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LE Audioの始まりは補聴器に向けた低消費電力通信、Bluetooth SIGのキーマンに聞く

ASCII.jp / 2023年10月22日 19時30分

Bluetooth SIGのケン・コルドラップ(Ken Kolderup)CMO

 Bluetooth SIGのCMO、ケン・コルドラップ(Ken Kolderup)氏が来日。10月16日の「Bluetooth SIG 25周年記者説明会」でBluetooth技術の最新ロードマップを説明した。その後、コルドラップ氏に個別取材する時間を得たので、最近のBluetoothとLE Audioに関して聞いた。

補聴器のための低消費通信がLE Audioの始まりだった

 まず、Bluetooth SIGの組織としての現状について確認した。

 コルドラップ氏によると「Bluetooth SIGはワイヤレス伝送に対する共通の目標をもった数社か集まって始まったが、現在は会社組織になっている」という。「専業のスタッフが100人ほどいて、会社としてのBluetooth SIGは参加各社の書いた仕様書を管理したり、必要なツールを準備したりする役割を持つ」とのことだ。

Bluetooth SIGのケン・コルドラップ(Ken Kolderup)CMO

 仕様を書く他の会社とは定期的な会合を持っているのかと聞いてみた。「Bluetooth SIGには現在15のワーキング・グループ(作業部会)があって、それぞれ異なった分野を統括している。ほとんどのワーキング・グループは週に一度はオンラインで会合をしているので、かなり密に連絡を取り合っていることになる。そして4半期に一度は実際に顔合わせしている」ということだ。  次にLE Audioの話題に移り、LE Audio制定の流れについて確認した。コルドラップ氏によると、補聴器をワイヤレスにした場合、Bluetooth Classic規格では電力消費が大きくなりすぎるため、補聴器業界からBluetooth SIGにアプローチがあった」という。

コルドラップ 「補聴器はイヤフォンと違って、終日装着しなければならない。Bluetooth LE規格を使った音声通信のプロジェクト(ワーキング・グループ)を立ち上げたところ、コンシューマーオーディオメーカーも参加してきた。LE Audioは補聴器に必要な条件として、音質向上・低遅延・消費電力低減の目標を掲げたのだが、これらの要素がブロードキャスト(今のAuracast)機能も含め、コンシューマオーディオでも興味を持たれた」  以前、フラウンホーファーIISを取材した際に、LE Audioの標準コーデックとしてLC3を採用した理由についても考察すした。Bluetooth SIGとしての見解も直接確認してみることにした。

 コルドラップ氏はまず重要だったのは消費電力だったと述べた。

コルドラップ 「SBCは電力がかかりすぎるのが課題だったので、まず低消費電力のコーデックが必要だった。LC3だと圧縮しても音質が落ちないのが魅力だった」

 そこでLC3の低遅延特性は重要だったのかと質問した。

コルドラップ 「まず我々の要求事項をいくつか出して、それに適合できるコーデックを探した。データレートが低くても音質が落ちないものだ。ターゲットは20ms未満の低遅延をを満たせるもので、演算処理が複雑でなく、電力消費が少ないことも要件だった。様々なコーデックを探した結果、フラウンホーファーとエリクソンのLC3が最適と考えた。LC3はSBCと比べてデータレートが半分で済み、音質も良いからだ」

 つまり、あくまで様々な要件を総合的に満たすものとしてLC3を選んだという見解だ。ここでLE Audioの低遅延特性の目標値として20msという数値が出たが、最近のLE Audio採用機でよく聞く数値は50ms前後だ。そこで「実際のところは50ms程度ではないか」と聞いてみた。

コルドラップ 「SBCでは遅延が100~200msだったが、LC3では20msは可能な目標値だ。実装にもよるが、現在でも20msは実現可能だ。ここは信頼性を上げるために再送するなど、ロバストネス(通信安定性)とのトレードオフなので遅延は製品の実装によるものだろう」

 理想的な環境においては20msが達成可能だが、通信の安定性を上げるために冗長性などを増すと現実的には適切な値に落ち着くというわけだ。

Auracastのデモ
Bluetooth SIGはLE Audioの応用例であるAuracastのデモもCEATECで開催した。

LE Audioとコーデック技術について聞く

 次にLC3よりも高音質のLC3plusは標準になるのかと聞いた。

コルドラップ 「LC3plusはオプション的なものだ。フレームレートの向上やより高いサンプリングレートの伝送などの効果はあるが、Bluetoothでは今のところLC3plusのオプションがすべて使えるわけではない。現在のロードマップを考えるとBluetoothとの相性はまだ良くないと考えている」

 続けて「例えばLDACのようなほかのコーデックもLE Audioで使用できるのか」と聞くと、「LC3はBluetoothクラシックオーディオ規格のSBCと同じで、必ずサポートが必要なコーデックだが、他のコーデックでも構わない。もちろんLDACもLE Audioで使用して構わない」とのことだ。

 次にLE Audio「のみ」のイヤホンについて質問した。最近発売されたソニーの「INZONE Buds」のように、LE Audioのみしか対応しないイヤホンも現れたからだ。Bluetoothが以前から示している“LE Audio普及のロードマップ”にもLE Audioのみというカテゴリーが存在している。

 そこで、INZONE Budsは、ANCをオンにした状態でも18時間の再生が可能だが、これはLE Audioのみに対応した効果なのかと聞いてみた。

コルドラップ 「LE Audioの消費電力低減効果についてはその通りだ。ただし、仮にBluetooth Classicのオーディオ規格とLE Audio規格の両方をサポートしている機種でLE Audioを使っても、Bluetooth Classsicのオーディオ規格に引っ張られて消費電力が増すことはないと考えている。とはいえ、これからのイヤホンはLE Audioオンリーという方向に進んでいって欲しいとは思っている」

 製品の実装に依存する部分もあると思うが、興味深い内容だと思った。

アップルがLE Audioをどう使うかは分からない

 LE Audioの普及には課題もある。Andorid 14はすでにLE Audioに対応したが、アップルの動向もキーだろう。アップルの動向についても聞いてみた。

コルドラップ 「たぶんアップルも動いているとは思うが、アップルはそうしたことは話してくれない。例えば補聴器やAuracastデバイスなどの流れなど、一般に言われていることから考えると、アップルもいずれサポートする方向に動くとは思う。また、たしかに音楽を楽しむとかスマートフォンを使うような条件ではアップルが重要かもしれないが、例えばAuracastはLE Audioだがスマートフォンは必須ではない」

 補足すると、別掲載の「Auracast Experience」の記事に書いたように、USBドングルを使用すればアップル製品でもLE Audioは使用できる。また、Auracastのチャンネル選択にスマホアプリを使うことがあるが、Auracastの音声を受信するのはあくまでイヤホンであって、スマートフォン経由でLE Audioを受信するわけではない。LE Audioの技術を使ったAuracastのシステムに置いて、LE Audio対応のスマートフォンが絶対に必要というわけではないのだ。

どこか一社の独自仕様がBluetoothの標準にはならない

 最後に「アップルがロスレス伝送のために5GHz帯を使用するという情報が出ているが、もしBluetooth SIGの規格が5GHz帯に対応する前にアップルが5GHz帯に対応した場合に独自規格となるのか」と聞いてみた。

コルドラップ 「アップルの取り組みについては話すことはできないが、ある技術分野についてBluetooth SIGの標準規格が出る前にメンバー企業が独自に拡張した規格を採用することは珍しくはない。例えば、Bluetooth Meshについて、我々がMesh規格を出す前に、クアルコムが独自規格として考えたことがある。また、高精度距離測定でも、ダイアログやノルディックなど独自に仕様を出しているメーカーがある。8Mbpsを見据えたデータの高速化についても、ファーウエイがすでに採用をしている」

 そこで、もしそうした先行技術がデファクトスタンダードになった場合は、スタンダードとしての規格に取り入れられることがあるのかと聞くと、「そうした独自仕様はあくまで企業のエコシステムのものであり、Bluetooth SIGが考えている標準化とはそういうものとは全く性質が異なる」とし、「我々が標準を決めるときは複数の会社が集まってみんなで研究しながら仕様を決めていく。だからどこか一社の独自仕様となるということはない」というきっぱりとした回答が返ってきた。

 つまりデファクトスタンダードとスタンダードはおのずと違うものだということだ。

 ある会社が規格を決めてもそれが高価なチップの採用が必要であれば、力のない会社はついて来ることができないので業界の足並みは揃わなくなる。一社が決めたものがデファクトスタンダードになっても、Bluetooth SIGではそれに左右されずに標準化への強い信念を持って真摯に考えているということがわかった。あらためて標準化ということの意味を考えさせられたインタビューであった。

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