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ナンバーポータビリティのワンストップ化 大混乱が心配だ

ASCII.jp / 2023年4月10日 9時0分

写真はイメージ

 総務省は「携帯電話・PHSの番号ポータビリティの実施に関するガイドライン改正案」を作成。5月8日までパブリックコメントを募集している。

 今後、国民や事業者から集まった意見に対して、総務省が右から左にいなすコメントをつけ、ガイドラインを改正していくことになる。

 今回の改正案のポイントは、ナンバーポータビリティ(MNP)の「ワンストップ化」だ。

ナンバーポータビリティのワンストップ化とは

 これまで、契約しているスマホのキャリアを乗り換えようとする場合、現在契約しているキャリアに連絡し、ナンバーポータビリティのための番号を発行してもらい、次に契約したいキャリアに伝える必要があった。

 かつては、現在契約しているキャリアに連絡すると「ポイントをあげるので解約しないでくださいな」という引き留め工作がえげつなく、問題になったこともあった。

 実際、契約しているキャリアに連絡するのが面倒であったり、心理的な負担もあるため、総務省としてはキャリアの乗り換えを促進しようとワンストップ化を長年、検討し続けてきた。

 しかし、当時は各キャリアで2年契約が当たり前で解除料などが設定されており、「ワンストップで乗り換えたら、2年契約の解除料を請求された」なんてトラブルが起きることが予想され、キャリアから導入に否定的な意見が寄せられ、ワンストップ化が実現しなかった。

 その後、令和3年5月の「スイッチング円滑化タスクフォース報告書」では2年以内を目途にワンストップ方式の実施することが適当と提言された。すでに2年契約の解除料なども撤廃されていることから、トラブルにはなりにくいという判断もあるようだ。

ワンストップ化のねらいは料金値下げ

 実際、筆者もアメリカで、2007年にiPhoneをAT&Tで契約した後、ベライゾンにナンバーポータビリティで乗り換え、さらにグーグルが手がけるMVNO「Google Fi」にナンバーポータビリティしている。

 もちろん、ワンストップ対応で、移行先のキャリアで自分の携帯電話番号を伝えれば、すぐにナンバーポータビリティできてしまう。世界でもほとんどの国と地域がワンストップ対応となっており、現在、契約しているキャリアに連絡が必要なんて国と日本とごくわずかの国しかないようで、日本は世界に比べて遅れているというのが現実だ。

 ワンストップ化が実現することで、乗り換えが促進され、料金値下げにつながれば、総務省の思惑は大成功といえるだろう。

 しかし、日本のキャリアはナンバーポータビリティ制度によって顧客獲得に頑張りすぎる傾向が強いため、ワンストップ化でさらにユーザーが大混乱しないか心配でもある。

ワンストップ化の問題点は割引競争の激化など

 現在ですら、ナンバーポータビリティ制度があることで、家電量販店やキャリアショップなどで「ナンバーポータビリティで契約するなら端末1円」といった過剰な割引が横行している。端末と通信料金を完全分離しているため「転売ヤー」の出現という別の問題も発生している。

 一部のキャリアショップでは、端末を安価に機種変更して買いたいという客のために「店内で一度、他社にナンバーポータビリティをさせ、再度、戻ってこさせる」という手法をアナウンスするところもあるぐらいだ。

 これまでは契約しているキャリアに連絡が必要であったが、ワンストップ化となれば、かなり簡便に他社に移行し、戻ってこられる。ワンストップ化で「一瞬だけ契約されるキャリア」というのも増えてきそうだ。

 また、2025年1月にソフトバンク、2026年3月末にNTTドコモの3Gサービスが終了する(KDDIは2022年3月末に終了済み)。

 テレビショッピングなどで「お手持ちの3Gガラケー、急いでスマホに変えないと使えなくなりますよ!」と言われて慌てて購入してみたら、知らぬ間にこれまでとは違うキャリアに変わっていた、なんてことも起きる可能性がある。

 家族が「請求額が上がっていたので、調べてみたら、ガラケーからスマホに乗り換えた回線が別キャリアに移っていて、家族割引の対象回線数が減っていた」なんてことにもなりかねない。

ワンストップ化の効果は検証の必要あり

 これまでも、総務省が作ったルールの抜け穴を上手いこと見つけ出し、各キャリアは過剰な顧客獲得合戦を繰り広げてきた。ワンストップ化に踏み切ることで、これまで想定しなかった競争領域に突入する可能性があるだろう。

 その際、すべてのユーザーの利益につながればいいが、一部の人だけが得をするようなガイドラインになってはいけない。

 数年後、ワンストップ化を導入したことで、市場にどんな変化が生まれたのか。問題は起きていないのかをきっちりと検証する場を設ける必要があるだろう。もちろん、問題が起きるようであれば、早期に対策が必要だ。

 総務省の通信のおける競争政策の場合、ルールを導入検討した人たちが、数年後、同じメンバーで再検証するということが多い。これではどんなに間違ったルールでも、自分たちの過去の考えを否定したくないものだから、「問題ナシ」とか、別の問題点にすり替える議論に陥りがちだ。

 ワンストップや完全分離、端末割引価格の設定など、ルールの導入検討した人ではなく、全く別の人たちで、「そもそも、ルール作りが合っていたのか」という根本的なところから、再検証する体制が必要だろう。

 

筆者紹介――石川 温(いしかわ つつむ)

 スマホ/ケータイジャーナリスト。「日経TRENDY」の編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。ケータイ業界の動向を報じる記事を雑誌、ウェブなどに発表。『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞)など、著書多数。

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