映画『ジュラシック・パーク』の公開から30年、DTSの歴史を振り返る
ASCII.jp / 2023年6月6日 11時1分
2023年6月に30周年を迎えるDTS。dts japan株式会社はこれを記念したメディア関係者向けイベントを開催した。評論家・麻倉怜士氏のナビゲートのもと、初期のレーザーディスク(LD)から最新のUltraHD Blu-ray Disc(UHD BD)まで、DTSのフォーマットを採用したさまざまなコンテンツを最新システムで楽しみながら、音源制作やフォーマットの進化を知る内容。
このデモは、6月24日と25日に有楽町の東京国際フォーラムで開催される「OTOTEN 2023」のdtsブースで、麻倉氏による“DTS 30周年記念公演”として一般の人も体験できる。参加方法などの詳細は、dts japanの公式Twitterなどで告知していくそうなので、合わせてチェックしてほしい。
DTSの真髄は、剛性感や底力を感じさせる“太い低域”
麻倉氏は評論家として、DTSフォーマットの進化をその黎明期から目の当たりにしてきた稀有な存在。その取材経験や雑誌などに執筆した過去の評論などを交えながら、DTS30年の道程を振り返り、その進化には、大きく3つのフェーズがあると整理した。
第1期は黎明期。1993年6月公開の映画『ジュラシック・パーク』で初めて採用され、1997年にヤマハによるDTSに対応した初のAVアンプ「DSP-A1」のリリースを経て、1998年に国内で初めてDTS上映が実施された『四月物語』に至る時期だ。第2期はロスレス・ハイレゾサラウンドの時代。2000年代初頭に繰り広げられた次世代DVD戦争、そしてBlu-ray Discの時代に重なる。この時期にはヘッドホン向けのフォーマットなども開発されている。第3期がイマーシブサラウンドの時代だ。DTSは2015年にオブジェクトベースのDTS:Xを発表、さらに2018年にはIMAX上映用にエンハンスした4K HDR映像にDTS音声を組み合わせた“IMAX Enhanced”規格/認定プログラムも登場している。
IMAX Enhancedに対応したコンテンツは現在、ソニーが自社のテレビ購入者向けに提供している映像配信サービス「BRAVIA CORE」や、映像ストリーミングサービス「Disney+」など配信中心に楽しめるが、よりハイレベルな音質(ビットレートの高いロスレス音源など)で楽しめるUHD BDでのリリースも増えつつある。また、IMAX Enhancedの配信で使用される音声フォーマットは現状では圧縮された5.1chを用いることも多く、特にDisney+は映像の部分(アスペクト比)のみIMAX Enhanced方式を採用しているが、2023年からDTS:X音声のコンテンツの投入も進めると表明している。採用タイトル数の確保はDTSが直近で抱えている課題であり、現在最も注力していることと言えるだろう。
こうしたDTSの流れとともに、麻倉氏が注目したのが「DTS」が意味する内容とロゴの変化だ。DTSはもともと「Digital Theater System」の略称だったが、途中「Dedicated To Sound」を挟んで、現在は「Dedicated To Sensation」としてアピールされているという。つまり、DTSは映画館のフォーマットとして始まり、エンコードから再生まで一貫したプロセスの優位性を主張する時期を経て、音を通じた感動を与えることを目指すフォーマットになっていったことが伝わる。
その間にロゴが何度か変更されており、時代の方向性を取り入れようとしているのが伺える。競合するドルビーも時代時代にロゴを変えているが、大きな違いは横に太いフォントで書かれたDTSの文字自体は変わっていない点。これはDTSが目指す、変わらない音のイメージ、つまり剛性感や底力を感じさせる“太い低域”に合っていると麻倉氏は言う。そして、映画音響に求められる台詞、SE、音楽の重要性、面ではなく体積で音を感じることによる感動といった要素とともに、DTSが持つ特徴として一貫して伝えてきたことにつながるという。
LDの音って実はけっこうすごかったんだ……
もともとDTSは、5.1chのサラウンド音源をCD-ROM(ビットレートは約1.5Mbps)に収録し、フィルムと同期しながら映画館で再生する技術として始まった。ノイズ低減とダイナミックレンジの両立がポイントで、30年前にその音を聞いた際に麻倉氏は「地に足が付いたような音、SEの太さに感動を覚えた」のだという。その後、2005年にはDTS-HD Master Audio 7.1chが登場。最大24.5Mbpsのビットレート、最大192Hz/24bitのハイレゾ、そしてロスレス圧縮に対応。Blu-ray Discでは必須のコーデックとなった。2015年のDTS:Xは最大11.1chの音場を再現できるオブジェクトオーディオ技術。これらすべてのフォーマットに共通する特徴はすでに述べたように、音が太く、剛性感があり、勢いがいい点だという。
デモではLDに5.1chのDTS音源を収録した「アポロ13」、DVD時代にリリースされたイーグルスのアコースティックライブ『Hell Freezez Over』から「Hotel California」、Blu-ray Disc時代のコンテンツとして『ジュラシック・パーク』やノルウェーの高音質レーベル2Lによる音楽コンテンツ、さらにDTS:XやIMAX Enhancedのコンテンツなど、時代を追いならがらフォーマットの違い、音の違いを堪能できた。
興味深いのはLD時代の音源を最新のシステムで聴くことによる発見、特に麻倉氏が言うように微細な音の再現性と芯があって安定した低域という通暁した特徴が感じられる点だった。さらに、IMAX Enhancedコンテンツの例としてデモした4K UltraHD Blu-ray版「バッドボーイズ」のカーチェイス画面では、安定感が高く、底力があり、グロッシーな黒を表現した映像がDTSの持つ音の特徴とうまくマッチしており、表現の方向性に共通点がある。画を形容するために書いた表現が、同じコンテンツの音を形容するための表現にもそのまま通用できそうな点が興味深く、IMAX Enhancedは画と音のトータルの方向性を示した規格であり、DTSに似つかわしい画を伴ったコンテンツの証左でもあると実感できた。
PCやスマホなど多彩な機器でも楽しめるDTS、次の挑戦はクルマの世界
イベントの冒頭で、dts japanの西村明高取締役は、1990年に松下電器産業(現パナソニック)がMCA(現ユニバーサル)を買収したことに言及。その後、ユニバーサル・スタジオ内に設立されたHDテレシネセンターにおいて、AVコーデックやオーサリング技術の研究が始まり、MCAとともに11種類の共同プロジェクトを開始したという。DTSの技術はその中から生まれ、DTSの音声フォーマットを採用したスティーブン・スピルバーグ監督の『ジュラシック・パーク』が公開された。当時、松下にいた西村氏はそのことを鮮明に覚えているという。
その後、西村氏は電子番組表のGガイドなどを手掛けるジェムスターに転職した。ジェムスターはコンテンツ保護技術のマクロビジョンに買収され、マクロビジョンは社名をRoviに変更。さらにRoviはSTBやモバイルコンテンツ向けの映像配信を手掛けるTiVoを買収し、社名をTiVoに変更。このTivoが2020年、DTSなどを傘下に収めるXperiに吸収されたことを受け、現職に就いたという。こうした経緯を説明しつつ「かつて横目で見ていたDTSの技術を自分が担当することに運命めいたものを感じている」とコメントし、DTSフォーマットの拡大に努めていきたいと語った。
加えて、DTSはゲーミング用途にも適したHeadphone:Xなど、モバイル、携帯電話、タブレット、PCなどへの展開にも注力している。さらに、数年後に到来する自動運転の時代を見すえた展開としてクルマの世界におけるDTSがある。そのための技術として「DTS Auto Sense」(搭乗者の認識)、「DTS Auto Stage」(HDラジオのデジタル化、音楽だけでなくビデオのサービスも提供)を提供しており、これらは「BMW 5シリーズ」で採用される計画があることも発表されている。自動車の開発には時間がかかるため、この技術が採用された自動車が世に出るのは早くても2025~2027年ごろのタイミングになるとするが、電気自動車や自動運転というキーワードが重視される中、車内のエンターテインメントはすべてのクルマメーカーが注目している分野であり、2023年中には大手メーカーの大半がビデオ再生のためのパートナーを決めるだろうとしている。
電気自動車では充電時間中の時間を楽しむインフォテインメントも求められている。また車内のエンターテインメントでは、誰が見ているか、今までにどんなコンテンツを見たか、どこへ行くか、そのためにどれだけ時間があるかといった情報を知り、それに適したコンテンツを推薦する仕組みも求められる。DTSはこの分野に積極的だ。クルマが動く映画館とも言えるぐらい、リッチな映像・音楽の体験を提供する場所になることもそう遠くはないのかもしれない。
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