30年以上続いた京セラの携帯電話事業、終焉へ
ASCII.jp / 2023年5月17日 7時30分
京セラが個人向け携帯電話端末事業から撤退すると明らかにした。5月16日に発表された中期経営計画で谷本秀夫社長が改めて言及した。
スケジュールとしては2023年度で新規開発を完了し、2025年度でコンシューマー向けの携帯電話端末の開発や生産を終了させる。その上で5Gミリ波のさらなる普及に向けたインフラ関連事業に開発リソースを集中させる。ただし、法人向け端末やインフラ関連事業は継続・拡大させていく。
京セラ撤退の理由:自社ブランドを作れなかった
京セラの携帯端末事業は1989年にスタート。京セラ創業者である稲盛和夫氏がKDDIの設立にも関わったことから、KDDI向けやPHSのDDIポケット向けに端末を供給。その後、ソフトバンクやNTTドコモにも供給していた。最近では2021年に発売された「TORQUE 5G」が記憶に新しい。
ただ、京セラは「TORQUE」や「DIGNO」はあるものの、どちらかといえばキャリアが持つブランドのスマートフォンを手がけたり、子どもやシニア向けなどの企画端末が中心で、自社で強いブランドを持っていなかったのが弱点でもあった。
ソニー「Xperia」、シャープ「AQUOS」などは、いずれも自社を代表するブランドをキッチリと設けている。
ソニーとシャープは毎年ハイスペックな製品を投入し、ブランドイメージを高めつつ、実際はエントリーやミドルクラスの製品を多く売ることで、なんとか端末事業を維持させているという状況だ。
最近のハイスペックなハイエンドモデルは20万円を超えることが多く、正直言ってあまり売れていない。しかし、いずれのメーカーも歯を食いしばってハイエンドモデルを出し続けるのは、ハイエンド向けで培った技術力を、翌年以降、ミドルクラスに搭載していくことで、全体の商品力を上げていく流れを作りたいからだ。
その点、京セラはXperiaやAQUOSに対抗できるブランドを作れず、結局、ミドルクラスや子ども向けシニア向けといったキャリアからの発注された規格端末をメインに手がけていたことで、行き詰まった感がある。
京セラ撤退の理由:スマホ市場が縮小した
もうひとつ京セラが撤退に追い込まれたのは、スマートフォン端末市場の縮小だろう。
先週、各通信会社の決算が発表されたが、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクではスマートフォンの販売数や端末の出荷台数が公開されている。
この3年間、2020年から2021年にかけては横ばいであった数字だが、2022年になると、NTTドコモで136万台、KDDIで260万台、ソフトバンクは97万台も販売や出荷台数が減っているのだ。
2021年は3社で3013万台規模だったため、16%近く市場規模が小さくなってしまったことになる。
円安などの影響で、材料費や半導体のコストが大幅に上昇。ハイエンドモデルは20万円を超え、ミドルクラスも価格が高騰している。一方で、総務省による割引規制により、数年前のように売れない機種に対して高額な割引を適用して売りさばくといった販売方法もとることができない。
特にKDDIの台数の落ち込みがひどい。KDDIの依存度が高い京セラからすると、携帯電話事業に与えたインパクトは計り知れない。
バルミューダ撤退は「誤算」だった?
もうひとつ京セラにとって誤算だったのが、家電メーカーでありながら、2021年11月にスマートフォンを販売したバルミューダではないか。
2021年11月に発売されたBALMUDA Phoneは、デザインやコンセプトはバルミューダが手がけた一方で、端末の製造は京セラが手がけていた。
初代BALMUDA Phoneはネットで酷評であったが、一方でバルミューダ社内では後継機種の開発が進んでいたとされる。
しかし今月、こちらも円安による部材費の高騰などを理由に携帯電話事業からの撤退が発表された。関係者は「後継機種をつくらず撤退と言うことは、京セラへの発注も消滅したと言うこと。京セラとしては少なからず収益を当てにしていたところもあり、撤退の理由のひとつになっていてもおかしくない」という。
人気の「TORQUE」もうまみ少なく
ここ最近の京セラスマートフォンといえば「TORQUE」が根強い人気を誇っている。耐水だけでなく、耐衝撃性も持ち合わせており、アウトドアを楽しむ人には「TORQUE以外は考えられない」と言うほどだ。
京セラの技術力が投入され、他社も真似しないほどの耐久性を誇るが、逆に「壊れないから新機種が売れない」というジレンマを生む。
実際のところは「かなりアクティブに使われるのでヘタってしまい、新機種が出れば機種変更してもらえる」(京セラ関係者)というが、TORQUEはバッテリーが交換できるため「充電してもすぐに減ってしまい使い勝手が悪い」という理由で機種変更されることはなさそうだ。バッテリー交換が可能なため、新品のバッテリーさえ確保していれば、同じ端末を使い続けられるからだ。
バッテリーが交換できるというユーザーにとってのメリットは、端末を販売する企業にとってはあまり美味しくはない機能と言えそうだ。
今後の京セラは「法人向けスマホ」に注力
30年以上に渡って携帯電話事業を続けてきた京セラが撤退するのは寂しい限りだが、ただ撤退は「個人向け」に限っているようだ。
実は京セラの耐久性のあるスマートフォンは、日本国内だけでなくアメリカなどでも警察などの法人需要がとても根強いのだ。
実際、街中にいるおまわりさんをよく見てみると、京セラのTORQUEを使っていたりする。アメリカではB2Bに強いキャリアであるベライゾンとAT&Tのみに販路を絞り、「メイドインジャパン」としての信頼を武器に、警察官や消防士、救急隊員のスマートフォンとして愛されている。
キャリアから京セラのスマートフォンを購入することはできなくなるが、法人向けの頑丈スマートフォンとして、京セラは地道に生き残っていくことになりそうだ。
筆者紹介――石川 温(いしかわ つつむ)
スマホ/ケータイジャーナリスト。「日経TRENDY」の編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。ケータイ業界の動向を報じる記事を雑誌、ウェブなどに発表。『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞)など、著書多数。
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