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量子インターネットはもうすぐ? ソフトバンクが量子技術研究開発の説明会を開催

ASCII.jp / 2023年9月29日 10時0分

量子技術

 ソフトバンクは9月21日、メディア向けに将来の実用化に向けて研究開発を進めている「量子技術」についての説明会を開催した。題して「ギジュツノチカラ 量子編」。「ギジュツノチカラ」は、ソフトバンクが年に1回開催している先端技術を紹介するイベントで、その特別編といった位置付けだ。

 説明会にはソフトバンクおよび協力関係にある機関・企業から5名が登壇し、量子技術の研究の現在と未来について説明した。「わかりにくいと指摘されることもある量子技術についてわかりやすく」といった狙いがあったようだが、量子に関しては素人である筆者には難しく感じる内容だった。

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約1時間45分。量子技術の研究に関わる5人の講演者が登壇した

◆慶應義塾大学や東京大学との共同研究も開始

 最初に登壇したのはソフトバンク 先端技術研究所の小宮山陽夫氏。まず「ソフトバンクが考える量子未来ビジョン」について説明された。

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ソフトバンク 先端技術研究所 先端技術開発部 部長 小宮山陽夫氏
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社長直下の組織として2022年4月に新設された先端技術研究所。活動領域は多岐に渡る
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増え続ける通信とデータ処理に量子コンピューターは欠かせなくなる
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量子コンピューターは、既存のスーパコンピューターでもできない複雑な計算が可能

 通信されるデータ量が飛躍的に増えていく中で、量子コンピューターの研究開発は不可欠。量子コンピューターには「ゲート方式」と「量子アニーリング方式」があり、「ゲート方式」は誤り訂正なしの「NISQ」と、誤り訂正ありで、すべての計算ができる「FTQC」がある。なお、ゲート方式で現在導入されているのは「NISQ」のみだ。

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量子コンピューターの3つの方式
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量子コンピューターの性能
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ゲート方式の構成。FTQCが登場しても、なお既存のコンピューターとの連携は必要

 小宮山氏は、ソフトバンクが自ら量子コンピューターを開発するのではなく、課題の解決のために量子技術を必要とする企業に、量子コンピューターを使える環境を提供する役割を担うことを考えているという。

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ソフトバンクは顧客とベンダーの橋渡し的役割を担う
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量子コンピューターの導入には専門的な知識やスキルが必要
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NISQで扱える領域。たとえば、基地局の設営の最適化にも活かせる

 ソフトバンクは、6月20日に慶應義塾大学との共同研究を開始。KQCC(慶應技術大学量子コンピューティングセンター)に研究員を派遣し、NISQを用いた量子技術の共同研究や、社会実装に向けたユースケースの検討などが行なわれている。

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6月からKQCCとの共同研究がスタート
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慶應義塾大学 環境情報学部 ProfessorのRodney Van Meter氏が登壇し、量子研究のこれから10年の展望を語った
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量子コンピューターの進化の展望
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「将来の予測は難しい」としつつも「2030年代には古典コンピューターの力が限界となり、量子マルチコンピューターが定番になる」と展望

 また、9月1日からは東京大学を中心に発足したQII(量子イノベーションイニシアティブ)協議会にも加盟し、国内最大規模の127量子ビットの量子コンピューターを活用して、社会実装に向けた研究を進めていく予定だ。

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9月1日からQII協議会にも参加し、産学連携の研究を強化

◆量子力学の基礎知識もレクチャー

 続いて、ソフトバンク 先端技術研究所の宮下真行氏が登壇。「猫でもわかる量子技術の基礎」というテーマで、わかりやすい言葉で書かれたスライドを用いて、量子技術について説明された。

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ソフトバンク 先端技術研究所 研究員 宮下真行氏
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量子力学とは、微視的な物理現象を記述する力学
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量子力学は現実を説明するために必要
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古典力学では説明できないこととは?
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粒子性、波動性とは?
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量子力学とはシュレディンガー方程式を理解すること

 量子特有の現象である「重ね合わせ」と「もつれ」についても詳しく説明された。

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量子重ね合わせとは?
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量子もつれとは?

 将来的に実現可能な技術として、量子もつれを利用する「量子テレポーテーション」についても説明された。これは、情報そのものを送信しなくても、観測結果を送信することで、復元された情報が届く仕組みで、伝送中に情報が盗まれる心配がなくなる。

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量子テレポーテーションとは?
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量子技術はセキュリティー強化に役立つ

◆量子暗号は近い将来、絶対的に必要になる

 ソフトバンクは9月20日に、東芝デジタルソリューションズと一緒に、量子暗号技術である「QKD」を用いた拠点間VPN通信の実証実験に成功したことを発表した。

 QKDとは、量子力学に基づく原理を通信に応用し、データの送信側と受信側の双方に共通の暗号鍵を生成する技術。生成した鍵は1回だけ使用する仕組みで、安全な通信が成立する。今回の実証実験では、東芝独自の技術によって鍵の生成を高速化したQKDシステムを、東京・竹芝のソフトバンク本社と都内のデータセンターの間(2拠点間のファイバー距離は約16km)に導入して行なわれた。

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実証実験の概要

 東芝デジタルソリューションズの村井信哉氏から、QKDの有用性について説明された。

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東芝デジタルソリューションズ株式会社 ICTソリューション事業部 QKD事業推進室 シニアフェロー 村井信哉氏
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計算能力に優れた量子コンピューターによって、現在の暗号鍵では安全に通信できなくなる可能性が高い。そのため、量子暗号通信の開発・普及が急務となっている
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安全に通信できる仕組み
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量子暗号通信は、政府、金融、医療などから導入が想定されている

◆量子インターネットの実証実験もスタート

 ソフトバンクは9月21日に、横浜国立大学発のスタートアップ、LQUOM(ルクオム)と共同で、実用環境における量子もつれの伝送実験を開始したことを発表した。ソフトバンクは、既存とインターネット技術と量子インターネット技術を融合したハイブリッドネットワークの実用化を目指して、取り組みを進めている。

 量子インターネットの有用性と実現に向けた課題、今回の両社の取り組みについて、LQUOM社長の新関和哉氏から説明された。

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LQUOM 代表取締役社長 CEO 新関和哉氏
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量子インターネットとは、量子もつれを共有する大規模なネットワーク。高セキュリティーで、既存のインターネットとは異なる用途に活かせる
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量子インターネットの構築には量子中継機が必要
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ソフトバンクとLQUOMの共同研究の概要

 ソフトバンクは、今年3月に開催した「ギジュツノチカラ ADVANCED TECH SHOW 2023」でも量子技術分野についての展示をしていたが、今回の説明会は小規模ながら、より深い内容だった。

 量子インターネットが実用化される時期の見通しは発表されておらず、質疑応答ではソフトバンクの小宮山氏が「2030年頃には……」と話し、慶應義塾大学のRodney Van Meter教授は「そんなにかからないのでは」と話していた。研究開発は加速している印象だ。

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説明会の後に質疑応答が行なわれた。左がソフトバンクの小宮山陽夫氏
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右が慶應義塾大学 教授のRodney Van Meter氏

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