ブラウン管テレビ「WEGA」がヒットした反面、薄型テレビに出遅れたソニー
ASCII.jp / 2023年4月24日 12時0分
昭和の象徴、ブラウン管テレビ
昔のテレビといえばブラウン管テレビ。ソニーの歴史をさかのぼると、1960年に最初のテレビ(TV8-301)を発売しています。当時は世の中のスタンダードとして君臨したブラウン管テレビも、白黒からカラーへと変わり、そしてインフラの成長とともに進化してきました。ソニーの主要カテゴリーであるテレビ部門もまた、ブラウン管テレビの進化の歴史でもありました。
テレビ業界の劇的な革新といえば、1991年のBSハイビジョン試験放送にはじまり、翌年の1992年にスタートしたCS放送。家の屋根の上についている魚の骨のようなアンテナで電波を受信していたものから、フライパンのような丸いアンテナを宇宙(そら)に向けて衛生から受信するという仕組みだけでもすごい事のように思えました。
筆者の住んでいた地域は、当時テレビ放送は4局しか映らないというほどのド田舎。父親に頼み込んで、ムリヤリ隣の県の方向にアンテナを増やして巨大なブースターをつけたものの、ビリビリでまともに見れないような映像だったので、親戚の家では映るフジテレビやテレビ朝日のアニメや特撮ドラマがどれだけうらやましかったことか……。そんな地方民の筆者としては、あこがれの都会に住む人たちと同じ番組が同じクオリティーで見られる衛星放送は、まさに未来キター! であり画期的なできごとでした。
そして、解像度的なクオリティーの革新がハイビジョン放送です。厳密に言うと、この頃のハイビジョン放送というのはアナログ放送であり、しかも1日にたったの8時間程度しか放送されないという実用化実験放送というタイミング。いろいろと大丈夫か? と心配になるものの、NHKや民放に加えて家電メーカーなどが一致団結した空気があったので誰も信じて疑いませんでした。
ハイビジョン対応カラーテレビがついに登場 ただし、お値段230万円
1990年に、ソニーはハイビジョンに対応したカラーテレビ「WK-3600HD」を発売。36型というブラウン管としては大画面でありながら、高精細かつ高輝度を両立した製品です。そのディスプレーに映る映像は、今までの放送の走査線525本から、ハイビジョン放送では1125本になったことで情報量がまるで違います。初めて目の当たりにしたときは、映像の革命が起きたと言っても良いほどの衝撃でした。
ただ「WK-3600HD」本体にMUSE-NTSCコンバーターを内蔵して放送自体は見られる仕様なのですが、ハイビジョン放送本来の画質で観るには別途「MUSEデコーダー」を買う必要がありました。テレビ本体の価格だけで230万円、「MUSEデコーダー」だけでも18万円というぶっとび価格ですが、セットで買わないと意味がありません。
さらに言えば当時は衛星放送のアンテナなどもとても高価なこともあって、一式揃えるには新車が余裕で買えるほどの予算が必要でした。オマケに、重量も「KW-3600HD」本体はスピーカー含めて約158kg、専用のシステムラックは総重量で108kgという超がつくヘビー級。家の床が抜けてしまいそうな重さといい、買う人を選ぶハイビジョン第1号機でした。
とは言え、ハイビジョン放送の先駆けのテレビには間違いなく、その後1993年以降にもなるとBS/CSチューナーを内蔵したテレビが多数登場しはじめ、テレビも衛星放送時代へと突入していくのでした。
キングオブポップがCMに登場 キララバッソ爆誕!
さすがにハイビジョンテレビは選ばれし民しか買えないポジションにありましたが、ソニーは別のアプローチでもテレビの進化の歩みを進めます。その名も「キララバッソ」。美しくキラキラと輝く映像と、迫力ある重厚なサウンド(バッソ)を持つという意味をこめてキララバッソです。
従来のトリニトロンブラウン管よりも、より平坦になった「スーパートリニトロン管」や、ブラウン管フレームと一体になった高音質スピーカー「バッソ・スピーカー」を備えた、名実ともにソニーのブラウン管テレビのブランドとして登場しました。
技術的な話をすると、そもそも真空管から発展したブラウン管というのは構造上、緩やかなカーブを描いているのが当たり前でした。思い返せば松下電器産業や、日立製作所、東芝など採用する「シャドーマスク方式」のブラウン管テレビは、上下左右に球面の形をしていて、極端にいえば宇宙飛行士のヘルメットのように丸々としていました。
その点、ソニーの採用する「アパーチャーグリル方式」のブラウン管は、円柱の形で左右にはすこし曲がってはいてもタテ方向にはまっすぐというアドバンテージがありました。それだけでもスゴイ! と思っていたのですが、ソニーはブラウン管をフラットに近づけると画面端のフォーカスが甘くなるという弱点を克服し、画面のすみずみまで歪みの少ないシャープかつ高解像度で表示できるようにした「スーパートリニトロンブラウン管」を開発してしまったのです。
そんなスゴイ事をやってのけているのに、なんてベタな名前をつけてしまうんだ!? とツッコみたくなりますが、これがまた当時のCMにマイケル・ジャクソンを起用して、キレキレのダンスのインパクトがハマり、結果としてキララバッソは爆発的ヒットとなりました。
ブラウン管の常識を覆す 平面なブラウン管が登場
ソニーの飽くなき開発魂はとどまるところを知らず、1996年にはついに縦方向にも横方向にも完全に平らな平面ブラウン管「FDトリニトロン」を作ってしまいました。
初号機は、28型ワイドテレビ「KV-28SF5」。ついにテレビの画面は曲がっているもの、という業界の常識を過去のものにしてしまったのです。翌年1997年には「FDトリニトロン」管に加えて、テレビ放送やビデオの映像を4倍密高画質にする「DRC(デジタル・リアリティー・クリエーション)」といったソニーが培ってきた技術を集結した、ハイビジョンテレビ「KW-32HDF9」「KW-28HDF7」をはじめとした7モデルを発売します。
元はドイツでソニー製品の販売ブランドとして使われていた「WEGA(ベガ)」という名称を、これ以降のテレビブランドとして販売することになりました。筆者個人的な想いとしては、「WEGA」という名前が「ストリートファイターII」のラスボスのようでカッコよさを感じ、かなりお気に入りでした。それもあって、途中「BRAVIA(ブラビア)」という名前に変わったときも、なじむまでに時間がかかりました。
WEGAシリーズがヒットしたものの それが足を引っ張ることに……
2000年前後にもなると、各社から液晶テレビやプラズマテレビが発売され始めた時期です。出始めこそいろいろと課題があったものの、薄型テレビはどんどんと大きな市場となっていきます。四角くて大きいブラウン管テレビと比べると、薄型テレビの未来感というか憧れは誰もが強くなるもの。
そんなタイミングで、良くも悪くもソニーのブラウン管テレビ「WEGA」シリーズがめちゃくちゃ売れてしまった事で、薄型テレビの開発に出遅れてしまうという皮肉な結果をもたらしました。これまた薄型テレビで完全に後発にまわってしまったソニーは、その後テレビ市場で長らく不振に陥ることになります。
テレビブランドが現在も続く「BRAVIA」に変更された後も、ブラウン管テレビなどには「WEGA」ブランドがそのまま使われ続けたものの、2007年4月に生産終了とともに消滅。同時に、ソニーが長らく携わってきたトリニトロンカラーテレビの歴史に幕を閉じました。
こんな終わり方になるのは寂しいですが、この後も苦しみながらもたくさんの画期的なテレビを出してくるのがまたソニーのおもしろいところ。2000年以降のテレビについても次回以降に触れたいと思います。
筆者紹介───君国泰将
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