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中国がほぼ毎週ロケットを打ち上げているワケ

ASCII.jp / 2023年6月30日 9時30分

6月15日、打ち上げ成功を報じた中国の宇宙ベンチャー企業、長光衛星技術有限公司

 2023年6月15日、中国の主力ロケット「長征2号D」が41機もの地球観測衛星「吉林1号」シリーズの打ち上げに成功し、中国の衛星同時打ち上げ数の記録を達成した。各国の衛星多数打ち上げとしては米国の143機(2021年/スペースX)、インドの104機(2017年)という記録があるため、まだその数には及ばないが、そのペースはぐいぐいと上がってきている。

 ロケット1基あたりの衛星数だけではない。打ち上げ回数そのものも中国は怒涛の勢いだ。イーロン・マスク率いるスペースXが毎週のように大量のStarlink通信衛星を打ち上げていることは知られているが、2022年の実績をみると米国の78回に対して中国は64回。ほとんど米国に迫る勢いで、単純計算すると約1週間に1回以上の頻度となっている。

 なぜこれほど多頻度のロケット発射をもくろみ、また可能なのか。2023年の上半期がまもなく終わろうとしている今、現在の中国が掲げる打ち上げ目標の「消化率」はどうなっているのか、中国の公式レポートからみてみよう。

2022年、軌道投入に成功した宇宙機は全188機

CASCの年次報告書より

 2023年1月に発表された中国航天科技集団有限公司CASC(中国宇宙開発の中心となる国営企業)の年次報告書によれば、昨年2022年に実施した全64回の打ち上げのうち、CASCによる中国産主力ロケット「長征」シリーズの打ち上げが54回、そのほかの国営企業が10回となっている。目的とする軌道の内訳では、高度2000kmまでの地球低軌道(LEO)が59回とほとんどを占めており(うち地球低軌道の2回は実験機のため失敗)、5回が静止トランスファ軌道(GTO)だ。

 さらに、軌道投入に成功した宇宙機の内訳をみると、全188機のうち通信衛星が27機、地球観測衛星が105機、科学技術試験衛星が50機。残りの6回は、ほぼ完成した中国独自の有人宇宙ステーション「天和」へと宇宙飛行士を送っている。通信衛星だけでなく、地球観測衛星の数が飛躍的に伸びている背景には、静止通信衛星の小型化、地球観測衛星のデータの利用拡大、中国独自の有人宇宙探査、月・新宇宙探査の進展、民間宇宙活動の拡大などが挙げられる。

 なぜこんなに次々とロケットを打ち上げることが可能なのか。報告書の「展望」で強くうたわれているのが「中国共産党の二十大精神の全面的な実践」だ。製造強国、品質強国、宇宙開発強国、交通強国、インターネット強国として「『デジタル中国』の建設を加速させる」としており、今後も打ち上げ回数の加速を目指すという。現に2023年は、年間を通じて70回近くの打ち上げミッションが計画されている。

中国の宇宙開発
中国共産党第20回党大会では、宇宙大国の建設を加速する戦略計画を策定

宇宙技術の発展はチャレンジの"数"が肝となる

 もともと中国は1970年に日本に続く5番目の人工衛星自力打ち上げ国として宇宙開発を始めた。「長征1号」と技術試験衛星「東方紅」以来、これまでの経験は主力ロケット「長征」シリーズだけで475回以上。技術の基礎は、米国を追われた中国宇宙開発の父、銭学森(1911年ー2009年)が持ち帰った技術や旧ソ連のロケット・衛星技術がベースにあるが、それにも増して宇宙技術の発展はとにかく"数"が重要だといわれている。記憶に新しい日本のH3ロケット試験機1号機のように、ロケット打ち上げにおいては、1回目から10回程度までは技術的にどうしてもリスクが生じやすく、数回成功したところでまさかの失敗が起きる「6回目のジンクス」という言葉があるくらいだ。

 また、それを支えているのが、中国に4ヵ所+αほど存在する打ち上げ射場だ。内陸部では、内モンゴル自治区にある中国最初の射場「酒泉衛星発射センター」、主に南北方向の打ち上げを担う山西省の「太原衛星発射センター」、静止衛星の打ち上げを担う四川省の「西昌衛星発射センター」、巨大な「長征5号B」の打ち上げに使用される海南島の「中国文昌航天発射場」がある。さらに、黄海上で海上発射が行われることもあり、国土が広く射場が多様な中国は、準備期間を分散させて、同じ日に別の射場から、あるいは立て続けに打ち上げを実施することができる。

酒泉衛星発射センターの衛星写真。2022年の打ち上げ実績は25回、2023年の実績は6月現在で14回
大原衛星発射センターの衛星写真。2022年の打ち上げ実績は14回、2023年の実績は6月現在で4回
大西晶衛星発射センターの衛星写真。2022年の打ち上げ実績は16回、2023年の実績は6月現在で4回
中国文晶航天発射場の衛星写真。2022年の打ち上げ実績は6回、2023年の実績は6月現在で2回

 しかしながら、失敗を恐れず、究極の統合試験である「打ち上げ」を続けることでしか得られない知見というものがあり、475回という数字は中国がひたすらそれを実行してきた証しでもある。もちろん、国内に落下させたとか、宇宙ステーション建造に用いた超大型ロケット「長征5号B」を立て続けに制御せずに落下させ、国際的な批判を浴びる等といったあつれきをそのままにしているという見過ごせない事情はあるものの、当面は拡大路線が続くだろう。

6月20日現在、打ち上げ回数目標の70回に対して消化率は35%

 先にも述べた通り、中国は2023年に70回以上の打ち上げを目指しているが、6月20日の時点で目標の70回に対して実績数による消化率は35%ほど。また、6月末にも打ち上げが予定されているので、成功すれば消化率37%となり、昨年の実績を超えるとみられる。

 上半期の時点で35%という数字はやや少ないように感じるが、2022年の実績でも、6月末の時点で64回中22回(34%)だった。12月には、12月7日、8日、9日、12日、14日(×2)、16日、27日、29日と実に9回の打ち上げを行っているため、今年も8月以降から増え始めて12月が最多となるのではないかと予想される。

 宇宙機ごとの目標を見てみると、有人宇宙船の打ち上げと宇宙ステーション滞在クルーの交代、地上への帰還ミッションが2回予定されていて、このうち1回は5月30日の「神舟16号(長征2号F)」で既に実現した(2回目は10~11月頃を予定)。高スループット通信衛星「中星26(長征3号B)」は2月23日に、液体燃料ロケット「長征6号」シリーズの改良型「長征6号C」初打ち上げを6月20日に実施。レーダーで昼夜を問わず地表を観測できるSAR衛星網の拡大を目指した衛星も、3月末に打ち上げを成功させた。

 さらに中国は、ハッブル宇宙望遠鏡に匹敵する宇宙望遠鏡を宇宙ステーションと同じ高度で周回させ、いざとなれば有人観測や軌道上の機能をアップデートするといった大きな目標を持っている。当初は2023年に打ち上げが予定されていたが、今年の目標に明記されていないことから翌年以降にずれ込むようだ。そうしたいくつかの開発のズレはあるものの、数字で見ても中国の宇宙開発の勢いがすさまじいことがわかる。

製造強国、品質強国、宇宙開発強国、交通強国、インターネット強国を目指す中国

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