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電動キックボード免許不要に 事故は増加傾向、業界は安全対策を

ASCII.jp / 2023年7月3日 7時0分

電動キックボード免許不要に 事故は増加傾向、業界は安全対策を
写真はイメージ Gotrax | Unsplash

 電動キックボードに関して改正道路交通法が7月1日に施行。これまで原付一種扱いだった電動キックボードの一部車両が新たに「特定小型原付」に指定されて、車体の大きさや最高時速などの基準を満たした車種については、免許なし、ヘルメット着用も任意で運転できるようになりました。

 特定小型原付指定の電動キックボードは、車道に加えて自転車専用レーンも通行可能。最高時速6km以下、最高速度を示すランプを点滅させて走行するなどの条件を満たせば、歩道も走行可能です。年齢は16歳以上、ナンバープレート着用と自賠責保険加入必須など条件付きではあるものの、普及にはずみがつきそうです。

 一方で、懸念されているのは安全面。海外では安全面への懸念から「電動キックボード離れ」の動きが起きていると言います。今回の法改正にはどんな意味があり、改正後はどんな点に注意すればいいのか。電動キックボードなどのパーソナルモビリティに詳しい、交通コメンテーターの西村直人さんに聞きました。

買い手を失った電動キックボードが日本に

── あらためてなぜ今回、道路交通法が改正されることになったんでしょう?

 公的に言えば「移動体の自由、多様性」ということですが、真意を言えば外圧に負けたとなるでしょうね。事故や転倒が増えていることから、世界中で電動キックボードの活用を縮小する方向になっています。

── 世界で電動キックボード離れが起きて、買い手を失った電動キックボードが日本に向かった格好というわけですね。いつごろの話ですか?

 コロナ禍で、公共交通機関に乗らない「パーソナルな移動」ということから電動キックボードに注目が集まったんですが、その後ですね。たとえば欧州の石畳と電動キックボードの相性はとても悪い。小さなタイヤが溝にハマり、ハンドルが取られ転倒リスクが高くなるからです。でもこれは乗り物が悪いのではなく、たとえばトラムの線路が敷設されている道路と共有するなど、インフラとの整合が図りにくく、結果的に乗るのが難しいからやめるという方向が多いと聞きます。この流れは欧州だけでなく、たとえばアジア地域の国々では「特定道路のみで使用する」という方向になっています。たとえばシンガポールは「平坦な特定区間で乗りましょう」という形で規制をかけていますね。

── 公道を走行する上で安全面の懸念があるということでした。電動キックボードと、いわゆる原付一種のスクーターは安全性としてどこが違うんでしょうか?

 二輪車というものはタイヤの直径と体幹で安全性が担保されるものなんですが、電動キックボードはほとんどのタイヤ径が8インチ~10インチ(1インチ/2.54cm)。8インチだと約20cmです。安定して走れるのは半径の3分の1までの高さと言われているので、これだと約3cmぐらいの高さまでしか安定して走れないわけです。

── そんな中、日本では電動キックボードに関しての改正法が施行されたと。メディアでは規制緩和に注目され、「免許不要になると危険ではないか」と懸念されていたわけですが、そもそも安全面に懸念があったから法律を改正して規制することになったという側面もあったわけですか。

 その通りです。危険がないのなら道路交通法で縛る必要はないわけですから。電動キックボードに乗った経験のある白バイ隊員との会話のなかで「これはやっぱり危ないよね」という話になった。現行法の中で、みんなに納得してもらえる落としどころを探ったというのが、今回の改正法でしょう。

── 安全性を担保するために、免許不要でありながらも様々な条件を付けたと。

 「2段階右折しなきゃいけない」とか、あの辺りの条文は警察庁が一所懸命に言ったんじゃないでしょうか。ただ、特定小型原付の説明にある「運転に関し高い技能を要しない」というのは大きな誤解があり、事実ではありません。一度乗ってみるとわかりますが、体幹がしっかりしていないと乗れません。それでもその条文を含めておかないと成立しないために入れられたもだと思います。

── 運転に関する条件を読んでみると、いわゆる免許講習を受けずに乗るのはかなり難しいのではないかと感じました。

 そうなんですよ。利便性と言いながら規制でガチガチにしている。アクセルとブレーキを同時に踏むようなことをしているわけです。「こんなに厳しいんだったら乗るのやめた」となることもあるでしょう。警察庁としては事故がなくなればいいわけですし。50〜60年かけて安全性を積み上げてきた原付一種というものがあるわけだから、そっちに行ってほしいという気持ちもあるんじゃないかと想像しています。また、特例特定小型原動機付自転車として、特定小型原動機付自転車に、さらに制約を設けたカテゴリーも今回、同時に新設されています。

電動キックボードは自動ブレーキの対象外

── 実際、電動キックボードの事故は多いんでしょうか。

 ここ3年間で増えましたね。そのうち8割が東京、大阪、神奈川の大都市圏で、第1当事者は四輪車が42%。問題のひとつはいわゆる自動ブレーキが電動キックボードを現時点では認識できないことですね。衝突被害軽減ブレーキ、いわゆる自動ブレーキは新型の乗用車に対して2021年11月から法律で義務化されましたが、現時点で法規要件に電動キックボードは入っていません。もともと目的関数が入ってないわけで、センサーが電動キックボードを認識してもブレーキをかけるというプログラムにはなっていないんです。

── 商用車との事故も増えそうです。

 私は過去、商用車の開発ドライバー職を拝命していましたが、バスや大型トラックの運動性能から考えて、電動キックボードが車道にぱっと出てきたら避けるのは難しいです。バスも大型トラックも乗用車の8割くらいの急ブレーキがかけられますが、トラックの場合は積荷が崩れて賠償責任を負うリスクがあり、路線バスであれば車内に立っている人が転んでしまう車内事故の可能性がある。こういった理由からも、今後7月1日以降は望まない加害者、望まない被害者が増えていくだろうと予想されます。自動車保険を扱う保険会社は「支払額が増えそうだ」と言っています。専門用語では「社会的損失度が上がる」と言うんですが、事故が増え、支払額がかさめば将来的には自動車保険も上がる可能性がありますよね。

── 基本的にはドライバーが気をつけるしかないんでしょうか。

 ドライバー側に言えることとしては、ドライブレコーダーを買い替えるとき、古いものを歩道側に向けて残してもらえたらどうかということですね。新しいドラレコを付けるなら、せめて360度がわかるものにしてはどうかと。

── いざというときのために証拠能力を持っている必要があると。

 ただ一方でメーカーの肩を持つわけではないですが、電動キックボードのいいところもたくさんあるんです。小さくて軽いから置き場所を取らないし、あと乗ってないときも、片手というわけにはいかないけど、簡単に移動ができるから、家の中にも入れられたり、集合住宅でも使い勝手が良かったりする。

 それにこの状況は今に始まったことではなく、ホンダがエンジンを装着した自転車「バタバタ」を出したときも、当初は安全な乗り方の周知がなされず、結果的に事故が増えた。だからホンダは1970年、安全運転普及本部を設立したわけです。メーカー主導で正しい使い方を教えた。ですから、この先は電動キックボードなどのメーカーがユーザーと一緒になって正しい乗り方の啓発をしていただければいいと思います。たとえば、まっすぐ走らせるためには足元ではなく遠くを見る。スマホや傘を片手に運転しない。ブレーキをゆっくりかけるなどです。

 そしてこれから電動キックボードを買おうと思っている人は体験できる場所を見つけ、まずは一度、ヘルメットを着けた状態で乗ってみてもらいたいですね。

メーカーなど業界の取り組みが重要に

 「キックボード法」とも呼ばれる、7月1日施行の改正道路交通法。規制緩和と思いきや、安全面においては厳しい方向になっているということに驚かされました。私自身も電動スクーター(原付一種)に乗っていますが、体幹が重要でバランスを取るのが意外と難しく、特に低速域ではふらつき、転びそうになったこともあります。西村さんの話にもありましたが、今後はメーカーを中心とした電動キックボード業界がいかに安心・安全な交通社会を作っていけるかが命題となりそうです。

 

書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)

1983年生まれ。6歳児と2歳児の保護者です。Facebookでおたより募集中。

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