NTT法廃止ではなく、「改正がリーズナブルな方法」と携帯3社が主張
ASCII.jp / 2023年11月1日 8時0分
NTT株売却による財源確保に合わせて、議論が進んでいるNTT法廃止に強く反発する、携帯大手3社(KDDI、ソフトバンク、楽天モバイル)は、渉外担当の幹部によるメディア向けの説明会を開催。国益や国民生活への影響の観点から、NTT法の見直しには慎重な議論が必要であること、NTT法の廃止ではなく、改正が「リーズナブルな方法ではないか」と主張した。
電電公社の民営化を前に制定されたNTT法 NTTは国営時代の投資で構築された「特別な資産」を持っている
今回の説明会ではNTT法の制定、その前提となる日本の通信自由化の歴史から説明がなされた。多くの読者が生まれる前(また大半のNTTグループ社員の入社前)の話になるが、国内の電気通信事業は特殊法人である日本電信電話公社(電電公社)が単独で業務をしており、強い規制と料金の高止まりが続いていた。
その後、通信自由化の政策のもとで、1985年に日本電信電話株式会社として民営化。さらに競争促進策として、1988年にNTTデータ、1992年にNTTドコモが分社化、さらに1999年にはNTTグループの再編で、NTT東西とNTTコミュニケーションズ、持株会社としてのNTTが誕生した。しかし、ここに来てNTTグループはNTTドコモとNTTコミュニケーションズを完全子会社化するなど、再統合の動きを見せている。
一方のNTT法だが、民営化の前年の1984年に成立。国が3分の1以上の株式を所有することや研究成果の開示など、さまざまな制約が課されている。そうした制約がなされる背景の1つとして、NTTが国内で通信サービスを提供する上で不可欠な「特別な資産」を所有している点がある。
具体的には局舎を始めとする多くの不動産、回線を敷設するトンネルや配管、電柱、光ファイバーなどだ。これらの多くは公社時代の累計で25兆円もの設備投資によって構築されており、NTTが電電公社から承継した。新規事業者がこの規模の投資をするのはあまりに困難で、また非効率であることから、NTTは公平な条件下で回線を提供する義務を負っており、国内の通信会社もさまざまな形で利用している。にも関わらず、NTT法を廃止することは、国益や国民生活に大きな影響が発生すると3社は主張する。
なお、前提として、3社ともNTT法の改正には反対しておらず、たとえば研究成果の開示義務など、時代に合わない条項を廃止するなどの必要性を認めている。
公正競争やユニバーサルサービスにNTT法は必要 今あるNTT法を改正するのが「リーズナブル」な解決策
NTT法廃止による具体的な問題としては、まず「公正競争」が挙げられた。3社は、組織を規定するNTT法と設備貸出ルールを定める電気通信事業法の両輪で機能すると主張する。電気通信事業法では、シェアが50%を超える電気通信事業者(固定系)に公平な条件でのサービス提供を義務づけており、NTTはこれで公正競争は確保されるという考えだ。
しかし、ソフトバンク松井氏はこれに強い不信感を見せている。たとえば、NTTドコモとNTT東西の統合を考えていないというNTT社長の主張に「我々にすると口約束に感じる部分がある」と強く反論。また、電気通信事業法に記されているのはあくまで高いシェアを持つ企業に対する義務化であり、NTT東西の一部事業を子会社に移転するなどして数字を変更するといった行為は理論的には可能で、あくまで組織の規定であるNTT法は必要という姿勢だ。
また、電話役務を日本全国あまねく提供することが義務化されている「ユニバーサルサービス」については、IP電話なども含めると計6000万契約が存在するなど、固定電話の需要は依然として存在し、義務自体の存在意義は失われていないと主張。メタル回線である約1350万契約のみを提示して、需要が減っているとするNTTの主張にここでも不信感が示された。なお、契約者の減少による赤字については、ラストワンマイルの回線をどうするかも含めて、あらためての議論が必要とした。
ソフトバンク松井氏は、1つの理論として、「特別な資産」の部分について資本分離を実施して、国営または他の通信会社も出資する特殊会社を作るという以前からの同社の主張をあらためて語ったが、一方ですでに設備投資している他事業者との調整や要する時間を考えるとやや現実的ではなく、NTT法の改正が「リーズナブルな方法ではないか」として、他2社も同意した。またNTT側は、NTT東西とドコモの統合の禁止、公平な回線提供の義務などを、電気通信事業法に盛り込むという案を示しているが、電気通信事業法の大きな変更ではなく、現在あるNTT法をそのまま残せばいいのではないかと主張した。
全体としては、今回のNTT法廃止の動きについて、競合各社側の非常に強い不信感があらためてうかがえる説明会だったと言える。いずれにせよ、通信という国民生活に大きく関わる問題だけに、さらなる議論、法改正の目的の明確化が必要だろう。
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