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ソフトバンクがドコモより安定しているワケ

ASCII.jp / 2023年10月4日 7時0分

 ここ最近、NTTドコモが「つながらない」「データが流れてこない」と言われる中、評判がいいのがソフトバンクだ。

 ソフトバンクがiPhoneを独占的に扱っていたころは「海外でつながるが、国内は圏外ばかり」「iPhoneが欲しいけど、ソフトバンクのネットワークは不安。ドコモから発売されるのを待つ」というドコモユーザーがいたぐらいであったが、10年という時を経て、ネットワークに対する評価は逆転した感がある。

 NTTドコモがネットワーク品質の改善に苦労する中、なぜソフトバンクは安定しているのか。

 NTTドコモでは「コロナ禍が落ち着き、都心部の人流が大きく変わったのに追いつけなかった」「ターミナル駅の大規模工事で基地局の設置場所が移転せざるを得なかった」としているが、コロナ禍やターミナル駅の大規模工事を経験しているのはソフトバンクも同じはずだ。

 そんなソフトバンクが、ネットワーク品質に関する説明会を開催した。そこで衝撃的だったのが「各社通信品質の分析結果」というグラフだ。

ソフトバンク通信品質説明会 配布資料より

 ソフトバンク以外は「A社」「B社」「C社」と匿名になっていたが、A社はオレンジ、B社は赤、C社はマゼンダの背景色となっていたことから、どのキャリアを指しているのか明らかだ。

 比較グラフを見てみると、B社の数字が極端に悪い。推定ユーザー体感の可視化として、Pingのような反応速度を比較しているのだが、ソフトバンクの場合、300ms以下が60%なのに対して、B社は17.1%しかない。

 一般的にネットワークの品質を図ろうとすると、速度測定アプリを使う傾向があるが、ソフトバンクでは、ユーザーの端末から基地局、コアを経由し、インターネットからデータをとってきて、コア、基地局を経て、ユーザーの端末に返ってくる応答速度を見ている。

 その数値を見つつ「ネットワーク全体でパケ詰まりがないか」を重視しているというわけだ。

「なんちゃって5G」が奏功か

 そんななか、ソフトバンクがネットワーク品質の維持・向上で上手かったのが、5Gエリア展開を一気に進め、面展開を最優先したことだ。

 実は5Gエリアをスポット的に展開していくと、「セルエッジ」と呼ばれる電波が吹いている端っこの部分がたくさんできてしまう。セルエッジでは通信品質が安定せず、5Gにつながっても、データが上手く流れなくなる。その結果、ユーザーには「5Gでも遅い」という体感になってしまうのだ。

 また、アンカーバンドと呼ばれるLTE網にトラフィックが集中してしまう事態も起き、混雑による体感低下を生み出すことになるのだ。

 そこで、ソフトバンクでは5Gエリアを一気に面展開することで、セルエッジができるだけでないようにした。またアンカーバンドも広げることで、混雑がなく、ユーザーに対するデータがスムーズに流れるようになったのだという。

 ソフトバンクの関和智弘CNO(チーフ・ネットワーク・オフィサー)は「4Gと5Gをいかにミックスさせて活用していくかが重要」と語る。

ソフトバンク 関和智弘CNO

 実はソフトバンクでは5G用に割り当てられた周波数帯ではなく、4G用の周波数を5Gに転用していた。

 もともとは4G用の周波数帯なので、5Gに期待されるような速度は出ないのだが、5Gでつながるエリアは確実に広がる。業界的には「なんちゃって5G」と言ったりもするのだ、この「なんちゃって5G」を優先したことで、結果として「真の5G」に近づくことができたのだ。

 実際のところ、5Gに期待されるような大容量のファイルを扱うようなサービスというのはほとんど存在しない。ユーザーとしては「YouTubeのサムネイルをタッチしたら、すぐに動画が再生される」ほうが、快適にスマホを使っている感覚になれる。

 ソフトバンクとしては、数Gbpsといった、いたずらに最高速を追うのではなく、ユーザーが「スマホをサクサク使える環境」を最優先したというわけだ。

話題の「Massive MIMO」も効果か

 NTTドコモがネットワーク品質を改善させると説明会を開催した際、「Massive MIMOは検討している段階」という回答がメディアの間で話題となった。

 Massive MIMOとは、多数の端末と基地局が同時に通信することで、安定的なネットワーク品質を実現する技術とされている。

 関和氏の例えによれば「基地局をお客様相談窓口のコールセンターに例えると、これまでの基地局は10人からの問い合わせを1人のオペレーターで対応していた。しかし、Massive MIMOは10人のオペレーターを用意し、同時に対応してしまう。これにより、問い合わせをしても待たされることなく、即座に対応してもらえるようになる」という。

 ソフトバンクではMassive MIMOを4Gのころから導入しているが「突出した効果が出ているかは分析できていないが、効果はある程度出ていると考えている」(関和氏)とのことだった。

 実は、Massive MIMOのアンテナは50cm×30cm程度の板状となっており、風の影響を受けやすい。また、やや重く、ビルの屋上から下に向けて設置する必要があり、設置できる場所が限られるという弱点がある。そのため、Massive MIMOの導入は限定的とされているのだ。

 実際、基地局ベンダーであるエリクソンが出している資料を見ても、日本におけるMassive MIMOの導入率は、韓国や中国と比べても極端に低かったりする。本来、ソフトバンクでもMassive MIMOを積極的に導入しているかと思いきや、必ずしもそうではないようなのだ。

結局のところは「地道な努力」か

 もうひとつ、ソフトバンクにあって、NTTドコモにないのが「寄せ集め」という歴史だろう。

 ソフトバンクはボーダフォンを買収、さらにウィルコムを救済したり、イー・モバイルを傘下に収めてきた。

 ボーダフォン時代、基地局の数は数万程度だったが、PHSのウィルコムは20万近い基地局を展開しており、ソフトバンクはこの「立地」を手にしたのが大きかった。

 またウィルコムは次世代PHSを準備していたのだが、これがいつの間にか、TD-LTEと呼ばれるデータ通信に特化した規格に変わっていた。2.5GHzでデータ通信に特化したTD-LTEを展開できたことも、ソフトバンクのネットワーク安定性に寄与しているようだ。

 また、イー・モバイルが国際的に普及している1.7GHz帯を持っていたのも大きかった。

 ソフトバンクがイー・モバイルの親会社であるイー・アクセスを買収しようとした背景にあるのは、当時、ライバルであるKDDIがiPhoneを導入し、ソフトバンクでは提供していなかったテザリングを始めようとしていたからに他ならない。

 ソフトバンクのネットワークはひっ迫しており、大量のデータが流れるテザリングは導入したくでもできない状態であった。しかし、KDDIがテザリングを始めると言いだし、焦った孫正義社長(当時)は、イー・モバイルをサクッと買収。テザリングを実現し、ユーザーの流出を食い止めたのだった。

 iPhoneが普及し、ネットワークのトラフィックが増える度に、上手いことライバルを救済、買収することで、ソフトバンクのネットワークは強くなっていった。

 ただ、関和氏は「(ネットワーク品質向上には)飛び道具はなく、地道に基地局を設置して対策していくしかない」とも語る。

 ソフトバンクに限った話ではないが、ネットワーク品質を維持、向上させるには、日々の地道な努力が必要というわけだ。  

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