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政府のアップル規制案、国民の安全を脅かすおそれも

ASCII.jp / 2023年6月21日 7時0分

James Yarema | Unsplash

 政府のデジタル市場競争本部は6月16日、「モバイル・エコシステムに関する競争報告書(案)」を公表した。

  報告書ではアップルに対して、iPhoneにおいて、AppStore以外からもアプリをダウンロードできるようにするように求めている。

 アプリ配信ストアに競争をもたらすことで手数料の引き下げを狙っているとしているが、アップルが審査しないアプリが流通することで、これまで鉄壁の安全性が確保されていたiPhoneの危険性が増すという指摘がある。

 そんななか、アップルは政府の報告書が出されるやいなや、ステートメントを発表している。

 「Appleは、事業を展開するすべての市場においてイノベーション、雇用創出、そして競争を生み出すエンジンであることを誇りに思っています。日本だけでも、iOSのアプリ経済圏は約100万人の雇用を支え、大小さまざまなアプリ開発者が世界中のユーザーに到達することを可能にしています。私たちは、この度の報告書に記載された多くの提言に謹んで異議を申し上げます。これらの提言は、ユーザーのプライバシーとセキュリティを保護し、すべてのアプリ開発者のための健全なエコシステムをサポートするAppleの持てる力を危険にさらすことになります。私たちはこうした懸念に取り組むため、日本政府と建設的な話し合いを続けてまいります」

 実は、報告書ではアプリ配信ストア以外でもアップルに要求を突きつけている。ただ、アップルとしてはユーザーの個人情報やプライバシーの保護の観点などから到底、受け入れられるものではないとしている。

日本が世界から取り残される状況になりかねない

 たとえば、報告書ではアプリ配信ストアにおいて「外部の課金システムを禁止すべきではない」としている。

 アップルが提供する課金システムだけでなく、クレジットカードなどで直接、支払えるようにするというものだ。

 しかし、アップルでは「外部課金では支払い情報が可視化されないため、ユーザーが支払いを完了したのか、キャンセルしたのかといった情報を確認できなくなる。外部課金による取引について不正防止の監視ができない」という懸念点があり、外部課金の導入に対しては慎重な構えを見せているようだ。

 また、報告書ではアップルに対して、OSやブラウザの変更をする際、開発者にもっとも前倒して情報を提供しろとも迫っている。

 これに対しては、アップルでは毎年6月にWWDCを開催し、情報提供は十分行っているとしている。多くのアップデートは同年9月に提供される一方で、順次、開発が終わり次第、アップデートというカタチで提供されるものもある。

 報告書では「日本だけ別に時間をかけてアップデートを提供しろ」と言っており、これまで日本を除く世界で先にアップデートが提供され、日本だけが世界から取り残されるだけの状況になりかねない。日本の開発者だけが最新のアップデートが提供させず、世界の開発者から大きく遅れをとるだけとなってしまうのだ。

アップルはそこまで自社製アプリを強要していない

 さらに報告書ではブラウザ、検索エンジン、音声アシスタントにおいて自由に選べるような画面を設けるとともに、一部のプリインストールアプリを削除できるように義務づけようとしている。

 これに対してアップルでは「コア機能である少数アプリ(電話、カメラ、メッセージ、メール)を組み込んでいるのはユーザーが箱からiPhoneを取り出して、すぐに使えるようにしているために過ぎない。サードパーティアプリのインストールやカスタマイズは簡単にできるようにしている」としている。

 確かに、電話やメール、メッセージなどのアプリが全くインストールされていない状態でiPhoneを販売されても、初めてiPhoneを触るユーザーなどは面食らってしまうだろう。

 iPhoneのコア機能ぐらいはあらかじめプリインストールされていてもいいのではないか。ブラウザやカメラであれば、あとから好きなアプリを入れられる。アップルはそこまでアプリの強要はしていない。

 報告書ではさらに「WebKitの使用禁止」や「Sign in with Apple」の使用要件の撤廃も提案してきている。アップルとしてはいずれもユーザーのプライバシーやセキュリティに配慮した技術であり、撤廃することはデータ集約者や広告主を優遇するものだと指摘する。

政府のやり方は消費者に損害を与えかねない

 日本政府としてはアップルを目の敵にして、「競争」という名目をちらつかせ、アップルがiPhoneで提供してきた技術や仕組みの開放を迫っている。

 しかし、そうしたアップルの技術的な蓄積は個人情報が満載されているユーザーのiPhoneを保護するための取り組みであり、アップルはそのために相当な金銭的な投資をしてきた。

 日本政府のやり方は、消費者に損害を与え、アップルの知的財産の盗用につながりかねない。

 今後、政府が報告書の内容で法整備を進めていくのならば、日本国民の安全性を脅かすとともに、アップルとの全面戦争に発展しかねないかもしれない。

 

筆者紹介――石川 温(いしかわ つつむ)

 スマホ/ケータイジャーナリスト。「日経TRENDY」の編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。ケータイ業界の動向を報じる記事を雑誌、ウェブなどに発表。『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞)など、著書多数。

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