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メタバース化したFortniteがすごすぎる

ASCII.jp / 2023年5月11日 7時0分

 今日は3月にサンフランシスコで開催されたGame Developers Conferenceの話です。Epic Gamesが久しぶりに基調講演をしたんですね。

 5日間の会期中、水曜日に重要な技術発表をするのが慣習化していたのですが、コロナのためにこの数年はありませんでした。今年の基調講演では、Epic GamesがUnreal Engine関連の強力なテクノロジーの新機能を次々に発表しています。

 最大のポイントは「メタバース」を強調していた点です。

 生成AIに話題を取られてすっかりどっかに行ってしまったメタバースですが、以前からしつこくメタバースと言い続けているのがEpic Gamesです。

 というのも、100人対戦のサバイバルシューティングとして人気を得た「Fortnite」には、ゲームそっちのけでユーザーが雑談の場や、友達と一緒に遊ぶ空間と広がっていた面がありました。それが「メタバース」という意味へと拡張解釈されていったという経緯があるのです。

GDCで講演するティム・スウィーニー氏(Epic Gamesの公式動画より)

 Epic GamesはFortniteの成功を通じて、ゲームエンジンの会社からメタバース技術を総合的に展開する企業になることを意識しながら戦略を推し進めています。基調講演に登場したティム・スウィーニーCEOは、まさにその点について説明しました。

 「Fortniteは、月間アクティブユーザー数は7000万人を皮切りに、250万人のRoblox、1億人のマインクラフト、その他のゲームなどを含めると、バーチャルワールドのユーザーは6億人以上に達します。NFTはやVRゴーグルといった流行は脇に置いてよいものです。それは将来的には重要な役割を果たすかもしれませんが、革命に必須なものではないのです。(メタバースの)核となるものは、ゲーマーであれば誰でも知っていることですが、あなたとあなたの友達がネットで集まって、ボイスチャットでグループになって楽しく交流することですよね」(スウィーニー氏)

 Epic Gamesはゲームメーカーとして展開し、ゲームエンジンを提供する会社へと変化していきました。それをさらにはユーザーのコミュニティツールにまで拡張し、誰もがクリエイターエコノミーに参加できる環境を整えることを目標に動いているのです。Unreal Engineも様々なアップデートが発表されたのですが、何よりも今回の目玉と言ってもいいのが、ユーザーがFortnite内に気軽に自分のメタバースを構築できる「Unreal Editor for Fortnite(UEFN)」でした。

UEFNを実際に開いた画面。Unreal Engine 5から機能を除いた簡素化したシステムになっている。ボタン1つで、実際のFortniteを開始できる

Fortniteの世界観でマルチプレイ可能なメタバース

 UEFNは同社が昨年正式公開した、Unreal Engine 5をFortnite用に使えるようにした簡易的なゲームエンジン環境です。昨年から開発が進められていることが明らかにされていたのですが、GDCに合わせてベータ公開が開始されました。

 講演に使われた技術デモ映像を見てみると、シネマティックシーンから始まるAAAタイトルのシューティングゲームに見えますが、「実はこれFortniteです」という形で示されました。UEFNの編集画面に戻したり、そこから、そのままFortniteのゲームに移行できます。敵を配置したり、地形を編集したりも可能。専用の簡易コードも用意されていて、かなり本格的なゲームを作ることもできるようになっています。

 ムービーパート専用の編集ツールも今後追加予定という話なので、ゲームの中でシネマティックシーンを演出して入れるということができるようになります。やろうとすれば映画のようなものも作れてしまいます。非常に強力なのが、Fortniteをベースにしているために、最初からマルチプレイを前提にして使える点です。

デモとして示された複数人でプレイ可能なボスバトル。シネマティックシーンから始まり、バトルへと展開する(Epic Gamesの公式動画より)

 要するに、Fortniteの世界観で即マルチプレイ可能なメタバースが作れるわけです。ユーザーが作ったマップは「島」と呼ばれます。それぞれ12桁のコード番号が割り振られ、マップ選択画面で番号を入力するだけでプレイ可能になります。

 これがとてつもなく強力なのは、Fortniteで過去に使われてきたアセット類がすべて使えて、適当に配置をするだけで、ワールド内にリアルタイムに即反映されること。他のプレーヤーにすぐ影響をおよぼすことができるわけですね。

 デモの中では、PC上で位置を変更したアセットが、PlayStation 5からワールドにアクセスしているユーザーの世界に即反映されている姿が説明されていました。

UEFNの画面でロボットのアセットを配置すると、その島に参加しているPlayStation 5の環境に即反映されている(公式動画より)

 Unreal Engine 5のライティングを非常に豪華できる照明システムLumenも使えるので、グラフィックにもこだわることができます。

 Epic Games傘下の3Dスキャンした3Dデータを提供しているMegascansの3Dアセットのライブラリーもそのまま取り込んで使えるようになっていて、Unreal Engine 5の簡易版とは言え、相当な機能がはじめからそろっている状態です。あまりにも環境が豪華すぎて、「うぎゃー!」という感じですね(笑)。

 プレイ可能なデモとして示されていた「フォレスト・ガーディアン」というマップは、日本風の鳥居のある場所を進むと奥に龍が待ち構えており、襲ってくるオオカミを剣で倒して、アイテムを獲得する──という長さとしては10分程度のものでしたが、シングルプレイのゲームプレイを体験できるようになっていました。

公開されている「フォレスト・ガーディアン」を実際に筆者がプレイしている様子

 Fortniteはもともと、ゲーム内で自分の島を作れる「クリエティブモード」という仕組みを持っていたのですが、エディター上で制作できるようになったことで、開発がより簡易に作れるようになりました。

SASUKEにNeRF、バーチャル新宿まで

 リリースから1ヵ月半あまりで、様々な遊び方が登場しつつあります。

 典型的なゲームは、4月28日にリリースされた、UGCゲーム開発者のKiwi氏がリリースしたマップ「DEATHRUN」。伝統的なSASUKEスタイルの様々な障害物を乗り越えて、なんとかゴールを目指すというマップです。

 水面に落ちたら最初からやり直しという単純なルールながら、難易度は極悪。しかし、その繰り返してマップを覚えるほどにやりこまないとクリアできないために中毒性があります。YouTubeなどでプレイ動画の口コミが広がったことで、リリースから1週間で220万人以上の人がプレイしていることが明らかにされています。

筆者も挑戦してみたものの、あまりに難しすぎてかなり前の方でめげました。常に様々な人が島に入ってきていて盛り上がっていました

 実験的な目的で利用する人も登場しています。

 Twitterでは、フォトグラメトリのデータを取り込む実験をしている人も出てきました。3Dデータなら何でもインポートして取り込めるので相当に強力です。現実空間で撮影した自由視点画像を置き、その世界に入っていくことができるわけですね。

 起業家・発明家の佐藤航陽氏は、開発中の自動生成AIを使って作成したと思われる「バーチャル新宿」のデータを組み込み、上空をヘリコプターで飛んでいる動画をアップしていました。簡易的な3D環境として考えると非常に便利です。

 個人的にはこれを大学等で使っていくことも考えています。

 学生の中にはプログラムコードが書けない学生も少なくないので、iPhoneでスキャンしてデータを反映するだけでメタバースを構築することができると言えるのではないだろうかというわけです。

 Unreal Engine 5は学習のハードルが非常に高い一方、UEFNは機能が絞られているぶん、最初の学習には入りやすい環境だと考えています。

Fortniteで経済圏を発展させたいEpic Games

 Epic Gamesがなぜこうしたものを作ったかといえば、Fortniteを「永遠に発展し続けるゲーム」という形へと発展させていきたいからですね。その意味でFortniteが今後、メタバースとして発展し続けるかを占う重要な発表もありました。島を開発するユーザー生成コンテンツ(UGC)開発者への収益の分配を始めるというものです。

 これまでゲーム会社は、ModなどのUGCをゲームコンテンツの寿命を延ばす有力な手段として使ってきました。しかし多くの場合、UGC開発者は、開発したコンテンツで利益を生み出すことができませんでした。

 Robloxのようにゲーム内の仮想通貨を通じて制作者にも支払いをする仕組みを用意することで、メタバースエコノミーを成長させる仕組みを提供するケースも出てきています。これまでのFortniteにはそれがなかったんですね。

 Epic Gamesは今回、「クリエイターエコノミー2.0」と呼ぶフォートナイト内での次世代エコノミーと呼ばれる制度を整えるとしています。その最初の方策として、「エンゲージメント配当への早期アクセス」を開始しました。これはEpic Gamesが認める条件を満たす必要がありますが、公開している島へのユーザーの没頭度に応じて金銭をもらえるという仕組みです。

 Epic Gamesの発表によれば、フォートナイトのアイテムショップ、および関連する現金での購入で得た純収入の40%を、エンゲージメントに基づき配当総額に割り振ります。この配当総額から毎月、有資格の全ての島(個人クリエイターの島、バトルロイヤルのようなEpic自身の島を含む)の公開者に対してエンゲージメントを配当します。

 配当は、各島のプレイヤーの没頭度に基づき計算されるとしています。つまり、自分の島が人気であればあるほど、配当金が支払われるということになります。これは島の制作者の間では「Creative 2.0」と呼ばれるようになり、次作の島のトレイラーにそうした表示がされるようになっています。

 実際にはどれくらい配当金が支払われているのかといった正確な情報は明らかになっていませんが、Kiwi氏など有力なUGCゲーム開発者を今後も引きつけられるのかに注目が集まってきています。

The metaverse is NOT dead

 最近メタバースは元気がなくなっているように見えますが、Epic Gamesはむしろノリノリで攻めています。「メタバースは死んだ」と報道されることもありますが、Epic Gamesの動きを見ていると「メタバースは死んでないよ!」と言いたくなりますね。

 

筆者紹介:新清士(しんきよし)

1970年生まれ。株式会社AI Frog Interactive代表。デジタルハリウッド大学大学院教授。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲームジャーナリストとして活躍後、VRマルチプレイ剣戟アクションゲーム「ソード・オブ・ガルガンチュア」の開発を主導。現在は、新作のインディゲームの開発をしている。著書に『メタバースビジネス覇権戦争』(NHK出版新書)がある。

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