Apple Arcadeなぜ強い ゲーム開発者語る
ASCII.jp / 2023年5月18日 11時30分
アップルが提供するゲームのサブスクリプション(以下サブスク)サービス「Apple Arcade」は、サービス開始から3年以上が経過した。ゲームのサブスクというといろいろあるが、従来は買い切りのゲームが数多く用意されていて、そうしたゲームを個別に月々一定の金額を支払うことで遊び放題になる、といったものが一般的だ。
しかしながら、Apple Arcadeは各ゲームに定額を払うのではなく、Apple Arcade自体に定額を支払う仕組みだ。Apple Arcadeのランナップには買い切りで売っていたゲームもあるが、本サービスのためだけに作られたオリジナルゲームもある。オリジナルゲームは、買い切りのゲームやFree To Playのゲームとは異なる形で、ユーザーは楽しむことができるのだ。
Apple Arcadeは、1ヵ月間の無料トライアル付きで月額600円、Apple Oneの個人プランは月額1200円、家族6人まで制限なくすべての作品を楽しむことができるファミリープランは月額1980円と3つの料金プランがある。
さらに新しいiPhone、iPad、Mac、Apple TVを購入したユーザーは、Apple Arcadeを3ヵ月間、無料で遊ぶことができるという、うれしい特典も用意されている。
このような他社のサブスクよりも幅広い形式のゲームが揃うApple Arcadeは、サービス開始以降、日本のデベロッパーのゲームもますます増えている。そんなゲームデベロッパーのなかから、今回はユニークで人気の高いオリジナルタイトルを作られたメーカーの代表の3名に、なぜApple Arcadeでゲームを提供するに至ったのかなどについて語って頂く機会を得たので、ご紹介したい。
Apple Arcadeであれば純粋にゲームの おもしろさで勝負できると考えた
『TIME LOCKER+』を開発されたSotaro Otsuka氏は、今から10年前くらいスマホゲーム黎明期の時にプログラマーやアニメーターと、複数の業務を兼任するいわゆる何でも屋として企業に勤めていたという。しかしながら、だんだんとスマホゲームの開発の現場が組織化されていったなか、なんでもやる立場だと会社内で評価しにくい存在になってきたという。
そこで独立して『TIME LOCKER』を開発するに至った。その後、Apple Arcade用に『TIME LOCKER+』を制作するのだが、Sotaro Otsuka氏はiOSの開発者としてApple Arcadeはスマホゲームの頂点の舞台のような趣があり、さらにラインアップも配信当初から名作揃いでとても魅力的だったという。
また、元々の『TIME LOCKER』は基本無料のゲームだったが、Free To Playのゲームは、収益化のため広告や課金のシステムを入れる必要がある。そのため、無理やり壁を作ったり、それを超えさせるために課金や広告をユーザーに見てもらうといったことが必要になり、ゲーム体系に歪みが生じることがある。
加えて、有料ゲームの場合は価格による差も生じるため、サブスクで一定の金額で遊べるApple Arcadeであれば、純粋にゲームのおもしろさで勝負ができるんじゃないかと考えたという。さらに、最初に『TIME LOCKER』を開発してから5、6年が経過しており、もっと新しい要素を追加して欲しいなどの根強いユーザーの要望もあり、もう一度自分の作りたい『TIME LOCKER』と向き合う良い機会なのではないかと思い、Apple Arcadeで開発したそうだ。
ちなみに、オリジナル版の『TIME LOCKER』は、Free To Playゲームながら広告が一切表示されておらず、任意で広告を見るとゲーム内コインがもらえる程度にしか広告は使っていなかった。また、課金アイテムもほとんどおまけみたいな要素だった。そのため、Apple Arcadeに『TIME LOCKER+』を出しても、あまりインパクトがないんじゃないかと思っていたとのこと。
開発期間もそれほどなく、新しい要素をたくさん追加する余裕もなかったため、Sotaro Otsuka氏は全体的な難易度の曲線を変えることをメインに開発をしたという。そうしたことで、ゲームプレイの歯ごたえがオリジナル版と変わり、結果として新旧どちらのユーザーにも満足してもらえるできになって、5段階の最高評価を多く得るよう人気を得る結果に繋がった。
よくあるシューティングゲームは画面がどんどん移動し、敵が次々と出てきて息つく暇もない。さらに操作方法はバーチャルゲームパッドや物理ゲームパッドのアナログスティックで自機を移動し、ボタンで攻撃というのが一般的だ。
しかし、『TIME LOCKER+』は指を動かした時のみ自機や敵が移動する。また、指の動きの速さによって、動きも遅くなったり速くなったりするという、今までにない操作方法が特徴となっている。
Sotaro Otsuka氏は、iPhoneやiPadの入力感知はとても精密で、すぐに指の動きに反応することも、『TIME LOCKER+』の操作方法とも高いレベルで噛み合った、と語った。
『TIME LOCKER+』はスマホ自体を指で直感的に操作するような感覚でプレイでき、極端に言えば子供がエア緩衝材のプチプチロールを潰して遊ぶような、感覚的に気持ち良さにルールが付いて、ゲームとして整理したように考えている。『TIME LOCKER+』は、単なる移植ではなく、進化した別バージョンだと強調した。
© 2023 Sotaro Otsuka
Apple Arcadeだとユーザーが たくさん遊んでくれていると感じられた
『PPKP+』は、モンスターに襲撃された街が舞台となり、ドット絵のキャラクターを操作してモンスターを倒し、街を復興していくというゲーム。操作方法はシンプルで、黄色と青色の2つのボタンがあり、黄色でキック、青色でパンチで敵を攻撃する。
敵が攻撃する際は、黄色と青色どちらかの色で目が光るので、対応する色のボタンを押すと防御、ギリギリで対応する色のボタンを押すとカウンター攻撃を行なう。相手の攻撃の種類によって、カウンター技も変化するという。
Shimada Toshihiro氏は、自身でSNSを使って発信することがほとんどなかったのだが、Apple Arcadeでゲームを配信したところ、ユーザーがたくさんダウンロードして遊んでくれているのが、強く感じられたという。
また、元々配信していたオリジナルの『PPKP』では、キャラクターが倒された後、2回に1回は全画面に広告が表示されるなど広告の圧が凄かったという。しかしながら、Apple Arcadeでの配信したことで、広告を出さずにも収益が得られるようになったことも利点と感じているようだ。
『PPKP』から『PPKP+』になって変わったことは、敵の目の光り方を変えて視認性を調整したり、敵が倒された際の爆発のエフェクトに緩急をつけて、より気持ちの良い演出にしたとのこと。
© Toshihiro Shimada 2023 All rights reserved.
Apple Arcadeなら 売り切りゲームのようにゲームを楽しんでもらえる
『ソリティ馬 Ride On!』は、「ポケットモンスター」シリーズの開発で知られるゲームフリークが、かつてNintendo 3DSのダウンロード用ゲームとしてリリースした『ソリティ馬』をベースとしたゲーム。
1982年頃、ゲームフリークはまだ株式会社ではなく、現代表取締役社長の田尻智氏が作った同人誌の名前だった。まだ、ゲームがメディアにも認識されず、専門メディアもない時代に、当時のゲーム好きがだんだんと集まって後にサークルになったという。
その後、ゲームフリークはゲーム好きとしてゲームを作ってみたいという素朴な想いから『クインティ』を開発。会社でもないのでゲームを自主開発するのは、当時としては珍しいことだったが、販売ができなかったため、その時のナムコ(現バンダイナムコ)に販売してもらい、そのロイヤリティーを元に株式会社化した。
ゲームフリークは、1996年には『ポケットモンスター 赤・緑』を田尻氏が企画、開発して世界中で大ヒットした。田谷氏はそうした中、プログラミングを勉強していく上で、仕事にしてしまえば有効だろうと考え、ゲームフリークの募集を見て入社に至ったという。
ゲームフリークはしばらくポケットモンスターの開発に注力していたが、2010年代頃からポケットモンスター以外のオリジナルタイトルも継続的にリリースしていくという会社方針に変わり、田谷氏は『ソリティ馬』の開発にも携わったという。
『ソリティ馬』は、一緒に作った会社の同僚からソリティアを教えてもらったことを契機に、たまたまその同僚と自分が競馬好きだったとのことでスタート。また、画面をタップするだけでカードがポンポン気持ちよく取り除ける心地よさと、シンプルながら奥深く、攻略のしがいがあるゲーム性が気に入り、ソリティアと競馬が組み合わさって生まれたという。
Nintendo 3DSでリリースした『ソリティ馬』は、日本ゲーム大賞の特別賞をもらうほどヒットしたが、その勢いのまま作って2014年にリリースしたスマホアプリ版は、1年でサービスが終了する。思うように売り上げが上がらなかった理由は、Free To Playのノウハウが足らなかったこと。ゲーム構造自体をしっかりとFree To Play用に作り替える必要があったと思っているとのことだが、ゲームの遊び部分はスマホ版のユーザーも満足してもらっていた。
その後、アップルがサブスクを始めると話題になっていた。このサブスクの形態だったら、Free To Playようにゲームを作り替えなくても、コンシューマーの売り切りと近い形で楽しんでもらえるのではないかと考え、Apple Arcade用での開発を決めたようだ。
『ソリティ馬 Ride On!』は、Apple Arcadeで間もなくリリースすると、2週間くらい前に広報したところ、Twitterのトレンド入りを果たす。その後Apple Arcadeのランキングで1位も獲得する。
それは、アップルの発信力やApple Arcadeにリリースされるという話題性の結果だと思うが、長いこと待っていたユーザーがいたことに胸を熱くしたと、田谷氏は語った。
『ソリティ馬 Ride On!』では、サブスクで長く遊んでもらえるように、バランスの改善や不具合の解消をするなど工夫をしている。さらに、新しい「おウマさん」を追加して、新たなチャレンジクエストみたいなものをクリアすると、そのウマが得られるというようなアップデートも実施していて、今後もしばらく継続する予定とのこと。さらに、3DSにはなかった新たな遊び方も追加するよう考えているようなので、ユーザーの方には期待して待っていて欲しい、と語った。
ちなみに、『ソリティ馬 Ride On!』のダウンロード数は、リリースから半年を待たずして、3DS版のダウンロード数を超えたという。3DS版ではしばらく言語が日本語だけで、その後英語のみ対応していたが、『ソリティ馬 Ride On!』は、最初から日本語、英語だけでなくヨーロッパの主要言語に対応。さらにアップデートで10言語以上に対応している。
そうした条件の違いから、プラットフォームとして単純に比較はできないとしたうえで、田谷氏は世界中の多くの人にゲームを楽しんでもらえていることが、単純に嬉しくApple Arcade向けにゲームをリリースすることに挑戦して良かったと思っているそうだ。
© GAME FREAK inc.
Apple Arcadeはシンプルで奥深いゲームも たくさん揃っているサブスクとして今後も注目だ!
Apple Arcadeでは、今回紹介した作品のようにシンプルながら奥深い、思わずハマってしまうゲームが多数収録されている。いわゆるゲーム好きがプレイしてもおもしろいと、継続して遊んでしまうものから、普段ゲームはプレイしておらず苦手意識がある人でも、楽しく遊べるゲームが多く揃っている印象だ。
サブスクと聞くと、どこかにあるゲームを月額で遊べるだけ、と思われがちだが、今回開発者が語ったように広告を出さずに純粋にゲームを楽しんでもらおうと、本気で作られたオリジナルのゲームが遊べる、開発者にもユーザーにもメリットがあるプラットフォームになっていたことがわかった。
Apple ArcadeはiPhone、iPad、iPod touch、Mac、または Apple TVがあればゲームがプレイできる。iCloudとGame Centerを使って、ゲームの進行やセーブデータ、友達とのプレイ状況を、Apple IDで同期できるので、複数端末で楽しめる。気になった人は、無料体験もできるので一度リリースされているゲームをプレイして遊んでみてはいかがだろうか。
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