ファンレスクーラーの極・静音PC、Core i9を静謐かつ高性能で運用する秘密はPL1=55W
ASCII.jp / 2023年6月20日 11時0分
巨大なファンレスCPUクーラー「NH-P1」を採用し、超静音化を実現したサイコム製BTOパソコンの新シリーズ「Silent Master PRO」。そのミニタワーモデルが「Silent-Master PRO Z790-Mini/D4」だ。
その内観については前回紹介したが、今回は高負荷時のCPU温度や性能について、定番ベンチマークテストを使ってチェックしていこう。
第13世代Core i9の性能をどこまで引き出せるのか?
まずは今回テストに使う試用機のスペックを確認していこう。試用機は標準構成からCPUを「Core i9-13900T」に、メモリーを16GB×2、電源ユニットを860Wに強化している。
PL1設定を35Wから55Wに引き上げて性能を底上げ
試用機のポイントはずばり、CPUに24コア/32スレッドながら省電力なCore i9-13900Tを採用していること。そして、長時間高負荷がかかった場合の消費電力上限となる「プロセッサーのベースパワー」(PL1)の値を、インテル推奨の35Wから55Wに独自にチューニングしている点だ。
PL1を上げると、当然性能は高くなるがCPUの温度はそのぶん高くなってしまう。しかし、巨大なファンレスCPUクーラーなら十分冷却可能だという判断なのだろう。とはいえ、実際のCPU温度はどこまで上がるのか気になるところだ。
また、ビデオカードは冷却効率と静音性のバランスが良いAxial-techファンを搭載した、ASUSの「TUF-RTX4060TI-O8G-GAMING」を採用。GeForce RTX 4060 Ti搭載モデルということもあり、超静音PCながらもゲーミング性能に妥協していない。
CPU温度は70度を超えたあたりで安定
まずはべンチマークソフト「CINEBENCH R23」でチェックしていく。このソフトはCGレンダリング速度からCPUの性能を測ってくれるもの。結果は「pts」という独自スコアーで表示され、このスコアーが高ければ高いほど高性能なCPUとなる。
テストはすべてのコアを使用する「Multi Core」、1つだけ使用する「Single Core」の2つ。テスト時間も設定できるが、今回はデフォルトの約10分間で試した。なお、Multi Coreテストの負荷はかなり高いため、CPUの温度や動作安定性のチェックに適している。
動作中のCPU温度や消費電力は、センサーから各種数値を取得できる「HWiNFO64 Pro」を用い、ログ機能を使って数値を記録した。ということで、早速だがCINEBENCH R23の結果を見てみよう。
Multi Coreテストが19605ptsで、Single Coreテストが2089pts。手元のデータと比べてみると、「Core i9-13900」ではMulti Coreテストが23177ptsで、Single Coreテストが2211pts。「Core i9-13900K」ではMulti Coreテストが34389ptsで、Single Coreテストが2289ptsとなっていたので、性能的には見劣りしてしまう。
しかし、PL1を比較してみると、Core i9-13900は65W、Core i9-13900Kは125Wと非常に高く、それだけ大きな電力を消費していることになる。Silent-Master PRO Z790-Mini/D4は独自チューニングで引き上げられているとはいえ、その値は55Wだ。
このPL1の電力制限とスコアーの比率を計算してみると、Core i9-13900の65Wは、55Wから約18.2%消費電力が上で、スコアーもそのまま約18.2%上回っている。つまり、電力効率の面では無駄がなく、設定通りの性能が出せている計算になる。
同様に、Core i9-13900Kでも計算してみよう。PL1は125Wなので55Wから約127.3%も消費電力が高いことになるが、スコアーは約75.4%アップにとどまっている。電力効率の面では、明らかにCore i9-13900Tに軍配が上がる結果だ。
もう1つ注目してほしい点が、Multi Coreテストでは大きく差がついているものの、Single Coreテストではあまり違いがないこと。つまり、高負荷時には高い電力効率で24コア/32スレッドCPUのポテンシャルを発揮でき、使用スレッドが少ない一般的な用途では上位モデルに近しい性能で運用できる。というところが、PL1=55W設定のCore i9-13900Tのメリットだろう。
ちなみに、そこまでマルチスレッド性能が必要なければ、標準構成で16コア/24スレッドのCore i7-13700Tも全然アリだ。Core i5-13500Tなら標準構成から3万2670円もお安くなるが、こちらも14コア/20スレッドなので決して性能が低いわけではない。
性能が妥当なところだとわかったところで、CPUの温度もチェックしていこう。高負荷が長時間続いた時のCPU温度変化を見るため、CINEBENCH R23のMulti Coreテスト(約10分間)を実行。この時の状態をHWiNFO64 Proで取得したデータから追ってみた。
なお、グラフはCPUのパッケージ温度を示す「CPU Package」と、消費電力の「CPU Package Power」を入れている。
CPU Package Powerの変化は期待通り。最初の短時間はPL2(106W)で動作し、その後きっちりPL1(55W)に推移していた。そして、その時の温度変化もそれに沿ったものになっていた。
PL2で動作している時の最高温度でも71度で、十分余裕がある。それも60度くらいからジリジリと70度に上昇しており、テストが終わると(グラフの後半)一気に60度台前半まで下がって、またじんわりと50度台半ばまで落ちていった。
クーラーはヒートシンクの体積が大きいほど熱を奪い、溜め込む力が強くなる。また、ヒートシンクは吹きつける風量によって発散する熱量が増えるが、Silent-Master PRO Z790-Mini/D4で採用しているNH-P1はファンレス仕様だ。ゆえに、PCケース内のエアフローのみで冷却するため、温度変化は緩やかになりがちだ。
CPU温度の上昇グラフを見ると、まさにその通りの動きと言える。この温度変化は上昇時だけではなく、テストが終わった後の冷却時も同様だ。テスト終了直後こそがくんと下がって入るが、それはCPUの負荷が減って追加の発熱が小さくなったことによるもの。その後はヒートシンクに溜め込まれた熱がじんわりと発散されていくため、緩やかに下降しているのだろう。
なお、PCケース内温度はだいぶ上昇していたようで、CINEBENCH R23実行中の天板は手で触れると熱く感じるほどになっていた。そこで、天板を開ければもっと冷えるのではないかと考えて試してみたが、結果はほぼ変わらず。PCケース内の熱は逃げやすくなるものの、今度はエアフローが悪化し、効率良くCPUクーラーから熱を奪えなくなったのかもしれない。
このことからも、Silent-Master PRO Z790-Mini/D4はかなり完成度の高い静音PCになっていることがわかる。もちろん、天板は開けている時よりも閉めている時のほうが静音性が高い。すべてが絶妙なバランスで成り立っていることに、あらためて驚かされた。
定番ベンチマークでもなんら問題なし
定番のベンチマークソフトを使った性能も簡単に見ていこう。まずは総合ベンチマーク「PCMark 10」から。このベンチマークソフトはブラウザーからオフィスソフト、動画編集まで、幅広いジャンルのソフトを動かし、その性能を測ってくれる。CINEBENCH R23はほぼCPUだけでスコアーが決まるが、PCMark 10はメモリーやSSDによっても大きくスコアーが変化する。
なお、すべてのテスト結果を踏まえた総合スコアーのほか、ビデオ会議やブラウザー利用をメインとした「Essentials」、オフィスソフトの性能を見る「Productivity」、ビデオや写真編集、CGレンダリングといったクリエイティブ用途の「Digital Content Creation」といった3つのサブスコアーもある。そのため、どういったジャンルの用途を得意としているのか、という点までチェックできる。
総合スコアーは8697とゲーミングPCとして十分な結果。ちなみに、Core i7-13700Kを搭載した「Silent-Master NEO Z790/D5」は8847スコアーだった。省電力版とはいえど、Core i9の底力を感じる結果と言える。
続いては3Dグラフィックス性能だ。こちらも定番となる「3DMark」でチェック。3DMarkには複数のテストがあるが、まずは現状最も重たいテストの「Speed Way」の結果を見てみよう。こちらはDirectX 12 Ultimateを利用しており、レイトレーシングやグローバルイルミネーションなどをふんだんに使用したテストになる。
スコアーは3176ptsで、GeForce RTX 4060 Ti搭載PCとしては平均的。ビデオカードへの負荷が高いテストだけに熱が心配だったが問題なく、スコアーへの影響もないようだ。
ほか、3DMarkにはレイトレーシングテストの「Port Royal」、DirectX 12ベースの「Time Spy」、DirectX 11ベースの「Fire Strike」など、多くのテストがある。これらの結果はグラフにまとめておいたので、性能比較などに役立ててほしい。
もう1つ、実際のゲームに近いベンチマークとして、「FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク」(以下、FF15ベンチマーク)も試してみよう。こちらは実際のゲームデータを使ったベンチマークソフトで、画質や解像度を変えてゲームの快適度を調べられる。
また、画質を「高品質」設定にした場合、ゲームベンチマークの中では比較的重たいものとなる。それだけに、このベンチマーク結果が良好なら多くのゲームが快適に動作すると判断できる。解像度はフルHD(1920×1080ドット)、WQHD(2560×1440ドット)、4K(3840×2160ドット)の3パターンで試した。
スコアーはフルHDが13040、WQHDが9369、4Kが5285となった。評価を見ると、フルHDは「非常に快適」、WQHDは「とても快適」、4Kは「やや快適」と、いずれの解像度でも遊べるレベルはクリアー。ゲーミングPCとしても十分高性能と言えるだろう。
まとめ:ふだんの環境音が気になるほど静かな極・静音PC
性能と静音性はトレードオフの関係にあり、基本的に静かなPCは性能が低いPCになりがちだ。しかし、Noctua製の巨大なファンレスCPUクーラーと静音PCケースファンを用い、そのエアフローが最適になるようにPCケースを吟味。そして、絶妙なPL1設定を見定め、静かなのに高い性能を実現したBTOパソコンがSilent-Master PRO Z790-Mini/D4だ。
その静音性は異次元のレベルと言っていい。「さすがにビデオカードのファンが回れば騒音はあるよな」と思い、FF15ベンチマーク実行中に耳をそばだてると、3メートルほど離れた位置にあった私物のNASの動作音のほうが気になったほどだ。つまり、目の前にある本機はふだんの環境音よりも静かだったということになる。
もちろん、PCの裏に耳を近づければファンの音はかすかに聞こえるものの、前面側にいればまず気がつかないレベル。従来のSilent Master NEOシリーズも静かだったが、本機は確実にそれを上回る静音性を実現している。静音性は重要だけれど、性能は犠牲にしたくないと考えている人なら、惚れ込むこと間違いなしと断言できる。そのぐらい、静音ゲーミングPCとして極まったモデルだ。
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