【実機レビュー】Google Pixel Fold、25万円スマホの活用術を徹底検証
ASCII.jp / 2023年6月27日 2時0分
グーグルは5月10日(現地時間)に開催した開発者向けの年次イベント「Google I/O 2023」にて、折りたたみスタイルのAndroidスマホ「Google Pixel Fold」を発表しました。筆者は、7月下旬の国内発売に先駆けて実機を試す機会を得ました。
高機能なカメラを搭載するスマートフォン、あるいはコンパクトなAndroidタブレットとして、エンターテインメントから仕事にも幅広く使い倒せる25万3000円のフラグシップモデルの価値を検証します。
すぐに馴染む使い勝手。5.8インチのサイズ感がいい
Google Pixel Fold(以降、Pixel Fold)は、Pixelシリーズ初の折りたたみスマホです。開くと約7.6インチになる有機ELディスプレーが内折りになるスタイル。約5.8インチの外側の有機ELディスプレーでも同じ機能がすべて使えます。開いた状態のディスプレーはアスペクト比が6:5と正方形に近く、電子書籍アプリを表示するとA6判の文庫版書籍を見開くような感覚で読めます。
ディスプレーを閉じた状態のサイズが約5.8インチと、約6.1インチのiPhone 14よりも高さはコンパクトで横幅は少し広め。片手持ちスタイルにも馴染みます。
開いた状態の本体厚みは、グーグルが「最薄レベルの折りたたみ式スマートフォン」をうたう約5.8mmです。閉じても約12.1mmと十分にスリムで、折りたたんだ際にふたつのディスプレーの間に生まれるギャップが最小限になるデザインとしています。ただ質量は約283gあるので、生地が薄いジャケットやスポーツウェアのポケットに入れると少したるみます。
プロセッサはPixel 7シリーズと同じ、グーグルが独自に設計するカスタムチップのGoogle Tensor G2と、セキュリティ用のコプロセッサであるTian M2を搭載しています。動作は全般にきびきびとして安定感があります。グーグルは内蔵バッテリーによる連続駆動時間が「24時間以上」(バッテリーセーバーはOFFの状態)であるとしています。筆者がふだんスマホを使う感覚で、ウェブを見たりテザリングをしたり、動画や音楽コンテンツの視聴も合間に挟みながら1日通して使ったところ、フル充電の状態から24時間経過時のバッテリー残量は17%でした。
Pixel 7 Proに迫るカメラ機能
カメラは外側・背面にトリプルレンズのメインカメラ、外側・前面(ディスプレー側)には顔認証にも使う9.5メガピクセルのシングルカメラ、内側にもシングルレンズ仕様8メガピクセルのインナーカメラがあります。
それぞれのカメラはレンズなどハードウェアの仕様が異なっていますが、夜景モードや消しゴムマジックのようなAI処理を伴うコンピュテーショナルフォトグラフィーの機能が共通に使えます。
Pixel Foldのメインカメラの実力は、Pixel 7シリーズのフラグシップモデルである「Google Pixel Pro」にも肩を並べるレベルです。シリーズの中でPixel 7 Proだけが搭載する「マクロ撮影の機能がない」ことや、「超解像ズームの倍率はPixel 7 Proの方が高い」などの違いはあります。3つのレンズとイメージセンサーの仕様も少しずつ違いますが、撮れる写真の出来映えについてはPixel 7 Proに対するPixel Foldの力不足を感じることはなさそうです。
Pixel Foldのカメラアプリには、折りたためる本体をノートパソコンのようにテーブルなどの上に置いて、片側に撮影プレビュー、もう片側にシャッターアイコンなど操作パネルを表示するカメラアプリの「テーブルトップモード」があります。このモードを応用すると、三脚なしでもスマホをテーブルなどの上に置いて、手ブレを発生させることなく暗い場所も明るく撮れます。今回のテスト期間に然るべき場所で試せていませんが、Pixelシリーズの天体撮影モードを併用すれば夜空の星などもきれいに撮れそうです。
画面のロック解除や購入の承認などに使う生体認証機能として、Pixel Foldは指紋認証と顔認証が使えます。顔の登録とロック解除には外側前面のカメラを使います。インナーカメラは顔認証に使えないので、本体を開いている状態の時には本体側面の電源ボタンに内蔵するセンサーで指紋認証を行うか、またはPINコードをタップします。顔認証、指紋認証の精度やスピードの体感はPixel 7 Proと変わりません。
ダイナミックな動画視聴。ゲームやビデオ通話も快適
本体を開いた状態で、内側7.6インチの大きなディスプレーでダイナミックな動画視聴が楽しめました。
Pixel Foldに最適化されているYouTubeアプリの場合、本体を縦に構えたままディスプレーを開くと、左側上半分で動画を再生、その下にコメント、右側にチャットを表示といった具合に整理されたビューモードが起ち上がります。動画を拡大表示にすると、画面中央にランドスケープ表示になって上下に黒帯が入るビューモードに切り替わります。
本体を横に構えた状態でディスプレーを開くと、上側の画面に動画を表示します。そのまま全画面表示にすると上下に黒帯が入り、動画が画面の中央に移動します。本体を閉じると外側の5.8インチのディスプレーに動画が全画面表示になり、グーグルが「テントモード」と呼ぶ視聴スタイルに切り替わります。YouTube以外にもNetflixやAmazonプライムビデオなどのアプリを試しましたが、同じビューモードが使えました。
ゲームアプリはレーシング系の「Asphalt9:Legends」やパズル系の「Candy Crus Soda Saga」、「Minecraft 」などがPixel Foldによる全画面表示にいち早く対応しています。筆者がよく遊んでいる野球ゲームの「MLB:9イニングス」シリーズもPixel Foldの内側全画面表示で楽しめました。
Pixel Foldのディスプレーは内外側ともに、画面のリフレッシュレートを自動的に60Hzから最大120Hzまでコンテンツに応じて変更する「スムーズディスプレー」に対応します。ウェブサイトや電子書籍のページをスクロールした時の文字の表示も滑らかになる効果が得られますが、ディスプレーが消費するバッテリーの容量は増えるので、適材適所で使いたい機能です。
Zoomによるビデオ通話は、内外側どちらのディスプレーとカメラによる組み合わせにも対応します。本体を閉じて、9.5メガピクセルのデュアルPDイメージセンサーを搭載する外側前面のカメラを使った方が画質は良好でした。背面カメラを使ってセルフィを撮る要領と同じ使い方ができればなお良かったと思いますが、テスト時点ではGoogle Meetもそのような使い方に対応していませんでした。
Pixel Foldで「いい音」を楽しむ方法
Pixel Foldは、本体に横向きのステレオスピーカーを搭載しています。音の出口になるスリットが、デバイスを縦に構えた状態で上下に向いて配置されているので、コンテンツを鑑賞する際には本体を横向きに構えて開いた方が、より明瞭なステレオ感と立体的な音の広がりが得られました。
ただ、左右スリットの上下配置が少しズレているためか、音の定位が定まらず迫力不足に感じられる場合もありました。Bluetoothオーディオの高音質コーデックであるLDACに対応するスピーカーやヘッドホンなど、外部のワイヤレスオーディオを併用した方が良い視聴環境が構築できるかもしれません。
Pixel Foldは、Pixel 7シリーズと同様にグーグルの空間オーディオコンテンツの再生に対応します。Google Pixel Budsをペアリングするとダイナミックヘッドトラッキングも楽しめます。またBluetooth LE Audioも、対応するヘッドホンやイヤホンとの組み合わせで使えるようです。
5G常時接続&防水仕様のAndroidタブレットにもなる
Pixel Foldは「コンパクトなAndroidタブレット」として筆者の期待を超えるデバイスでした。内側の画面が大きいので、本体をスタンドに立ててBluetoothキーボードとマウスをペアリングしてみたところ原稿の執筆作業にも十分に使えました。
本機には大きな画面のデバイスに最適化したAndroid OSが搭載されています。内側7.6インチの画面はホーム、またはアプリの画面を表示中に下から上にスワイプアップすると下側にタスクバーを表示します。
ここで「分割」を選ぶと、ふたつのアプリを片方ずつの画面に表示できます。例えばPixelデバイスの「レコーダー」アプリで音声をテキストに起こしながら、エディタアプリでインタビューのメモを取るといったマルチタスクがとても快適にこなせます。
同様の使い方は6月20日に発売を迎えたGoogle Pixel Tabletでもできますが、Pixel Foldの方が仕事にも使えるAndroidタブレットとして優れている点がふたつあります。ひとつは5G対応の単体でインターネットに常時接続ができること。もう一つはIPX8相当の防水対応であることです。
筆者はリラックスしながら入浴中に、企画のネタやレポートの構成が天から降りてくることがよくあります。これまでは入浴中にスマホでメモを書き留めて、風呂あがりに草稿を書いていました。防水対応のワイヤレスキーボードを入手すれば、長風呂しながら原稿を下書きしてGoogleドライブに保存したり、メールを送ったり。Pixel Foldで仕事もできます。
家族には怒られそうですが、いよいよ筆者も折りたたみスマホの有用性に目覚めました。Foldの夜明けの到来です。
Pixel Foldは「スマホ以上のことができる」スマホ
筆者がPixel Foldにひとつ不満があり、注文を付けたいところは手書き入力用のスタイラスペンがないことです。S Penに対応する「Galaxy Z Fold4」との間に経験値の差を感じるポイントです。
ペンがあれば立ったままのインタビューの際にメモを書き留めたり、イラストの下描きなどクリエイティブな用途にも使えます。メモ帳サイズの「電子文具」としてPixel Foldの魅力がもうひとネタ加わります。なのでグーグルに懇願します。Pixel Foldに最適化したスタイラスペンをぜひ発売してください。
折りたたみスマホは大きな画面を活かした動画ビュワーや電子書籍的な使い方ができるだけでなく、外部アクセサリーを活用すればタブレットやノートパソコンに置き換わるデバイスにもなれそうです。GoogleウォレットにSuicaなどの電子マネー、クレジットカードやポイントカードを登録しておけば、コンパクトなPixel Foldは電子ウォレットとしても大車輪の活躍ぶりをみせてくれることでしょう。
Pixel Foldは確かに高価なデバイスですが、マルチな使い方ができる「まったく新しいスマホ」であると考えれば25万3000円の価格に相当する魅力を備えていると思います。
筆者紹介――山本 敦 オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。取材対象はITからオーディオ・ビジュアルまで、スマート・エレクトロニクスに精通する。ヘッドホン、イヤホンは毎年300機を超える新製品を体験する。国内外のスタートアップによる製品、サービスの取材、インタビューなども数多く手がける。
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