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KORG Live Extremeを活用した世界初の“DSDライブ映像配信”を体験

ASCII.jp / 2023年4月19日 13時0分

 本連載ではKORGの“Live Extreme”技術を、次世代のライブ音声配信技術と捉えて、様々な可能性と実践例を紹介してきた。例えば以前取り上げたASMR配信「ASMR Tasting Party♪」ではLive Extremeの採用によって、音質が良くなった結果、ASMRの表現力がいかに向上するかについて書いた。

 その可能性がさらに広がった。世界初のDSD音声による生ライブ動画の配信である。

DSD音声による世界初のライブ動画配信

 リットーミュージックが運営する多目的スペース「RITTOR BASE」にLive Extremeを使った配信システムが常設されたことを記念したイベントで、大友良英氏と小山田圭吾氏による即興演奏ライブ(Special Live 大友良英+小山田圭吾 2nd set)の生配信が実施された。

 Live Extremeの一般家庭向けの配信は従来PCMフォーマットを使ったハイレゾ配信のみだったが、それに加えてDSD2.8MHz(DSD 128)でライブ動画の生配信が行われた。IIJの「PrimeSeat」など、これまでもDSDを使った音声配信は、これはライブ動画の一般家庭への配信としてはDSD音声が使用された世界初の試みである。

 音声はPCMとDSDが両方配信されるので、DSD再生機器がなければPCMでも視聴ができる。

 DSD再生において必要な機材はDSDネイティブ再生ができて、かつボリュームがついたDAC内蔵アンプなどである。今回はDSD信号の入力(ロック)が確認できるiFi audioの「GO bar」を使用した。これをM2搭載の「MacBook Air」にUSB変換アダプターを介して接続。イヤホンにはGo barと相性のいいCampfire Audioの「ARA」を組み合わせている。かなり細かい音の再生ができるシステムだ。

再生に使用した機器

DoPやDSDネイティブ再生の仕組みを理解し、適切な設定を

 ポイントはDSDネイティブ再生をするための手順だ。まず、DSDネイティブ再生とは何かだが、途中でPCMに変換せずにDSD信号をDACで直接D/A変換して再生するという意味である。

 最近のDAC ICは1bit形式(デルタシグマ変調)であることが多い。DSDも1bit形式のフォーマットのため、その状態を維持したままアナログ信号に変換できるという意味で理想的な再生ができ、最も自然なオーディオ再生の形の一つとされている。

 しかし、従来のオーディオではマルチビット形式のPCMが標準的なフォーマットとして使用されてきた。そのため現実的な伝送経路はPCM信号のやりとりを前提に作られている。こうした経路でDSDの信号を通すために使われるのが、DoP(DSD over PCM)という方式だ。今回のライブ配信でもDoPが用いられており、後述するように実際にやり取りされるのはDSDの信号だが、見かけ上は176.4kHzのPCM信号のやり取りになっている。

 Special Live 大友良英+小山田圭吾 2nd setでの伝送経路について説明する。演奏はライブスタジオでLive Extremeエンコーダーを通して録音され、DoP形式にした状態でローカルへの保存とインターネット送出をする。このDoP方式の音声トラックは、インターネット上ではMP4動画に埋め込まれた176.4kHzのPCMトラックとして見える。デコード(再生)する際には、受け手側の機器でDSD信号として扱い、再生することになる。

 この再生において重要な点は、ビットパーフェクトを意識するということだ。DoPでの伝送で用いるPCM形式の箱(フォーマット)が途中で変化する(リサンプルされる)と中の情報が破壊され、元のDSD信号に戻せなくなってしまう。

 例えばmacOSの場合、“Audio MIDI”の設定がキーとなる。PCM配信の場合はこの設定が適当で、途中でリサンプリングされても音は出て、ビットパーフェクトが大事とうるさく言わない限りは再生できるが、DoPで伝送する場合は中身が破壊されてノイズと化してしまうので注意しなければならない。サンプリングレートを適切な数値に設定することに加え、(プライマリ)ボリュームを1.0にセットしておく必要がある。

設定中の画面

 DoPで伝送されたDSD信号をUSB DACなどに出力する際、「Audirvana」のような音楽再生ソフトを使えば、自動で適切なサンプリングレートに切り替えてくれるが、Live Extremeはブラウザーを使って再生するため、いわば“マニュアル”での設定が必要になるわけだ。具体的な手順としてはLive Extremeの音質設定を2.8MHzのDSDに切り替え、Audio MIDIの設定画面を出してサンプリングレートを176.4kHzにセットする必要がある。

 Windowsの場合でも同様な設定を“サウンド”の設定画面で行う必要がある。詳しい手順については関連リンクにあるKORGの手順書を参照してほしい。

DSDネイティブ再生ならではの自然さを感じる再生音

 これらを頭に入れてDSD再生を試してみた。

 ライブはギター演奏を中心としつつ鐘やターンテーブルのスクラッチなど様々な手法を組み合わせる即興ライブで、実験音楽的な内容になっていた。

演奏中の様子

 配信が始まる前の待機画面中に上記の設定を試してみると、GO barのインジケーターで2.8MHzのDSDとして認識(ロック)されていることを確認できた。これはGO barのPCM入力時に点灯するデジタルフィルターの項目が消灯していることからも確認ができる。

GO barのインジケーター。DSDの項目が点灯している。

 ここで試しにPCMとDSDの切り替えをテストしてみた。その際に気が付いたのは、待機画面の背景で流れていたBGM的な音楽を聴くだけでも、DSDの音質が極めて優れていることだ。DSDの方がより鮮明でかつ自然な再生ができていた。

 ライブでは、様々な楽器やエフェクトが使われるので音の表情がつかみやすく、DSDとPCMの違いが一層鮮明となる。DSDネイティブ再生の音再現は極めてリアルだ。鐘の音など、金属的な高域の響きが明確で、目の前で鳴っているように感じられる。音質モードを96kHzのPCMに切り替えたり、Audio MIDIで176kHzにリサンプルしたりして比較した場合も、DSDの方がリアルで鮮明な音に感じられる。ターンテーブルのノイズ音もPCMでは少しキツく感じられるが、DSDネイティブではそのキツさが和らぎ自然になる。

Live Extremeの持ち味が存分に生かされている

 こうした実験的な音楽は、メロディラインではなく楽器音とその音の重なり具合など、サウンド自体を楽しむものだから、Live Extremeのように音の表現力にこだわった配信形式の選択が大事になると言えるだろう。

 DSDネイティブ再生は、ローカルに保存したファイルの再生など、PCオーディオの手段としては珍しくないものになっているが、配信ではそのハードルが高くなる。インターネット上の伝送経路の品質という問題があるので、PCにUSBでつなぐのとは訳が違う。

 つまり、Live Extremeが単にDSDを搬送できる仕組みを持っているだけでなく、映像よりも音声を優先して帯域を確保することで、ビット落ちを最小限にしているから実現できるとも言えるのかもしれない。

 ブラウザー再生なので、音楽再生ソフトを使用するPCオーディオにはない注意点に留意する必要があるが、この高い音の再現力にはライブ配信の新たな可能性を感じた。

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