サールが発表した思考実験「チャイニーズルーム(中国語の部屋)」、もしくは「シンボルグラウンディング問題 (記号接地問題)」などを調べてみるとよいかもしれません。

人々を魅了しつづける予言のマジック

 とてもウケるマジックのジャンルに「予言」があります。たとえば、お客さんに好きな数字を自由に言ってもらい、その数字があらかじめ封筒の中などに書かれている……そんなトリックです。アメリカのテレビドラマシリーズ「刑事コロンボ」でも紹介された有名トリックですので、一度はご覧になったことがあるかもしれません。

観客からの質問に霊が答えてくれるというトリックは人々を驚かせた

 もちろん、マジックはフィクション。こうしたトリックが人々を魅了するのは「もし、未来が予言できたなら……」という、多くの人々が夢見ることの実演にあります。もし、筆者も含め、マジシャンが本当に未来を予言できるなら、マジックなどせず、投資家になったほうが効率が良いのは説明するまでもないでしょう。

 「予言のように見える」ことと「本当の予言」は違うものです。同じように「自然な答えのように見えること」と「本当の答え」は違います。

 いまのところ、ChatGPTは「答えは何となくわかっているけど、自分で言語化するのが苦手な人」が、実験的に活用するのが楽しい……。そんなふうに新しいチャットボットの登場を歓迎しつつも、暖かく見守るのが正解だと筆者は思っています。

前田知洋(まえだ ともひろ)

 東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、チャールズ英国王もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。

 著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。

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