【ベンチ】史上最速M2 Ultra搭載 約100万円「Mac Studio」ポテンシャルは従来テストでは測りきれない
ASCII.jp / 2023年7月22日 12時0分
Macシリーズの最高峰、Mac Proを含めた現在のラインナップの中でも最強のApple SiliconチップM2 Ultraを搭載するMac Studioが登場した。すでにレビュー記事「M2 Ultra搭載Mac Studioは次元が異なるマシンだ!」は公開したので、ここではベンチーマークテストの結果と考察をお届けしよう。
今回はM2 Ultra搭載機のみの試用だったので、ベンチマークテストは同機を中心に評価する。
パフォーマンスを比較するMacStudio+Mac Smini 4モデルのスペック
今回のテスト結果の比較対象としては、最新のMac Studioに昨年登場したM1 Max、M1 Ultra搭載のMac Studio2機種と、今年のはじめに登場したM2 Pro搭載のMac miniを加えた4機種を選択した。チップの仕様はもちろん、搭載メモリの容量が結果に大きく影響するテストもあるので、まず4機種の基本的なスペックを確認しておこう。
・2023年型M2 Pro搭載Mac mini 12(8+4)コアCPU/19コアGPU/32GBメモリ/2TBストレージ
・2022年型M1 Max搭載Mac Studio 10(8+2)コアCPU/32コアGPU/64GBメモリ/2TBストレージ
・2022年型M1 Ultra搭載Mac Studio 20(16+4)コアCPU/64コアGPU/128GBメモリ/4TBストレージ
・2023年型M2 Ultra搭載Mac Studio 24(16+8)コアCPU/76コアGPU/128GBメモリ/4TBストレージ
CPUについては、M1 Maxの10コアからM2 Ultraの24コアまでのバリエーションとなる。CPUコア数の後ろのカッコの中の2つの数字は、それぞれ高性能コアと高効率コアの数だ。たとえばM2 Proでは、12コアのうち8個が高性能、4個が高効率となる。M1 Maxでは、合計のCPUコア数こそM2 Proより少ない10個だが、高性能コアの数は8個で同じなので、CPU性能の差はそれほど大きくないことが予想できる。M1 UltraとM2 Ultraを比べても、高性能コアの数は16個で変わらない。
GPUのコア数は、M2 Proの19からM2 Ultraの76まで、CPUよりもバリエーションは広くなっている。Apple Siliconチップの場合、クラスによる性能差はCPUよりもGPUの方が大きいことが、ここからも察せられる。
メモリ搭載量は32GBから128GBまで、比較的多めの構成となっている。これだけのメモリを搭載すれば、メモリ容量がネックになって極端に遅くなるようなテストはなさそうだ。それでもメモリ容量が結果に影響を与えていると思われるものは確認できるはずだ。
ストレージ容量が直接結果に影響を与えるようなテストもない。ただしSSDの特性や状態は、それぞれの機種で異なるため、上位モデルでもストレージのアクセス速度が遅いと感じられるような場面に遭遇することがある。
ハードウェア以外に、ソフトウェアのバージョンがテスト結果に影響を与えることもある。macOS自体のバージョンもそうだが、OSに付随する標準ウェブブラウザー、Safariのバージョンが直接パフォーマンスに影響を与えると考えられる場合もある。また、Xcodeを使用したテストでは、そのバージョンが関係することもある。
各機種は、それぞれの試用時に、可能な限り最新のソフトウェアにアップデートしてテストしている。それらのmacOSのバージョンも示しておこう。
●各試用機のmacOSのバージョン ・2023年型M2 Pro搭載Mac mini:13.2.1 ・2022年型M1 Max搭載Mac Studio:12.3.1 ・2022年型M1 Ultra搭載Mac Studio:12.3.1 ・2023年型M2 Ultra搭載Mac Studio:13.4.1
いつものように、ベンチマーク専用アプリと、一般的なアプリの大きく2つに分けてベンチマークテストを実施した。それぞれの結果を見ながら考察していこう。
シングルコアでは遅いというM2 Ultraの意外な弱点
ベンチマークテスト専用アプリとしては、Geekbench(5.4.1)、Cinebenth R23(R23.200)、JetStream 2を使っている。なお、Geekbenchアプリの最新バージョンは6.1.0で、M2 ProとM2 Ultraについては、このバージョンでも計測している。バージョン5と6では、ポイント算出の基準が異なるので単純に比較できない。昨年にM1 MaxとM2 Ultraを計測した際には、まだバージョン6がなかったので、比較できるのはバージョン5の結果のみだ。比較対象がすべてバージョン6で計測できるようになった時点で、採用するGeekbenchのバージョンを切り替えることにする。
それぞれのテスト結果をグラフで確認していこう。
●Geekbench 5 CPU これは、その名の通り純粋なCPU性能を計測するテスト。まずマルチコアの結果を見ると、それぞれのチップの持つCPUコア数に応じた値を示していて、順当な結果に見える。
それに対してシングルコアの結果は、M2 Proが一番速いという結果となった。世代的にはM1よりM2の方が最適化が進んで速くなったのも理解できるが、それならM2 Ultraがいちばん遅いというのは納得しにくい。M2 Ultraでは、集積度が高くなった分、低めのCPUクロック周波数で運転しているかもしれない。
それを踏まえた上で、マルチコアの結果を見直してみよう。M2 ProとM2 Ultraを比べると、CPUの総コア数も、高性能、高効率、それぞれのコア数もちょうど2倍になっているにも関わらず、マルチコアのCPU性能は約70%増しにとどまっていて、効率はいまひとつだ。
●Geekbench 5 Compute 次にCompute性能を見てみよう。これはGPUによる数値計算のパフォーマンスを評価する。テスト内容は同じはずだが、使用する数値計算のAPIによって、業界標準的なOpenCLとアップル独自のMetal、2種類のテストがある。
グラフの傾向はほとんど変わらないが、より高性能を示すMetalの結果で、チップ間の関係を見てみよう。まず、M1 UltraとM2 Ultraを比べると、GPUコア数は64と76で、割合としては約18.8%の増加。それに対してMetalのポイントは101191と138897で、約37.3%も増加している。これはM1世代のGPUよりもM2世代のGPUの実行効率が、かなり増強されていることを示している。
一方、M2 ProとM2 Ultraの比較では、GPUのコア数は19と74で、ちょうど4倍。Metalのスコアは52495と138897で、約2.65倍だ。同じ世代のGPUでは、コア数を増やしたほどの効果は発揮しにくいということになる。
●Cinebench Cinebenchは、3Dグラフィックのレンダリング処理にかかる時間を計測するテストだが、その際に使用するのはGPUではなくCPUだ。GeekbenchのCPUテストよりも、より実践的な処理内容と考えられる。
まず、マルチコアの結果から見ると、M2世代の方がM1世代よりもマルチコアの効率が高いことが分かる。M1 UltraとM2 Ultraでは、CPUコア数は20と24で2割増し。ただし高性能コア数は16で変わらないのに、結果はM2 Ultraが約45.4%も速くなっている。
M2 ProとM1 Ultraの差も、Geekbench CPUに比べてかなり縮まっている。M2 ProとM2 Ultraの性能比は約1.84倍で、コア数を考えると少なくともGeekbenchよりは順当な結果と言える。
●JetStream 2 ウェブブラウザー上で動作するJetStream 2(https://browserbench.org/JetStream/)は、主に数値計算の実行速度を評価するもの。ブラウザーに内蔵されたJavaScriptとWebAssemblyの実行環境を使う。ここでは、純正ブラウザーSafariを使ってテストした。
この結果には、これまでに示したテストほど大きな差が現れていない。各機種の関係をよく見ると、CPUのシングルコアの結果に似ていることに気付く。このプログラムは、シングルコアを使って動作すると思われるので、それも当然だ。やはりM2 Ultraがいちばん遅いのは、シングルコアによる単純なCPUテストの結果と同じ理由と思われる。
一般アプリによるテストでは「メモリ容量の影響」も大きい
一般的なアプリによるテストでは、Finderによるフォルダーコピー、XIPファイルの展開、iMovie、Finalcut Proそれぞれによる動画のエンコード出力、XcodeにるiOSアプリのプロジェクトのビルドに要する時間を、各々ストップウォッチで計測して比較している。
したがってこれまでのグラフとは異なり、数値は秒を表し、バーが短いほど高速ということになる。結果を確認していこう。
●Finderによるフォルダーコピー Finderによるフォルダーコピーは、一般的なフォルダーではなく、サイズが3GB近くで、項目数が約2万4000のiMovie(10.3.2)アプリのバンドルを、「フォルダー」としてFinder上でコピーするテスト。CPUの処理能力とストレージのランダムアクセス性能を測るテストとなる。
結果は、チップやそれを搭載する機種のクラスの順番とはまったく逆のものとなった。あえて言えば、シングルコアによるCPU性能との関連が強いと考えられ、ストレージの特性やその時点での状態も影響しているだろう。
●XIPファイルの展開 Xcode(バージョン12.2)インストール用のXIP圧縮ファイル(11.44GB)を、アーカイブユーティリティを使ってアプリバンドルとして展開する時間を計測する。動作としては、圧縮ファイルのシーケンシャルな読み出しと、そのデータを伸張処理、展開したフォルダー/ファイルのランダムな書き込みを組み合わせたものとなる。
結果は、理由を明確に説明するのが困難なほど、近接したものとなった。チップや機種による違いはほとんど認められない、と言える。
●iMovieによるムービーファイル出力 iMovieを使って、長さが約50秒の4Kビデオ(ファイルサイズは約125MB)を、540pに再エンコードして出力するのに要する時間を計測する。
結果は、M2 ProとM1 Maxが同等、M1 UltraとM2 Ultraもほぼ同等で、前者よりも40%以上速いというものとなった。実装メモリ容量にそれぞれ32GB、64GB、128GB、128GBという違いがあるが、32GBと64GBで結果に違いがないことから、この程度のビデオ解像度では、メモリ容量の影響はないと考えられる。
UltraはMaxを2つ接続したチップだから、エンコードに使用するメディアエンジンも、ProやMaxの2倍あることになる。これは単純にその違いの現れだと考えたくなるような結果だ。
●Final Cut Proによるムービーファイル出力 Final Cut Proによるテストは、25個の8Kビデオクリップをコンポーズしながら約43秒の4Kビデオファイルとして出力するもの。このテストは、いちどに処理するデータ量が多いため、実装メモリ容量が少ないと極端に遅くなることが分かっている。
結果は、M2 Proがもっとも遅く、M1 MaxとM2 Ultraがほどんど同じでM2 Proより6割以上速く、M2 UltraはM2 Proの2.5倍ほど速いというもの。実装メモリ容量をもう一度確認すると、M2 Proが32GB、M1 MaxとM1 Ultraは、それぞれ64GB、128GB、そしてM2 Ultraが128GBとなっている。iMovieでは同等だったM2 ProとM1 Maxで、これだけの差がついた理由は実装メモリの違いだろう。このテストでは、32GBでも、メモリ容量がネックになるのだ。
一方、iMovieでは差が付いていたM1 MaxとM1 Ultraが、ほとんど同じ速度となっているので、両者のメモリ容量が影響しているとは考えられない。つまりこのテストの条件では、メモリは64GBあれば十分ということになる。
M1 MaxとM1 Ultraがほぼ同じになった理由は釈然としないが、M1 Ultraと同じ容量のメモリを実装するM2 Ultraの方が50%以上速くなっているのは注目に値する。テスト時のFinal Cut Proのバージョンには1年分ほどの開きがあるので、最適化は進んでいると考えられるが、ソフトウェアの違いだけでここまで速くなるとは考えにくい。少なくとも高解像度のビデオをエンコードする処理に関しては、M2 UltraはM1 Ultraよりもかなり速くなっていると言える。
●XcodeによるiOSアプリのビルド Xcodeによって、アップルが提供しているiOSアプリのサンプルプロジェクト「SwiftShot」をビルドするのに要する時間を計測する。
Xcodeによるアプリのビルド速度は、Xcodeのバージョンが進むほど向上する傾向が認められる。M1 UltraとM2 Ultraの違いは、それによるものと考えられる。
OSもXcodeも同じバージョンのM2 ProとM2 Ultraがほぼ同等ということからは、アプリ開発作業自体は、M2 Proでも十分で、M2 Ultraのポテンシャルは発揮しにくいと言えるだろう。ただし、Mac上で動かす他のデバイスのシミュレーターのことも考えると、すでにM2チップを搭載したiPadも登場していることから、開発用マシンのMacのパフォーマンスには、余裕があるに越したことはないと言える。
M2 Ultraのポテンシャルを引き出すのは「アプリ次第」
ここまで見てきたテスト結果から分かるように、テストによってM2 Ultraのポテンシャルを引き出せているものと、まったく引き出せていないものがある。概して言えば、負荷の重い処理ほどパフォーマンスを引き出しやすく、逆に軽い処理では引き出せないことが多い。これは、M2 Ultraの特性として当然の結果と言えるかもしれない。
またM2 Ultraは、シングルコアで動作するような日常的なアプリでは、その性能を十分に発揮できないことが多いとも言える。とはいえ1台のMac上で、シングルコアのアプリ1つだけが動作している状態というのはありえない。いくつものアプリや、バックグラウンドでしか動作しないプログラムが無数に動いている。そうした状況では常に複数のコアが働いているわけだから、シングルコアで遅いことが必ずしも大きな欠点とは言えないのも確かだ。
今回のテストで感じたのは、M2 Ultraクラスのチップともなると、Macの最大の強みである通常のGUIアプリだけでは、その実力を十分に発揮するのが難しいということ。大量のデータのバッチ処理や、ネットワーク上での分散処理などでこそ、強みを発揮できる使い方も多いだろう。本体価格や運用コストを考えても、いちいち一人のユーザーの操作を待ち、それに応答して結果を表示するような動作だけでは、もったいない使い方になってしまうのは明らかだ。
それを考えると、もはやこれまでのmacOSでは、M2 Ultraクラスのポテンシャルを扱いきれない場面が出てくることも少なくないと考えられる。今後のmacOSの発展の方向性として、このような高性能チップの性能を最大限に引き出して活用するための機能を考える時機に来ているような気がする。
筆者紹介――柴田文彦 自称エンジニアリングライター。大学時代にApple IIに感化され、パソコンに目覚める。在学中から月刊ASCII誌などに自作プログラムの解説記事を書き始める。就職後は、カラーレーザープリンターなどの研究、技術開発に従事。退社後は、Macを中心としたパソコンの技術解説記事や書籍を執筆するライターとして活動。近著に『6502とApple II システムROMの秘密』(ラトルズ)などがある。時折、テレビ番組「開運!なんでも鑑定団」の鑑定士として、コンピューターや電子機器関連品の鑑定、解説を担当している。
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