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人間は「脂肪25%の牛肉」より「赤身75%の牛肉」が健康的だと感じてしまう

ASCII.jp / 2023年10月26日 7時0分

写真はイメージ

 生きていく過程において人は──多くの場合は無意識のうちに──さまざまな「バイアス(偏見や先入観など)」や「思考の不具合」に翻弄されてしまうものだ。

 たとえば、やるべきことを先延ばしした人はその理由として、「いまそれをやるよりも未来に対処したほうがうまくできる」と(根拠なく)思ってしまい、あとから苦しむことになったりする。いうまでもなくそれは、自分に都合のいい思い込みが邪魔をするからだ。

 あるいは目の前にある現実を、多角的にではなく一方向からだけしか見なかったとしたら、余計な災難に巻き込まれてしまう可能性も否定できないだろう。しかも、それを自分ではない誰かのせいにするということもありうる。それもまた、自分本位な「思考の不具合」によるものだと考えるべきではないだろうか。

 そこで『イェール大学集中講義 思考の穴──わかっていても間違える全人類のための思考法』(アン・ウーキョン 著、花塚 恵 訳、ダイヤモンド社)の著者は、2003年にイェール大学の心理学教授となってから、人を惑わせるさまざまなバイアスについて調べ、そうしたバイアスを正す方法を考案し、さらには「思考の不具合」についても研究してきたのだという。

心理学に基づく「思考ツール」のようなものが必要とされている

 興味深いのは、「シンキング(Thinking)」という講義を開始し、心理学があらゆる問題への対処、さまざまな決断を下す際の判断力の向上にどう役立つかを教え始めたという点だ。それが多くの学生たち(や、その親きょうだい)の共感を呼んだというのである。

こうした経験を通じて、心理学に基づく思考ツールのようなものが切実に求められ、必要とされていると実感したことから、私はもっと幅広い人たちに私が教えていることを知ってもらおうと、本を書くことにした。(「INTRODUCTION わかっていても避けられない?」より)

 そうして誕生した本書において著者は「人々が日々直面する現実的な問題に、とりわけ関係が深いと思われる8つのテーマ」を用意し、それらについてわかりやすく解説している。しかもそれぞれに見出しがついているため、「これは?」と感じた項目を見つけやすいはずだ。

「☆5」が5件あっても「☆1」が1件あると気になってしまう

 たとえばChapter05「『損したくない!』で間違える」においては、「人は『ネガティブな情報』に過剰に影響される」ものだという指摘がある。日々多くの情報に振り回されている私たちの現状は、まさにそれにあたるだろう。

 いい例が、オンラインストアでなにかを購入しようとするとき参考にするレビューだ。仮に5つ星がついた4件のポジティブなレビューが並んでいたとしても、残り1件のネガティブなレビューがどうしても気になってしまったりするものだ。

心理学の分野には、人はポジティブな情報よりネガティブな情報を重視すると実証した実験がたくさんある。しかもその傾向は、製品だけでなく人を見定めるときにも当てはまる。(205ページより)

 人がネガティブな情報や出来事を重視してしまう傾向は、「ネガティビティ・バイアス」と呼ばれ、その影響力は非常に大きいのだという。あまりにも大きすぎるため、人をとんでもなく不合理な判断に導くこともあるのだとか。しかもそこには、「切り取り方」が大きく関わってくることになる。

 まったく同じことだったとしても、ネガティブな切り取り方をされていると避けたくなるのはそのせいであるようだ。だから逆に、ポジティブな切り取り方をされていると喜んで受け入れたりするものだというのである。

「脂肪25%」よりも「赤身75%」を健康的に感じてしまう

 ちなみに、このことに関連した調査のなかでの著者のお気に入りは、牛挽肉に関するものだそうだ。

脂肪25パーセント、というとかなり身体に悪そうに感じる。なにしろ、目の前の肉の4分の1が間違いなく脂肪だと明示されているのだ。ところが、赤身75パーセントとなると、意味はまったく同じでも、ずいぶんと健康的で身体によさそうに感じる。(207ページより)

 おもしろいのは、調理した牛挽肉のハンバーグを参加者に食べさせる実験に関するエピソードだ。「全員に同じ牛挽肉を同じように調理」して出したが、半分の参加者のラベルには「赤身75パーセント」、残り半分の参加者のラベルには「脂肪25%」と、料理に添えるラベルは変えたというのである。

 すると、「赤身75%」の牛挽肉を食べた参加者は、「脂肪25%」の牛挽肉を食べた参加者にくらべ、「油っこさ」は低く、「赤身の味わい」は強く、「肉の質」は高く評価したのだそうだ。だとすればそれはまさに、バイアスの影響だと認めざるを得ないだろう。

 たとえばこのように、本書では日常のちょっとしたことがらと紐づけた興味深いトピックスが多数紹介されている。しかも前述したとおり章ごとに1つのテーマを扱った8章構成になっているので、自分にとって役立ちそうな項目から気楽に読み進めることができるはずだ。

 
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  • イェール大学集中講義 思考の穴──わかっていても間違える全人類のための思考法アン・ウーキョン、花塚 恵ダイヤモンド社

筆者紹介:印南敦史

作家、書評家。株式会社アンビエンス代表取締役。 1962年、東京都生まれ。 「ライフハッカー[日本版]」「ニューズウィーク日本版」「東洋経済オンライン」「サライ.jp」「マイナビニュース」などで書評欄を担当し、年間700冊以上の読書量を誇る。 著書に『遅読家のための読書術』(PHP文庫)、『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書する家族のつくりかた 親子で本好きになる25のゲームメソッド』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(以上、星海社新書)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、などのほか、音楽関連の書籍やエッセイなども多数。

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