Bluetoothの新技術Auracastを体験、空港や講演会場での活用を提案
ASCII.jp / 2023年10月22日 17時0分
Bluetooth SIGはCEATEC 2023の会場で、LE Audioの新機能「Auracast ブロードキャストオーディオ」(以下Auracast)を体験できる「Auracast Experience」のデモを国内初公開した。
Bluetoothのデータ通信は1対1を基本とするが、Auracastでは不特定多数の受信機にデータを送信(ブロードキャスト)できる。LE Audioの発表時には「Audio Sharing」として紹介されていた機能だが、本連載でも取り上げたようにリブランドして独立した。
![Auracast Experience CEATEC 2023](https://ascii.jp/img/2023/10/22/3625896/x/dfe432cbde2a5108.jpg)
Auracast Experienceは、参加者が解説者と同行するツアーの形式で、実生活のシーンに基づいたシナリオを体験するものだ。これまでバルセロナの「MWC 2023」や台湾の「COMPUTEX TAIPEI 2023」で披露されてきた。CEATECのデモも一部を除いてほぼ同内容となっていた。
自分の動画や音楽だけでなく、アナウンスやシェアも
CEATEC会場でのデモは、海外の講演を聞きに行くという想定で、途中の空港でAuracastを体験するというシナリオだ。参加者はイヤホンとスマホを受け取り、片耳にイヤホンを入れてAuracastの音声、別の耳で解説者の話を聞きながらツアーを進める。
![Auracast Experience CEATEC 2023](https://ascii.jp/img/2023/10/22/3625902/x/001116efaa1e5bc1.jpg)
まず、搭乗までの時間を潰すという想定で、スポーツバー風の空港のラウンジに行く。壁には二台のテレビが設置され、それぞれバスケットボールとサッカーの中継が放送されている。テレビは無音で、画面だけが見られる状態だ。
![Auracast Experience CEATEC 2023](https://ascii.jp/img/2023/10/22/3625897/x/54ea1b5b5e40010c.jpg)
ここで参加者がスマホアプリから「TV1」と書かれたチャンネルを選択すると、イヤホンからサッカーの音声を聴けるようになる。自分だけでなく、ほかの参加者のイヤホンにも同じ音声が聞こえているので、ブロードキャストされていることがわかる。バスケの試合を見たい人は「TV2」を選択すれば、その実況が聞こえる。とても効果が分かりやすいデモだ。
![Auracast Experience CEATEC 2023](https://ascii.jp/img/2023/10/22/3625904/x/77f863e2fb132b8d.jpg)
![Auracast Experience CEATEC 2023](https://ascii.jp/img/2023/10/22/3625905/x/31820e23f69bc2df.jpg)
続いて、搭乗ゲートを模したコーナーに移る。ゲート付近の椅子に、Daveというマネキン(私の友人という設定)がいてノートPCの動画を楽しんでいる。Daveはイヤホンを使っているので、私には聞こえないが、スマホアプリで「Dave's PC」を選択すると、私のイヤホンでも動画の音声が聞こえるようになる。同じ場所には、さらにLoriという友人もいる。Loriはスマホで音楽を楽しんでいる。そこで「Lori's Phone」を選択すると、彼女と音楽を一緒に楽しむことができる。
![Auracast Experience CEATEC 2023](https://ascii.jp/img/2023/10/22/3625906/x/be07dfde7422d652.jpg)
![Auracast Experience CEATEC 2023](https://ascii.jp/img/2023/10/22/3625907/x/2990e599f747bdd0.jpg)
![Auracast Experience CEATEC 2023](https://ascii.jp/img/2023/10/22/3625900/x/da94fa3a0151723c.jpg)
ちなみにこのLoriのケースは、CEATECで追加された独自のシナリオである。DaveとLoriのケースではチャンネルの選択時にパスコードの入力が必要となる。Auracastではセキュリティ上の配慮があることも知ることができた。
![Auracast Experience CEATEC 2023](https://ascii.jp/img/2023/10/22/3625908/x/e942aea60f69e254.jpg)
さらに、搭乗ゲート付近で「搭乗ゲートB23」というメニューを選択すると、搭乗案内がイヤホンから聞こえてくる。また、アプリが日本語に翻訳されていることもわかる。空港での音声案内は、騒々しい中で不明瞭なスピーカーの音を聴かないといけない場合も多いが、これならばはっきりと聞き取ることができる。音楽を聴いていてもいちいちイヤホンを外す必要がないし、耳が不自由な人は補聴器でアナウンスを聞こともできるだろう。
![Auracast Experience CEATEC 2023](https://ascii.jp/img/2023/10/22/3625909/x/d2376062ba8a1019.jpg)
最終的に参加者はカンファレンスの会場に到着。会場でもAuracastを用いて、自分のイヤホンで講演内容を聞くことができる。この時、同時通訳の音声など、チャンネルを合わせて聞きたい音声を選ぶこともできる。
![Auracast Experience CEATEC 2023](https://ascii.jp/img/2023/10/22/3625910/x/8c0f95a40206e4f6.jpg)
このようにAuracastはさまざまな場面で応用できる。東京の山手線では車内にディスプレーが設置されており、無音でCMなどが流れているが、その音声をAuracastで聞けると便利だろう。また、ライブ会場などで、イヤホンを前提としたASMR音声を楽しむといった応用もできるはずだ。
Auracastを使うには?
Auracastでは対応する送信機と受信機が必要となる。送信機はノートPCやスマートフォンを指し、LE Audio対応であればAuracastの送信機になれるが、LE Audioには20以上の新機能があり、Public Broadcast Profile(PBP)というプロファイルが使える状態になっている必要がある。
![Auracast Experience CEATEC 2023](https://ascii.jp/img/2023/10/22/3625903/x/8359e454957fc721.jpg)
パソコンやスマホがLE Audioに非対応でもドングル型の送信機を利用することができる。写真はBluetooth SIGのCMOであるKen Kolderup氏に持っていただいたところだが、かなり小さい。これを使えば、USB-C対応の「iPhone」をAuracast送信機にし、アプリで再生中の音楽を数十台のワイヤレススピーカーやイヤホンにブロードキャストできるそうだ(すでにUSB-C対応のiPadでは試してみたらしい)。また、ノルディック製の試作基板も見せてもらった。これをベースにAuracast送信機を作ることができるようだ。これにアナログ入力があれば、テレビなどの音声を簡単にAuracastで配信ができるようになる。
![Auracast Experience CEATEC 2023](https://ascii.jp/img/2023/10/22/3625911/x/7cab75876d6b1f27.jpg)
![Auracast Experience CEATEC 2023](https://ascii.jp/img/2023/10/22/3625912/x/1ee4ef4d52c52a4f.jpg)
![Auracast Experience CEATEC 2023](https://ascii.jp/img/2023/10/22/3625913/x/adcb0501d185909c.jpg)
受信機はLE Audio対応のイヤホンなどだ。Auracast Experienceではクアルコムのリファレンス・イヤホンが使用されていた。これはMWCやCOMPUTEXでのAuracast Experience、あるいはクアルコムのSnapdragon Sound Gen2 とLE Audioを組み合わせた発表イベントで使用されたものと同じだ。
リファレンス・イヤホンとはドライバーメーカーやチップメーカーが製作したイヤホンだ。商品を開発するメーカーにドライバーやチップの使い方を説明したり、設計の参考にするために用いられる。市販するためのものではない。
スマホを経由せず、イヤホンで直接音声を聞ける
重要なポイントはAuracastを受信するのはあくまでイヤホンであり、スマホは必須ではないという点だ。Auracast Experienceではイヤホンのチャンネルを切り替えるUIとしてスマホアプリを利用している。イヤホンには画面がないので、スマホでAuracastのチャンネル名やメタ情報を見せているわけだ(Auracastでは音声と同時に、Advertisementというメタデータも送信している)。
![Auracast Experience CEATEC 2023](https://ascii.jp/img/2023/10/22/3625894/x/7313ec4ad66b3546.jpg)
実際、Aura Experienceで使用したスマホはAndroid 12が動作する「Pixel 6a」であり、LE Audio対応ではなかった。また、今後イヤホンにスイッチで周囲にあるAuracastのチャンネルを順に切り替える(ローテーションする)機能が付けば、スマホを使わなくても聞きたいチャンネルの音声に合わせられるだろう。
Auracastはこのように機材についての柔軟性も高く、導入についての敷居は思っていたよりも低いように思えた。公共の利益ともなりうる機能なので、オーディオメーカーだけではなく自治体や鉄道会社なども率先して導入を考えてもらいたい新技術だ。
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