新世代Sonos「Era 300/100」視聴! ワイヤレススピーカー新時代到来(本田雅一)
ASCII.jp / 2023年3月9日 12時0分
ここ数年、コンピュテーショナル・オーディオという言葉がよく使われている。コンピュテーショナル・フォトグラフィーは、演算の力でカメラの画質を高めようという試みだが、オーディオの世界では当然ながら「音質」がテーマだ。
先日、アップルが満を持してリリースした第2世代HomePodも、そうした演算能力を用いてオーディオ体験の質を高めようとした製品だった。その成果については、以前に先行レビュー「【先行レビュー】大幅進化の第2世代「HomePod」比較するライバルがいない理由(本田雅一)」でお届けしたが、ワイヤレススピーカーの業界ではグローバルでトップの位置にある米Sonos(ソノス)も、ほぼ同じタイミングで新世代ワイヤレススピーカーを発表した。
しかし、開発の方向性はアップルとは大きく異なる。
Sonos本社がある米カリフォルニア州サンタバーバラの開発拠点を訪問し、第4世代となる新しいSonos製品について体験するとともに、その開発目標や音質設計について話を聞き、さらに音質評価も短時間ながら行ってきた。
「シングルユニット」のスピーカーでステレオ、空間オーディオを
ワイヤレススピーカーの発表のためにグローバルから記者を集めるのは異例だが、それだけ同社にとっては重要かつ自信のある製品だったのだろう。現地で披露されたのは時代を表す「Era」を名称に盛り込んだ「Sonos Era 100」と「Sonos Era 300」だ。
Era 100は第3世代Sonos製品における「Sonos One」に相当する製品だが、Era 300は従来製品におけるOneとFiveの中間価格帯とサイズのワイヤレススピーカーだ。
Sonosのシステムはほかのどの製品とも異なり、独自のWiFiネットワークで相互接続され、複数スピーカーを接続してもステレオ、サラウンドなどのアレンジをしても、異なるゾーンで複数のスピーカーに同じコンテンツを送る場合でも、完璧な同期が取れるようになっている。
さらにインテリジェンスに、スピーカー自身が音楽ファイルサーバやDLNAサーバ、あるいは音楽配信サービスに接続し、スマートフォンやPCの助けなしに音楽を再生できる。そうした意味ではアップルのHomePodをさらに拡張し、世界中の様々な音楽配信サービスや宅内での音楽共有環境などに対応できるようにした、極めて汎用性の高いワイヤレススピーカーだ。
第4世代となった今回は機能面では従来の製品を引き継いでいるが、Era 100ではステレオ再生、Era 300では空間オーディオ(Dolby Atmos)再生をシングルユニット、すなわち1台のスピーカーで実現しており、また内蔵するプロセッサの能力は従来よりも47%高性能化され、WiFi 6、Bluetoothオーディオにも対応したという。
さらにシステム拡張においても、従来よりも高い発展性を備える。それぞれの製品を2台ペアで使うことにより、ステレオ再生や空間オーディオ再生の質を高められるのはもちろんだが、壁反射を用いて立体的な音響を実現するSonos ArcやBeamといったHDMI対応のSonos製サウンドバーにEra 300(2台)、それに最大2台までのSonos Sub(サブウーファー)を用いることで、より優れたDolby Atmosの再生品位を実現する。
シングルボディでステレオと空間オーディオを
Era 100はツイーターを左右、V字型に配置することでステレオ感を出し、ウーファーは楕円とすることで25%大きなダイアフラム面積を確保。Sonos Oneよりも豊かな低域を手に入れている。
もっともこの手法によるステレオ化は必ずしも新しいわけではない。2台をペアで用いてステレオ再生した方がより豊かな音場に、1台をポンと置くだけでステレオらしさを感じられるのは大きな利点だ。こうしたワイヤレススピーカーを1台だけで使っている人が多いことを考えれば、シングルボディでもステレオになる利点は大きい。さらに追加投資して2台にしたときに、さらに体験の質が高まる価値は大きい。
しかし今回の発表における主役は、Era 300にほかならない。
Era 300は空間オーディオ(Dolby Atmos)のデコードをし、それを1台のコンパクトな筐体でレンダリングできるよう設計されている。「なぜそのようにできるか?」はここでは別として、実際に体験してみると空間オーディオらしい立体的な音場が生まれることを明確に感じることが可能だ。
このシングルボディでの体験では、映画やドラマなどに多くある、オブジェクトが明確に移動するような方向感を覚えるわけではない。しかし、正面に座れば奥行きと高さを感じ、さらに低域も豊かな音楽体験ができた。
ご存知のように、アップルはApple Musicで追加料金なしでDolby Atmosを用いた空間オーディオを配信しており、先行してDolby Atmosの空間オーディオ楽曲を配信をしていたAmazon Musicはアップルに追従して料金を下げている。
誤解を恐れずにいうならば、Era 300が作り出す音場は「Dolby Atmos」という言葉から想像するような、音像が明確な移動感を持って舞うような明瞭な再現性はない。しかし「空間表現」は豊かで、空間を利用した音楽は楽しめる。
またモノラルやステレオ音源を再生させた場合でも、各ユニットへの最適な配分をし部屋全体を埋め尽くすような大きな音楽のスペースを生み出す。
巧みに作り上げた「没入型スピーカー」
Era 300はシングルボディで空間オーディオを再現するため、4つのツイーターと2つのウーファーを配置している。その配置とウェーブガイドの工夫、それにデジタル領域での信号処理によって作り出されている。
ウェーブガイドは設計によって周波数特性や指向性をコントロールすることが可能だ。Sonosはウェーブガイド設計を工夫することで、Sonos Oneの音に広がりをもたらしったり、Sonos Fiveにシングルボディながら豊かなステレオ音場をもたらしていた。
Era 300に搭載するユニットのうち、ウーファーは左右側方に少し前方向に向けて配置しているが、設置箇所によって特徴のあるウェーブガイド設計をしている。
本体前に中域以上の帯域をフラットに再現する、緩やかな広がりの大きいウェーブガイドを全面に設置し、そこにコンプレッションドライバーを組み合わせている。このドライバーがセンター近くに配置されたヴォーカルやリード楽器を、速いアタックスピードで明瞭に描く。
本体左右に配置されたツイーターもコンプレッションドライバーで、左右斜め上、手前方向にやや指向性を絞る形でウェーブガイドが設計されている。このドライバーで左右の広がりを出すことが目的だろう。
そしてもう一つのツイーターは小さめ(明確なサイズは公表していないが)で、上方向、少し前に向けてさらに指向性を狭めたユニットを配置。こちらは通常のドーム型ドライバーで、高さ方向の味付けを行うための、いわゆる「イネーブルド・スピーカー」の役割を果たすものと考えられる。
これらのユニットに対し、Dolby Atmosのレンダリングをし、ドライバーに割り当てる信号を作る。すなわち、壁や天井の反射音を利用して音場を作っているのだが、ここで以前から使っているTrueplayを用いて補正を行うことで最終的な音を整えている。
Era 100/300には、いずれもQuick modeとAdvanced Mode、2つのTrueplayがあり、前者な内蔵マイクを用いた簡易測定、後者はiPhone内蔵マイク(よってiPhone版アプリでのみ利用可能)で音場測定を行うことで、さまざまな部屋に適応することが可能だ。
Eraシリーズをさらに活かす、2つのレイアウト
ところで筆者は原稿執筆用の書斎に、2台のSonos Fiveを並べて使っている。
Fiveはウーファーユニットが全面に3つあり、ヴォーカルなどセンター定位の音は(ほぼフルレンジをカバーする)真ん中のユニットで再生。左右のウーファーはやや角度をつけて広がるように配置され、ツイーターはウェーブガイドで左右斜め方向に放出する設計だ。
つまりシングルボディでのステレオ再生が行えるのだが、2台をステレオ構成にすると明確なステレオイメージを表現しつつ、部屋中を音楽で埋め尽くす心地よさがある。純粋なる音質を求めるステレオセットとは異なる方向だが、これがまた執務部屋にはぴったりのセッティングに仕上がってくれる。
こうした良さはEraシリーズにも引き継がれており、Era 100を2台用いればFiveを2台使ったような指向性が広いステレオ再生システムになり、Era 300を2台使うことで高さ方向も含め、より広く心地よいリスニングエリアを確保できるだろう。「だろう」というのは、まだ2台のペアリングを試していないからだが、Sonosはステレオペアで利用した際にEra 300各ドライバーユニットがどのように働くかをチューニング済みだという。
さらに同社製サウンドバーとサブウーファーを組み合わせ、ワイヤレスのホームシアターシステムでも両機種を活躍させることが可能なことは前述したとおりだ。Sonosイネーブルドスピーカーを内蔵する ArcとEra 300の組み合わせがベストだが、Sonos BeamであってもリアにEra 300を用いれば、Era 300の上方スピーカーをイネーブルドスピーカーとして活用し、立体的な音場表現をしてくれる。
もちろん、リアスピーカーにはEra 100を利用することも可能だ。現在のところ、Eraシリーズ4台を用いた空間オーディオ再生などには対応していないようだが、今後は別のレイアウトへの対応も検討しているという。
つまり、シングルボディのステレオ、空間オーディオスピーカーとして機能し、さらに1台を追加することでさらに豊かな音場を実現。HDMI内蔵/eARC対応のSonos製サウンドバーと組み合わせれば本格的な立体音響システムにまでホームシアターを発展させることが可能という、実に都合の良い柔軟なシステムということだ。
これは将来的にシステム変更をしたい際に、それまでの投資が無駄になりにくいということでもある。
中音域の厚みと歪感の少ない高域
まだ自宅シアターやリスニングルームでのテストを経ていないため、確定的なことは書けないが、ソノス本社での視聴体験はなかなか優れたものだった。Era 300のステレオペアが試せていないが、シングルボディのままでも十分にリビングルーム全体を音楽で満たしてくれるだろう。
Sonosの音質はTrueplayで調整していることもあるが、前世代から一貫性のある音質を備えている。まずは歪感がないこと。そして音の広がりがあり、リスニングポイントのズレに対して寛容(部屋のどこで聴いても大きく心地よさを損なわない)なこと。中音域に厚みがあり、また中低域にパンチとスピードがあること。そして高域に嫌な付帯音がなく、長時間聴いていても疲れにくいことなどだ。
音の情報量はソコソコなのだが、音楽を心地よく楽しむという点で、リラックスしてバランスよく楽しめるのがポイント。これはテレビとの組み合わせで使うサウンドバーにも一貫した音作りで、上位モデルと下位モデルでの品位の違いこそはあれ、どれも音楽再生用として愉しい音作りになっている。
こうした音作りに関しての議論は、実は昨年、Sonosのサウンドチューニングにおいて主体的な役割を果たしているジャイルズ・マーティン氏(音楽プロデューサーでミュージシャン。セリーヌ・ディオンやポール・マッカートニーのプロデュース、ビートルズ楽曲のリミックスなどで知られる人物)と議論したときに、おおいに意気投合した部分だった。
いかにして「音楽を邪魔する成分」を排除し、音楽の躍動的な部分、あるいは静寂の中にある空気感、音場の佇まいを描くか?といった部分だ。
一方で今回はとりわけ、Sonos ArcとEra 300、それにSubを用いた場合における、イマーシブサウンドに関するこだわりが感じられた。
本社におけるデモでは、フロントにArc、リアに2台のEra 300、そして前方と後方にSub3を配置して「トップガン・マーヴェリック」を視聴したが、彼らが「Dolby Atmos 7.2.4相当」と自信を持つだけあって、センターはもちろん、オフセンターでも音場が崩れない。Arcのレビューではないが、Arcのセンターチャンネルが明瞭で、セリフが聞き取りやすく、また中音域が豊かであるため、リアのEra 300に負けずに前後の音のボリューム感がある。
サウンドバーを使ったシステムで、ここまで濃い音場はそうそう感じられない。Trueplayによる補正の優秀性もあるのだろうが、カジュアルに構築できるサラウンドシステムながら、本格的なAVレシーバによって組み上げたシステムに負けない音を楽しめる。
この発展性、後々の投資によって拡張、覚醒していくところは素晴らしい。数日もすれば、さらなる実機テストが行える予定だが、Sonos第4世代が始まったことを強く意識させられる新製品だ。これらに続くだろう製品にも期待したい。
筆者紹介――本田雅一 ジャーナリスト、コラムニスト。ネット社会、スマホなどテック製品のトレンドを分析、コラムを執筆するネット/デジタルトレンド分析家。ネットやテックデバイスの普及を背景にした、現代のさまざまな社会問題やトレンドについて、テクノロジ、ビジネス、コンシューマなど多様な視点から森羅万象さまざまなジャンルを分析する。
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