ドルビーアトモスやサステナ対応が加速! ドイツで見たオーディオのトレンドと最新製品
ASCII.jp / 2023年9月29日 19時30分
ドイツ・ベルリンでは9月1日から5日まで世界規模によるエレクトロニクスのイベント「IFA 2023」が開催されました。IFAに合わせて毎年、オーディオに関連する最新製品も数多く発表されます。IFAの出展を振り返りながら、2023年の後半から来年にかけて注目を集めそうなオーディオのトレンドを考察してみます。
HomePodの対抗馬! JBLからレトロデザインの ドルビーアトモス対応スピーカー
IFAではドルビーアトモス再生に単体で対応するワイヤレススピーカー、ワイヤレスイヤホンの発表がありました。
JBLは、毛色の違う2種類のワイヤレススピーカーをドルビーアトモス対応の新製品として発表しました。ひとつがレトロなデザインに最新のワイヤレスオーディオ技術を詰め込んだ、Wi-Fi/Bluetooth対応のポータブルスピーカー「JBL Authentics(オーセンティック)」シリーズです。
1970年代にJBLが発売して人気を博したHi-Fiスピーカー「JBL L100」の意匠を模して、中味は最新鋭のオーディオ技術を惜しみなく投入した“Newstalgia”(ニュースタルジア=新しい+ノスタルジアの造語)コンセプトが特徴です。
シリーズには最上位の500のほか、トップに持ち手として機能するハンドルを付けた300、エントリーモデルの200があります。欧州では9月15日から発売を予定していますが、日本導入は未定です。
この中でトップエンドのJBL Authentics 500が、単体でのドルビーアトモスによるイマーシブオーディオ再生に対応します。音楽配信サービスをWi-Fiで受けて、イマーシブオーディオで楽しむことを目的としています。日本ではサービスがないTIDALにあるドルビーアトモスコンテンツの対応からスタートして、来年までにはソフトウェアアップデートによりApple MusicやAmazon Musicの同じドルビーアトモスコンテンツの再生をサポートします。
本体に内蔵するスピーカーは3.1チャンネル構成。2基のトゥイーターを正面斜め向きに配置したことで、広がり豊かな音場を生成します。JBLを取り扱うハーマンインターナショナルが、IFAの期間中に開催したプライベートイベントにはドルビー・ラボラトリーズの責任者も出席して、JBLとドルビーが密に連携してJBL初のドルビーアトモス対応スピーカーを音づくりから練ってきたことを明かしました。
筆者はイベント会場で短時間ですが、本機を試聴しました。リビングルームに溶け込むデザインとバランスが良く聴き疲れしにくいサウンドが、特徴です。アップルのHomePodやアマゾンのEcho Studioよりもサイズは横幅が大きめですが、見た目には違和感なく部屋に馴染みそう。ドルビーアトモス再生に変な誇張感がないので、本機を「置いた場所がコンサートホールになる」というJBLのうたい文句にも納得が行きます。
もうひとつのドルビーアトモス対応スピーカーは、パーティチューンの銘機「PartyBox」シリーズの最上位モデルである「JBL PartyBox Ultimate」です。こちらは重心が低く、懐の深い立体音響再生を得意としています。本体のサイズが大きいので、特に日本の一般家庭に置くことは難しいかもしれません。でも一方で音楽のイベント施設に、ドルビーアトモス再生の感動をもたらすスピーカーとして導入を検討するのはアリだと思います。
AirPodsに強力なライバル! Jabra Elite 10はヘッドトラッキング機能も搭載
デンマークのオーディオブランドであるJabraは、ドルビーアトモス再生や、これをベースにしたヘッドトラッキング機能を搭載するワイヤレスイヤホン「Jabra Elite 10」を発表しました。ヨーロッパには9月から249ドル(約3.6万円)で発売を予定しています。本機は日本上陸の予定もあるイヤホンです。
Jabraは長年に渡ってヒアリングエイド(聴覚補助)機器の開発に携わっている、GN Audioグループのオーディオブランドです。イヤホンのハウジング(外殻)が完全には密閉されていない「半密閉型」構造として音に切れ味を持たせつつ、人間工学に基づくデザインにより耳にピタリと吸い付くようなフィット感を合わせて実現しました。現地で試聴した筆者は、半密閉なのに分厚いサウンドにとても驚き、Jabraの開発者に何度も「本当に半密閉なの?」と繰り返し確認してしまいました。
本機に搭載する高性能なチップセットはJabraが自ら設計しています。設計開発の過程ではドルビーラボラトリーズと密接に連携しながら、ドルビーアトモスによる立体音楽体験のほか、イヤホンを装着するユーザーが顔の向きを変えても、コンテンツの音源があるべき位置に定位するドルビーヘッドトラッキングの機能を作り込み、これらをElite 10に搭載しました。
Jabra Sound+アプリからは各機能のオン・オフが選べます。ドルビーアトモス再生はApple MusicやAmazon Musicが配信するネイティブなドルビーアトモス対応のコンテンツに限らず、通常のステレオコンテンツからのリアルタイム変換による立体化にも対応します。
筆者は本機を試聴して、立体空間の広さ、顔の動きを正確に追従するヘッドトラッキングの精度がJabra Elite 10の魅力だと感じました。ワイヤレスイヤホンによるドルビーアトモス再生やヘッドトラッキング体験は、先行してアップルのAirPodsやビーツの一部モデルが対応してきました。同じコンテンツをベースにフェアな比較も必要だと思いますが、例えばAirPods Proの中立的なサウンドに対して、Jabra Elite 10はもっと音楽的な起伏に富んだサウンドという印象を受けました。
立体音楽体験やヘッドトラッキングに対応するワイヤレスイヤホンは、これからも数多く出てくると思います。ソフトウェアによるイコライザー的な機能ですが、IFAで発表された新製品の中ではシュアのヘッドホン「AONIC 50 Gen 2」もSpatializer(空間化)の機能を搭載しています。特にハイエンドクラスのワイヤレスイヤホン・ヘッドホンには欠かせない機能として、立体音楽体験が広がる可能性があります。
進化を続けるゲーミングサウンド パナソニックとヤマハの展示が人気
ゲーミングオーディオも今年のIFAでは注目を浴びていました。
パナソニックの展示を取材した際にスタッフから聞いた話によると、「日本であれば4Kテレビのフラグシップモデルの視聴デモンストレーションは映画やドラマなど高画質なシアター系のコンテンツでお見せするところなのですが、昨今のヨーロッパではプレミアムテレビも『ゲーミング性能』が問われます。そのため、デモンストレーションはゲーム系のコンテンツを中心に見せる機会が増えている」といいます。
パナソニックはSound Slayerシリーズのワイヤレス・ゲーミングネックスピーカー「SC-GNW10」を新製品としてIFAで発表しました。テレビやゲーム機などソース機器に専用のトランスミッターを接続して、スピーカーとの間にデジタル2.4GHz帯の無線伝送を実現しています。ヨーロッパでは2023年に発売されますが、日本でも9月21日から始まる「東京ゲームショウ2023」でパナソニックが展示を予定してます。
本体にはパワフルな4基の38mm口径スピーカーと、マイクも内蔵しているのでボイスチャットや通話にも使えます。
筐体は現行の有線モデルであるSC-GN01よりも60%大きくなりました。そのぶんだけ重心の低い安定した低音が向上していますが、重さも増えています。ただ、肩乗せした時に重さが適度に分散されて、長時間使用も苦にならないように人間工学に基づくデザインとしているので、筆者も試してみましたが重さが辛く感じることはなかったです。
サウンドモードは「ロールプレイング」「FPS」「ボイス」の3種類があります。それぞれに最適な立体音場効果を持たせました。ヘッドホンやイヤホンの長時間使用は苦手というゲーマーが、ネックスピーカーと積極的に選び分けられる製品が誕生しました。
IFAに出展したヤマハもまた、サウンドバーをPlayStation 5と組み合わせて迫力あふれるゲーミングサウンドにハイライト。体験展示スペースには常に来場者が並んでいました。IFAには地元のベルリン市民を含めて毎年大勢の一般来場者が足を運びます。学生や子どもたちはゲームに釣られてというより、迫力あふれるゲーミングサウンドに惹きつけられて体験コーナーに並んでいる印象でした。ヨーロッパでも次世代のオーディオファイルは健やかに育っているようです。
AIよりもサステナに関心 光充電に対応するアーバニスタのワイヤレススピーカー
2023年のIFAではジェネレーティブAI(生成AI)に関わる展示がもっと見られると思っていたのですが、実際に会場を埋め尽くしたテーマは「サステナビリティ」でした。
ヨーロッパの企業、コンシューマーは元からエコフレンドリーな生活様式への憧れと理想を強く持っています。さらに、昨今は新型コロナウイルス感染症によるパンデミックや、ロシアによるウクライナ侵攻のあおりを受けてエネルギー価格が高騰しています。だからこそ、家庭の生活費を継続的に圧縮・節約ができる「サステナブル機能」を持つ家電に必然的な注目が集まっているのだと筆者は受けとめました。
オーディオ製品に「サステナ化」の波は押し寄せています。例えばスウェーデンのオーディオブランドであるUrbanista(アーバニスタ)には太陽の光やLEDシーリングライトなどの人工照明の光を受けて、内蔵するバッテリーを充電するソーラーセルシートを組み込んだ製品があります。新製品のワイヤレススピーカー「Malibu」も発表。9月末にヨーロッパで販売します。
Malibuは天板にUrbanistaと同じスウェーデンの企業、Exegerが開発した「Powerfoyle」という技術を活かしたセルシートを組み込んでいます。スピーカーの電源をオフにした状態でもチャージができるので、時間はかかりますが「放っておけば充電してくれるスピーカー」なのです。価格は149ユーロ(約21000円)とお手頃なうえ、サイズを超える力強い音が鳴らせるスピーカーです。元はゼンハイザーのハイエンドオーディオを設計していた名エンジニアのアクセル・グレル氏が音づくりを指揮した製品だと聞いて、筆者はその音の良さに合点がいきました。
曇り空の日の屋外光(約5万0000ルクス)を目安として、充電ゼロの状態から満充電までにかかる時間は約60時間と長めです。でも、使わない時間に置いておくだけで充電してくれるわけだし、USB充電を併用するにせよ光充電の分は「節約」に結び付いていると解釈できます。使い続けるほどにサステナブルなオーディオであることを実感するはずです。
Urbanistaでは既にワイヤレスヘッドホンや、左右独立型の完全ワイヤレスイヤホンにもPowerfoyleのセルシートを組み込んだ商品を販売しています。そしてIFAにはUrbanistaのほかにもソーラー充電を併用して、バッテリーの減りを緩やかにできるサステナブルなオーディオを出展するメーカーがいくつもありました。
過去には、JBLもソーラー充電機能を搭載するワイヤレスヘッドホンの開発にチャレンジしたこともあります。もしかすると来年以降のIFA会場は「充電の要らないワイヤレスオーディオ」であふれているかもしれません。
筆者紹介――山本 敦 オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。取材対象はITからオーディオ・ビジュアルまで、スマート・エレクトロニクスに精通する。ヘッドホン、イヤホンは毎年300機を超える新製品を体験する。国内外のスタートアップによる製品、サービスの取材、インタビューなども数多く手がける。
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