Emerald Rapidsは2023年第4四半期に量産開始 インテル CPUロードマップ
ASCII.jp / 2023年4月17日 12時0分
3月29日、インテルはDCAI Investor Webinarを開催し、ここでXeonのロードマップと将来製品のちょっとしたプレビューを披露した。今回はこれを説明したい。このイベントは、OEMやエンドユーザーではなく、「投資家」に対してのセミナーである。
つまり投資家に対し「この通り、この先は順調に売り上げを伸ばし利益も増えていきます」ということを納得させるものである。したがって、嘘は付けない(これをやるとSECから刑事訴訟を含むペナルティを喰らう)が、逆に言えば嘘にならない範囲でギリギリ、明るい未来を見せることになる。
要するに仮に実現しなかったとしても「あの時はそういう予定だったんです」で言い逃れができる範囲で、精一杯楽観的な方向に予測を振るわけだ。もっとも別にこれはインテルだけでなくどこの企業も同じだし、ついでに言えばそのあたりは投資家もわかったうえで話を聞いてるわけで、その意味ではプレゼンテーションを文字通り鵜呑みにしている人は少ないとは思う。
2023年以降インテルの売上は伸び、2025年からはさらに伸びる
そのあたりを踏まえたうえで、まずは下の画像を見てもらいたい。水色の折れ線がコアの出荷数、縦棒が売上である。2022~2023年はSapphire Rapidsの遅延などもあって売上を落とすことになったが、2024年からは出荷数もグンと増え、これにともない売上も再び増加するという予測である。
売上予測の方はおいておいて、もう少しわかりやすくなるようにコアの出荷数の方に赤線を追加したのが下の画像である。
インテルの予測では、2023~2025年では大きく伸び、2025年からはさらに急激に伸びるとしている。これは今年中にIntel 4が立ち上がり、来年にはIntel 3も立ち上がることでこれによる生産量の上乗せがあり、さらに2025年からはIntel 20A(とその後継のIntel 18A)の分が追加になる、という皮算用である。
Emerald Rapidsは2023年第4四半期に量産開始
この皮算用の話は後でするとして、製品ロードマップの方を説明していく。まずは現在のSapphire Rapidsの後継となるEmerald Rapidsである。こちらはちょうどサンプル出荷を開始し、量産は今年第4四半期中とされる。
このEmerald Rapids、シリコンのサンプルも公開された。
これを回転させて歪を補正したのがこちら下の画像だ。ここから推定されるダイサイズは25.2×30.9mmで、実に778.7mm2という巨大な代物になる。
これだけあれば、Sapphire RapidsのXCCと実質的には同じだけの機能を突っ込むのも難しくないだろう。厳密に言えば若干面積は減る(Sapphire RapidsのXCCは400mm2のタイル×4で1600mm2、一方Emerald Rapidsは1557.4mm2である)が、その代わり下図でいうところの、横方向のEMIBが必要ない計算になる。
EMIBが要らないというのは、要するにタイル間の接続のためのPHYなども要らないということだから、その分ダイサイズを節約できることなる。
ついでに言えばSapphire RapidsのXCCでは鏡対称になった2種類のタイルが必要だったが、Emerald Rapidsではその必要性はない。これなら180度回転して並べるだけで済むからだ。ただ、780mm2近くと言うのはもうReticle Limit(露光できるギリギリのサイズ)に近く、となると歩留まりは結構厳しいことになるだろう。
製造プロセスは先も言ったように公開されていない。以前流れてきた話では、Emerald RapidsはSapphire Rapidsと同じということであったが、プロセスが同じで基本のアーキテクチャーも同じだったら、コア密度を上げたり性能効率を上げたりすることはできない。
これは筆者の推定だが、おそらくEmerald RapidsはRaptor Lakeと同じIntel 7+を利用しているものと思われる。コア数はトータルで64程度だろう。そもそもIntel 7とIntel 7+では、ロジック密度そのものは変わっていない。したがって、基本的なタイル内のコアやその他の要素は大きくは変わらないだろう。
ただSapphire RapidsのXCCの場合は5×4の構成だったが、これをそのまま横方向につなげて10×4にすると、もっとタイルが細長くなりそうだ。寸法から考えると6×7という構成か? というあたりで、ここからタイルあたり以下の構成で合計10個を抜くとCore/LLC用に32個分のブロックが残る。
- DDR5×2
- UPI×2
- PCIe or CXL×2
- PCIe×4
これを組み合わせて最大64コアというのが筆者の推定だ。ただ最大でも60コアだったSapphire Rapidsよりは4コア増えることになるので、ソケットあたりのコア密度は上がる。
そして仮にIntel 7+を使ったまま、動作周波数を据え置き、あるいは微増程度に留めておけば、性能/消費電力比は向上することはすでにRaptor Lakeで実証済みである。はDCAI Investor Webinarで示されたEmerald Rapidsの特徴は、比較的確実に実現できそうである。
問題は2023年第4四半期中(ということは2023年12月まで)に出荷できるかどうか? である。Sapphire Rapidsの例を取ると、2022年5月11に開催されたIntel Vision 2022で、Sandra L. Rivera氏が「Sapphire Rapidsの最初のSKUの出荷を開始する」と宣言したが、実際に製品が出荷開始されたのは2022年1月10日だった。つまり8ヵ月ほどのラグがあることになる。
同じ法則を当てはめると、ギリギリ2023年11月~12月には量産出荷が可能という推定が成り立つが、さてどうだろうか? Emerald Rapidsについては筆者はあまり心配していないのだが。
Sierra Forestはたったの144コア
Emerald Rapidsに続く製品が、Sierra Forestである。今回発表されたのは以下のとおり。
- Intel 3を利用した最初の製品
- 最大144コア
- すでにA0シリコンは研究室に存在しており、初めて電源を入れた状態からOSが起動するまで18時間未満だった
- サンプル出荷を開始。量産出荷は2024年前半中
まず意外だったのが、「たったの144コア」ということだ。下の画像は連載675回で紹介したMeteor Lakeのダイ内部の拡大図であるが、Intel 4を使った場合のP-Core×1とE-Core×4の面積比率は1:1.146ほど。
元になるダイをどれにするか悩むが、例えばSapphire RapidsのXCCのコアをベースに考えた場合、Intel 7を使っても最大15コアを収められる面積に52コアほどを収められる計算になる。Sapphire Rapids XCC同様に4タイル構成にすれば208コア分だ。
実際にはSierra Forestはスケールアウト向けなので、1プロセッサーないし2プロセッサー構成であり、となるとUPIはソケットあたり1~2個で済むだろうし、Sapphire RapidsほどにPCI Expressを用意する必要もないから、タイルあたり62~63コア、全体では248~252コアも可能だろう。
Intel 7を使ってもこれだから、Intel 3ならさらにコア数を増やせると考えても不思議ではない。以前の情報では334コアや512コアという話も流れて来ていた。
実際にはメモリー帯域がボトルネックになるだろうから、それなりの3次キャッシュを積まないと、こんなに大量のコアがあっても仕方がない。そう考えるとIntel 3を使っても256コア程度が妥当な数字ではないか? などと皮算用してただけに、この数は少し意外だった。
もちろんこれでもAMDのZen 4cベースのBergamo(128core)よりはコア数が多いものの、実効性能ではどうか? というのは怪しいところだ。
ちなみにBergamoはSMT対応である。Gracemontは、現在はハイパースレッディング無効のままで実装されているが、元になったTremontコアそのものはSMT対応の実装になっているから、Sierra Forestがハイパースレッディングを有効化して出荷される可能性もまだ残されている。
さて、現状はA0シリコンができている状況であるのはわかった。これをAlder Lakeの時のスライドに当てはめると、“T-15m”の“Power On”の状況である。つまりここから出荷まで15ヵ月でこなしたわけだ。
同じスケジュールでいけるとすると、最短で2024年6月になる。辛うじて「量産出荷は2024年前半中」の公約が守れるギリギリというあたりだ。
ただこれ、「Sierra Forestに関しては検証をコンシューマー向けのAlder Lakeと同程度に抑えることで無理やりにでも2024年前半中に出荷する」の意味なのか、「シリコンの状況が非常に素晴らしく、検証でも一切問題が出ない結果として2024年前半中に出荷できる『予定』」なのか。どちらかというと後者の意味合いが強い気が非常にしてならない。
Granite Rapidsはいつ出荷するのか?
続いて、そのSierra Forestの「直後」に、Granite Rapidsが出荷されるとしている。
こちらはまだ“Hitting all major engineering milestones”という言い方をしているあたり、テープアウトしたかもどうかも怪しい。というのは、テープアウトしたならしたとそう書くだろうからだ。
仮にテープアウトは終わっていたとしても、そこからA0シリコンが出てくるまで3ヵ月。その後Sierra Forestと同じペースで検証したとしても2024年9月ということになるが、これはかなり疑問符を付けざるを得ない。
まずGranite RapidsのプラットフォームはSapphire Rapids/Emerald Rapidsから変更になる。ということで、来年中に出てくるならそろそろ検証用プラットフォームが出てこないといけないことになるのだが、まだそういう話がまるでない。
またプラットフォームが変わると、通常顧客による検証期間も増えるのが普通であり、それを加味すると2024年中に検証が終わるかどうかギリギリ、ということになる。
もっと根本的な話としては、そもそもIntel 3は大丈夫なのか? という問題がある。Intel 3はIntel 4の改良型であるから、前提としてIntel 4が順当に進んでいないとまずいのだが、現状Intel 4に関してはまったく話が出てこない状況でIntel 3云々を論じるのはかなり難しい。
1つの可能性としてIntel 4を捨てて直接Intel 3に行くという方策も考えられなくもないのだが、Intel 4の進捗が芳しくない最大の理由がEUV露光であることを考えると、Intel 4を捨ててもそれほどメリットがないというか、本質的な問題の解決にはなっていない。
昨年2月のInvestor Meetingで、インテルはIntel 4とIntel 18Aの前倒しを公開したが、このロードマップに従えばすでにIntel 4は量産を開始していることになる。単にこれを実現できないので、次のIntel 3を前面に出してきた(こちらなら2023年末まで猶予がある)という気がしてならない。
もちろん5月末のCOMPUTEXあたりのタイミングで、Intel 4を使ったMeteor Lakeが大量に出てくるようであれば、筆者の懸念は杞憂というか取り越し苦労であったという話になるのだが。
ただ現状を見る限り、Sierra Forestですらどこまで製造できる状況なのかも怪しい。あるいはSierra Forestが144コア止まりと言うのは、あまりに歩留まりが悪すぎるので、ダイサイズをかなり小さく抑えざるを得ず、必然的にコアの数が減ったということなのかもしれない。
もう1つ気になるのがその先である。2025年にClearwater Forestが投入されるとしているが、これはEコアの方。で、Pコアの製品、つまりGranite Rapidsの後継として噂されていたDiamond Rapidsがスライドから消えているのが非常に気になるところである。
こちらはIntel 20Aないし18Aでの製造(18Aの公算が高そう)という話だったが、これが2025年中に投入される可能性はなくなったという意味なのか、それともDiamond Rapidsそのものがなくなったという意味なのか。
いずれにせよまだまだインテルのサーバーロードマップは前途多難な道程っぽい、というのが今回の発表から透けて見えた格好だ。
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