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【レビュー】M2 Ultra搭載「Mac Studio」超高速の内蔵SSDで実用性能が向上(本田雅一)

ASCII.jp / 2023年6月14日 8時0分

M2 Ultraを搭載したMac Studio

 アップルは、M2 Maxもしくは新しいM2 Ultraを搭載した「Mac Studio」を6月13日に発売した。M2 Ultraを搭載したMac Studioを試用し、その性能をレビューする。

今回レビューに試用した評価機

 思い起こせば2022年3月に新たなフォームファクターとして、Studio Displayとともに登場したMac Studio。まるで一体型のiMacのように、ディスプレイ、カメラ、マイク、色温度や照度センサーとの連動を可能としつつ、モジュラー型のデスクトップコンピュータのスタイルを実現した。

 中でも当時注目されたのが、2つのM1 Maxを相互接続することで、まるでひとつのSoCのように動作させるM1 Ultraだった。そもそもM1 Proの回路を2つ並べて処理容量を2倍に高めたのがM1 Maxだったのだから、この思い切った構成に驚いた人は多かったのではないだろうか。

M2 Ultraは2つのM2 Maxを相互接続している

 こうした思い切った構成を採用できるのは、Apple Mシリーズを構成するコア数の増分に合わせて、メモリ帯域も高まる仕組みになっているからという理由が大きい。コア数が増えてもメモリ帯域が不足すれば処理がストールするが、処理能力と帯域幅の向上を同期させれば効率よく性能が上がる。

 筆者自身、昨年は製品版を持っているDaVinci Resolveで、その性能向上を確信していたのだが、その後、一部のアプリケーションで想定通りに性能が向上しないという話を耳にするようになっていた。

 しかし、短時間の評価のため、あらゆるアプリケーションのテストを試すわけにはいかないが、どうやらM2 Ultraでは何らかのボトルネックを取り払う対策がされたようだ。

 まずはその話から始めることにしよう。

M2 UltraでProResとMEPGエンコーダの連携が可能に

 パフォーマンスが上がらないと言われていた典型的なアプリケーションは、実は何を隠そうアップル純正のFinal Cut Proだ。どうやらProRes形式の動画をデコードしながら、それをHEVCやH.264のハードウェアアクセラレータで圧縮するスループットが早くならないことが大きく影響していた。

 ProRes422形式からH.264などのエンコードをすると(例えばCompressorで一括圧縮などを始めると)、M1 MaxとM1 Ultraのパフォーマンスが完全に一致していたという。興味深いことに、MacBook Pro 16インチモデルのM2 Maxモデルも全く同じだ(アップル自身の資料による)。

 M2 UltraではProResアクセラレータとMPEGハードウェアエンコーダが連携するように改良を施し、ProResからHEVCやH.264へのトランスコードでオーバーヘッドが起きないようにしたようだ。

 Final Cut Proでは中間ファイルをProResで生成するため、YouTube製作者などはそこからHEVCやH.264形式で出力する際、この問題が発生していたのではないか。

 しかし業務として動画製作をしている場合、作品は一度、高品位な形式でマスターとなるファイルを生成してから、最終エンコードをかけることがほとんどだと思う。

 たとえば今回、テストにおいては8K/30Pの動画ファイルを18本用意し、それらを最終的に同一画面に割り付けて合成。エフェクトとタイトル合成をかけたプロジェクトを用意した。この場合、一般的にマスターとしては8K解像度のままProRes422などで保存する。

 この時には元のソースファイル、中間ファイルから出力ファイルまで、一貫してProResアクセラレータの恩恵を受けられるため、M2 Ultraが爆速なのはもちろんだが、ノーマルのM2でも4K程度ならば十分なパフォーマンスが出る。

 重い圧縮処理はCompressorに登録し、出力先ごとに形式を設定して異なるプラットフォーム向けの動画ファイルへと一括エンコードする。このようなワークフローでもProResからHEVCやH.264へのトランスコードは、出力先フォーマットによっては発生するが、複数の動画を一括で処理することが多いために問題に気付きにくいということはあるだろう。

Final Cut ProとCompressorでの性能向上を確認

 残念ながらMac StudioのM2 Max搭載モデルを用意することはできなかったが、MacBook Pro 16インチのM2 Max(64GBメモリ)搭載モデルを用いて、アップルの動画編集アプリケーションFinal Cut Proと動画圧縮ツールCompressorを用いて簡単なテストをすることはできた。

 条件を揃えていないため、あくまでも参考値ではあるが、M2 Ultraに施されたProResアクセラレータとMPEGハードウェアエンコーダのコンフリクトに関しては解決されていることは確認できると思う。

 前述した8K ProrResを18ストリーム合成するプロジェクトの書き出し速度で計測した。

 8K解像度のままHEVCで書き出す場合、高速化の恩恵はあまり受けられていないが、これはMPEGハードウェアエンコーダそのものの性能がボトルネックとなっているのだろう。

 しかしFinal Cut Proから4KにダウンコンバートしながらHEVCで出力した場合や、ProRes422で8Kマスターを書き出す処理。さらにそのProRes422ファイルをCompressorで4KのHEVCにエンコードする処理などは、どれも2倍近い(FCPからの直接書き出しでは2倍以上)の高速化が確認できる。(このうち8K ProResの書き出し速度向上はMedia Engineが2倍搭載されているためで今回の改良とは関係がないが)。

 手元にM1 Ultra搭載機がないため検証できないが、この結果を踏まえるとM1 Ultraの場合はFinal Cut ProからProResで書き出しをし、まとめてCompressorで圧縮処理をした方がパフォーマンスが良いのでは? と予想される。

超高速の内蔵SSDに期待通りのコア性能

 このProResデコーダとMPEGハードウェアエンコーダ併用時のボトルネックが解消されたことを伝えれば、あとは説明が比較的容易だ。

Mac Studioの背面

 まずMac ProとMac Studioは同じSoCを搭載可能な一方、Mac StudioにはMac Proほどの大きな冷却ファンも大きな筐体もない。しかし、たとえM2 UltraでもMac Studioの上半分を占める冷却機能によってMac Proと同じ性能が引き出されるという。すなわち連続した高負荷のワークロードがかかることも多い処理であっても、熱ダレすることは基本的にはない。

 また内蔵SSDは極めて高速なものが搭載されていた。実は15インチ版MacBook Airの512GB SSDも良好な性能(書き込み毎秒4.4GB、読み込み毎秒3.2GB)を示していたが、今回の評価機のMac Studioに搭載されていた2TB SSDは、読み書きともおよそ毎秒6.5GBという爆速である。

 一方、ベンチマーク上のCPU、GPUパフォーマンスは極めて良い。これはM1時代も同じだったが、冒頭で述べたように共有メモリの帯域がコア数の増分に合わせて増える構成になっているため、素直に性能が上がるからだ。

 M1 Pro/Max/Ultraでは、アプリケーションにも依存はするものの、CPU、GPUともにおよそ1:2:4の割合で高性能になっていく。冷却がしっかりしているMac Studioの場合、この関係は明確でその関係性はM2世代の今回も同じだ(Mac StudioにはM2 Proモデルはないが)。

コンパクトな筐体を超えたピーク性能

 評価機のM2 Ultraには16個の高性能コアと8個の効率性コアを備えた24コアのCPU、M1世代よりも強化された76コア(60コアGPUモデルもある)GPU、毎秒31兆6千億演算スループットを持つ32コアNeural Engineが内蔵されている。メモリ帯域は毎秒800GBに達し、最大搭載メモリは192GB。試用モデルは128GBが積まれていた。

 クロスプラットフォームのベンチマークGeekbench 6 Proを走らせると、M1 Ultraよりも20%高性能というM2 Ultraは、はるかに消費電力が大きなIntel Core i9-13900KSよりもマルチコアで良いスコアを出した。

 GPUテストではMac用アプリケーションのほとんどがMetalを用いるため、Metalを呼び出す形でベンチマークを実行したが、AMD Radeon RX 6900XTに近いスコアを出している。

 ただしGPU処理に関しては、処理するデータの扱い方がディスクリートGPUとは異なる。上記カードには16GBのGDDR6 DRAMが搭載されているが、それ以上のデータを処理するにはメインメモリとの間の転送が発生する。

 共有メモリアーキテクチャであるM2 Ultraの場合、システムのメモリすべて(今回のモデルでは128GB)が、CPUからもGPUからもアクセスできるためメモリ転送は発生せず、巨大なデータに対して処理ができる。

 つまり用途(取り扱うデータ量)次第では、M2 Ultraのほうが出る場合もあるということだ。しかもM2 Ultraを内蔵するMac StudioはMac miniの2段重ね程度の容積なのだから、エネルギー効率の良さは言うまでもない。

用途に「適した構成」を

 評価機は税込で90万円を超える構成と高額だが、そのピーク性能を引き出せるアプリケーションならば、確かに魅力ある1台だ。昨年、M1シリーズにPro以上のバリエーションが生まれ、Media Engineの使用やより多くのコアを使いこなせるようアプリケーションの最適化も進んできた。

 今回、ハードウェアエンコーダ利用時のボトルネックが(M2 Ultraで)解消されたことで、性能が出せないケースは大幅に減っていると予想される。

 ただしアップル製SoCの良さは、ひとつのプロセッサパッケージにほぼ全てを納めてしまい、データに対して等価にアクセス可能にすることで性能を引き出すことに帰結する。言い換えれば柔軟性はなく、あらかじめ決めた構成でハードウェアを使わざるをえない。

 動画編集であれば、扱うデータの形式と解像度、同時に割り付けるクリップの本数などが目安になるだろうし、3Dグラフィクスのレンダラーならば生成するシーンの複雑さやテクスチャデータなどに依存する。

 一方で、一般的なユーザーは同じデスクトップでもMac miniがM2 Proにアップデートされることを期待するのもいいかもしれない。フルHDから4K程度の動画を扱うのであれば、それでも十分なパフォーマンスは得られる。

 

訂正とお詫び:初出時、一部表記に誤りがございましたので、訂正いたしました。(2023年6月16日)

 

筆者紹介――本田雅一  ジャーナリスト、コラムニスト。ネット社会、スマホなどテック製品のトレンドを分析、コラムを執筆するネット/デジタルトレンド分析家。ネットやテックデバイスの普及を背景にした、現代のさまざまな社会問題やトレンドについて、テクノロジ、ビジネス、コンシューマなど多様な視点から森羅万象さまざまなジャンルを分析する。

 

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