“eスポーツ×教育ってどうなの?”“ゲームへの依存って? ”が、わかる「eスポーツ国際教育サミット」
ASCII.jp / 2023年6月19日 11時0分
「ゲームしないで勉強しなさい!」私が幼少期に何度も親に言われてきた言葉だ。私が小さいころは、ゲームは勉強の妨げになるというのが、ある意味当たり前の認識だった。しかし、私はゲームが好きだったため、宿題を終わらせて少しだけ、休みの日はちょっと長めに、ときには親が寝静まったときにこっそり……といった向き合い方をしてきた。
そして大人になった現在、昔は考えられなかったプロゲーマーやストリーマーという職業が立派に成り立ち、ゲームを競技とするeスポーツが世界中で発達している。そんななか、eスポーツ・ゲーム・デジタルコンテンツを使用して、よりよい教育を目指す団体もあることをご存知だろうか。それがNASEF JAPAN(ナセフジャパン)だ。
NASEF JAPANは、北米教育eスポーツ連盟 日本本部(North America Scholastic Esports Federation JAPAN)の略で、本部はアメリカ合衆国カリフォルニア州を発祥とする特定非営利活動法人だ。eスポーツを学習や教育を促進するための効果的ツールとして活用し、高校生を中心にデジタル人材の育成に資することを主な目的としている。
そんなNASEF JAPANが毎年精力的に実施しているのが、『eスポーツ国際教育サミット』だ。2023年の3月31日には、第4回を、動画配信という形で実施している。
本サミットでは、NASEF JAPANが実施している取り組みを紹介しているほか、eスポーツ×教育、ゲーム×教育、後述するSTEAM教育についての有識者を招いての講演、NASEF JAPANが研究している分野の報告などを行なっている。
私も実際に視聴したが、先生だけではなく、今後の新しい教育についても紹介されているので、お子さんを持つ親御さんにもぜひ観てほしいと感じる内容だった。
では、NASEF JAPANがどういった想いで『eスポーツ国際教育サミット』を実施しているのか、NASEF JAPANの坪山 義明氏、岡田 勇樹氏にお話を伺ってきた。
eスポーツを教育に取り入れたい、でもどうしたらいいかわからないという教員にぜひ観てほしい
──本日はよろしくお願いします。まずはeスポーツ国際教育サミットについて、どういったことを目的として実施されているサミットなんでしょうか。
坪山氏:eスポーツ国際教育サミットは、主に教員・学校関係者様に対して、教育現場で実施しているeスポーツの活用事例や、ゲームやeスポーツが生徒にもたらす影響、学校や教育へのeスポーツの取り入れ方、eスポーツの可能性などについて、実例を踏まえながらご紹介するために始めたサミットです。
岡田氏:1回目はどちらかというと、NASEFがアメリカで実施している取り組みについてや、eスポーツを教育にどう取り入れているのかといった説明でしたが、回を重ねるうちに我々としても日本での取り組みが増えていき、そのなかでご協力いただいた方や、最先端の教育を実施されている方にお声がけして、今後日本でどのようにeスポーツと教育を掛け合わせていくかという、より具体的な内容になっています。
──今回、生放送ではなく動画にしたのはなぜですか?
岡田氏:第4回を公開した時期というのは、教員の方々はとても忙しい時期でした。加えて、そういった方々が土日を使ってご覧いただく際に、生配信だと全部を一気に観るというのはしんどいのではないかと考え、今回は動画という形にしました。
坪山氏:加えて、動画の形式でタイムラインを設定していますので、気になるコンテンツがある場合はそこをクリックしてご覧いただけます。こうすることで、我々も視聴いただいた方々がどういったことに、より興味があるのかというのもわかります。そういった意味でも、今回動画にしました。
──具体的に、どういった方に観てほしいですか?
坪山氏:まずは、学校教育でeスポーツを取り入れたい、我々の取り組みに興味をお持ちの学校関係者の方々に見ていただきたいです。eスポーツは、まだまだ学校関係では多くの方が取り組み始めたばかりであったり、取り入れたいけどどういった対応をしていいかわからないという部分が多々あると思います。そのような方々に、NASEF JAPANに加入している学校の取り組み方や経験談を、ご自身の学校に導入される際の参考にしていただきたいです。
岡田氏:そもそもeスポーツをご存知ない方もいらっしゃると思いますので、説得材料としても、本サミットの動画をご利用いただければうれしいです。
──確かに、学校に対しての説得が大変そうですね。
坪山氏:eスポーツと教育を掛け合わせることが目的というよりは、最先端の教育を目指すうえでの選択肢の1つがeスポーツなんです。そのほかにも、STEAM教育やICT教育といったように、取り組んでいきたいことはさまざまあります。そういう意味も込めて、今回はeスポーツ以外の最先端の教育の取り組みをされている方にも登壇いただいています。
──では、第4回 eスポーツ国際教育サミットの中身について教えてください。今回6名のゲストの方を、それぞれどういった経緯・理由でお呼びしたのでしょうか?
坪山氏:前提として、我々も日々活動していくなかで、教育の最先端はどういうものなのかということに関して、まだまだ勉強不足な部分もあると思っています。そこで、各分野で最先端の教育を実践されている方々をお呼びしました。
岡田氏:普段から我々にご協力いただいている方もいらっしゃいますが、ぜひお話をしていただきたいということでお呼びした方もいらっしゃいます。
プロマインクラフターがマインクラフトを使った教育について紹介
──お一人ずつ紹介をお願いします。
坪山氏:まず、タツナミ氏は、NASEF本部が実施している「NASEF Farmcraft ®」でも採用する「マインクラフト」を教育に取り入れた第一人者であり、今マインクラフトを使った最先端の教育とはどういったものなのか、またどういうことができるのかを話していただくためにお願いしました。
──マインクラフトは、知らない学生はいないくらい有名な作品ですし、MODやプログラミングを使ってさまざまなことができますからね。
岡田氏:我々でMODを使って農業体験ができるNASEF Farmcraft ®を実施していますが、そこからさらにマインクラフトを使った取り組みを広げていくためにどういうことができるのかという部分をご紹介いただくために、タツナミ氏がぴったりでした。
──私もしらないマインクラフトの遊び方を紹介されていて、面白かったです。
岡田氏:今回お話いただいたことだけでも、さまざまなことができるというのはお伝えできたと思うのですが、今回紹介いただいたこと以上に、マインクラフトを使ってできることはまだまだたくさんあり、今後も広がっていくとも思っています。
坪山氏:私はどちらかというとeスポーツやゲームというよりも、教育分野からNASEF JAPANに入ったので、正直マインクラフトで何ができるかということに対してはかなり疎かったです。教員の皆さんも、同じようにマインクラフトやeスポーツに疎い方は少なくないと思っていますので、この動画が、マインクラフトをどう教育に活かせるかを模索するための手助けになってくれればいいなと思っています。
──今後もマインクラフトを使った取り組みはされるのでしょうか?
岡田氏:タツナミ氏もまだまだ色々なことができるよとおっしゃっていたので、ぜひ今後も一緒に取り組みを実施していきたいです。続報をお待ちください。
先駆者が語る、STEAM教育とは?
──続いて登壇された方は、STEAM教育について紹介されていましたね。
坪山氏:中島氏は、私たちがeスポーツを通じて推進しているSTEAM教育を、最前線で取り組まれていらっしゃるので、ぜひSTEAM教育そのものについてお話していただきたく、お願いしました。
岡田氏:STEAM教育を広げる取り組みをされると伺っています。
──前回松原会長にも伺いましたが、STEAM教育では生徒の自主性が大事なんですよね?
坪山氏:STEAMは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学・ものづくり)、Art(芸術・リベラルアーツ)、Mathematics(数学)の5つの単語の頭文字を組み合わせた教育概念ですが、中島氏がおっしゃっていたのは、やはりSTEAM教育を生徒の皆さんにやってほしいということではなく、生徒の皆さんが何をしたいかということに我々が寄り添って、それがSTEAM教育に繋がるということです。
──今までの教育とは逆の発送ですね。
岡田氏:今回登壇いただいた際に、中島氏が実戦されているSTEAM教育の現場のお写真を拝見しました。生徒の皆さんがとても楽しそうなのが印象的でした。やりたくないことをやらせるわけではなく、自ら面白いと思えることに取り組むのが大事なのだと改めて思いました。
──STEAM教育って何? って思われている親御さんにもぜひ観てほしいコンテンツなのかなって感じました。
坪山氏:STEAM教育ってどういったことをするのか親御さんに理解いただくことで、STEAM教育を実践している学校に興味をもっていただきたいなと思います。何か面白いことをやっているなというのが伝わってくれればいいなと。
依存症はゲーム自体ではなく心の問題 臨床心理士が語るゲーム依存症とは?
──親御さんに観てほしいという点においては、ゲーム依存症についてもそう思いました。
岡田氏:森山氏には、学校関係者の皆さんや親御さんが気にされているゲームへの過度なのめり込みなどについて、どのように付き合えば健康的にプレイできるかという観点でお話をいただきました。ぜひ親御さんに観ていただきたいです。
──依存症はゲーム自体ではなく、心のほうに要因があるというお話は、なるほどって思いました。
坪山氏:世の中にはさまざまな依存症があるとおもうのですが、「ゲーム依存症」という言葉だけが先行して、悪いとされている部分がどうしてもあります。しかし、付き合い方を考えないと依存症になるというのは、ゲームだけではないはずです。
岡田氏:後程紹介させていただきますが、eスポーツ部は、適切なゲームとの向き合い方を学べる場としても価値があるものだと考えています。
──eスポーツ部としての取り組みで、ゲーム依存症を防ぐというのは興味深いですね。
実際の取り組みや、研究結果を発表
坪山氏:熊本県立松橋高校DX部の事例発表から松本教諭には、「松高DX部」という新しい部活動の形を発表していただきました。eスポーツ部としての活動に加えて、デジタル防犯、デジタルボランティアという取り組みをされています。また筑波大学体育系 / スマートウエルネスシティ政策開発研究センターの清野助教には、高校のeスポーツがどういった教育的意味を持つのかの研究結果をご紹介いただき、東京理科大学 経営学部の柿原教授には、保護者の方を対象としたアンケートをもとにゲーム・eスポーツに対する認知や態度について発表いただきました。加えて、今後のeスポーツ界全体についてのお話もしていただいています。
岡田氏:清野助教には、第3回のサミットで初めて発表した我々と筑波大学さんとの共同研究の第2弾を、今回発表していただきました。eスポーツを部活動にすることや活動することで、どういった教育的意味を持っているのかという点に焦点を当てて紹介いただいています。実際に清野助教がインタビューして、生の声を聞いたうえでの資料も展開されています。
eスポーツ部で活動すれば、長時間のゲームプレイが減る傾向にある? eスポーツをしらない親御さんに伝えたい
──どれも気になりますが、まずはeスポーツとゲーム依存症の関係について教えて下さい。
坪山氏:eスポーツ部がある学校とやりとりし、部ができたことで自宅でもゲームに熱中しすぎる生徒さんの有無を、適宜伺っています。しかし、そういった親御さんからのクレームはほぼないそうです。
──そうなんですね。理由はどのあたりにあるのでしょうか?
岡田氏:部活としてしっかりと活動の時間を決められていることもありますが、仲間とコミュニケーションをとりながら、毎回フィードバックもおこなう活動にはかなり体力を使うようで、家に帰ってもそこまでゲームをしないという生徒さんが多いそうです。しっかりと部として活動されている学校であればあるほど、チームプレイが重要だということは理解されていて、部活動中にパフォーマンスが落ちるほど個人練習をする人が少ないということもあると思います。
──確かに、仲間がいたら迷惑かけられないという思いが出てくるというのは、わかります。ただ、動画の中で、アンケート結果としてゲームやeスポーツの教育への効果にまったく期待していないという方が半分弱とまだまだ多いのも事実だと思います。これについて、今後どのように改善させていきたいですか?
坪山氏:これは確かに根強い課題だと思っています。私たちができることは継続的にeスポーツが教育として利用することができるコンテンツだということを発信していくことだと考えています。
岡田氏:まだまだeスポーツというものがどういったものかわからないという方もいらっしゃいますが、「全国高校eスポーツ選手権」「STAGE:0」といった高校生向けの大会や我々が主催している「NASEF MAJOR」で、友達と一緒に目標を掲げて練習したり、大会に出場して戦ったりする姿を見て、eスポーツの認識がガラッと変わる親御さんも多くいらっしゃいます。そういったところからでも、親御さんの持たれている悪いイメージも改善していけるかなと思っています。
──確かに、eスポーツに触れたことがある人とそうでない人では、結構認識が違うと思います。
坪山氏:そうですね。そのため、eスポーツ国際教育サミットの視聴者の方が途中で参加できるコンテンツというのも今後は行ってみたいですね。教員の方もそうですが、eスポーツに疑問をお持ちの親御さんが飛び入りで参加できるものがあれば、ちょっと面白そうですよね。皆さんがしてほしいコンテンツというのも、アンケートで募集していますので、ぜひ投稿いただきたいです。
先生同士の架け橋に わからないことはなんでも聞いてほしい
──eスポーツ国際教育サミットとして、NASEF JAPANとして今後取り組みたいことはほかにありますか?
岡田氏:全国にNASEF JAPANに賛同いただいている加盟校が450校(取材当時)ほどあります。その中でもフェロー教員ということで昨年度は20名の先生方と密に連絡を取り合ってきました。eスポーツや我々の取り組みに対して参加したい、疑問があるといった教員の方に、フェロー教員の方を紹介して、どういった環境で実施されているのかを話していただくといったことはしたいですね。
坪山氏:実際にeスポーツ部ができて7年目くらいという教員の方もいらっしゃいます。そういった方にこれまでにぶつかった壁や課題点、魅力といった部分を伝えていただく機会も作れればいいなと思います。
──実際に取り組みをされている教員の方にお話が聞けるというのは、直接的でいいですね。
岡田氏:450校近くの学校と繋がれているというのは、我々の強みの1つだと考えています。今後はさらに学校同士が繋がり、一緒に取り組みをしていきたいと思っています。
坪山氏:eスポーツと教育を掛け合わせてみたいけど、どうしたらいいかわからない、また、親御さんで子供がeスポーツに取り組みたいと言っているけど、わからないから不安という方は、ぜひ第4回 eスポーツ国際教育サミットをご覧になって疑問点があればいつでもご相談ください。我々もどんどん知見が溜まってきていますので、そういったこともeスポーツ国際教育サミットをつうじて、皆さまに発表したいと考えています。もちろん、いいことばかりではなく、課題点や悪い部分も研究で出てくると思いますが、そういったところもどう改善できるのか、どうすれば問題ないのかということを並行して研究していくつもりです。ご期待ください。そして、悪い面を凌駕するくらいに良いところがあるということも伝えていきたいですね。より多くの学校の方々と取り組みをしていきたいです。部の創設、活動、家庭でのeスポーツに関する疑問など、お気軽にお問合せいただければと思います。
──ありがとうございました。
eスポーツ国際教育サミットを見て感じたのは、NASEF JAPANがeスポーツを教育に導入するということをメインで実施しているわけではなく、教育をよりよいものにしていくための選択肢として、eスポーツやゲーム。デジタルコンテンツを採用しているという点だ。
とくに今後の教育では、STEAM教育といったように、子供が自分で課題を見つけて、解決するといったことは、考え方として重要になっていくんだろうなと、社会人になって改めて感じる部分もある。
また、これを私は今パソコンで書いているわけだが、社会人になる以前から、人並み以上にタイピングが速く、効率よく文章が作成できているのは、若いころからPCゲームに触れていて、文字入力でオンラインの人たちと文字入力でコミュニケーションをとっていたからというのもある。そういった、大人になっても役に立つスキルや考え方というのは、eスポーツに詰まっている部分でもあるなと感じる。
eスポーツを使った教育ってどういったことをしているんだろう、STEAM教育ってどういったものなんだろう、NASEF JAPANって何をしているところなんだろう? といった疑問がある人は、ぜひeスポーツ国際教育サミットを視聴して、直接問い合わせてみてほしい。
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