中国は小学校からAI教育!? そこから育った人材がいずれは日本や世界と競争する
ASCII.jp / 2023年5月27日 12時0分
北京や杭州、深センなど、中国の一部都市の小中高校でAI教育が始まり、その話題がしばしば報じられるようになった。まずは今春以降にあった授業の様子を紹介しよう。
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バイドゥ版のテキスト生成AIや画像認識AIを子供たちが試す
北京の中国人民大学付属小学の講堂で実施された、AIについての授業はこんな感じだ。若い教師がChatGPTの百度(バイドゥ)版のようなテキスト生成サービス「文心一言」を大きなスクリーンに見せて実演してみせた。
また画像認識の仕組みとして、果物の画像がある中でリンゴをリンゴと認識させるには形状や色などの特性を繰り返し教え込む必要があるといった話など、各種AIの紹介や動きについて説明するというものだった。ChatGPTは中国では公式には使えないが、文心一言やアリババの「通義千問」など、中国製テキスト生成AIがリリースされたことで教育現場でも紹介できるようになった。
学校名からもわかるように、中国人民大学付属小学は試験的な取り組みができる選ばれた学校であり、北京の学校すべてでこうした内容が教えているわけではない。しかし北京市内でAI授業をするための教師向け講習会や、同大学付属学校とテンセントやアイフライテックなどの中国AI大手との情報交換会があるなど、AI教育のノウハウの共有と改善は少しずつ進められている。
音声認識とIoTを組み合わせたキットでその利便性を体験する
つづいて、浙江省・杭州はアリババの企業城下町だ。また、杭州市は中国のゼロコロナ体制時に活躍したQRコードサービス「健康コード」を開発し導入した、IT導入に積極的な自治体である。AI教育についても自治体をあげて導入を決めて、AIに関するテキストも作っている。
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杭州銭江外国語実験学校の6年生向けの例を見よう。あらかじめ用意されたキットを使って、モデルルームにあるような部屋の中がわかる模型の家を組み立てる。家には扇風機をイメージしたファンがあり音声認識で起動する。これで音声認識とIoTをセットで学んでいき、スマートホームを理解しつつ人工知能技術がもたらす利便性を体験するというものだ。
ほかにも顔認証や自然言語処理、翻訳、ChatGPTのようなテキスト生成AIがどういったものでどういう原理で動くかを知り、情報社会における責任やセキュリティーの意識を高めていく。実験学校だけに先進的な教育を試す学校なのだろう。
内陸部の都市ではAmazonのAWSがAI教育をサポート
内陸の寧夏回族自治区・銀川は、さまざまなスマートプロジェクトを実施している都市で、AI教育では中国でありながらAmazonのAWSがサポートしている。銀川市第三十一中学校に作られた人工知能体験センターという広々とした教室では、生徒たちがAIを搭載した小さな無人車両を組み立て、コースの無人走行の実現を目指すという授業が実施されている。銀川もまた「学生たちにAIの発展とAIの応用について理解させ、一連の体験と学習活動を通じて子供たちのコアリテラシーの向上を促進し、子供たちが将来のテクノロジーの発展によりよく適応できるようにする」ことを当面の目標に掲げている。
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北京、杭州、銀川と地域とケースを異なる地域を紹介したが、他にも中国の省都クラスの都市の学校で取り組みが見られる。AIについてはまだごく一部の学校で始まった程度だが、農村の学校にまでパソコン室をはじめとして多様な情報機器が入り、コロナ禍ではそれらを活用したように、AI教育も時間をかけて中国中の学校で導入されることになろう。
全員が開発者になることを目指しているわけではないが、 子供時代からAIに慣れ親しんだAIネイティブ世代が出てくるはず
中国はAIに力を入れていて、2020年には世界の先端AIトレンドと同期し、2030年には中国のAIに関する基礎・技術・応用について世界をリードすることを目指す「新世代人工知能発展計画」を2017年時点で発表している。そうした中で、文部省にあたる教育部が発表した「義務教育情報化学習指導要領(2022年度版)」では、情報についての教科の中で、中学1年~3年の間にインターネットやIoTとセットで学ぶことが記されている。
AIについては、「普段AIがどう使われているか。どんなデータをAIは取得して判断しているのか」といった内容が取り上げられており、さらにインターネットやIoTと組み合わせたソリューションを学ぶ。中学生で学ぶと学習要領では書かれているが、学生にヒアリングすると「テストに出ない教養として軽く触れる程度」と聞き、逆に調べていると小学校から始める事例も見つかる。まだまだ手探りのようだ。
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中国全土でAI教育キットのニーズが相当あるのなら、AI教育キットが作られているに違いない。そう考えて調べてみると、IoT組み立て体験キットや風速や気圧センサーを備えた小型気象観測キット、顔を認識して登録された人であればドアが開き家電が起動するサンドボックスのスマートホームシミュレーターソフトなど、学校向けAIキットが売られていた。今後も無数の学校教育向けのAI・IoT教育キットが発売され、さらに値段は下がっていくだろう。注目の商品ジャンルとなりそうだ。
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中国の学校では、取り組みに違いこそあれ、AI時代に備え、いずれも音声画像認証やChatGPTのようなテキスト生成AIなどに触れて、AIがざっくりとだが何をどう判断しているのかを義務教育内で学ぶようになる。
開発者になるための勉強ではなく、AIが「なんだかわからないけどすごいもの」ということではなく、「どんなものなのか認識する」ための勉強だ。それはパソコンと手書きの勉強の違いを感じるように、AIと現実とのギャップを確認するとともにAIの長所短所を知ることで、将来大人になったときの生活の基礎知識となる。中国でもう10数年もすれば学校でAIを学んだ、AIネイティブの社会人が誕生し、やがて彼らの一部は開発者となり日本や世界と競争することになるだろう。
山谷剛史(やまやたけし)
![著者近影 著者近影](https://ascii.jp/img/2017/07/13/1089493/x/7ed9c949a878cb81.jpg)
フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で、一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。書籍では「中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立」、「中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか? 中国式災害対策技術読本」(星海社新書)、「中国S級B級論 発展途上と最先端が混在する国」(さくら舎)などを執筆。最新著作は「移民時代の異国飯」(星海社新書、Amazon.co.jpへのリンク)
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