PC業界をになうメーカーが考える、AI戦略の今後とは?
ASCII.jp / 2023年10月13日 9時0分
サードウェーブは10月6日、業界人向けのセミナー「Dospara plus Synapse 2023 ~AIを知り、AIを活用する、AIテクノロジー新時代がビジネスを変える~」を開催した。会場はベルサール秋葉原 HALL A。当日は「AI」を扱う企業や団体が登壇し、さまざまなセッションを行なった。
1つめのセッションは、開会式を兼ねてサードウェーブ 代表取締役社長・尾崎健介氏が登場し、「今後のクライアントコンピューティング事業の展望」について語った。
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尾崎氏はまず、サードウェーブの歴史を紹介。来年創業40周年を迎えるサードウェーブは、全国に43店舗を展開する日本最大のパソコン専門店「ドスパラ」を運営する企業。創業当初はPCパーツの輸入販売業を営んでいたが、次第にBTOパソコンの製造に力を注いできた。そして、ここ5年はコンシューマー向けの製品だけでなく、法人向けサービス「ドスパラプラス」にも注力している。
尾崎氏によると、サードウェーブが抱える顧客は、一般のパソコンでは対応できない高性能パソコンを求める大学や研究者も多いそうだ。尾崎氏は「今後は研究者に提供するサーバーワークステーションと、AIクラウドで活用できるサービスを強化していきたい」と展望を語った。
製品ブランドを3つに集約、業務AIは「raytrek」にお任せ!
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続いて登壇したのは、サードウェーブ取締役であり、法人ブランドの統括責任者の井田晶也氏。井田氏は「AIは我々のすべての生活に関わってくる」と前置きした上で、それに伴って増大するデータ量について言及した。
井田氏によると、ネット上で生成・消費されるデータ量は、10年前に比べて60倍に増えているそうだ。さらにこれから3年後までに消費されるデータ量は、「過去30年分に相当する予測が出ている」と語る。
サードウェーブは、そんな来るべき未来に向けて、AI開発を中心にした企画開発を行なっていく。その足がかりとしてまず実施したのは、製品ブランドの拡張と再構築。具体的にはブランドを「GALLERIA」と「raytrek」、「THIRDWAVE」の3つに集約し、ユーザーにわかりやすい製品ラインナップに簡素化させた。
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このなかで今回井田氏が取り上げたのは、「raytrek」。今までクリエイターやデザイナーに向けて提供してきたブランド「raytrek」は、今後AIやCAD、VRなどを扱う法人でも使える高性能なハードとして開発してゆく。その第一弾として発表されたのは、「raytrek Workstation X4630」。OSやCPU、GPU、メモリーなどを柔軟にカスタマイズできるのは、BTOで長い歴史を持つサードウェーブの得意分野。井田氏は「AI開発はもちろん、大学や研究機関、ゲノム解析など、さまざまな分野に最適化させたサービスを提供できる」と語った。
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価格90万円台後半からのハイエンドワークステーション「raytrek X4630」
会場内の後方スペースには、井田氏が壇上で紹介したハイエンドワークステーション「raytrek Workstation X4630」と「raytrek 4CXV」、「raytrek SPX-Q2S」、モバイルノート「THIRDWAVE F-14RPL」が展示されていた。
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10月6日から発売開始した新製品「raytrek Workstation X4630」は、拡張性に優れた同社の最上位モデルで、第4世代インテルXeonスケーラブル・プロセッサーファミリー2基と、NVIDIAのビデオカードを最大2基搭載可能。
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パーツ構成はハイエンド機の名にふさわしく、メモリーは32~1024GB、ストレージは最大2TBのM.2を4基、3.5インチHDDを4基、2.5インチSSDを2基まで搭載可能。電源は1200W~2050Wで、重量は22kg。価格はシステム構成によって大きく変動し、最低構成で90万円台後半から。
場内には商談用スペースが設けられており、何人かの来場者は解説員の説明を熱心に聞いていた。
NVIDIAがホンキで取り組むAI研究開発
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11時から始まったNVIDIAのセミナー「AI × NVIDIA Omniverse最新活用事例」は、グラフィックに関するAI活用についての公演。エヌビディア合同会社 ビジネスデベロップメントマネージャーの高橋想氏が登壇した。
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11時から始まったNvidiaのセミナー「AI × NVIDIA Omniverse最新活用事例」は、グラフィックに関するAI活用についての公演。エヌビディア合同会社 ビジネスデベロップメントマネージャーの高橋想氏が登壇した。
30年前の1993年に創業したNVIDIAは、3Dゲームやグラフィックスからスタートした。しかし現在ではGPUがさまざまな用途で使われており、2012年以降はAIにも活用されている。
高橋氏はセッションの冒頭で、「当社はハードウェアメーカーのイメージが強いが、GPUを活用させるソフトウェア(ライブラリ、フレームワーク)開発にも力を入れている」と紹介。実際、社内のエンジニアの半分以上はソフトウェア開発とのことだ。
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高橋氏は「昨今話題の生成AIは弊社も取り組んでいる」と語り、NVIDIAが関わっている自動車業界を例に出して話を進めた。
自動車業界では、コンセプトデザインを生成AI作らせたり、自動車運転車両のトレーニングにAIを活用したりしている。また、工場の生産プロセスの最適化にも、AIが役立っているそうだ。
NVIDIAが提供するプラットフォーム「Omniverse」を使えば、さまざまなツールとデータを一元管理できる。高橋氏は「リアルタイムにフォトリアルな映像で表現できるのが特徴」と語った。
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また、ストックフォトサービスを行なうShutterstockとのコラボも紹介された。同社は「Nvidia Picasso」を使い、HDRI画像を生成している。従来は希望する画像を探すしかなかったが、このサービスを使えば文字(プロンプト)を入力するだけで希望のHDRI画像を生成できるそうだ。
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加えて高橋氏は、現在NVIDIAが研究開発中の技術についても言及した。AIを使えば、いままで計算が難しかった髪の毛の表現を自然にできたり、モーションスーツが必要だったモーションキャプチャーが動画だけで行なえるようになったり、AIの用途は広がっていくそうだ。
すでにテキストから3Dデータを生成するサービスは行なわれているが、「まだ精度に問題がある(高橋氏)」と語る。しかし、今後は改善されてゆき、ゆくゆくはテキストからアニメーションを作れる時代も訪れるとのこと。
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NVIDIAのデジタルツイン活用事例
セミナーの後半は、Nvidiaのサービスを活用している事例の紹介。いくつかの企業が紹介された。1つめは広告代理店「WPP」だ。
企業の広告を制作している同社は、ある自動車のコマーシャル映像にNVIDIAのAI技術を活用している。具体的には、主役の製品(自動車)以外の背景や小物、HDRIは、AIで生成したそうだ。従来人間が制作していたプロップをAIに作らせることで、効率的に映像を制作している。
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2つめに紹介されたのは、「Amazon Robotics」の事例。Amazonの物流センター内で動いている自律走行ロボットの学習データ収集に、NVIDIAの技術が使われているそうだ。
ロボットの学習データを収集するには、工場内を何度も走行させる必要がある。当然、それを実現するには工場が完成していなければならない……。そこで登場するのがNVIDIAの「Omniverse」だ。工場が完成していなくても、Omniverse上に3Dでバーチャル工場を作ってしまえば、ロボットの学習データを取得できる。こうすることで、工場が建設完了したと同時に自律走行ロボットを走らせられるわけだ。時間とコストを大幅に節約できた事例だ。
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最後に、台湾のエレクトロニクス企業「PEGATRON」の事例。こちらもAmazon Roboticsと同様にデジタルツインを活用したが、それだけではない。なんと、不良品のデータをAIで生成し、学習させたそうだ。実際には発生頻度が低い不良品をAIで生成し、そのデータを学習させる。これによって、外観検査の認識精度が80数%から98%近くまで向上したそうだ。
高橋氏は「デジタルツインとAIは、現実空間では取得しにくいデータや、危険が伴うデータ、カメラで撮影しにくいデータを扱う際に威力を発揮する」と語った。
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AI処理でパフォーマンスを発揮する「RTX 6000 Ada Generation」
公演の最後は、NVIDIA RTX GPUシリーズの紹介。会場のスクリーンに製品ラインナップを映し出した高橋氏は、「最新のアーキテクチャーではAIコアの性能が上がっている。ミッドレンジ以上のGPUは、AI業務でも活用できる」と解説。
LLM(大規模言語モデル)のような大規模な処理はサーバーで行うのが効率的だが、小規模な処理はRTX世代のGPUが有効とのこと。最新GPUである「NVIDIA RTX 6000 Ada」のベンチマーク結果を紹介して公演を終えた。
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インテル、AI処理で威力を発揮する第四世代Xeon
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午後から始まったセミナー「インテルXeonプロセッサーの最新技術とCPU×最新AI技術」は、第四世代Xeonスケーラブルプロセッサーが、いかにAIに強化されているかについて解説された。登壇者はインテル 矢内洋祐氏。
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矢内氏はまず、「AIはコストがかかる。エンジニアの育成と開発期間の短縮化が重要」と問題提起。インテルはこの2つの問題を解決し、AIが広く使われる未来を目指している。
取り組みとして紹介されたのは2つ。1つめの「人材不足」に関しては、エンジニア以外でもAIを扱えるように「intel GETi」と名付けられたサービスを提供している。これはコードを書かずにAIを開発できるツール集。そして2つめの「開発プロセスの短縮化」については、ツールやリファレンスキットを開発者に公開し、ユーザーの負担を減らす施策を行なっているそうだ。
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AI処理を高速化させる「Intel AMX」
AI開発のプロセスは、「データの準備」と「学習」、「推論」の3つのフェーズが分かれている。このなかで学習と推論はGPUを使うと思われがちだが、実際に商用システムで使われている推論の7割はXeonが使われているそうだ。ここで矢内氏は、第四世代Xeonスケーラブルプロセッサーに搭載された拡張命令「Intel AMX」について解説を始めた。
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AMXはディープラーニングのアクセラレーター。いままでとは違い、2次元のデータを集めたものをそのまま処理できるのが特徴。矢内氏は「従来のIntel AVX-512では3サイクルかかっていたものが、1サイクルで処理できるようになった」と語った。矢内氏によると、推論だけでなく学習性能も最大10倍も向上したので、AI開発プロセスはXeonだけで行なえるそうだ。
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「Stable Diffusion」では前世代比5倍の高速化
第四世代Xeonスケーラブルプロセッサーの性能向上は学習だけでなく、推論も同様に上昇している。会場のスクリーンには、前世代との性能比を表したグラフが映し出され、最大10倍の結果が示されていた。また、GPU「Nvidia A10」と比較しても、平均1.8倍の性能があるそうだ。矢内氏は「CPUなのに、NVIDIA A10より高性能なA30ともいい勝負をする」とコメントした。
壇上で矢内氏は、「Stable Diffusion」を使ったデモンストレーションを行なった。第三世代Xeonだと50秒かかる画像生成が、第四世代Xeonだとたった4秒で終わった。今回のデモはモデルの最適化が公平ではなかったため10倍の差が開いたが、最適化を除いたら前世代比で5倍程度の高速化が見込めるとのこと。
セミナーの最後に矢内氏は、「生成AIはGPUがないとできないと思っている人は多いと思う。しかし最新の第四世代Xeonを使えばCPUだけでも推論できる」と締めくくった。
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