アドビの考える生成AI「技術と法律」作家に利益を還元、“無断画風コピー”の禁止も提案
ASCII.jp / 2023年10月17日 8時0分
今年のAdobe MAXは「生成AI祭り」だった。一方で、生成AIが関わるトピックとして気になるのは、やはり「運用ルール」であり「権利」の問題だろう。
アドビはこの問題をどう考え、対処を考えようとしているのか? 筆者は今年も現地で取材をしたが、イベントと合わせ、関係者取材から得られた内容を含めて考察してみたい。
アドビの生成AI「Firefly」とは
まずは少し状況を振り返ってみたい。アドビは今年3月、独自開発した生成AI「Firefly」を発表した。
Fireflyは学習にアドビの素材・作品ストックサービスである「Adobe Stock」と、著作権がクリアーされたフリーのコンテンツを使っている。Adobe Stockの中でも、特定のIP(例えばマリオやミッキーマウス)が含まれないものが対象であり、「企業が安心して使える、透明性の高い生成AIである」ことが特徴、とアドビは主張する。
今回のAdobe MAXでは、Fireflyに大幅な機能アップが実施されている。1つは「モデルの進化と追加」。画像生成用の「Image Model」が2になり、ベクターデータを生成する「Vector Model」と、文書のレイアウトデザインを生成する「Design Model」が追加された。時期は未定ながら、「Video Model」「Audio Model」「3D Model」の開発がスタートしていることも公開された。
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これらは素晴らしいことではあるが、ある意味予想の範疇でもある。より仕事現場での活用に重要なのは、「生成Match」と「Modelのカスタマイズ」だ。
前者は、すでに誰でもウェブ版のFireflyから使える。プロンプトから画像を作る際、イメージの元になる画像を用意して、そのテイストに合わせて画像を生成する。
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後者は主に企業向け。数枚の画像を用意し、そこから得た結果をFireflyにプラグイン的に適応し、特定のテイストに沿ったコンテンツを生成するもの。ざっくりいえば、企業のロゴやカラールールを組み込んだコンテンツを用意し、それを読み込ませて生成すると「その企業っぽいコンテンツが用意される」と思えばいい。
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生成AIに映像を作ってもらう場合、目的はいくつかあるだろう。ある人はアイデアを得るためのイメージボードを作ってもらうために使うのだろうし、またある人は、広告のために使う画像のバリエーションを増やすのが目的かもしれない。
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アドビ デジタルメディア事業部門代表のデビッド・ワドワーニ氏は、クリエイティブ・コンテンツのニーズが「2026年には現在の5倍以上に跳ね上がるだろう」と予測を語る。
複数の地域で、複数のメディアに対し、より個人に最適化したマーケティングをしていくのだとすれば、コンテンツへのニーズは必然的に増加する。それをカバーするには、生成MatchやModelのカスタマイズが必要になる……というのも理解できる。
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システムでアドビはどう対策するのか
ここで問題になるのは、そうした機能を使った場合、「なにかに似せた画像」がより作りやすくなる、ということだ。生成AIにありがちな課題だが、「オリジナルのクリエイターの権利を侵害するのでは?」という点だ。
懸念はもっともであり、アドビも対策はしている。
まずModelのカスタマイズについて。これは基本的に「企業側が使う」ものなので、どういうコンテンツを学習するかは、最終的なアウトプットをする企業が責任を負う。
一方で企業向けのFireflyを使う場合、その生成コンテンツについての訴訟には「アドビが全額補償する」というルールが存在するので、この2つを組み合わせれば課題は起きないだろう……という考え方だ。
では、個人も使える「生成Match」の場合はどうだろう? ここでは2つの方策が採られている。1つは「コンテンツ認証」の利用。
コンテンツの来歴を記録した技術だが、この中には「do not train(学習拒否)」タグがある。これが生きている場合、生成Matchの対象にならない。許諾上も、利用権があって問題ない画像を使うよう定められている。
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次に「記録」。氏によれば、生成Matchに使われた画像は、システム内にサムネイルが記録される。そして、画像についてクレームなどの問題が発生した場合、状況がさかのぼって確認され、その後は同じ画像は生成Matchに利用されないようになるという。
もちろんこれらは、「権利侵害を100%防止する」ものではない。やろうと思えば回避方法はいくらもある。だが、意図的に回避することをアドビは100%防ごうともしていない。
結局のところ、画像を生成することそのものは罪ではない。生成画像を世に出たあと、それが権利侵害や迷惑行為につながった場合、そこで初めて問題になるのだ。
本質的には生成画像を「使う人」に委ねつつ、その前段階で「利用者が判断できない形で侵害が起きること」を防ぎ、「利用者が求める形のコンテンツを作る」ことに合わせた運用が考えられている、という形と理解できる。
アドビのような企業のツールを使う場合、自前で学習した画像生成AIモデルを使う場合と違い、100%の自由はない。
しかし、土台としての安心を作っておき、その上で「利用を望まないクリエイターはその旨意思を示してほしい」ということなのだ。企業が仕事に使うなら、そちらの方が良い。
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アーティストに利益を還元し、 法的にも「スタイルを守る」方法を模索
この話は、あくまで「利用する側の安心感」の話であり、クリエイターにとってあまりいい話ばかりでないように思える。もちろん、アドビはもう少し前向きな方法論を考えている。
「我々は、アーティストがそのスタイルとスキルで生計を立てる能力を保護し、著作権が生成AI技術に追いつく方法を考えている」アドビのイーライ・グリーンフィールドCTOはそう話す。
技術的に核になるのは、生成Matchに代表されるテクノロジーだ。これを使うことで、クリエイターは作品だけでなく「画風」「色合い」「タッチ」を売り物にすることができる。
「あの絵の風合いが欲しい」と思った人に、「生成Match」して好みの作品を作る方法論を提供し、それを収益化するわけだ。
現在はAdobe Stockで「作品」が提供されている。しかしそれだけでなく、作品からの派生物として「Fireflyを介して何かを作る権利」も提供できるなら、Adobe Stockに「Do not train」タグをつけずに作品を提供する人も増えるだろうし、そうする意味が生まれることにもなる。
ただ現状、著作権では「画風」「タッチ」などは保護されない。そこでアドビは、米連邦議会に「FAIR法」という法案を提案しているという。詳しくは以下リンクをご確認いただきたい。
・FAIR法:AIの時代にアーティストを保護する新しい権利(アドビ)
この法案は簡単に言えば、「AIを使って生成された時」を対象とし、クリエイターのタッチを真似た作品や、誰かの肖像を真似たものに対し、訴える権利を与えるものである。人間の手で描かれるものは対象とならない。要は「AIを使ってお手軽に、無許可に真似られことによる被害」を防止するためのアイデアと言える。
現状は「案」なので、すぐに成立するものではない。
しかし、技術的な枠組みと法的な枠組みを組み合わせて、生成AIとアーティストの共存を進めていくことができるのだとすれば、非常に重要な動きとなっていくだろう。
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筆者紹介――西田 宗千佳
1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、書籍も多数執筆。テレビ番組の監修なども手がける。主な著書に「メタバース×ビジネス革命 物質と時間から解放された世界での生存戦略」(SBクリエイティブ)、「ネットフリックスの時代」(講談社)、「ソニー復興の劇薬」(KADOKAWA)などがある。
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