握手の裏で殴り合うKDDIと楽天モバイル
ASCII.jp / 2023年5月31日 7時0分
KDDIのサブブランドであるUQモバイルは、6月1日から新料金プラン「コミコミプラン」「トクトクプラン」「ミニミニプラン」をスタートさせる。このなかでメインの料金プランとなるのが「コミコミプラン」だ。
UQモバイルが「ahamo」対抗
これまでUQモバイルはS・M・Lという通信量別の料金プラン設計になっていたが、コミコミプランでは「データ容量20GB」「2980円(税込み3278円)」「1回10分以内の国内通話料無料」をアピールする。
データ容量20GBをわかりやすく訴求するのは、コミコミプランがNTTドコモ「ahamo」対抗に位置づけられているからだ。
これまでUQモバイルはどちらかといえば、ソフトバンクのサブブランドである「ワイモバイル」を意識した料金プラン設計になっていた。S・M・Lというメニューもワイモバイルがやっていたから、というのが大きな理由だった。
UQモバイルとワイモバイルは、どちらもメインブランドのキャリアショップでも契約できるのが特徴とも言える。「auやソフトバンクから格安スマホに乗り換えたいけど、ネットで契約は不安。ショップで店員さんに話を聞きながら契約したい」というニーズを同じ店舗内で満たし、「他社に逃げられるくらいなら、うちのサブブランドで囲い込む」という役割を担ってきた。
一度、サブブランドにデビューした人は、安価な通信料金プランで満足しつつ、5Gスマホに切り替え、データ容量を大量に使うようになったら、また「auやソフトバンクの使い放題プランに戻ってきてね」という戦略になっている。
UQモバイルの「コミコミプラン」とahamo、データ容量は20GBで同じだが、通話定額がコミコミプランは1回10分までだが、ahamoは1回5分までとなっている。KDDIでは「通話の9割は10分以内で終わる」としており、音声通話のかけ放題を意識しているユーザーを取り込みたい考えだ。
楽天モバイル「最強プラン」も比較対象に
実はメディア向けの説明資料では、コミコミプランとahamo、さらに同じく6月1日からスタートする楽天モバイル「最強プラン」が比較されていた。
KDDIとしては、ahamoだけでなく、自社のネットワークにローミングし、人口カバー率99.9%を訴求。「最強プラン」としてアピールする楽天モバイルも無視できなかったようだ。
UQモバイルの新料金プランに関しては、メディア向け説明会がオンラインで開催されたのだが、開始前、楽天モバイルへのローミングについて、改めて説明があった。
世間では、楽天モバイルの最強プランは、KDDIと同じネットワーク品質にも関わらず、データ使い放題が3278円で使えるというイメージが先行している。
しかし、「楽天モバイルの人口カバー率99.9%=KDDIと同じネットワーク品質」ではないとKDDIは強調する。
実際のところ、楽天モバイルに提供されるローミングは、KDDIが持つ800MHz帯しか貸し出されない。一方で、KDDIがau、UQモバイル、povoユーザーに提供しているネットワークは700MHz、800MHz、1.5GHz、1.7GHz、2GHz、2.5GHz、3.5GHzのいずれかのネットワークを束ねて通信を行う「キャリアアグリゲーション」でサービス提供されている。
つまり、au、UQモバイル、povoは周波数帯を複数、同時に使うことで超高速な通信を実現しているというわけだ。
楽天では「激遅」、povoでは「サクサク」
筆者も楽天モバイルのKDDIローミングエリアで通信をしたら「激遅」だったが、povoに切り替えた途端に「サクサク」という経験をしている。
結局のところ、楽天モバイルのネットワークは「面的」には人口カバー率99.9%でカバーされるが、ネットワークの「深さ」という点においてはKDDIと大きな違いがあるというわけだ。
新たにKDDIと楽天モバイルで締結されたローミング契約では「東京23区、名古屋市・大阪市の一部繁華街エリア」が追加になっている。
これを受けて、ネットでは「楽天モバイルがローミングエリアで使い放題サービスを提供すると、auユーザーに悪影響が出るのではないか」と心配の声が上がっている。
しかし、KDDIパーソナル事業本部の松田浩路副事業本部長兼事業創造本部長によれば「au、UQモバイル、povoのユーザーへの通信品質にはまったく影響がない」と語る。
繁華街でのローミングエリアはスポット的な展開となるため、ネットワーク全体に占めるローミング提供でのデータトラフィックは、ごく一部に過ぎないようだ。
握手の裏で殴り合っている
KDDIとしては、想定以上に「auと同じネットワーク品質なら楽天モバイルに切り替えようかな」という声が多かったため、かなり慌てて、火消しに回った感がある。
実はKDDIと楽天モバイルが新たにローミング契約を結び直すと発表したのが5月11日、KDDIの決算会見が同じ日に行われ、楽天モバイルの最強プラン発表が、翌日となる5月12日の午前中だった。
楽天モバイルが「最強」と言い出したのに、KDDIが反論する場がなく、ようやく5月22日になって、正式にコメントできたという流れであった。
今回の新ローミング契約で楽天モバイルは当面の設備投資を抑えられ、KDDIはもうしばらく楽天モバイルからローミング収入が期待できる。
お互いWIN-WINの契約をまとめて握手する一方、ユーザーの囲い込みや獲得合戦においては、もう片方の腕でバチバチと殴り合っているのだ。
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