いま世界で最も注目を浴びる27歳の指揮者、クラウス・マケラの『春の祭典』ほか~麻倉怜士推薦音源
ASCII.jp / 2023年5月24日 18時0分
評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめ度に応じて「特薦」「推薦」のマークもつけています。優秀録音をまとめていますので、e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!
この連載で紹介した曲がラジオで聴けます!
高音質衛星デジタル音楽放送、ミュージックバード(124チャンネル「The Audio」)にて、「麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負」が放送中。毎週、日曜日の午前11時からの2時間番組だ。第一日曜日が初回で、残りの日曜日に再放送を行うというシークエンスで、毎月放送する。
『ストラヴィンスキー:バレエ《春の祭典》《火の鳥》』 パリ管弦楽団, クラウス・マケラ
いま、世界で最も注目を浴びる若手指揮者、クラウス・マケラは1996年フィンランド生まれの27歳。12歳からシベリウス・アカデミーにてチェロと指揮を学び、若くしてスウェーデン放送交響楽団の首席客指揮者に就任。2020年、24歳の若さでノルウェーのオスロ・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者に就任、翌2021年のシーズンからは、名門パリ管弦楽団の音楽監督にも就任。2027年からはロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の首席指揮者に就任が予定されている。まさに世界を席巻する若手だ。
本欄では、2022年4月にオスロ・フィルを振ったシベリウス全集を採り上げた。そこで私は、「交響曲第2番第1楽章冒頭のニ長調和音の上行旋律から、新鮮でヴィヴットなシベリウスが聴けた。弦の歌わせ方、低減のピッチカートの歯切れ感、トゥッティのクリヤーで伸びやかな響き……この指揮者はただものではない」と書いた。
ストラヴィンスキーの「春の祭典」は冒頭から、パリ管弦楽団の木管が実にチャーミング。フルート、オーボエ、クラリネットなどの木管の合奏が緻密でカラフル。全弦の強奏も剛性が強く、コントラストが強烈だ。マケラが繰り出すリズムは俊敏で小気味良い。録音はたいへん優秀。ディテールまで見事に解像し、トゥッティの迫力も大スケール。特にグランカッサの大地を揺るがす轟きは凄い。第二部「生贄の儀式」の切れ味と量感、色彩感はさすがのパリ管だ。「生け贄の踊り」の大地を切り裂くような金管の尖鋭な咆吼は、まさに新時代の指揮者登場の雄叫びだ。2022年10月5−7日、フィルハーモニ・ド・パリで録音。
FLAC:96kHz/24bit Decca Music Group Ltd.、e-onkyo music
『Kurena』 石川紅奈
ジャズの未来の大器のデビューアルバム。ベースとヴォーカルだけでなく、作編曲もこなす石川紅奈だ。高校1年生の夏にウッドベースを始め、在学中にピアニストの小曽根真に見いだされ、小曽根が教鞭を執る国立音楽大学ジャズ専修に入学。卒業後は東京を中心に活動中。今回のデビュー・ミニ・アルバムでは、オリジナル曲とカヴァー曲を3曲ずつ収録している。
第1曲のオリジナルの「1.Sea Wasp」の冒頭から続くベース・フューチャーは、スケール感と俊敏さで、新時代のオーディオチェックに使えそう。ヴォーカルにはリバーブが与えられているが、ドラムス、ギター、ピアノはナチュラルで素直な音調だ。ドラムスが奥行きを持って、左右に拡がり、センターのギターが朗々たる調べを奏す。次ぎにフューチャーされた大林武司のピアノも鮮明で、まさに音場を睥睨する。新人のベースとヴォーカルを精鋭が支えるという構図だ。 「2.500 Miles High」は石川のクリヤーで伸びの良いヴォーカルから入る。小曽根のバックのピアノも主役感があり、さすがの貫禄。録音はたいへん明瞭で、切れもシャープだ。ヴォーカルを含め、すべての楽器の音が実に明瞭だ。NK SOUND TOKYOで録音。
FLAC:96kHz/24bit Universal Music LLC、e-onkyo music
『Schumann & Brahms』 Benjamin Grosvenor
シューマン夫妻とブラームスの関係性をテーマに据えた、ベンジャミン・グローヴナーのニュー・アルバム。彼はイギリス生まれの天才ピアニスト。2004年に史上最年少11歳で、BBCヤング・ミュージシャン・オブ・ザ・イヤーのピアノ部門で優勝。2011年、BBCプロムス・オープニング・コンサートに史上最年少で出演。イギリスのピアニストとしてクリフォード・カーゾン以来、60年ぶりにデッカと専属契約を結んだ。
ロマン派の真っ只中で活動したロベルトとクララのシューマン夫妻と、その薫陶を受けたブラームスの作品集。シューマンの8曲からなるピアノ曲集「クライスレリアーナ」、クララの「ロベルト・シューマンの主題による変奏曲」、そしてブラームス「3つの間奏曲」--だ。
馥郁たるロマンの香りがむんむんするアルバムだ。「クライスレリアーナ」第1曲「1.激しく躍動して/ニ短調」の闊達さ、第2曲「2.たいへん心をこめて速すぎずに/変ロ長調」の夢見心地、第3曲「3.激しく駆り立てるように〜いくぶんゆっくりと/ト短調」のコケティッシュさ、 第8曲「8.速くそして遊び心をもって/ト短調」の思いの籠もった躍動……。クララの「ロベルト・シューマンの主題による変奏曲」は「17. Theme」の哀愁の思いを込めたを帯びた旋律線と和声、「24.Var. VII」の濃厚なロマンの香りが魅力。録音も響きと直接音のバランスが好適で明晰な質感だ。2022年4月21−24日、サフォークのポットン・ホールで録音。
FLAC:192kHz/24bit Decca Music Group Ltd.、e-onkyo music
『Go West!: The Contemporary Records Albums』 Sonny Rollins
1957年に録音されたソニー・ロリンズの不朽の名作「Way out West」を中心にしたアルバム。オリジナル録音はコンテンポラリー・レコードのエンジニア、ロイ・デュナン。今回のオリジナル・テープからリマスターはそのデュナンの弟子の、有名なバーニー・グラントマンが担当している。
「I’m An Old Cowhand」を旧マスタリングと、今回の新マスタリングで比較した。旧マスタリングは、「鋭さ」を表に出していたが、新マスタリングはそれを強調するのでなく、全体のバランスを考え、アンサンブルとしてのまとまりを重視する方針と聴いた。新マスタリングは、まるで昨日録音したような、新鮮さ。ひとつひとつの楽器がシャープで、輪郭のクリヤーさと音調の鮮明さは現在でも十分に通用する。サックスの鋭さは、メタリックと称してもよいほどの勢いだ。音場的にはセンターがなく、ドラムスとパーカッション、ベースが右、ソニー・ロリンズが左と、ピンポン的に分かれている。
FLAC:192kHz/24bit Craft Recordings、e-onkyo music
『安井耕一ピアノトリオコンサート』 安井耕一(ピアノ), 高辻瑶子(ヴァイオリン), 安井総太郎(チェロ)
ベテランピアニストの安井耕一を中心にしたピアノトリオ演奏。安井耕一はドイツ伝統のピアニズムの名手。リューベック国立音楽大学にてコンラート・ハンゼン氏(エドヴィン・フィッシャーの高弟)のもとで研鑽を積む。帰国後は札幌、東京などでリサイタルを重ね、室内楽、歌曲伴奏などの活動を続けている。本アルバムは安井耕一(ピアノ), その子息の 安井総太郎(チェロ)、高辻瑶子(ヴァイオリン)のトリオにてハイドン、ベートーヴェン、シューベルトの ピアノ三重奏曲が演奏される。たいへん美しい響きだ。札幌ふきのとうホールの豊かなソノリティの中に、ピアノ、ヴァイオリン、チェロの闊達な調べが聴ける。明らかにスタジオ録音でなく、ホールの響きを味方に付けたライブ的な音調だ。特にピアノの音に、美しいアンビエントが加わり、美音がさらに美しくなった。左にヴァイオリン、奥まったセンターにピアノ、右にチェロという配置がたいへん明瞭だ。2021年10月21日の札幌ふきのとうホール録音。
FLAC:96kHz/24bit sonorite、e-onkyo music
『The Songs Of Bacharach & Costello[Super Deluxe]』 Elvis Costello, Burt Bacharach
1998年にリリースされたエルヴィス・コステロと バート・バカラックの共作アルバム『ペインテッド・フロム・メモリー』の2023年リマスターを中心にしたアルバム。45曲も収録されている。この2月に逝去されたバート・バカラックの名曲がたっぷり聴ける。ちょうどWOWOWで「バート・バカラック ライブ・イン・ロンドン 2015」が放送され、バート・バカラックがインタビューに答え、作曲の秘密がたくさん語られ、実に興味深かった。
タイトルチューンのPainted From Memory」は9トラック目がエルヴィス・コステロ、14トラック目がカサンドラ・ウィルソンとの協演だ。9トラックでは冒頭の右チャンネルのバカラックのピアノが印象的。センターのコステロのヴォーカルは大きな音像で、感情を込めた哀愁の調べがいい。途中でストリングスが加わり、豪勢な響きになる。14トラックのカサンドラ・ウィルソンとの協演は、9とは違うバランス。ヴォーカルの明瞭度・解像感が高い。ギターが伴奏の中心で、9のゴージャス版とは異なるシンプルなアレンジ。「39.Baby It's You」はビートルズで有名になった楽曲。Nick Loweとのデュエットで、ヴォーカル、ギター、ベース、パーカッションと音数は多いが、楽器音は明瞭で、F特はフラットというより、中域を重視した、昔風のイコライジングだ。
FLAC:96kHz/24bit UMe/Elvis Costello、e-onkyo music
『Lalo, Casals: Cello Concertos』 Jan Vogler, Moritzburg Festival Orchester, Josep Caballe-Domenech
ドイツを代表する円熟のチェリスト、ヤン・フォーグラーによるパブロ・カザルス没50年に寄せるアルバム。 カザルスが頻繁に演奏した生誕200年のラロと、パブロ・カザルスの弟であるエンリク・カザルスのチェロ協奏曲。オーケストラは、フォーグラーがドレスデン近郊モーリッツブルクで主宰する室内楽音楽祭の管弦楽団。世界初録音のエンリク・カザルスのチェロ協奏曲は、ロマン派的な響きと、古典派の重厚さにスペインの情熱をミックスしたような作品。オーケストラはチェロを伴奏するだけの存在ではなく、対等に渡り合い、両者の協奏と競争が、生き生きとした楽想を聴かせる。朗々としたチェロの旋律に加わる強奏のトゥッティのスタッカートがかっこいい。ラロのチェロ協奏曲のスペイン情緒も濃い。音質も生き生きとしたもので、低音部が安定したピラミッド型バランスに、カラフルでブリリアントな音色が乗る。ジュゼップ・カバリェ・ドメネク指揮、モーリッツブルク音楽祭管弦楽団。2022年10月10-13日、ドレスデンの聖ルカ教会で録音。
FLAC:96kHz/24bit Sony Classical/Sony Music、e-onkyo music
『I Can Only Be Me (Orchestral)』 Eva Cassidy, London Symphony Orchestra & Christopher Willis
1996年に33歳という若さで逝去した、アメリカの歌手、エヴァ・キャシディ。生前はワシントンD.C.を中心に、ジャズ、ブルース、フォーク、ポップスという幅広いジャンルの楽曲を歌っていた。2000年、彼女の「Over the Rainbow」がBBCラジオで放送され、大きな反響を呼ぶ。生前発表していた音源などをコンパイルしたアルバム『SONGBIRD』は全英アルバム・チャートNo. 1を記録。本アルバムは既発音源から、ボーカル・パートを分離させ、ロンドン交響楽団がそれに合わせて伴奏を付けたものだ。
エヴァ・キャシディという歌手は初耳だが、このアルバムを聴くと豊かでクリヤーな声質と、多彩な表現力を持つ歌手であったことが分かる。音源分離した歌の部分もリマスターによって美化されているが、ロンドン交響楽団の伴奏も美しい。「2.Autumn Leaves」は、しっとりしたスローバラードとして歌われる。表現力の豊かさはバーブラ・ストライザンドをリマインドさせた。ロンドン交響楽団の響きは厚いが、あくまでもヴォーカルを立たせるアレンジだ。
FLAC:48kHz/24bit Blix Street、e-onkyo music
『The American Project』 Yuja Wang, Louisville Orchestra, Teddy Abrams
ユジャ・ワンが、ユジャ・ワンのために作曲された現代アメリカの作曲家テディ・エイブラムス(1987年〜)のピアノ協奏曲を演奏。エイブラムスが指揮するルイヴィル管弦楽団との協演だ。
ゴスペルからラテン・アメリカ音楽まで、すべての様式を含み、ユジャ・ワンの美技を楽しむカデンツァもたくさん用意。「2.Abrams: Piano Concerto - I. Overture. Swing」は、現代のチャタヌガ・チュー・チューだ。「3.II. Cadenza I」ドラムスと金管の躍動の上に、スウィングするユジャワンのピアノが加わる。「5.IV. Orchestra Break」もスウィングで、強烈に前進する。躍動の中でのピアノとオーケストラの"戦い"も聴きどころ。「7.VI. Cadenza II」はソロパート。希代のテクニシャンのテクニックと強烈なアタックを堪能するトラックだ。ユジャワンのための見せ場のCadenzaはあとふたつ。最後の「12. XI. Cadenza IV & Coda」は、強烈なソロが豪勢なスウィングフィナーレへと流れ込む。まさに現代アメリカ音楽の饗宴だ。2022年1月、ケンタッキー州、ルイヴィルのThe Kentucky Centerで録音。
FLAC:96kHz/24bit Deutsche Grammophon (DG)、e-onkyo music
『Life & Fire』 Omer Klein, Haggai Cohen-Milo, Amir Bresler
イスラエル出身でドイツを中心に活躍するジャズ・ピアニスト、OMER KLEIN (オメル・クライン) のトリオの最新作。様々な音楽と文化的要素が織りなす多面的なモザイクが、聴ける。「1The Ravens」は明らかに西洋音楽とはテイストが異なり、エスニックな色彩が濃い。ピアノの低減のオステナート的に常時進行する細かな音形とドラムスのリズムが同調し、その上に細かく刻む音形が重なり、それが、ピアノからベースへと伝播していく。後半ではピアノが闊達に進む。エスニックな新感覚の音進行の面白さ。
FLAC:48kHz/24bit WM Germany、e-onkyo music
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