【レビュー】M2 Pro搭載MacBook Pro 14インチは真の「プロ向けノートブック」の正常進化だ
ASCII.jp / 2023年6月4日 12時0分
前回のメジャーなアップデートから1年以上待たされたが、ようやくApple Siliconの2.5世代目と言うべきM2 Pro、M2 Maxチップを搭載したMacBook Proの14、16インチモデルが登場した。気になるのは、そのパフォーマンスがどれほど向上しているということだが、ベンチマークテストによる評価は別記事に譲り、ここではもっともオーソドックスなモデルと言えるM2 Proチップを搭載した14インチモデルの使い勝手を中心にレビューする。
ほとんど変わらない外観
MacBook ProにApple Siliconチップが最初に搭載されたのは、2020年の9月に登場した13インチモデルだった。それから約1年遅れて2021年10月に登場した上位モデルは、Apple Siliconとしては1.5世代に相当するM1 ProとM1 Maxチップを搭載した。それだけでなく、まったく新しい14インチと16インチのボディに収められた真にプロ向けと言えるものだった。
すでに何世代にも渡って観測されるように、アップルのMac製品のデザインの進化は、かなり保守的と言える。いったん採用された外観デザインは、少なくとも数年間は使用され続け、その間は中身だけが進化していく。したがって、M1 Pro、M1 Maxの搭載を期に、2021年10月にデザインが一新されたMacBook Proが、今回も、前回と同じボディデザインで登場することは容易に想像できた。MacBook Proにも、他のアップル製品と同様、型式を表すネームプレートのようなものはないから、デザインが同じだと外観から世代を判断するのは非常に難しい。
試しに同じ14インチの前世代モデルと今回のモデルを重ねて、前後左右の側面を比べてみよう。まったく同じと言ってもいいほどの変化のなさは、清々しいほどだ。
旧モデルは、実際に1年以上使用している個体なので、若干の汚れで判別可能だが、念のために明らかにすると、下のスペースグレーが2021年モデル、そして上のシルバーが今回のの2023年モデルだ。
もちろんポート類の構成も、少なくとも外観はまったく同じと言っていい。ただし、機能的に見ると、Apple Siliconチップの進化に合わせて、それ相応の進化を遂げている部分もある。それについては、少し後で見るとして、変わっていない外観から分かる範囲を確認しておこう。ノートブック型としての使い勝手に最も大きく影響するパーツは、なんと言ってもキーボードだ。
これも前世代と同じ、主要なキーのピッチが19mmのMagic Keyboardだ。各キーのストローク(押し込める深さ)も約1mmを確保していて、ソフトな感触で操作できる。指に余計な負荷がかからず、長時間タイプしていても快適だ。右上過度に配置されたTouch IDキーも含めて、少なくとも操作性では前モデルとの違いは認められない。
上辺中央にノッチの付いたディスプレーの表示品質は、スペックにも違いはなく、目視上も特に前モデルとの違いは感じられない。バックライトとして1万の領域に分割されたミニLEDを採用し、100万対1という驚異的なコントラスをを実現するLiquid Retina XDRディスプレーは、言うまでもなく現在のノートブック内蔵ディスプレーとして最高レベルのものだ。
ノッチ部分はメニューバーの一部となっているため、通常はノッチの存在が気になることはない。メニュー項目数が多いアプリでは、ノッチの左右にメニュー項目が分割して表示されることもあるが、そういったアプリは多くはない。仮にそうなったとしても慣れれば特に使いにくさは感じられない。
性能向上だけではない新MacBook Proの価値
外観やキーボードの操作性、ディスプレーの表示品質が同じだとすると、いったいどこがどのように変わったのか。それを明らかにするために、まず新旧MacBook Pro 14インチモデルの主要なスペックの細かな違いを比較して確認していこう。明らかな違いがある部分は、新モデルの方の仕様を赤字で示している。
まず旧モデルのM1 Proと新モデルのM2 Proチップの違いを確認する。標準構成ではM1 ProはCPUが8コア、GPUが14コアだったのに対し、M2 Proの標準構成は、CPUが10コア、GPUは16コアとなっている。この数字だけを見ると、CPUは25%、約14%しか増えていない。しかもCPUのコア数の内訳を見ると、M1 Proの8コアは、高性能コアが6、高効率コアが2なのに対し、M2 Proの10コアは、高性能コアの数は6で変わらず、高効率コアが4となっている。また、Neural Engineのコア数も16で同じ、メモリ帯域幅も200GB/sと変わっていない。いずれも装備しているメディアエンジンについては、中身の仕様に変化があるかどうかは公表されていない。性能向上につながるような変化があれば仕様に反映されるはずなので、実質的に変わらないものが搭載されていると考えられる。
こうした数字や装備の有無だけを見ると、性能的には大差がないのではないかと思えてしまうかもしれない。確かにM2 Proの設計には、大幅な高性能化よりも、消費電力を抑えつつ同時に高性能化も実現するという狙いがあったものと考えられる。
実際にこのあたりのバランスがどのようになっているかは、別記事のベンチマークテストで示すことにしよう。
なお、M2 Proチップは、オプションで12コアCPU(高性能8+高効率4)と19コアGPUにカスタマイズできる。これらのオプションはセットで+4万2000円となっていて、個別には選べない。
次に内蔵ディスプレーについては、スペック上も細かい数値までまったく変化が認められない。これは実際にまったく同等のものを装備していると考えられる。ただし、外部ビデオについては比較的大きな仕様、性能の向上が見られる。
大きく違うのは、M1 Proの場合、接続方法は問わず、最大で2台の外部ディスプレーに出力可能だったのに対し、M2 ProではThunderbolt経由で最大2台、それに加えてHDMI経由で1台の合計3台の外部ディスプレーに対して同時出力が可能となっていること。また、Thunderbolt経由のビデオの最大解像度が6Kなのは同じだが、HDMI経由の最大解像度がM1 Proの4K(60Hz)からM2 Proでは8K(60Hz)へと大きく向上している。さらにこのHDMIポートの音声出力がマルチチャンネルオーディオに対応したことは、見落としがちなアップデートだ。これはすべてのユーザーに直ちに恩恵をもたらすわけではないが、デスクトップ環境で使用する際には、大きな違いとして、MacBook Proの活用範囲を拡げる可能性がある。
ワイヤレス通信機能については、旧モデルがWi-Fi 6、Bluetooth 5.0対応だったものが、新モデルではWi-Fi 6E、Bluetooth 5.3対応へと着実に進化している。これは、通信相手にもよるので、直ちに使い勝手が向上するという性格のものではないが、更新すべきところには確実に更新が施されているという印象だ。
さらに細かな点を指摘すると、本体の重量を表す数字の有効桁数が増えて、10g単位まで表現できるようになっている。従来は100g単位までだった。その結果、旧モデルはM1 ProでもM1 Maxでも1.6kgだったが、新モデルはM2 Pro搭載機が1.60kg、M2 Max搭載機は1.63kgと、チップによって30gの違いを反映したものとなった。チップ自体の重量が30gも違うとは考えにくいので、チップをカバーするヒートシンクなどを含めた重量の違いだろう。
スペック的にも同じ表記だし、アップルの「概要」ページにも特に記述はないが、「フォースキャンセリングウーファー」を備えた内蔵スピーカーと、「スタジオ品質の3マイクアレイ」を備えた内蔵マイクの品質は、実際に使ってみると2021年の旧モデルよりも、さらに音質が向上しているように感じられた。
驚愕の27時間超のバッテリー持続時間
パフォーマンス評価のためのベンチマークテスト結果は別記事にまとめると述べたが、バッテリーの持続時間を計測するテストの結果は、ここに示しておく。Apple Siliconの2.5世代目、M2 Proチップでどれだけ省電力化が実現できたのか、大いに気になるところだろう。
テストは、いつものようにYouTube上にあるアップルの過去の製品発表イベントの公式ビデオを集めたプレイリストを、Wi-Fi経由でSafariで連続再生し、バッテリーがフルの状態から残量が0%になって、強制的にスリープ状態になるまでの時間を計測する。フォーマットは1080pで、テスト中はフルスクリーン表示とした。画面の明るさは、オンスクリーン表示で目盛り6個が点灯した状態、音声のボリュームは最小限で、目盛り1個が点灯した状態とした。
今回は、M1 Pro搭載の前モデルと、M2 Pro搭載の新モデルを、同じ14インチで比べている。結果を、バッテリーまわりの仕様とともに示そう。
YouTubeビデオの連続再生時間は、旧モデルが22時間弱だったのに対し、新モデルでは27時間39分と、驚異的な結果を示した。これは、M2チップ搭載のMacBook Air(27時間53分)、MacBook Pro 13インチ(27時間59分)にはわずかに届かないものの、ほぼ同等と言っていい連続再生時間だ。仕様では、Apple TVアプリのムービー再生時間が示されていて、旧モデルでは最大17時間、新モデルでも最大18時間となっているので、それよりも大幅に長い時間の再生が可能ということになる。
バッテリーを使い切った残量0%の状態から充電を開始し、100%になって充電が停止するまでの時間も計測した。旧モデルでは1時間32分、新モデルでは2時間0分だった。この違いには明快な理由がある。バッテリー容量はどちらも70Whで同じながら、テストに使用した付属の電源アダプターが旧モデルは96W、新モデルは67Wだからだ。旧モデルは、標準の8コアCPUを10コアにカスタマイズしたものだったため、標準の67Wではなく、96Wのアダプターが付属していた。
なお新モデルでも、CPUを12コアにカスタマイズすると付属のアダプターが96Wになるほか、標準の10コアモデルでも、オプション(+2880円)で電源アダプターだけ96Wに変更することも可能となっている。充電時間を短くしたいという人は、一考の価値のあるオプションだろう。
デスクトップ機としても使いたいパフォーマンスと拡張性
今のところ、アップルの製品ラインナップの中で、M2 Pro、M2 Maxを搭載するモデルは今回登場したMacBook Proの14、16インチモデルと、M2 Proに限るもののMac miniのみとなっている。もちろん、M1 Ultraチップを搭載したMac Studioには劣るだろうが、それを除けば現行のMacの中でApple Siliconの最高のパフォーマンスを発揮できるのが、この新しいMacBook Proシリーズということになる。上で示したバッテリーテスト結果を見れば、モバイルマシンとして優れた特性を持っていることは明らかだし、デスクトップ環境で使っても十分に実力を発揮することが期待できる。
その場合に効力を発揮するのが、上で確認した外部ディスプレーのサポートの強化だ。内蔵ディスプレーと外付けの組み合わせでマルチディスプレーとして使うのが一般的だが、外付けだけでも最大3台まで接続できるので、内蔵ディスプレーを除いても容易にマルチディスプレー環境が構成できる。
もうしばらく待てば、おそらくM2 MaxやM2 Ultraを搭載したMac Studioが登場するだろうし、さらには新たな世代のApple Siliconチップを搭載したMac Proも製品化されるかもしれない。少なくともそれまでの間は、MacBook Proがパフォーマンス面でもMacシリーズを牽引する存在となる。もちろん、ノートブックとして最高レベルのディスプレーを内蔵し、外部ディスプレーも含めたフレキシブルな構成に対応可能な機動性については、MacBook Proだけの独壇場であることは間違いない。
MacBook Airや、13インチのMacBook Proなど、他のエントリーレベルのノートブックと比べると、かなり高い価格帯の製品であることは否めないが、内蔵ディスプレーの表示品質、本体のパフォーマンス、拡張性などを総合的に考えると、むしろプライスパフォーマンスに優れた製品だということが分かる。使用環境の室温にもよるが、高いCPU負荷で処理を続けても、空冷ファンの音が気になる段階まで回転数が上がることはめったにない。アプリケーションや周辺機器も含め、「プロ」領域でノートブックを使いたいMacユーザーなら、これしかないという製品だ。
悩むべきは、このM2 ProかM2 Maxかという選択だけだろう。M2 Max搭載モデルについては、また別記事でパフォーマンスを中心にレビューする。
筆者紹介――柴田文彦 自称エンジニアリングライター。大学時代にApple IIに感化され、パソコンに目覚める。在学中から月刊ASCII誌などに自作プログラムの解説記事を書き始める。就職後は、カラーレーザープリンターなどの研究、技術開発に従事。退社後は、Macを中心としたパソコンの技術解説記事や書籍を執筆するライターとして活動。近著に『6502とApple II システムROMの秘密』(ラトルズ)などがある。時折、テレビ番組「開運!なんでも鑑定団」の鑑定士として、コンピューターや電子機器関連品の鑑定、解説を担当している。
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