PC向けプラットフォーム「Snapdragon X Elite」が話題だが「Snapdragon 8 Gen 3」もAIが進化
ASCII.jp / 2023年10月27日 10時0分
クアルコムは、米国ハワイ州のマウイ島で「Snapdragon Summit 2023」を開催。初日にあたる24日(現地時間)の基調講演では、CPUを刷新したPC向けプラットフォームの「Snapdragon X Elite」と、ハイエンドスマホ向けプラットフォームの「Snapdragon 8 Gen 3」が発表された。
◆PC向けプラットフォーム「Snapdragon X Elite」が中心の発表会
同イベントには、クアルコムのCEO、クリスチアーノ・アモン氏が登壇。「我々はコミュニケーションカンパニーから、コネクティッド・プロセッシング・カンパニーになると言い続けてきたが、本日、我々が注力してきたことをお披露目できる」と語った。
基調講演のハイライトは、PC向けプラットフォームのSnapdragon X Eliteだった。例年、Snapdragon Summitはハイエンドスマホ向けのSnapdragon 8シリーズの発表が中心だったため、これは異例と言えるだろう。既報のとおり、Snapdragon X EliteはCPUに同社独自設計の「Oryon(オライオン)」を採用しており、そのパフォーマンスを大きく高めている。
CPUは12コアで、それぞれ最大3.8GHz。内1つないしは2つのコアが、最大4.3GHzまでブーストされる仕組みだ。スマホ向けのSnapdragonで培ったAdreno GPUや、AIの処理を担うNPU(Neural Processing Unit)のHexagonも搭載。これらを束ねるクアルコムのAIエンジンを用いると、最大で75TOPS(秒間に75兆回)の処理性能を実現する(NPU単体では45TOPS)。
このOryonを開発したのは、クアルコムが買収したNUVIAでCEOを務めたジェラルド・ウィリアム氏。同氏は、アップルでMacやiPadに採用されてきた「M1」の開発に携わった人物だ。独立後に設立した会社を取り込むことで、クアルコムはウィリアム氏ごと、CPUの開発能力を手にした格好になる。その第一弾として登場したのが、Snapdragon X Eliteに搭載されるOryonというわけだ。
◆アップルのチップセットとOryonの比較で30%向上
このような背景もあり、基調講演でもっとも盛り上がったのは、他社チップとの性能を比較したパートだ。中でも、アップルの「M2 Max」とのパフォーマンス比較は、そのハイライトだったと言える。アモン氏がスライドを背景に、「シャッターチャンス」とあおったほどだ。クアルコムによると、M2 MaxはOryonとの比較でピークパフォーマンスが30%下回っているという。
また、基調講演でx86のアーキテクチャを採用したインテル製CPUとのパフォーマンス比較も披露。第13世代Core HXの「Core i9-13980HX」は、Oryonよりシングルスレッドのパフォーマンスが70%低いことが示された。こうした性能比較は、アモン氏からバトンタッチされたシニアバイスプレジデントのアレックス・カトージアン氏も連発。アモン氏はOryon単体でのものだったが、カトージアン氏はそれを組み込んだSnapdragon X Eliteの性能を次々と示していった。
ただし、Snapdragon X Eliteが採用されたPCの発売は、2024年半ばごろから。基調講演後には、Snapdragon X Eliteを内蔵したリファレンスデザインのPCが披露されたものの、製品として出荷されるまでにはまだまだ時間がかかる。その間、Snapdragon Summitでの比較対象になっていた競合他社も、新製品を投入する可能性が高く、現時点でこのパフォーマンス差をどう評価するかは難しいところだろう。
OryonやSnapdragon X Eliteの発表を見越していたかのように、同日、アップルは10月31日に新製品発表会を開催することを予告。キャッチコピーに「速いもの見たさ。」と銘打っているように、スピードに関連した新製品が投入されることが予想される。これらの背景事情や案内状の言葉をストレートに解釈するなら、「M3」が搭載されたMacなどの発表会になる可能性も。わずか1週間で、パフォーマンスの差がくつがえってしまうのかは、注目したいポイントだ。
◆Oryonはモバイルにも採用される
Oryonにまつわるもう1つのトピックは、次期モバイル(スマホ)向けプラットフォームのCPUとしても採用されるというアナウンスされたことだ。アモン氏は、サプライズの発表として、「このOryonは、2024年のSnapdragonモバイルプラットフォームにもやってくる」と語っている。Snapdragon Summitでは、Snapdragon 8シリーズの最新モデルとなるSnapdragon 8 Gen 3もお披露目されたが、この次に来るのがOryon搭載チップということになる。
従来どおり、世代を上げて「Snapdragon 8 Gen 4」にするのか、PC向けのSnapdragon X Eliteのようにリブランドするのかは不明だが、翌年発表されるチップセットの中身を、一部とはいえ、現時点で公開してしまうのも異例だ。それだけ、クアルコムがOryonの完成度に対しての自信と期待ががうかがえた。
モバイル向け「Snapdragon 8 Gen 3」はAIが大きく強化
このような発表にお株を奪われてしまった感もあったSnapdragon 8 Gen 3だが、こちらはこちらで、AIの処理能力を大きく強化している。NPUに衣替えした(昨年まではDSPと呼ばれていた)Hexagonは、処理能力が98%向上した一方で、消費電力は40%低減している。また、Metaとの提携で、同社の大規模言語モデルである「Llama 2」に対応。これを活用したAIアシスタントが、デバイス上の処理だけで利用可能になる。
基調講演には、MetaのCEO、マーク・ザッカーバーグ氏がビデオメッセージを寄せ、Llama 2をSnapdragon 8 Gen 3に対して最適化したことへの期待が語られた。同チップに内蔵される「Qualcomm Sensing Hub」は、Open AIの「Whisper」に対応。INT4の精度にも対応している。このほか、AIフレームワークの「PyTorch」と提携するなど、生成AIに関する機能が強化されている。
こうした性能を生かした機能の1つとして、カメラの生成AI対応がうたわれた。「Photo Expansion」と呼ばれる機能で、これはカメラに写っていない、フレーム外を生成AIが描いてしまうというもの。現行チップセットの「Snapdragon 8 Gen 2」で取り入れられた、被写体を分析し、それぞれに最適な処理を施す「セマンティックセグメンテーション」も、より細かくパーツを分解できるようになっている。
生成AIの活用を推し進めることで、フェイク画像が乱造される懸念もあるが、クアルコムはこうした課題にも同時に対応。Snapdragon 8 Gen 3では、データの編集や加工の履歴を残すための「C2PA」を利用可能になった。C2PAは、AdobeやIntel、ARM、マイクロソフトなどが立ち上げた電子署名の標準規格。スマホ側がこれに対応することで、写真や画像の“出自”をより把握しやすくなる。
◆「Xiaomi 14」にSnapdragon 8 Gen 3が搭載
例年、新しいスマホ向けのチップセットとともに、これを採用するメーカー名も明かされているが、今年のSnapdragon Summitでは、Xiaomiの幹部が登壇。26日に発表が予定されている同社のフラッグシップモデル「Xiaomi 14」に、Snapdragon 8 Gen 3が搭載されることが明かされた。ステージ上では、Xiaomi 14の実機が公開されている。
チップセットとそれを搭載する端末が同日にお披露目されるのも、これまでのSnapdragon Summitにはなかったパターンだ。PC向けプラットフォームのSnapdragon X Eliteを中心に据えた発表や、そのCPUであるOryonをスマホ向けに拡大してく表明、チップセットと端末の同時公開など、今年のSnapdragon Summitの基調講演は、予定調和に終わらないイベントだったと言えるだろう。競合他社がシェアを伸ばす中、クアルコム自身も転換期に差し掛かっているようだ。
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