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Bluetoothに加え、低電力Wi-Fiにも対応するクアルコムの“S7 Pro” Sound Platform

ASCII.jp / 2023年10月28日 9時0分

 10月25日に開催されたクアルコムの新製品発表イベント「Qualcomm Summit 2023」において、様々な新製品が登場したが、オーディオ的に注目すべきは、新たに「Qualcomm S7 Gen1 Sound Platform」(以下S7)と「Qualcomm S7 Pro Gen1 Sound Platform」(以下S7 Pro)が発表されたことだろう。

 クアルコムによれば、S7とS7 Proは前世代よりも計算能力が6倍向上。AI処理能力においては100倍近い改善が得られるという。オンデバイスAIの搭載を通じて、さまざまなユースケースでユーザー体験を向上できるとしている。第4世代アクティブノイズキャンセリング、サウンドのパーソナライズ、聴覚補償などが含まれるそうだ。

7000番台のSoCで実現

 ポイントはS5の上位となるS7というクラスができたということと、新たにProが追加されたということだ。特にS7 Proは低電力Wi-Fiをイヤホンに導入する画期的なものだ。

 S7の実体は「QCC7226」というSoCチップだ。クアルコムのこうしたSoCでは、これまで「QCC5100」シリーズがトップと思われてきた。新たにハイエンドクラスが設けられたことを意味していると思う。クアルコムのネーミング的には7の上に9が来るので、推測ではあるが、さらに9000番台もフラッグシップとして控えているのかもしれない。

 見逃せないのは、従来「QCC5181」では2基だったDSPが3基に増えている点だ。現在でもQCC5100シリーズはかなり柔軟なソフトウェア処理ができるが、QCC7226ではそれが強化されるはずだ。また、DSPの他にAIコア(eNPU)を新規搭載している。これはいわゆるニューラルエンジンだと思われる。クアルコムがうたっているオンデバイスAIの実体になるものだろう。

 ちなみにスペックシートを読むと、QCC7226のデータレートはLE Audioを使用したときに1Mbpsとされている。Bluetooth SIGの講演では、LE Audioは現状2Mbpsと言っていたのだが、2Mbpsは理論値か目標値だと思う。ロバストネス(安定性)の兼ね合いで1Mbpsで実装しているのだと思う。

 S7は、QCC7226にQCP7321というチップが追加された組み合わせだ。調べてみると、過去にもQCPシリーズがあったがスマホより前の時代なので、新規のチップだろう。

 S7 Proにおいては「Qualcomm Expanded Personal Area Network Technology 」(以下、XPAN)をサポートしている。低電力Wi-Fi接続が可能となり、到達範囲が広くなり、QCC7226(およびQCC5181)だけでは最大48kHzだったロスレス伝送が最大192kHzになるとしている。つまり、Bluetoothだけではなく、Wi-Fiと組み合わせることで、到達範囲の広さと高いデータレートを実現したわけだ。

Wi-FiとBluetoothがシームレスに切り替わるXPAN

 XPANについては、クアルコムのOnQブログにもう少し詳しい記述がある。

 それによると、接続レイヤーの切り替えで、ニーズや場所、周囲の接続状況に応じて、適切な接続オプションを選択するとある。例えば、Bluetoothの圏外となる別の部屋や別のフロアに移動すると、イヤホンやヘッドホンはスマートフォンとの直接接続からシームレスに切り替わり、代わりにWi-Fi経由で接続されるとある。つまり、BluetoothとWi-Fiをシームレスに切り替えることで、到達範囲とデータレートを拡張できるということのようだ。

 クアルコムが先日実施したユーザー調査によると、約7割のユーザーがロスレス音質を購入の決め手としており、高価格帯イヤホン所有者の約8割が次のイヤホンの購入の決め手として「家庭内全てをカバーすること」を挙げている。このXPAN技術はそうしたユーザー要求に応えたものとも言えるだろう。

 スペックシートによると、XPANのデータレートは29Mbpsに達し、aptXの拡張により192kHz/24bitのデータをロスレス伝送できるとしている。

 このように、S7 ProではイヤホンでWi-Fiが使えるようになる。消費電力の関係でBluetoothの牙城であったワイヤレスイヤホンの接続方式が、低電力Wi-FiとXPANの登場で大きく変わることになるかもしれない。

Wi-FiであればIPを通せる

 もう一つの隠されたポイントは、BluetoothとWi-Fiの違いは到達距離や転送速度ではなく、IPをルーティングできるかどうかなるという点だ。

 例えばBluetoothのAuracastでは、手元のスマホを経由せず、イヤホンで直接、周囲の音を聞けるようになる。結果、イヤホンの独立性が増す。しかしながら、いまのところBluetooth接続のイヤホンで直接Apple Musicに繋ぎ、ストリーミング再生を楽しむことはできない。BluetoothはIPとは違う仕組みで通信するので、インターネットに接続できないためだ。

 IPが通るWi-Fiでイヤホンが通信するようになれば、スマホを介さず直接ストリーミングサービスにつなげる完全ワイヤレスイヤホンが登場するかもしれない。そうなれば、スマホを探さず、イヤホンだけで音楽を楽しむ時代が来るかもしれない。もちろんその場合はUIの問題があらたに発生することになるわけだが。

 このようにS7 Proがもたらす変化には極めて大きな可能性がありそうだ。

 その一方で別の懸念もある。先日Bluetooth SIGがLE Audioの5GHz帯や8Mbpsへの拡張を発表したが、それを待たずにアップルが5GHz帯を使ったロスレス対応の動きを見せている。また、クアルコムも29MbpsのWi-Fi伝送をイヤホンに実装しようとしている。もしかしたら、Bluetoothという標準に沿って発展してきたワイヤレスイヤホンが、独自技術によって分裂する曲がり角に来ているのかもしれない。

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