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引火性危険物で冷却しないといけない露光機 EUVによる露光プロセスの推移

ASCII.jp / 2023年5月8日 12時0分

 今回は毛色を変えて、EUV(Extreme UltraViolet:極端紫外線)を説明しよう。昨今EUVをどこまでモノにできるか、というのがファウンダリー各社の焦点になっているのはご存じのとおりで、IBMと提携して2nmプロセスでの製造に突き進む日本のRapidusも、なるべく急いでEUVプロセスを習熟する必要がある。

 この話そのものは別にいまさらという内容ではあるのだが、3nmから先になるとそのEUVでもダブル・パターニングが必須になるといった状況に加え、ここにApplied MaterialsがSculptaと呼ばれる新しいシステムを発表したことで、いろいろと憶測が飛んでいる状況にある。

 EUVの話はだいぶ昔(2014年)にしたが、これはまだEUVの量産が始まる以前の説明であり、もう量産機が大量に稼働している現在とはまた状況が違う。そんなわけで、今回はEUVによる露光プロセスを説明したい。

ウェハーを感光させて回路パターンを作る技術

 露光とはなにか? だが、そもそもLSIの製造手法は連載238回で説明したとおりだ。まずウェハーを洗浄した上で酸化膜を作り、さらに回路層を構成する材料の膜も作る。ついで、感光材(光が当たると変質する素材)と呼ばれるものを塗る。

 それを塗り終わったら、上から回路パターンを模した「マスク」というものを挟んで光を当てる。これを行なうことで、回路パターンの部分には光が当たらず、パターンがないところは光が当たる。光が当たったところは感光材が反応して変質する。

 この後で定着(銀塩写真の現像にあたる処理)を行なうことで、パターンがある部分がしっかり残る。この定着が終わったらエッチング(パターンのない部分を溶かす処理)を行なうことで、回路パターンがウェハー上に定着するというものだ。

 もう最近は滅多に聞かないが、サンハヤトなどが出している感光基板を使ってプリント基板を自分で作ったことがある方なら、このあたりの手順をよくご存じのはずである(*1)

 話を戻すが、この露光が問題になってきたのは、回路パターンがどんどん小さくなってきたためである。このあたりの話は連載252回でも触れたが、なにしろ先端プロセスではトランジスタを構成するゲートの幅も、配線の幅も大幅に短くなっている。

 Intel 7とIntel 4でのゲートの幅や配線の幅は連載675回で紹介しているが、ここでContacted Poly Pitchが要するにゲートの幅、M0 Pitchというのが一番狭い部分での配線の間隔(幅はこれよりさらに狭い)になる。ここでなにが問題になるかというと「光の波長が、必要とされるものより大きい」ことである。

Intel 7とIntel 4のゲートの幅や配線の幅

 光はその種類によって波長が決まっているのはご存じのとおり。連載252回でも書いたように、もともと使われていた高圧水銀ランプだと436nm、KrF(フッ化クリプトン)のエキシマレーザーで248nm、ArF(フッ化アルゴン)エキシマレーザーで193nmとなっている。

 他にF2(フッ素)エキシマレーザーが157nmで、これもずいぶん有望視されていたのだが、開発に手間取っている間に液浸の手法が出てきてしまったので、ほとんど使われていない。

 実際はこの436nmなり193nmなりをそのまま当てはめるわけではない。解像度と一般に呼ばれるが、これは下の公式で計算される。

解像度=K(プロセス係数)×λ(光源の波長)÷NA(レンズの開口数)

 このうちKは処理系に起因する要因(感光材の品質や軸外照明といった解像度工場技術など)で決まるもので、理論上の最小値は0.25だが実際には0.3くらいが限界(これも実は結構厳しい)。λは先に説明した通り、露光に使う光の波長である。

 そしてNAであるが、上図のような構図を考えた際に開口数NAは

NA=sinθ

となる。つまりNAの最大値は1.0であるが、実際にはそこまで行くことはない。光源とウェハーを近づければ近づけるほど1.0に近くなるわけだが、限界があるからだ。

 実際ASMLのDUV露光機のDry systemsに挙げられている例は以下のとおり。

 このTWINSCAN XT:1060K/1460K/1470を使って、光源には193nmのArF(フッ化アルゴン)を採用したとすると、解像度はKが0.25なら51.88nm、0.30なら62.26nmほどになる。実際には下表が発表されており、それぞれKの値が0.38/0.31/0.27程度になっているものと考えられる。

 ただ一番解像度の高いTWINSCAN XT:1470でも57nm程度が限界である。以前インテルの22nmと14nmの比較を示したが、このままでは14nmの製造はとても不可能である。

インテルの22nmと14nmのピッチサイズ比較

(*1) 最近は基板CADでプリント基板の設計をした後、そのデータをプリント基板製造業者に投げて製造してもらうのがかなり手軽になってしまったし、CNCを持っている人はCNCを使って基板を作るという技もあるので、個人で感光基板を利用するニーズはかなり減ってしまった模様だ。サンハヤトの感光基板製作入門キットも、「在庫限り」になってしまっている。

液体を満たして露光する液浸ArFと 何度も露光を繰り返すマルチパターニング

 そこで次なる策として考えられたのが液浸である。先にNAは最大1.0と書いたが、これは空気の屈折率が1だからだ。ところが液体では屈折率がもっと高い。そこで光源と対象となるウェハーの間に液体を挟み込むことで、NAの値を1以上にしようというものだ。先のページの中のImmersion systemsがこれでTWINSCAN NXT:1980Di/2000i/2050iの3機種ともArF光源を使いながら、NAは1.35、解像度は38nm以下とされている。

 インテルで言えば、これで14nm世代は製造できたわけだが、10nm以下(今で言えばIntel 7とか)ではまだ足りない。例えばIntel 7ではフィンの間隔が34nmである。間隔が34nmということは、フィンそのものの幅はもっと小さいことになる。これは液浸でも不可能ということで、次に考え出されたのがマルチパターニングである。

 要するに1回の露光でパターンを完成させるのではなく、少しずらした形で異なるマスクを重ねて露光することで、最終的にパターンを完成させる方法だ。これにはLELE(Litho-Etch-Litho-Etch:露光とエッチングを交互に行なう)とSADP/SAQP(Self Aligning Double/Quad Patterning)の両方がある。

 SADP/SAQPの詳細は連載483回で説明したので今回は割愛するが、これによって解像度未満の幅の露光が可能になった。といってもマスクコストは上がるし、設計の自由度も減り、また製造に要する期間が長くなるなど弊害も多かった。

国内メーカーが撤退するほど 難易度が高かったEUV露光機の開発

 ということでやっとEUV露光に話が移る。EUV、極端紫外線などと呼ぶが、こちらは波長が13.5nmとArFより一桁短い。これもあって、より微細な露光が可能になるということもあり、それこそ2008年頃から製造装置メーカーが取り組んでいた。

 ただ最終的にEUVベースの露光装置を完成させたのはオランダのASMLのみ。日本のニコンやキヤノンもEUV露光機の開発を試みていたが、最終的に2010年前後にいずれも撤退している。撤退の理由は簡単で、猛烈に技術的な難易度が高かったからだ。そこで、ASMLのEUV露光機の構造を元に説明してみたい。

 まず光源の話である。EUVを生成することそのものはそれほど難易度は高くないが、露光に利用できるほどの強いEUVを、しかも連続して一定の強度で生成するのは大変に難易度が高い。最終的にEUV光源装置を開発したTRUMPFの説明によれば仕組みは以下のとおり。

TRUMPFによるEUVの説明。この図もかなり端折っているというか、光学系をあまりにシンプルに描きすぎな気はする

(1) 真空チャンバー内に、毎秒5万滴のスズ液滴を垂らす(図中③) (2) そのスズ液滴に数十KWのCO2レーザーを当てる(図中①) (3) これによって発生したプラズマ(図中②)からEUVが生成されるので、それを反射ミラーで収集する(図中④) (4) 収集したEUVをウェハーに当てる(図中⑤)

 ちなみに100W程度のEUVの出力(これは機種によって異なる)を得るために当てているCO2レーザーの出力は40KW前後。CO2レーザーの効率は10%程度なので、これだけで400KW程度の電力を必要とする。これを200W出力にするとなっても消費電力が800KWまで増えることはない(もう少し効率が良い)が、それでも5~600KWに達するのは間違いなさそうだ。EUV露光機1台あたりの消費電力は1MWに達するとされるが、その大部分をこのEUV光源が占めることになる。

冷却とゴミ除去に使用するのは 引火性危険物の水素ガス

 次に光学系。DUVステッパーであるASMLのTWINSCAN NXT:1470のArF光源を占める部分は、下の画像の赤く示した部分である。ArF光源だとミラーで方向を変え、レンズを使って光を収束できるので、見かけは綺麗に収まることになる。ところがEUVの場合、波長が短すぎるためにレンズにあたるものが現状製造できない(*2)

実際にはこの下にDUV光源の生成装置がドーンと置かれる格好になる(ので、Fabでは2フロアぶち抜きの形で設置されることになる)

 そこで基本ミラーを利用した反射光学系で構築することになる。これはマスクも同じで、DUVまでで使っていた透過型マスク(パターンを残したいところをマスクし、それ以外を透過させる)は、レンズと同じ理由(透過させる材質がない)で使えない。そのため反射型マスク(パターンを残したくない部分をミラーとして構成する)を利用することになる。

TWINSCAN NXE:3400での説明図。マスクは反射型になった

 この光学系でもう1つ問題だったのが、高エネルギーのEUVがあたることによるミラーやマスクの欠損である。要するに連続利用していると、ミラーやマスクに欠陥が生じ、そうなると正しくパターンの露光が不可能になる。

 ついでに言えば、EUVではミラーやマスクに高エネルギーのEUVが当たるわけで、それを100%反射することはできないのでミラーやマスクがEUVを吸収、温度が上がることになり、これに起因する問題(歪や熱での破壊など)も発生しうる。

 欠損や熱の問題を防ぐとともに、欠損などが生じた場合のゴミの除去のために、気体を吹き込んでやる必要がある。従来EUV露光装置の内部は真空、という説明が良くあったが、実際に上の画像を見ると黄色で囲った部分、あきらかに吸気/換気をするための仕組みが用意されているのがわかる。

 この気体であるが、なんと水素ガスを使っているとのことである。なぜ水素か? というと屈折率と吸収率の問題である。水素では屈折率は1.028と空気に近いうえ、空気そのものだとEUVをかなり吸収してしまうのに、水素なら吸収率が低いためである。

 ただ理屈はわかるが、水素ガスであるから取り扱いは要注意であるのは言うまでもない。酸素と結合したりするとあっという間に大爆発を起こしかねないからだ。

 試しにTSMCのFab 15BをGoogle Mapで確認してみると、確かにあちこちに液体水素タンクと思しきものがあるのがわかる。これだけのシステムを構築するのに時間が掛かるのも致し方ないところだろう。

Google Mapより抜粋。赤く囲った部分が、水素タンクと思しきもの

(*2) これはEUVではレンズを透過できないことに起因する。将来、EUVを通すような材質を使ったレンズや、純物理的には重力レンズのような方法もあるのだろうが、現実的ではない。

EUVの問題点は開口値が低く 解像度が足りないこと

 ところでそのEUV露光機、現在はNXE:3400CとNXE:3600Dの2つがラインナップされている(実際にはNXE:3400も3400/3400A/3400B/3400Cとバージョンアップされてきているし、これは3600の方も同じ)が、スペックを見ると以下のようになっている。

 ちなみに液浸を使ったTWINSCAN NXT:2050iの場合、スループットは295枚/時以上なので、半分を超えてはいるがまだ十分な速度とは言えない。スループットを向上するにはさらに光源出力をあげることになるが、これはさらなる問題(消費電力の増加とミラーやマスクの欠損頻度の上昇)につながるので、TSMCなどは台数を増やしてスループットを確保する方向である。

 それはともかく問題になるのは、解像度がそれでも13nm程度でしかないことだ。主な理由は開口値が低いことである。ArFなどと違い、レンズも使えなければ液浸であげることもできなない。ASMLは次世代のEUV露光機では開口値を0.55まで引き上げるとしており、この初号機をインテルが導入すると2020年に発表したが、これはまだ先の話である。

 その一方で、すでにTSMCはN5の量産をとっくに開始し、N3も量産に入っているが、このN3では13nmでも解像度が足りないし、この先GAAを利用したN2になると13nmのままでは対応ができない。ということでこの先は次回に続く。

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