1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. IT
  4. IT総合

新HomePodの実力にレコーディングエンジニアが迫る〜カジュアルリスニング端末として秀逸

ASCII.jp / 2023年3月12日 12時0分

第2世代の「HomePod」。Siriによる音声操作に対応するスマートスピーカーだ。価格は4万4800円

 第2世代「HomePod」が登場した。初代から他社のスマートスピーカー以上に「良質な音」に拘ったHomePodだけに、音質面では2代目も期待を裏切らない完成度だった。

 新しいHomePodの新機能の数々ついては、「空間オーディオ再生充実! 第2世代「HomePod」速報レビュー」をご覧いただくとして、本稿では、音質や空間オーディオに焦点を当てて「スピーカー」としての実力に迫ってみたい。

 音質評価においては、音楽制作者である筆者が録音とマスタリングを手がけたコンテンツを評価音源に用いて、少し意地悪とも思える比較も実施した。

初代からみちがえるほどに進化した音質

 まず、驚いたのは初代HomePodからの音質向上だ。新しいHomePodを一聴しただけで「あっ、いい音」と思わずひとりごちてしまった。初代は、高域の伸びがなく、低域にいたってはしまりのない、だらしない音で、正直なところ音楽を聴く気が失せる代物だった。

新しいHomePodは、音質が格段に向上している。多少低域が出過ぎの感もあるが、音源によっては迫力の音が楽しめる

 初代の低域特性を敢えて擬音表現すると「ボワンボワン、ブカブカ」といった印象で、聴いていて「えーい、シャキッとせい!」と活を入れたくなったものだ。

 これは余談だが、そんな初代HomePodですら当時、各社から一斉に発売されたスマートスピーカーの初期モデルと比較すると、相対的に音が良かったのだから、当時は各社ともにIoT端末としての性能に注力し、音質は二の次だったことがうかがい知れる。

 新しいHomePodは、まず、高帯域の表現力が桁違いに良くなっている。スッとヌケるようなクリアな出音を実現し、「ボワンボワン」だった低域も、応答性に磨きをかけたのか、輪郭のはっきりしたしまった音に変貌している。脂肪でぶよぶよだったお腹が筋肉質の割れた腹筋を手に入れた、そんな印象だ。

 低域の輪郭が明瞭になったことが、全帯域において聴覚上良い影響を与えているようで、初代のオブラートに包んだような、くぐもった音像から見事に脱却し「ヌケた」音を実現している。

業界標準のGENELECと対等に戦える実力

 HomePodの利点は、単体使用でも広がりのある音像を演出している点だ。内蔵マイクで収集した音を解析することで、アレイ状に配置したマルチスピーカーを制御する仕組みのおかげで、通常のモノラルスピーカーでは味わえない、包み込まれるような音像を体感することができる。

2台を​​ステレオペアで聴くこともできる。上下左右の広がりに加え奥行き感が増す。設定はiPhoneの「ホーム」アプリから簡単に行うことができる

 とはいうものの、どうしても音源が1ヵ所なので、ステレオ再生を前提としてミックスされた音楽を聴いていると、楽器の定位はもちろん、音世界の構築や表現力には限界がある。その課題に対しアップルが用意した解答は、HomePodをもう1台追加して、ステレオペアにすることだ。

 HomePodのステレオペアは、単体運用とは異なり、上下左右への広がり感、奥行き感が増し、彩り溢れた音世界が形成され、ステレオ本来の良質なリスニング体験が実現できる。前述のように、新しいHomePod自体の音質が向上しているので、1+1=2という枠を超えて、良質度が3にも4にも上昇する、そんな印象を持った。

 試しに、筆者が録音とマスタリングを手がけたソロピアノアルバム「ピアソラ×ピアノ」(演奏:下山静香)をApple Musicで再生し、マスタリング時に使用したGENELEC 8020と比較してみた。

ピアソラはいえばタンゴだが、実は多くのクラック系楽曲も遺している。そんなピアソラのピアノ曲を集めたアルバム。ハイレゾロスレス(192KHz/24bit)で配信されている

 この音源は、録音・編集・マスタリングの過程においてたぶん100回近くは聴いていると思うので、音質や音像はこうあって欲しいというイメージが脳に刻み込まれているし、GENELEC 8020での再生においては、そのイメージに最適化された音が出てくるわけだ。

新しいHomePodは、プロが多く利用するGENELECのスピーカーに負けない周波数特性と優れた応答性を備えていると感じた

 この音源は、ピアノに近接したマイクに加え、クラシック専用ホールの透明感ある残響をキャプチャするために、2組のステレオマイクを中間と高所に配置し、それを十二分に活かしたミックスを心がけた。

「ピアソラ×ピアノ」は、かながわアートホールにて録音した。自然な残響が心地よい。神奈川フィルハーモニー管弦楽団のリハーサル拠点でもある

 HomePodにおけるピアノの実音は、GENELEC 8020と比較しても低域から高域まで過不足のない音質で再現されている。また、ピアノの低音弦から高音弦にかけての定位感もイメージ通りで、実に優秀だ。

 その一方で、残響成分に耳を懲らすと、響きの透明感が弱い。それゆえに広がり感までが減衰してしまっている。また、残響が消え入る瞬間の空気の微動のような部分は表現しきれていない。

 ただ、この評価は、制作者本人ゆえの重箱の隅をつついた感想だと受け止めていただければと思う。ステレオペアで9万円弱のスピーカーでここまで再現できれば文句はない。ちなみに、GENELEC 8020はステレオペアで13万円程度。

テオドール・クルレンツィス・ムジカエテルナ「Rameau - The Sound of Light」。設定の「音量を自動調整」がオンのままだと、7曲目冒頭でラウドネスの調整が発動し聴覚上のレベルが一気に下がる

「音量を自動調整」は「オフ」にしよう

 ダイナミックレンジの大きなアルバムや楽曲を聴く際は、iPhoneやiPadの「ホーム」アプリを開き、3点リーダー設定内の「音量を自動調整」をオフにしよう。そうしないと、ラウドネスが極端な形で自動調整され、曲の出だしなどで音量を一気に絞ったような現象が起きる。

 筆者は、Apple Musicで配信されているテオドール・クルレンツィス指揮の「Rameau - The Sound of Light」の6曲目と7曲目を通して聴いた際にこの現象を確認した。「音量を自動調整」がオンのままだと7曲目の冒頭で音量を一気に絞ったような現象が起きる。

コンピュテーショナルオーディオは、2020年10月のキーノートスピーチにおいて、HomePod miniと共に発表された

 また、「音量を自動調整」とは別に、新しいHomePodは「コンピュテーショナルオーディオ」へ対応している。コンピュテーショナルオーディオは、2020年10月発表のHomePod miniから採用された技術だ。

 この機能は、オーディオ信号を解析し、再生する際にドライバーとラジエーターアレイからの出音をリアルタイム処理で最適化することで、最良のリスニング体験を提供しようというもの。

 コンピュテーショナルオーディオは、いかなる環境、いかなる再生状態においても、出音を最適化することで、万人に最良のリスニング体験を提供するための技術だ。スマートスピーカーのリスニング体験においても、最善の音質を提供しようという努力を惜しまないアップルの音楽に対する姿勢が垣間見える機能だ。

 その一方で、ピュアオーディオという視点に立つと、音楽ソースをアルゴリズムに従って意図的に処理する方法論が、すべてにおいて正解なのかどうかは意見の分かれるところであろう。

 

訂正とお詫び:初出時、「音量を自動調整」の設定について誤りがございましたので、訂正いたしました。(2023年3月24日)

空間オーディオの醍醐味を味わえる

 「空間オーディオ」も試した。アップルは、複数ある空間オーディオフォーマットにおいてDolby Atmos形式を採用している。アップルが空間オーディオのプロモーション用に用意したApple Musicの「Official髭男dism: ステレオから空間オーディオへ - Single」を聴くと、音像が自分の頭を中心とした360度の球体状に広がる感覚を味わえる。まさに空間オーディオの醍醐味ここにあり、といえる体験だ。

アップルが空間オーディオのプロモーション用に作成した「Official髭男dism: ステレオから空間オーディオへ - Single」は、ステレオとの違いがよくわかる

 ただ、空間オーディオコンテンツのミキシングは方法論が定まっているわけではなく、音楽制作者の間でも皆がそれぞれの信念に基づいて制作しているので、広がり感や音像の作り方はコンテンツにより様々だ。これぞ、空間オーディオというものもあれば、ステレオとの差異を知覚しずらいものもある。

 Apple MusicにDolby Atmosコンテンツを提供する場合、ステレオ版も同時に提供することが求められているので、macOSで聴く場合、リスナーは両方を切り替えながら聴き比べることができる。

「設定」アプリでドルビーアトモス適用の有無を設定できる。コンテンツが空間オーディオに対応していれば強制的に空間オーディオで再生された

 その一方で、iOSやiPadOSにおいては、コンテンツが空間オーディオに対応していれば強制的に空間オーディオで再生されるようだ。「設定」アプリの「ミュージック」で「ドルビーアトモス」をオフにしても音像や定位は変化しなかった。

 HomePodで空間オーディオのコンテンツを聴くと、ステレオとの比較において、確かに音像や楽器の定位が変化し、広がりを感じるものが多いのは確かだ。ただ、ここでもリスナーを戸惑わせる現象が発生する。

アップル独自のレンダリングエンジンで再生

 まったく同一のコンテンツを再生しているにもかかわらず、macOSで再生する場合とiOSやiPadOSで再生する場合とでは、空間オーディオの広がり感が異なり、音像や定位がまったく違って聞こえるのだ。

 おそらくこの現象は、iOSとiPadOSが、Dolby Atmosコンテンツの再生時、独自のレンダリングエンジンを使用していることに関係しているのではないだろうか。ちなみに、SiriでHomePodに対し曲名を指定した場合もiOSやiPadOSに準ずる音像で聞こえる。

 iOSとiPadOSが、Dolby Atmosの仕様とは異なる独自のレンダリング処理をしていることは音楽業界ではよく知られた話で、「Apple Musicの空間オーディオコンテンツをAirPodsなどアップル製のイヤホンで聴くと、他のプラットフォームとは異なる音になる」と困惑するエンジニアは多い。

アップルはDolby Atmosの自社製イヤホン・ヘッドホンにおけるバイノーラル再生で、独自のレンダリング処理をしている。HomePodも同様のようだ

 おそらく、HomePodの再生時も独自にレンダリングをしていると思われる。今回、筆者は主にボブ・ジェームスの「Feel Like Making LIVE!」を再生して聴き比べを行ったのだが、iOSとiPadOSで再生すると、確かに広がり感は抜群なのだが、音像が右に偏りすぎて変な広がり方をしている。

 このアルバムは、空間オーディオ制作の第一人者ともいえるWOWOWの入交英雄氏がミックスをしたものだ。入交氏本人も筆者の取材に対し「Apple Musicで再生すると他とは異なって聞こえる」とコメントしている。

 その一方で、macOSから再生すると独自のレンダリングはしていないようで、広がり感は後退するものの、定位感のはっきりとした音響空間が構築される。こちらの方が安心するが、空間オーディオという意味では物足りない印象だ。

 おもしろいことに、Amazon Music UnlimitedのiPhoneアプリからDolby Atmosコンテンツを聴くと、macOSとまったく同じ様に聞こえる。ここからも、Apple MusicをiOSとiPadOSの「ミュージック」アプリ、およびSiriで曲を指定して聴くときに限って、独自のレンダリング処理が走っていることがうかがえる。

カジュアルリスニング端末として秀逸なでき

 コンピュテーショナルオーディオと空間オーディオについては、音楽制作者の目線で辛口の批評に終止してしまったが、一人のリスナーの立場でカジュアルに音楽を聴くための端末としてHomePodを評価すると、実に秀逸なスピーカーであることはまぎれもない事実だ。

 ステレオペアで購入すると9万円弱にはなるが、この予算でこれだけの音質を有したスピーカーを手に入れることができるのは意義深い。また、音楽再生だけでなく、スマートホーム端末としての機能も手に入れることができるわけで、ユーザーの満足度は総じて高いのではないだろうか。惜しむらくは、物理的な外部入力端子が存在しないことであろう。

 

筆者紹介――山崎 潤一郎  音楽制作業及びレーベル「Pure Sound Dog」を運営する傍らライター活動もする。プロデューサーあるいはレコーディング・マスタリングエンジニアの立場でクラシック音楽を中心に、アコースティック系のアルバム制作を数多く手がける。

 

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください