1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. IT
  4. IT総合

中国ではスマートテレビがいつからか不満が一杯 その理由は広告が表示されるから!?

ASCII.jp / 2023年4月8日 12時0分

中国のスマートテレビは安いけれども、 電源を入れると広告が表示される……!?

 中国におけるテレビの販売台数は、2022年は前年比5.2%減の3634万台。その7割がスマートテレビとのことだ(奥維雲網調べ)。テレビ市場では、中国家電界の王者ハイアール、ワールドカップの広告が記憶に新しいハイセンスに加え、新技術投入で目立つTCL、再び製品が見られるようになってきたシャープといったメーカーに加え、スマートフォンからの進出してきたシャオミ、ファーウェイ、OPPOなどが競合。おかげで機能面や価格面でさまざまな製品が登場し、スマートテレビは生活の一部となり、ユーザーの満足度も上がっている……と思いきや、実はそうでもない。

 スマートテレビを所有する中国在住者はその現状を語る。「電源入れたあとに20秒ほどの広告が入る。メニューが出てきてなにかのアニメやドラマなどを見ようとすると、50秒ほどの広告が入る。これは長いし嫌だ。じゃあ他のアプリで見ようと思うと、またまた広告が流れる。広告が見たくなければサービスに金を払えと。もううんざり」。

スマホでおなじみのシャオミも参入するなど、スマートテレビはすこぶる安くなってはいるが……その裏に不便も加わっている(1元=約19円)

電源を入れても、プリインのアプリを起動しても広告表示 ハードウェアでの薄利を広告収入で埋め合わせている

 3月15日の世界消費者デーに合わせ、中国メディアはスマートテレビの起動時の広告を確認した記事を掲載。それによると、シャオミのハイエンドの1機種を除いて、起動時に15~30秒の広告が流れたという。さらに各動画アプリでも動画コンテンツごとに広告が入る。人気テレビシリーズの1話40分間に4回180秒のCMが入り、冒頭の歌なども考慮すれば実質3分の1の視聴時間がCMの視聴に費やされる。

 テレビ本体を購入すると、動画サービスをはじめ、各種アプリが多数インストールされている。低価格競争でハードウェアが薄利になると、アプリの提供企業が1台インストールあたり、いくら払うといったモデルでも利益を得るようになった。テレビメーカーもこのような事情からアプリを少なくすることは難しく、購入時点から画面には各種アプリが埋め尽くし、アプリを利用すればそれぞれで広告が表示されるという状況になったわけだ。

 検索広告は、まだユーザーが検索した結果に即した内容であり、またスマートフォンのアプリストアで出てくる広告も利用者のニーズに近いもの、中国で普及するデリバリーアプリ「美団外売」の広告もユーザーのニーズを受けてこんな食事があると提示してくれる。ところがスマートテレビは単にコンテンツの宣伝で、視聴者のニーズに合わないもしばしばあって、しかも必ず見せられる。このあたりもスマートテレビの話題で中国人が嫌がるポイントだ。

 ならば、サービスに金を払えば、この問題は解決するかというとこれがまた悩ましい。中国でもビリビリやテンセントビデオをはじめ、複数の動画サービスが競合していて、1つの動画サイトですべてのコンテンツが見られるというわけではない。

 さらにはそれぞれが「ゴールド」「プラチナ」「学生」「スポーツ」「アニメ」といった、料金が異なるプランを用意。見られるコンテンツや使えるデバイス(モバイル、パソコン、車載、VRなど)が微妙に異なる。さらに、ファーウェイは映画とテレビ番組で年248元(約4700円)、シャオミも年間298元(約5600円)といった具合に、テレビメーカー独自の会員サービスもある。

動画サービスの方も課金体制がわかりにくいことが多い

 厄介なのは、スマートテレビから動画コンテンツサービスに課金しても、スマートテレビ向けとパソコン・スマートフォン向けは別物、後者で見るには再度会員にならなければいけない。これには背景があり、中国政府のテレビなどを扱う部署、通称「広電総局」が主導権を握るべく、ライセンスのある国有企業から配信しなければならないというルールを定め、コンテンツホルダーの動画企業が国有企業と提携したことにある。

若者も親も祖父母も使うテレビだけに使い勝手は問題となる 日本の高齢者以上にデジタル機器に弱い、中国の高齢者

 スマートテレビの問題はこれだけにとどまらない。リモコン操作についても、ワイヤレスキーボードやマウスを使う方法をユーザーが知らない場合が厄介で、無線LANのパスワードやコンテンツの検索など、何か文字を入れようとするたびに画面にキーボードがでてきて、1文字打ち込むごとに苦労する。シャオミは以前テレビのリモコンのボタンを大胆に減らしてみたものの、ユーザーからはシンプルすぎて使い方がわからないと不満も出た。

機能追加が増えたことで、テレビを視聴する高齢者が苦しんでいる

 音声入力も可能にはなった。しかし多くの製品はまだ単純な音声認識の段階にあり、まだまだ思い通りに命令できるレベルではない。それでも若いユーザーならコントロールできるだろう。高齢のユーザーとなると音声認識のクセを理解することができない人もそれなりにいて、高齢者がスマートスピーカーに苦戦する動画も多数アップされている。

 また、中国のライフスタイルならではの事情もある。祖父母(高齢者)+父母(中年)+子供(若者)の三世代で住んでいることも少なくない。若者は使いこなす人は使いこなすが、中国の高齢者は急激な環境の変化や政治的な過去により日本の高齢者よりもずっとハイテク製品に触るのが苦手だ。若者は「ゲームなどのさまざまなアプリを入れて使いこなしたい」というニーズがある一方、高齢者は「テレビが見られればいい」と考えていて、若者があれやこれやアプリを入れれば祖父母が使いにくくなるという矛盾が発生する。

1日あたりの平均テレビ視聴時間。65歳以上の高齢者にとってテレビのニーズは今でも高い

 製品を購入する際は若者が情報を収集するので、メーカーのターゲットは若者になる。なので各社は画面品質に加え、ゲームやカラオケや音楽、ECなど多方面に機能を拡張し、パソコン、スマートフォンに続く第3の家庭内情報端末にしようとしている。そうは言っても、ユーザーサイドでは高齢者を大事にする文化の中国で、祖父母の意向は無視できない。

 スマートテレビ黎明期は、バンドルされるアプリの1年無料券がついていて、本体購入時にそれを登録するだけで利用可能だった。プリインストールされているアプリも少なく、高齢者はテレビ番組に簡単に切り替えてみることができた。ところが動画アプリがスマートテレビ向けサービスで多様なプランを出し、政府も介入し、メーカーはアプリを多数入れて本来の顧客を無視して多機能化を目指し、気づけば面倒くさく魅力のない商品になってしまった。その不満が今になって中国のインターネットで噴出している。状況が異なる日本で同じことが起きることはないだろうが、他国で中国と同じことになる可能性は否定できない。

 

山谷剛史(やまやたけし)

著者近影
著者近影

フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で、一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。書籍では「中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立」、「中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか? 中国式災害対策技術読本」(星海社新書)、「中国S級B級論 発展途上と最先端が混在する国」(さくら舎)などを執筆。最新著作は「移民時代の異国飯」(星海社新書、Amazon.co.jpへのリンク)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください