両耳に高性能DAPを入れる感覚、iFi audio「GO pod」を試す
ASCII.jp / 2023年7月9日 9時0分
4月に開催された「春のヘッドフォン祭」に合わせて、iFi audioのBleutoothアダプター「GO pod」の国内発売が発表された。そのときはFitEar MHシリーズ製品とのバンドル販売のみとされていたが、単体販売が決定した。7月7日に発売済で、価格は5万9400円だ。FitEar MHシリーズとのバンドルは終了する。ちなみにバンドル版を先行販売するのは海外と同様で、まずはハイエンドのイヤホンと組み合わせた状態で音を確かめてほしいという意気込みを表しているようだ。
GO podは、有線イヤホンを完全ワイヤレスイヤホン化できる製品だ。手持ちの有線イヤフォンのケーブルを外し、イヤーループでつなぐことになる。イヤー・ループは交換式で、2ピン端子でアダプターに差し込む形式になっている。MMCX、IEM 2pinの2種類の端子に対応するイヤー・ループが標準で付属しているので、使用できるイヤホンの選択肢が広い。ケーブル交換ができないイヤホンでは使用できないが、GO podは基本的に高性能イヤホンとの組み合わせを想定してるので、あまり問題にはならないだろう。なお、Pentaconn、T2、A2DCの端子を備えたイヤー・ループも販売する予定としている。
多彩な高音質コーデック、アンプとDACは独立仕様
GO podは、ハイエンドイヤホン向けのBluetoothアダプターと言える。実際にGO podは高音質設計が徹底されている。通常の安価なワイヤレスアダプターであれば、Bluetoothチップメーカーが用意する汎用のSoCをそのまま利用するが、GO podは独立したシーラス・ロジック製のDAC ICや独自設計のアンプ回路を搭載する。つまり、小さなDAPが中に入っているようなものだが、アンプ回路の設計がバランス構成になっている点には驚かされる。
また、GO podでは装着したイヤホンのインピーダンスを自動検知し、16Ω/32Ω/64Ω/300Ωの4段階に分けて、それぞれ最適なパワーで鳴らすという。iFI audioの独自技術「IE Match」に由来する機能だろうか。いずれにせよ、かなり凝った設計がなされている。
また、GO podではワイヤレスイヤホンとしての機能も充実している。クアルコムのハイクラスSoC「QCC5144」を採用し、主要なBluetoothコーデックに加え、LDACやLHDC、aptX HDなどのハイレゾ系のコーデックにも対応している。LHDCは日本オーディオ協会のハイレゾワイヤレスロゴを取得したコーデックだ。GO podは「Snapdragon Sound」の認証も受けている。
ここでのポイントは、クアルコムのSoCを使用しているのに、LDACやLHDCにも対応している点だ。これはQCC5100シリーズが持つ、SoCのライブラリー拡張機能を使用し、ソフトウェアで実現しているのだと考えられる。クアルコムのTrueWireless Mirroringに対応し、左右独立の伝送ができる。
GO podには専用アプリが用意されていて、デジタルフィルターの選択ができる。選べる中では「Phase CompensationFilter(位相補償フィルター)」が音質的に優れている。また、「低遅延モード」も用意されている。ハイエンドイヤホンでゲームをしたいという人も増えている。
Pathfindeとの組み合わせでは音場の広さや明晰さを感じる
GO podのデモ機を先行して使用できたのでインプレッションをお届けする。
ケースはワイヤレス充電に対応。高価な製品らしく、宝石箱のような内装でライトアップまでするのがユニークで面白い。反面、サイズは大きめでジーンズの前ポケットにはなんとか入るというくらいの大きさだ。机の上に置いて使うのに向いている。なので持ち出して使用することもできる。
本体はタッチセンサーによって操作する。軽量なので耳への負担は少ない。
いくつかのイヤホンを試してみた。もっとも音質の高さを実感できたのは、マルチドライバーのハイエンドイヤホンであるAstell & Kern「Pathifinder」だ。この組み合わせでは、ワイヤレスイヤホンで聞いているとは思えないほどの“鮮明な音”に驚く。音空間がとてもクリアで晴れ上がっていて、音楽とリスナーの間にベールのようなものがほとんど感じられない。高価なハイエンドDAPに相当する鮮明さだと思う。
高域のベルの音が突き抜けるように明瞭であるのと同時に、低音のウッドベースの響きはとても重みを持って感じられる。こうしたPathfinderの持ち味が余すところなくダイレクトに伝わってくる。GO podのDAC性能の高さもさることながら、内蔵するアンプ性能がとても高く、イヤホンを十分に駆動しているのが感じられる。バランス駆動を実現しているからだろう。
DAPで聴いていてもあまり感じられないような高いレベルの空間再現力も特徴の一つだ。楽器の音の三次元的な広がりを感じさせる包まれるような立体感にちょっと感嘆する。高性能イヤホンで聴いているので、左右の特性マッチングが高いのも理由の一つだが、GO podのPhase compensationデジタルフィルター機能が効いているのかもしれない。位相特性を向上させるものなので、空間再現力も高まるだろう。また、完全ワイヤレスイヤホンは、左右の回路が独立している。もとよりオーディオで言うところのデュアルモノの形態を有しているので、こうした高性能機材によりそうした素性の良さが発揮できているとも言える。
ケーブル選びが難しいSimphonio VR1も手軽に楽しめる
次にシングルダイナミックの高性能イヤホンで使うためにイヤーループを2ピンに交換して、Simphonio「VR1」に交換した。
VR1はハイエンドのシングルダイナミックイヤホンだ。セラミックを積層させて形成した14mmと大型のフルレンジ振動板という研究所レベルの技術が使われている。このイヤホンはケーブルなしで販売されていたが、実際に合わせるケーブルが難しくなかなか使う機会がなかった。その音性能を十分に発揮するようなハイエンドケーブルは8芯タイプになってしまい、太く重く嵩張って外で使用するには向いていないのだ。
ケーブルのいらないGO podで使用すると、手軽にその高い性能が発揮できるのが面白い。ベースの重さや深さがワイヤレス機器としてはではなく、ハイエンドDAPで聞いているような高いレベルを実現している。ここまでVR1の性能を引き出せるのはハイエンドDAPでも限られた機種になってしまうだろう。
こうしてじっくり試してみると、ヘッドフォン祭のファーストインプレッションで書いたように「ハイエンドDAPと比べても遜色がなく、価格が10万円を超えていてもおかしくないと思えるほど」と書いたのは大袈裟ではなかったように思える。私がワイヤレスオーディオでいつも思うのは「ワイヤレス・オーディオの音が悪いのはワイヤレスだからではなく、ハードウエア側の性能の問題」ということだ。その主張の正しさをこのGO podに見た思いがする。もしかするとワイヤレスオーディオはケーブルがないことにより、さらなる音の向上が可能なのではないかとさえ予感させる製品だと思う。
このようにGO podはまるで高性能のDAPが両耳に収まっているかのような高いレベルの再現力を持っている。ハイエンドの有線イヤホンを持ち、その性能を十分に発揮させながらワイヤレス化したいという人は、店頭に自慢のイヤホンを持ち込んで実際に試してみてはいかがだろうか。
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