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AirPods Proのロスレス再生は5GHz通信を活用か、アップル担当者が語る

ASCII.jp / 2023年10月1日 9時0分

 前回の記事でiOS17の適応型オーディオ、第220回の記事でAirPods Pro(USB-C版)のロスレスオーディオについて紹介した。その技術的な詳細について、アップルの幹部が語る動画がYouTubeにアップされている。

 動画はコンテンツクリエイターのブライアン・トン(Brian Tong)氏が、アップルの幹部であるセンシング・コネクティビティ担当副社長のロン・ファン(Ron Huang)氏とプロダクト・マーケティング担当ディレクターのエリック・トレスキー (Eric Treski) 氏を取材したものだ。

 トン氏は、以前アップルストア関係で働いたり、CNETのコンテンツクリエイターに従事していたりした関係でアップルとのつながりが強いようだ。

近づくトラックの音は知るべきだが、恒常的な騒音は消していい

 まず、トン氏は適応型オーディオでは具体的にどういう処理をしているかと聞く。

 ファン氏は「適応型オーディオは、全ての音がリアルでかつ少し静かな感じで、イヤホンをつけっぱなしにできるようなモードだ。イヤホンを外して、はじめて『ああトラックの音や充電器の音って大きいんだ』と気が付くようなもの。そのため自然でいてかつ音を静かにするというところが開発のキーだった。実のところ私は外音取り込みモードが気に入っていて、ずっと外音取り込みモードでもいいと思っていた。ただし適応型オーディオが実装されてからは、ほとんどの時間が適応モードになっている。適応型モードは環境音をリアルタイムで動的かつ知的に処理して、外音取り込みとANCモードを混ぜ合わせている」と回答。

 さらにトン氏がその”マジック”の技術的な背景はどうかと突っ込むと、ファン氏はこう回答する。

 「AirPodsのマイクは常に環境音を監視していて、入ってくる音の大きさを測定し、さらにノイズの種類も判断している。なぜかというと飛行機のノイズを低減する方法は、トラックのノイズを低減する方法とは違うからだ。適応型モードの開発はユーザーを外の世界と繋げることがキーなので、一時的に大きくなる(つまり接近する)トラックの音は注意を促すためにユーザーが聞こえなければならず、継続的なノイズである(近づかない)飛行機の音は完全に聞こえなくなっても良いからだ」

 このことからユーザーに近づいてくるような音はあまりノイズとして消さないのではないかと思う。

 例えば同じ電車のノイズでも中に乗っている時と、ホームに近づいてくるときは違うわけだ。これは前回書いた連載記事の中で電車のホームや車内で感じたこととも合致する。ホームに近づく電車の音は十分聞こえ、電車の中にいると不快さがないように和らげるということだろう。

加速度センサーや機械学習を駆使して会話を感知する

 次にトン氏は「会話感知」機能について、これは他のメーカーもやっているが、アップルではさらに自然なように思うと述べ、機械学習はどのように働いているのかとが聞く。

 トレスキー氏は「会話感知機能では、あなたが何を話しているか(内容)とあなたの動きを監視して、その会話がオーディオの再生音をどう下げるべきかどうかを判断している。さらにAirPodsで再生されているコンテンツが音楽ならば音を小音量にしてBGMのようにするだけだが、ポッドキャストの場合にはミュートではなくポーズをして一時停止する。このように間に会話が入ってもコンテンツをシームレスに楽しむことができる」と語った。

 この発言にはいささか驚いた。他人と会話しているとポッドキャストの内容が頭に入ってこないからだと思うが、そこまでやっているとは思わなかった。自分でも試してみたが、確かに再生しているのが音楽だと発声しても音が下がるだけだが、ポッドキャストでは発声すると一時停止する。つまり、会話検知機能はインテリジェントな機能であるというわけだ。

 さらにファン氏は「会話感知では加速度センサーも併用して振動の周波数で顎の動きを監視している。なぜかというと咳や咀嚼音を会話と切り分けるためで、これはAirPods内部のH2プロセッサーで機械学習する」と捕捉した。

 会話感知に加速度センサーや機械学習まで駆使しているとはアップルの作り込み度合いには頭が下がる。アップルはAIに弱いと言われるが、実はこうした細かい部分まで機械学習を生かしているのは面白い。

 そこでトン氏が、ユーザーが歌を歌っているときは会話感知は切ったほうがいいのと聞くと、ファン氏は「歌は会話と似ているからトリガーになるかもしれません、でもApple Musicには新機能があって、歌詞を表示して歌を歌っているときは会話感知が自動的にオフになるんです」と、ちょっと驚くコメントをさらっと口にした。トン氏も「それは初耳だ」と驚きを見せた。アップルはこうしたアナウンスしていない新機能を何気なく入れて使いやすさを改善しているのが興味深い。

 ファン氏は「少し前のアップデートで追加された会話ブースト機能もこれらの機能とうまく協調して働いている」と続ける。

ハンズフリーはジェスチャー操作にも

 もう一つ興味深いのはここでトレスキー氏が「こうしてイヤホンが生活の一部になることに対して"ハンズフリー"がキーとなる」と補足し、ファン氏が「それに対しては音声認識のSiriがそのハンズフリーのキーとなる」と語っている。

 今年「Hey Siri」と言わず「Siri」の一音節で指示の開始を検知できるようになったのもその一環ということだ。巷ではSiriは時代遅れとも言われるが、このことからSiriに対してアップルはそれなりにまだコミットしていくと思われる。

 ファン氏は「ゲームなどのインターフェースとして、頭を振る動作をAirPodsがジャイロで感知することも可能だろう」と、ハンズフリー化について捕捉する。さらにトレスキー氏が「センシングという点ではH2の電力消費が小さいということもそれに寄与する」と語っている。つまりH2チップはイヤホンのインテリジェント化に貢献しているだけではなく、電力消費が小さいのでセンサーの稼働も増やせるということなのだろう。

状況に応じて音を上げるのか、ノイズを消すのかを調整する

 さらに話題が「パーソナライズされた音量」に移ると、ファン氏は「音楽を楽しむためには二つのノブがある。ひとつは環境音をノイキャンで下げること、もうひとつは聞いている音楽の音量を上げることだ。このため環境音を測定すると同時に、聞いている音楽の環境音に対するS/N比を測定している。どのくらい外の音を取り入れて、コンテンツの音を生かすかの初期値は我々が何万時間のデータを元に機械学習させているが、環境音と聞く音楽の組み合わせは個々人で多様であり、そのためにユーザーがどのくらい音を上げて聞きたいかなどをさらに学習する機能をいれている」と語っている。

 私が書いた体験記では「パーソナライズされた音量」はあまり効きが大きくないというように書いたが、実際にこの機能はうるさいところで音を上げる極端に音を上下させるような機能ではなく、さまざまな環境で外部ノイズと音楽信号のS/N比を調整して、音をよく聴かせるための機能ではないかと思う。

 そして、その度合いはやはり学習により経時的に変化するのだろう。

USB-C版AirPods Proは5GHzの通信も使用する

 トン氏が「Apple Vision Pro」とUSB-C対応AirPods Proを組み合わせた場合のロスレスオーディオの可能性について聞くと、ファン氏は「低遅延とロスレス伝送を満たすためには大容量できれいな(pristine)ワイヤレスのパイプが必要である。このために我々は5GHz帯で動作させようとしている。ご存知のようにBluetoothは2.4GHzで動作しているが、ここはWi-Fiとの競合などでかなり混んでいる。そのため我々はApple Vision ProとAirPods Proを5GHz帯で交信させようとしている。これはH2が提供する新しいプロトコルのほかにクリーンな帯域が必要だからだ。このためにUSB-C対応のAirPods Proは5GHz対応になっている。以前のAirPods ProはH2が搭載されているが、この5GHz通信はUSB-C対応のものだけだ」とロスレス伝送について興味深い発言をした。

 本当は「その5GHzを使うプロトコルは何か」ともう少し突っ込んで欲しかったが、トン氏はあまりこの話題には興味がなかったようで。この話題に関してはここで打ち切られた。

 いずれにせよ話題になっている、アップルのロスレス伝送が5GHz帯を使うことが判明したわけだ。

 ファン氏はここで知性派らしく、「pristine」といういささか難しい英語を使用した。pristineはまだ汚されていないというようなニュアンスだ。これは2.4GHz帯のいわゆるISMバンドが混んでいているのを濁った大気のように例えて、5GHz帯がまだ汚染が少なく澄んでいるという意味だと思う。5GHzの電波は直進性が高いので短距離通信向きだが、ゴーグルとイヤホン間なら問題にならないだろう。

 しかし、現在のところBluetoothは5GHz帯に対応していないはずだ。

 Bluetoothの5GHz・6GHz帯域の利用についてはまだ規格制定はされていない。現在はワーキンググループが制定に向けて活動している段階と認識している。Wi-Fiは5GHz帯に対応しているが電力消費が大きく、AirPodsには搭載されていない。ここではH2について語っているので、アップルが独自にBluetoothを独自拡張したとも考えられるが、新プロトコルとも語っている。ここでさらに謎が深まったとも言える。

 インタビューは直接アップル幹部の言葉が聞けたことで様々なことがわかった。

 アップル製品の内部ではAIや機械学習が駆使されていること、よくお荷物のように言われるSiriも、ハンズフリーの理念のもとで、トリガーの一つとして重要視されていることもわかった。センサーの多いAirPods Proはますますウェアラブルの要となっていくことだろう。

 もっとも興味深かったのは、アップルのソフトウェアには、リリースされない機能や工夫がさりげなく入っているということだ。もしiPhoneを使っていて、他社のスマートフォンよりもなぜか使いやすいと漠然と感じたならば、それは知らない間に入っている人目につかない機能の積み重ねによるものだろう。

 それがアップルの「マジック」の秘密なのかもしれない。

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