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縦読みマンガにはノベルゲーム的な楽しさがある――ジャンプTOON 浅田統括編集長に聞いた

ASCII.jp / 2023年10月29日 15時0分

前編に引き続き、「ジャンプTOON」統括編集長の浅田貴典さん(集英社 第3編集部部長代理)へのロングインタビューをお届けする

〈前編はこちら〉

「縦読みマンガ=読み捨て作品ばかり」とは限らない

―― メディアの全体の話をいったん置いて、コンテンツの中身のお話もうかがっていきたいと思います。細切れ時間で楽しめるのがマンガの魅力ですが、そのなかでの縦読みマンガの優位性というのはどこにあるのでしょうか? 私は浅田さんが別の記事でオススメしていた『ザ・ボクサー』を読んで、「縦読みマンガとはこういうもの」という固定概念を崩される体験もしました。

浅田 あれ、面白いですよね! 横開きのマンガに近い感覚で読めますよね。

―― 縦読みマンガ=読み捨て作品というイメージでしたが、『ザ・ボクサー』は縦読みマンガのなかで重厚なドラマが成立しているので、横開きのマンガ読者も楽しめるなと思いました。

浅田 まさに、その可能性を十二分に感じているので、我々がアクセルを踏んでいるわけです。たとえば『氷の城壁』というマーガレット編集部の作品がありまして、これは少年ジャンプ+で『正反対な君と僕』を連載されている阿賀沢紅茶先生の手がけた縦読みマンガなのですが、かなりの売上になっています。

 個人の作家さんが描いて成功する事例が生まれつつあります。『ザ・ボクサー』は縦読みマンガに触れ始めたころに「すごい面白い!」となった作品です。見ていくとそういう面白い作品が沢山あるんですね。『女優失格』もすごく好きですよ。

 スタッフとどのような作品を作っていくべきか話し合うときに、私たちが旗印にしてほしいと言ってるのは、「続きがどうしても読みたくなる作品」か、「繰り返し読みたくなる作品」のいずれかであればジャンルは問わない。カラーでもモノクロでもいい、と。

 極端な話、4コママンガも、縦読みマンガの一種だと思っています。『ぼっち・ざ・ろっく』が生み出せたら強いじゃないですか。私自身、『トリコロ』の頃からのきららっ子なので。あと、スタッフと話していて出てきたのは「(縦読みマンガは)ノベルゲーに近いかもしれない」ということなんです。

―― ノベルゲームですか。

浅田 はい。これはジャンプTOON編集部のポッドキャストで話したことでもあるのですが、「STEINS;GATE」や「Fate/stay night」といったノベルゲームにかなり近い。

 つまりどちらもフリックするという操作に対して、必ず“何らかの情報=楽しさ”が来るという仕組みを持っています。一方、横開きのマンガだとポンと開いて、結構な情報量を読んでから次のページへ、という構成です。

―― なるほど、ノベルゲームのセリフ送りとリズムが近いんですね。

浅田 その結果何が起こっているかというと、主人公に対する没入感が横開きのマンガよりも強いのではないか、と。

―― なるほどー、FPS、一人称視点的な。

浅田 そうなんです。だからよく縦読みマンガが複数のキャラクターを描きづらいと言われてますが、ノベルゲームでできているんだから縦読みマンガでもできるんじゃないかと。

―― 『ザ・ボクサー』がまさにそうですよね。エピソードごとに主役が入れ替わってキャラクターを描いていきます。

浅田 もちろん掲載アプリ内の収益性だけ見ると、『ザ・ボクサー』はほかに一歩譲る作品だと、聞いたことはあります。現地の方に話を聞くと、沈んだ展開になると売上は下がっていたりもしているようです。

―― でも先ほど言われた「繰り返し読みたくなる」作品ではあるかなと思いました。『がんばれ元気』などを彷彿とさせます。

浅田 そうなんです。そういう作品をジャンプTOONから生み出していきたいな、と。

縦読みマンガを生み出す仕組み

―― では、どのように生み出していくのかについてもうかがっていきたいと思います。まず、ジャンプTOON編集部発と、先ほどの『氷の城壁』のように社内のほかの編集部発、という2通りがあるかと思いますが。

浅田 ほかの編集部発でジャンプTOONで連載する作品もあります。ただ、基本的に「ジャンプTOONオリジナル」を冠するのは、連載会議に通った作品のみになります。

 連載会議にはほかの編集部からも提出可能という枠組みです。少年ジャンプ+も、週刊少年ジャンプやほかの編集部から持ち込まれた作品が連載されていますし、昔に比べると編集部を飛び越えての展開が可能になってきていますね。

ジャンプTOONではすでに持ち込みを受け付けしている(画像をタップすると外部サイトに飛びます)

―― この連載会議に企画を持ち込む際、各編集部の編集者が出席するのですか?

浅田 その通りです。そこでは先ほど挙げた「続きを読みたくなる」「繰り返し読みたくなる」という条件を満たしていればジャンルは問いません。いわゆる「ジャンプのパブリックイメージ=少年たちによる能力バトル」だけにはしたくなくて、男性向けも女性向けもやるし、格闘技もの、カッコイイもの、グロイものだって試しますよ、という方針です。

―― どれくらいの規模感になりそうですか?

浅田 現時点(取材時)で具体的には申し上げられないのですが、2024年中にアプリが始まることはすでに発表しています。詳細はもう少し経てばお知らせできると思います。なお、投稿サイトも立ち上げます。

―― ジャンプルーキーと同様の展開ですね。そしてジャンプTOONではジャンプTOON AWARDという新人賞が開催されました。

浅田 私たちは新人作家さんのクリエイティビティーを大事にして、縦スクロールマンガを作っていく方針です。アワードについては、我々の予想を上回る121本の応募がありました。

―― アワードの募集要件を見る限り、相当ボリュームを問うものでしたね。

浅田 ボリュームは80コマ以上です。とはいえ、たとえばページ5コマの横開きのマンガに換算すると16ページ分ですから、そこまでボリュームがあるとは考えていません。しかも、カラーでなくても構わない。

 ただ、応募作品を見ると80コマを上回り、しかもフルカラーの作品が結構ありました。海外からも届いています。ジャンプTOONという名前があるだけで、アプリもサービスも影も形もないところに、これだけの本数をご応募いただいたというのは期待の表われでしょう。その期待をしっかり受け止めて事業を進めていきたいと思っています。

―― 海外にも募集情報を出されていたのですか?

浅田 出していません。ただ、注目されている感覚はあります。ジャンプTOONのX(Twitter)アカウントを開設したときに、アメリカで最も縦読みマンガでヒットしている『Lore Olympus』の作家さんがフォローしてくれて「おお!」となりました。

ジャンプTOON AWARD(応募終了済)の大賞は賞金100万円のほか、ジャンプTOONで連載確約などの特典もあり(画像をタップすると外部サイトに飛びます)

―― ジャンプブランドの強さもありますね。

浅田 アニメ配信を通じての海外での人気の高さ、MANGA PLUSなどの取り組みといった積み重ねがあったおかげですね。

表現の幅はアプリがBANされない範囲で

―― 海外市場を意識した作品作りみたいなことは考えていますか?

浅田 まずは目の前のお客さんを満足させないと、ですね。

 結局のところ、海外の人のメンタリティーって我々わからないじゃないですか。先ほど『女優失格』が面白いと申し上げましたが、この作品はさまざまなトラウマを抱えた少女が主人公で、お酒を飲まないと演技ができないというエピソードが挟まれています。

 韓国では女性のアルコール依存症が社会問題になっており、それが作品にも色濃く反映されています。これは作者が韓国で暮しているという、いわば土着性によったものですから、日本で作るならば日本人が理解できるものを作ったほうが良いと私は思っています。

―― とは言え、先ほどの話にも関わりますが、アプリは審査がありますし、週刊少年ジャンプでもタバコなどをどう扱うか、というのは常について回りますよね?

浅田 そこは、個人的にはできる限り広い表現で勝負したいですね。アプリがBANされない程度にチャレンジしたいです。

マンガ表現はすでに「スマホの普及」で変化を起こしている

―― 従来の横開きマンガとの相乗効果を図るといったことは考えていますか?

浅田 正直に言うと、横開きマンガはそれ自体でうまくいっていますので――つまり、横開きマンガもスマホの普及に合わせて、変化してきています。

 たとえば、スマホ普及前の『DEATH NOTE』などを見ると、少年ジャンプという雑誌のサイズにいかにリッチな絵を描いて読者に見てもらうか(に注力している)。あのサイズだからこそつぎ込める情報量があり、それがヒットにもつながっていたわけです。

 その後、マンガアプリが発達することで、そこで連載される作品のコマ数は減りました。また、見開きという表現がスマホでは効果的ではないということで、単純な見開きではなく、右ページを見たところで情報として完結させてから左ページに行く、といったような変化が起こっています。

 さらに横開きマンガでは、特定の電子書店だけで売れるタイプの作品というのも出てきた、と思います。これはジャンプに限らずマンガ界全体で。特に少女向けは、「めちゃコミック」や「コミックシーモア」などの女性向けが強い電子書店で売れることを念頭に作っていくといった動きが出てきましたね。

 かつ、ブラウザで読んでもらうことを前提とする電子雑誌サービスは、現在かなりローコストで作ることができるので、参入も増えて競争が激しくなっています。

 以上が、横開きのマンガの現状だと思います。この先、縦読みマンガを巻き込んでどうなるかは……変数が多すぎて、正直読み切れません。

近年、最もマンガ表現に変化を起こした事象は、「スマホでマンガを読む習慣が根付いたこと」だという

4コマという表現は死んでない

―― 先ほど『ぼっち・ざ・ろっく』を例に挙げられていましたが、原作は4コマ作品にも関わらず、スピンオフは見開きマンガで展開されています。同じように縦→横、あるいはその逆なども今後はあり得ますよね。

浅田 4コママンガという表現形態で、魅力的なキャラクターは絶対に表現できます。そして魅力的なキャラクターがあれば、それをベースに横開きのマンガを作ることだってできるということを示してくれています。

 そして縦→横の変換で言えば、歴史的にLINEさんやcomicoさんが実施しています。comicoさんの『Re:LIFE』などはその最初期を切り拓いてくれました(参考:スマホ時代の無料コミックのデファクトとなるか?――comicoの戦略を聞く)。ピッコマさんからも、『俺だけレベルアップな件』がKADOKAWAで展開されていたりします。

 我々にとってメルクマール(指標)だったのは、『氷の城壁』の横開きマンガ化です。これが10月にコミックス5巻が発売されているのですが、紙と横開きの電子版をあわせて、累計56万部を超えています。

 これによって横にして持っておきたい=読み返したいというお客さんが明確にいたことが可視化されましたので、その方向性も戦略としてとっていく可能性があると思います。

―― ありがとうございました。

 アプリのリリース前ということもあり、ジャンプTOONの詳細な形はまだ語られることはなかったが、「雑誌型と書籍型の間にピンを打つ」という構図は明確に示されたインタビューだった。

 また、これも対立構造で語られることの多い縦読みと横開きについても、全社的にはトータルでの勝ち筋を探っていくことが示された。「数年で結果が出るものではなく、腰を据えて取り組んでいく」と浅田氏はインタビューの最後に述べた。ジャンプすなわち日本のマンガの新しいチャレンジに注目していきたい。

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