パナソニック インドに受け継ぐ“日本のものづくり”
ASCII.jp / 2023年7月5日 19時0分
スイッチやコンセントなどの電材を扱うパナソニック エレクトリックワークスはこのごろ海外事業に力を入れています。22年度の売上高は2435億円で、24年度は2900億円目標。重点3ヵ国とされるインド、ベトナム、トルコのうち7割を占めるのがインドです。
同社では16年前から、インドの工場に”日本のものづくり”を伝承しています。ホコリだらけで薄暗かった工場を明るく清潔にし、最新の設備を入れることで、高い生産能力を持つメガファクトリーとして成長させてきました。
さらに安全指導や、託児所の整備など“日本クオリティ”の労働環境を整えることで従業員のやる気もアップ。他社の追随を許さずシェアを拡大しています。7月4日、同社がメディアに公開したハリドワール工場を取材しました。
「完成品にカレーがついていた」牧歌的な工場を近代化
ハリドワールは、首都デリーからクルマで4〜5時間の距離にある工業団地。「シヴァ神の門」という意味をもつヒンドゥー教の聖地でもあり、移動中の車窓からは聖なる川、ガンジスの水を汲んできた巡礼者の姿が見えました。
エレクトリックワークスがインドの4拠点に構えている7つの工場のなかでもハリドワールは最大級のメイン工場です。作っているのは配線器具とブレーカー。金型作りから始まり、組み立て、検査、梱包、出荷まですべてやっています。
ハリドワール工場は金型から部品を作る「ユニット1」、部品から製品を組み立てて発送する「ユニット2」に分かれていて、敷地面積はそれぞれ4万6823平方メートル、4万平方メートル。従業員は合計4800人という巨大な工場です。
エレクトリックワークスがインドに進出したのは2007年。地元トップシェアの電材メーカー、アンカー(ANCHOR)を買収したのが始まりです。当時から稼働していたのがハリドワール工場ですが、今とは品質がまったく違いました。
インド電材事業トップの加藤義行氏によれば、当時の工場内はほぼ「子どもが砂遊びをするような状況」。金型加工の現場も非常に暗く、作業台もなし。従業員がお昼ごはんに持ってきたカレーを食べ、その手で組み立てをするものだから完成品にカレーがついていたことも当時はあったと聞きました。
そんな牧歌的すぎる状況から5年かけて製造ラインを整え、セル生産を実現。最新鋭の金型加工設備を導入しました。さらに3年かけて自動組み立てラインも導入して、量産品をより効率的に作れるように改良してきました。結果、生産能力は倍以上に強化され、今では月産3500万個(年産4億2000万個)になっています。
日本国内のメイン工場(津工場)で製造している2口コンセント(ダブルコンセント)が月産80万個なので、比べものにならないレベルの生産能力ですね。インド国内で作った製品は中東や東アフリカなど他国にも展開するため、高い生産能力が求められている側面もあります。
人気製品は「ペンタモジュラー」インドに行ったら探してみて
ちなみにハリドワール工場で作られている電材の人気製品は、スイッチやコンセントとON/OFFスイッチを組み合わせた「ペンタモジュラー」。
ON/OFFスイッチがあるのはサージ対策。インドでは220〜240Vと電圧が高いので、そのまま電源につなぐとアダプターにダメージがいってしまうことも。出張でインドに行ったときは、スイッチをOFFにした状態でコンセントにプラグをつなぎ、ONにして使うという方法を知っておいたほうがいいです。
(とはいえスイッチのON/OFFがわかりにくいので、日本のスイッチよろしくホタルを入れるか、印でもつけておいてほしいものですが)
パーツ成形は「全自動」、組み立て工程は「半自動」
実際に工場内を視察しました。ユニット1とユニット2はそれぞれ別の場所にありますが、どちらもとにかく大規模です。
プラスチック部品から始まるユニット1はほぼすべての工程が機械化されています。樹脂成形部門では射出成形機がいくつも並び、ガラガラとパーツが吐き出されています。
金属加工部門ではやはりプレス機がいくつも並び、ロール状になった金属からパーツが作られていました。
金型加工の作業スペースは、当然ですが明るく、作業台もピカピカに磨かれています。工場内は雨期ということもあって全体的に厶ッとした暑さがありましたが、作業スペースは空調がしっかり効いて、作業に集中しやすくなっていました。逆に2007年当時はよく金型作れてましたよね……。
ユニット1にはたくさんの機械が並んでいる一方、製品を組み立てるユニット2にはたくさんの女性が並んでいました。一部の工程は自動化しているものの、人件費と設備投資のバランスを考えると、まだ人間が組み立てたほうが安いという部分もあるようです。
ちなみにユニット1とユニット2を合わせて製品の組み立てに関わっているのは2900人程度ということ。凄まじい数です。
とはいえ組み立て工程でも自動化は進んでいて、50人に1台という単位で機械が導入されています。ユニット1で作った部品をパーツフィーダーが自動供給し、自動的にブレーカーのパーツなどが作られる工程がいくつも見られました。
機械の向こうで人間が同様の作業をしている場所もあり、過渡期を感じます。
国内工場(三重・津工場)と同じように1工程ごとの検査工程もありました。内側で部品が外れてカラカラ言わないか振って確かめたり、スイッチの押し心地が狙いどおりになっているか確かめます。
最終工程では、箱詰めした製品を出荷ラインに送るための自動運搬車も稼働。ほとんどの工程が「半自動化」されています。
なお雨期のインドは停電が多く、取材時も何度か停電しましたが、自家発電機を持っているため自動生産ラインが止まってしまうことはないそうです。
従業員に好評な託児所と「安全道場」
工場視察後、女性が働きやすいように作られた託児所も見ることができました。
当日は10人の子どもを5人の保育士さんが見ていました。部屋は清潔でおもちゃや絵本などが並び、日本の保育園や児童館と遜色のないレベル。従業員の数からすれば小規模ですが、とてもていねいに作られていました。
もうひとつ見たのは、安全な作業を学ぶための教室「安全道場(セーフティ道場)」。作業現場のヒヤリハット、現場猫案件を学べるようになっています。工場ではQCサークルやWITサークルといった品質向上のためのクラス活動も開かれていて、従業員同士の学びのために場所を開いているところがあるそうです。
社内制度を含めた労働環境は他の工場と比べても良いそうで、同じような日系工場に比べても従業員のやる気アップにつながっているそうです。
ひととおり工場の視察を終え、17時になったとき、サリーをまとった女性たちが列をなし、相乗りタクシー(リキシャー)で帰路につく姿が見られました。きらびやかなサリーの色合いの美しさとともに、職場としてのホワイトさに感心しました(もともとインドにあまり残業文化がないというところもあるようですが)。
インドで“日本クオリティ”が実現できる凄さ
ハリドワール工場を見てきて、もっとも印象的だったのは清潔さです。周囲はぼろぼろの田舎町。未舗装の道も多く、日干しレンガの家がほとんどというなか、日本クオリティと言っても差し支えないピカピカの工場がしっかり稼働していることに驚かされました。停電も多く、時間にルーズと言われるインドにあって、しっかり月産ペースを安定させられていることにも感心しました。
海外電材事業において、その国で作ったものをその国で売る、“地産地消”を目指すエレクトリックワークス。そのベースとなるものづくりの基礎は16年ごしで日本からしっかり受け継がれているようです。
(※お詫びと訂正:初出時にEBITDAとしていたのは売上高の誤りでした。関連した項目を訂正するとともに、ご迷惑をおかけしたことをお詫びします 6日23時)
書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)
1983年生まれ。6歳児と2歳児の保護者です。Facebookでおたより募集中。
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