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スマホから撤退したバルミューダの今後

ASCII.jp / 2023年5月30日 17時0分

5月12日のオンライン会見より

 バルミューダは5月12日、決算会見で携帯端末事業の撤退を発表しました。ただしBALMUDA Technologies事業は継続し、家電向けアプリなど「インターネットテクノロジー関連」の研究開発を進めるそうです。一代限りで撤退となったのは残念ですが、スパッと事業を見切る決断には感心させられました。携帯事業に関わっていた元アスキーのACCNこと矢崎さんはマーケティング部に移り、プレスリリースなどを書かれているそうです。今後はリスキーなリリースに期待できそうですね。

マーケティング担当になった矢崎さん。リスキーなリリースを書いてくれるはず

 そんなわけで世間的にはスマホ撤退が耳目を集めましたが、トースター発売時からバルミューダを取材してきた身として最近気になっているのは屋台骨である家電事業の今後です。

 物価高や円安の影響をモロに受けて、主に国内向けに家電を作るバルミューダの利益水準はボロボロです。最初こそブルーオーシャンだった高級扇風機や高級トースターは、今や競合ひしめく、競争の激しいレッドオーシャンとなりました。売上の柱とすべく挑んだ掃除機は期待ほど売れていません。コーヒーメーカー「BALMUDA The Brew」は当たりましたが、寺尾社長がキッチン家電のロードマップに示していた製品が出尽くしてしまった今、次の目玉が何なのかがわからない状況でした。

BALMUDA The Brew発表時の寺尾社長

 さらに個人的には、だんだんとバルミューダの価値というもの自体がわからなくなってきてもいました。戦略上は富裕層に準ずるハイブロー層をターゲットに据えていますが、なぜハイブローな人々がダイソンやデロンギではなくバルミューダを選ぶことになるのかという理屈がうまく納得できていませんでした。シロカやアラジンなど後続企業もメキメキと頭角を現してくる中、先行しているバルミューダには一体どんな価値が残っているのだろうということが疑問になってきていたんですね。

オーブンレンジ「おいしくなって新登場」

 そんな中、バルミューダが5月29日に発表したのが新型オーブンレンジ「BALMUDA The Range」でした。2017年発売の製品から基本機能とデザイン、付属品などを見直したマイナーチェンジモデル。いわゆる「おいしくなって新登場」というやつです。

BALMUDA The Range(新型)

 バルミューダのオーブンレンジは機能的にはごくシンプル。扉のライトがきれいに光ったり、操作時にギターの音色が鳴ったりというギミックで楽しさを演出します。

 新型は、「レンジであたためたときにムラがある(冷たいままのことがある)」とか「庫内を拭いているときにガラス管ヒーターを割ってしまう」といった旧製品の基本的な欠点を補い、改善したというところがまず一点。

 レンジは庫内の構造や回転アンテナの調整といった地道な見直しにより、加熱ムラを抑制しています。センサーを追加することも検討しましたが、種類により一長一短があることや、売価が上がりかねないこと、調理操作が複雑になりかねないことなどを理由に採用を見送りました。

 オーブンは庫内に裸のまま付けていたガラス管ヒーターを本体に内蔵。お手入れをするとき手にぶつからなくなりました。ヒーターの数は2本になり、オーブン使用時の最大出力は1130W→1370Wへと上昇。諸々の改善によって焼きムラもおさえられ、均一に焼き色がつくようになっています。

旧モデル。ガラス管ヒーターが裸のままついていた
新モデル。ヒーターが内蔵されてお手入れしやすくなった
旧製品(左)に比べて新製品(右)は焼きムラがおさえられている

 他にも庫内容量を18L→20Lへと増やしたり、設置時に左右どちらにも隙間を設けなくてもいいようにするなど、細かい点を改善しています(以前は本体左側に通気孔があり、壁にくっつけたりトースターを横に置いたりできなかった)。

旧モデル。本体左側に通気孔があった
新モデル。通気孔が省かれた
左が新モデル。黒いパーツが通気孔

 デザインはハンドルと窓枠、そしてダイヤルのイメージを変えました。以前はレストランをイメージしたきれいな外観でしたが、新型は「モダンクラシック」をテーマとして、より輝き感がある金属表現を採用。どちらかというとレストランの厨房に置いてありそうなイメージに変更しています。カラーは4色で、ステンレスがシンボルカラーです。

旧モデル。レストランをイメージした清潔なデザインだった
新モデル。レストランの厨房にありそうなイメージになった
カラーは4色で、ステンレスがシンボルカラー

 基本的な欠点を補ったのはいいものの(本当は旧製品発売時点で補ってほしかったところですが)、その他はごく順当なアップデート。価格は5万2800円で、相変わらず安くありません。たとえば象印の「エブリノ」は見た目も価格も結構近く、向こうは時短メニューなど機能性も重視しています。あらためてバルミューダは何が魅力で、どんな人が選ぶことになるのでしょうか。

バルミューダが貫く「シンプル&デザイン」の価値

 発表会でバルミューダが強調していたのは「シンプルだから使いやすい。ストレスなく使える」ということでした。実際、購入者がバルミューダ製品でもっとも評価していたのは「シンプルな機能とデザイン性」だということです。

 特にオーブンレンジは単機能のレンジと違って「頑張って料理をしないといけないというプレッシャーがある」と言い、オーブン機能はごく基本的なオーブン調理や発酵などに絞った形で採用。簡単にオーブン料理ができるFALCON社製のベイクウエア(耐熱皿)やレシピブックをアクセサリーに用意することで調理の手助けとしています。

 そう考えると、多少お金をかけてでもバルミューダを選ぶのは、「操作が簡単でデザインがいいものがほしい人」ということになるのでしょう。

 振り返ってみれば、扇風機もトースターも、そして恐らくはスマートフォンも、バルミューダが手がけてきた製品はすべて「シンプルで、デザインがいい」ことを目指したものでした。特にトースター発売時は、昔ながらの機能一辺倒の家電と対照的だったことが思い出されます。

 たとえばトースターであれば、バルミューダ製品にとって「パンがおいしく焼ける」のは要素のひとつであり、あくまでも「シンプル&デザイン」こそが最大の価値。そう考えるとバルミューダの価値は、ブランドとして統一されたデザインなのではないかと考えさせられました。

 寺尾社長は会見などでよく「バルミューダはデザインの会社ではない」という主旨のことを言っていますが、機能性、操作感、意匠、価格付け、ブランドイメージなどのすべてが一定水準でデザインされていることがバルミューダの価値ということになるのではないかと思います。パフォーマンス単位での評価ができない雰囲気や空気のようなものに価値を見出し、製品企画として追求するというブランド企業としての判断こそが、いわゆるメーカーらしさのないバルミューダの価値であり、強みにつながっていくところなのかもしれないとあらためて感じさせられました。

 発表会では、秋ごろふたたびキッチン関連製品を発表するという予告もありました。新製品もやはり「シンプル&デザイン」を核としてくるのでしょう。スマホがなくなり、利益がカツカツになってきた今こそ本業で鮮やかな復活劇を見せてほしいとき。寺尾社長は今後「一般的な生活家電を飛び越えたジャンル」に挑戦するとも会見で話していたので、そのあたりに期待したいところです。

   

書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)

1983年生まれ。6歳児と2歳児の保護者です。Facebookでおたより募集中。

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