デノン、個人最適化技術を搭載した完全ワイヤレスの新ブランド「PerL」
ASCII.jp / 2023年6月20日 19時30分
デノンは6月20日、個人最適化技術を搭載したノイズキャンセリング対応の完全ワイヤレスイヤホン「AH-C15PL」と「AH-C10PL」を発表した。
“Denon PerL”(デノン・パール)という新しいシリーズ名で展開。PerLは“Personalize Listening”という意味を込めた略称だ。既存シリーズの上位モデルとなっており、AH-C15PLは個人最適化技術に加え、ハイレゾ伝送やロスレス伝送など最高の音を提供する“PerL Pro”、AH-C10PLは個人最適化技術搭載の標準モデル“PerL”として展開する。価格はともにオープンプライスで、予想実売価格はそれぞれ5万7200円/3万3000円。発売は7月1日を予定している。
自動計測で、自分の耳に合った再生音に調整
PerLは、米国の大手医療機器メーカーMasimoの技術を応用。人ごとに変わる聞こえに配慮したパーソナライズ機能“Masimo AAT”(AATはAdaptive Acoustic Technologyの略)を備えているのが特徴だ。
ちなみに、デノンやマランツブランドを展開する株式会社ディーアンドエムホールディングスは、Bowers & WilkinsやPolk Audioなど様々なオーディオブランドとともに、これまで米Sound Unitedの傘下にあった。しかしながら、2月にMasimoはSound Unitedを買収すると発表。これらのコンシューマーオーディオブランドは、今後Massimoが展開していくことになる。つまり、グループ内での技術リソースが融合して実現した製品がPerLだ。
Masimoはパルスオキシメーターなど、医療用計測器の開発で知られている。PerLは医療機器ではなく民生機器だが、搭載する自動測定機能は、新生児の難聴検査に用いる医療技術を応用したものとなる。「聞こえている/聞こえていない」を言葉で伝えることができない新生児の耳の聞こえを独自の計測技術で知るための技術を、コンシューマー機器に応用することで、正確でシンプルな使い勝手の個人最適化機能を搭載できた。
十人十色という表現があるが、音の聞えは“十人十音色”だとデノンは言う。PerLのパーソナライズ機能(Masimo AAT)は、アプリ操作で高域・中域・低域の聞えやすさを計測し、再生音を利用者の耳に合った特性に自動調整できる。
技術的なポイントをより深く知るためには、耳が外耳(外側から鼓膜まで)・中耳(鼓膜付近)・内耳(音を感じる神経がある蝸牛などがある場所)の3つの部分からなる点を理解する必要がある。外耳から耳に入った音は、鼓膜とそれにつながった耳小骨を振動させ、内耳の蝸牛に伝わる。
近年、個人の聞え方に合わせた調整ができるとうたうイヤホンは増えており、今年は大手メーカーの製品でアップデート対応するものも登場している。ただ、その機能には差もある。
最も多くプリミティブなものは、周波数が異なる信号音を聞いてユーザーが聞える/聞こえないをアプリなどでフィードバック。その結果に合わせて再生音を調整するというもの。また、外耳の形状をスマホのカメラで撮影したり、外耳内の反響音をイヤホンのマイクで計測したりして調整するタイプもある。後者は比較的新しいイヤホンが搭載する機能だが、多くは外耳の特性しか反映できない。
Masimo AATの個人最適化機能は、これらとは異なり、内耳の特性も含んだ計測と最適化ができる点が特徴だ。内耳の蝸牛で受け取った振動は、再度鼓膜に伝わり、外に放出される(耳音響反射)が、その微小な振動をマイクで計測することで、ユーザーの判断に任せたフィードバック操作や撮影などをせずに、聴覚の特性が分かるという。
Masimo AATを使うための測定はアプリを用いる。耳にイヤホンを装着した状態で、最適なイヤーチップが適切にフィットしているかを診断(適切に密閉できているかのチェック)。そのうえで、さまざまなテスト音源を使って、外耳の形状や中耳/内耳の特性を計測し、聞え方を調べる。結果は正円の上に視覚的にプロットされる。
PerL ProはSnapdragon Sound対応でロスレス伝送にも対応
PerLシリーズの特徴は自動で使え、優れた精度を持つ個人最適化機能だが、上位機種のPerL Pro(AH-C15PL)は音質面でも最先端かつハイエンドの仕様となっている。振動板はベースモデルのPerLが樹脂製であるのに対して、PerL Proはチタン素材を使用した3層構造。加えて、アダプティブ・ノイズキャンセリング機能、骨伝導マイク内蔵、マルチポイント接続、ワイヤレス充電、ハイゲインモード(+6dB)なども搭載。
5バンドのEQ機能によって、個人最適化した再生音をさらに自分好みに調節できるほか、ヘッドホン向けの空間オーディオ(3D仮想サラウンド再生)技術「Dirac Virtuo」の利用ができるなど、全体にPerLを上回る機能を持つ。外音取り込み機能の聞き具合やタッチ機能も細かにカスタマイズできる。
さらに、クアルコムの“Snapdragon Sound”にも対応。Bluetooth接続時でも44.1kHz/16bitのロスレス再生(aptX Lossless)や最大96kHz/24biのハイレゾ再生(aptX Adaptive)が可能となっている。aptX Voiceによるワイドレンジで高音質の通話(最大32kHz)や低遅延再生(48ms)も特徴だ。
一方のPerL(AH-C10PL)は、ここまでの高音質機能は持たないものの、特徴である個人最適化機能は利用できる。
試聴してみた感想としては、個人最適化の効果は高い。筆者の場合、同年代の平均と比較して高域や中域の聞こえはいいものの、低域が弱めに聞こえ、かつ左右の耳で音のバランスが違うという計測結果が出た。ここは以前からなんとなく感じていたところではあったが、視覚的にそれが分かるのは興味深い。そこを補正した状態で聞くと、まずボーカルが中央にしっかり定位するなど、音のフォーカスが明確になるのに加えて、音に包まれている感じが増し、より広い空間にいる感覚が得られた。抜け感の向上なども含めて、音楽のディティール感や全体像がよくわかるようになった。
例えとして適切かどうかは分からないが、同じステレオ再生でも部屋のレイアウトの都合であまりセッティングにこだわれない環境で聴くスピーカーでの再生音と、壁の反響も含めて、左右対称、均等な距離に配置したスピーカーをベストなリスニングポジションで聴く再生音の差と言ってもいいかもしれない。
ああ、なるほどイヤホンの音ってこういうものだと思っていたが、音は本来こう聞えているべきなのだなぁという気持ちがしみじみわいてくるのが感慨深い。
PerL Proは個人最適化を書けない素の状態でもかなり品位の高い音で、トーンバランスの面でも解像感の面でも高水準。一般的な完全ワイヤレスイヤホンよりも頭が抜けた再生音と言う印象ではあるが、個人最適化のオン/オフ、そしてDirac Virtuoのオン/オフによって得られる差はかなり大きい。
ベストを言うなら、スペック的にもPerL Proを選びたいが、個人最適化による変化はかなり大きいので、PerLでもその恩恵は十二分に感じられるだろう。最近、話題に上る機会が増えてきた個人最適化機能だが、音源に含まれる情報を本当に聴くとどうなるか、正確な音に近づきたいと思っている人にとって、PerLは魅力的な選択肢になるに違いない。
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