Steam Deck OLEDはHDR10対応のOLED搭載!従来機とも比較してみた
ASCII.jp / 2023年11月10日 3時0分
2023年11月9日、米Valve社は携帯型ゲーム機「Steam Deck」に新バージョンとなる「Steam Deck OLED」の発売をグローバルで解禁した。ストレージは512GBと1TBの2モデルが用意されるが、最安の256GBモデルは先代と同じ液晶(LCD)構成となる。ちなみに本稿の執筆時点(本稿公開の12時間前)における国内発売価格はまだ知らされていないが、北米価格は以下の通りとなる。
●新モデル ・Steam Deck OLED 1TB:649ドル ・Steam Deck OLED 512GB:549ドル ・Steam Deck OLED 256GB:399ドル
●旧モデル ・Steam Deck LCD 512GB:649ドル→449ドルに値下げ ・Steam Deck LCD 256GB:529ドル→399ドルに値下げ ・Steam Deck LCD 64GB:399ドル→349ドルに値下げ
Steam Deck OLEDとは、名前が示す通りディスプレーHDR対応のOLEDパネルを採用し、SoCが新しくなってバッテリー駆動時間が延長された“初代では見送られた機能を盛り込んだ新しいSteam Deck”である。ストレージが増量された(前述)ほか、Wi-Fi 6Eの採用や構造上の改良、さらにはキャリングケースの改良(1TBモデルのみ)なども見どころだ。
ちなみに、従来のSteam Deckは「Steam Deck LCD」とパネルの違いを末尾に表記して、価格を下げて併売するとのこと。
今回筆者は幸運にもSteam Deck OLEDのメディアサンプルを、Valve社から事前にお借りして触れる機会に恵まれた。液晶とストレージ以外にどこが変化したのか? ゲームのパフォーマンスも含め検証していきたい。
基本性能は大きく変わらない
Steam Deckの新モデルとなれば、性能アップへの期待が高まらないはずはない。だがこのSteam Deck OLEDに「Ryzen Zシリーズ」のような新世代SoCの採用はない。SoCはCPUがZen 2の4コア/8スレッド、GPUがRDNA 2ベースの8CU(Compute Unit)と、Steam Deck LCDのSoCから変更はない。
メモリーはLPDDR5-5500からLPDDR5-6400に強化されている。SoCのスペックが据え置かれたのはコストの問題もあるが、Steam Deck LCDとOLEDでSoC性能を変えないことで、ゲーム開発者がSteam Deck向けにチューニングをする際の作業負担を減らしすことを目的としている。性能も重要だが、別の方面でより良いエクスペリエンスを提供する、というのがSteam Deck OLED設計の狙いいだ。
そのエクスペリエンスとはバッテリー駆動時間や発熱の改善だ。Steam Deck OLEDのSoCはプロセスルールを7nmから6nmにシュリンクすることで、LCD版のSoCよりも省電力かつ低発熱動作を可能にした。
さらにSteam DeckのSoCはSteamOSでは使わない不要な回路(DSPなど)を除去し調達コストを下げているという。同じSoCとは言うものの、シリコンレベルでは着実に進歩しているのだ。
SoCのプロセスルールを6nmにシュリンクしたことでSoCの低発熱化と低消費電力化という2つのメリットが生まれた。特に後者のメリットは大きく、Steam Deck OLEDではバッテリーの持続時間がLCD版に比べ30~50%向上しているとValveは謳っている。
バッテリーの占有面積はさほど変化していないが、容量も40Whrから50Whwに拡張されており、バッテリー駆動時間延長に大きく貢献している。バッテリー駆動時間は携帯型ゲーム機の生命線であるだけに、このアップデートは多いに歓迎すべきものだ。
OLEDはバッテリー駆動時間延長や軽量化にも貢献
Steam Deck OLEDのディスプレーは“ゲームの本来あるべき姿を楽しむ”ためのものだとValveは語っている。今やSteamで配信されている著名タイトルの多くはHDRに対応しているため、Steam Deck OLEDを使うことでゲーム開発者が本来見せたかった表現で楽しむことが可能になる(これは画質が伴っての話ではと思うのだが……)。
Steam Deck OLEDで採用されたOLEDは解像度こそ1280×800ドットのままだが、最大輝度1000nitのHDR表示に対応しただけでなく、リフレッシュレートが最大90Hz対応、表示エリアも7.4インチに拡大したことでLCD版よりも華やかかつ滑らかな画面表示が可能となった。リフレッシュレートを90Hzにとどめた理由はコストのほかに、現状のSoCのパフォーマンスを考慮した上のことだ。
OLEDの採用はバッテリー駆動時間にも良い影響を与えている。パネル自体が省電力であるほか、パネルアセンブリーが薄型化したことでバッテリー容積も増やせるようになった。Steam Deck OLEDの重量はLCD版よりも30g軽いが、OLEDの採用も軽量化に一役買っているようだ。
内部構造はより修理しやすい設計に
OLEDの薄型化以外にも、Steam Deck OLEDでは内部構造に変化がみられる。全体的な基板の構成やレイアウトは従来通りだが、個々の要素はLCD版とはどこかしら違った設計のものが採用されていて、さまざまなフィードバックを設計に採り入れたことが見てとれる。
Steam Deck OLEDではワイヤレスモジュールがWi-Fi 6Eに対応したことで、6GHz帯の電波が使える状況下では、ダウンロード速度が若干速くなる可能性がある。ただ残念なことに、5G等のモバイル通信機能は実装されなかった。ゆえにSteam Deck OLEDでもインターネットに繋ぐ場合は固定のネット回線+Wi-Fiルーター、もしくはスマホやモバイルルーターのテザリング接続が必要になる。
Steam Deck OLEDではさまざまなパーツを固定するためのネジレベルでも改善が盛り込まれているのが面白い。ネジの本数や種類がSteam Deck LCDから減っているだけでなく、ネジの頭を普通のプラスからトルクス(T3)に変更して、より確実にトルクをかけられるようになった。
加えてSteam Deck LCDではネジの受け側がプラスチックな部分があった関係でネジがバカになりやすかったが、Steam Deck OLEDでは金属フレーム側に受けができた。分解を繰り返しても強度が落ちにくくなった点は嬉しい変更点だ。
さらに左右のバンパーボタンは落下などで衝撃を受けると内部の基板にもダメージが入りやすい設計だったが、実装方法を見直すことで修理性を向上させている。昨今のデジタルデバイスはとかく素人では修理不可な方向に進化しているが、Steam Deck OLEDはより修理しやすいよう進化しているのはValveならではと言うべきだろう。
ゲームのパフォーマンスは?
ではSteam Deck OLEDとSteam Deck LCDのパフォーマンス検証に入ろう。Steam DeckのOS(SteamOS)はLinuxをベースにProtonを利用してWindows用の実行ファイルを変換しながらゲームを動かすため、普段ビデオカードの検証で使用している手段が使えない。
一応SteamOS上でフレームレートを表示させる「パフォーマンスオーバーレイ」にはフレームレートを計測する機能(MangoHUDを使用)があるのだが、これも一筋縄で使えるような状況ではなかった。
そのため今回の検証は最低/ 平均フレームレートを計測して分析するのではなく、ゲームの特定のシーンを表示させた時にフレームレートやCPU/ GPU温度に違いが出るかをチェックすることにする。
さらにSteamOS 3.5の仕様(?)からパフォーマンスオーバーレイがスクリーンショットから除外されるようになったため、USB Type-C→HDMI変換アダプターを使い、外部のキャプチャーユニットに画面出力を引き出し、それをキャプチャーするという方法を採用した。
ただ検証設備の制約から、画面出力は1280×720ドットに制限されたうえ、Steam Deck OLEDの場合はゲームにより解像度設定に不具合も出たケースもあるため、あくまで発売前の状況での性能検証であることは強調しておきたい。しかしながら、Steam Deckの画面とHDMI経由で出力した画面出力で体感フレームレートはほぼ変わらない。
まずは「ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON」だ。解像度は前述の通り1280×720ドット、画質は“低”設定とした。ミッション「武装採掘艦護衛」を開始し、その場で約10分放置した時の状態をキャプチャーした。
続いては「BIOHAZARD RE:4」だ。画質は最低に設定。FSR 2は“バランス”設定とした。敵を排除した村での状態をキャプチャーした。
「Cyberpunk 2077」では画質“Steam Deck”とした。ZIG-ZIGストリート入り口付近に立った際の状態をキャプチャーしている。
続いて「F1 23」だが、OLED版だと画面のアスペクト比調整に不具合が出ていた。画質は“超低”とし、異方性フィルタリングはなし、アンチエイリアスはTAA&FidelityFX設定とした。サーキット(モナコ)上での状態をキャプチャーした。
「The Last of us Part 1」では画質を“最低”、FSR 2“バランス”とした。プロローグ終了後の都市部マップでの状態をキャプチャーした。
最後に試す「Hogwarts Legacy」では、画質は“低”、さらにFSR 2“バランス”設定とした。ホグワーツ城内における状態をキャプチャーした。
全体を通して、Steam Deck OLEDのパフォーマンスはLCD版と大差ないどころか、LCD版の方が若干フレームレートが高く出るシーンも見られた。Steam Deck OLEDはメモリーのデータレートが向上しているが、実際のフレームレートではメリットはほぼないと考えられる。
OLED版のパフォーマンスが伸び悩む理由は発売前のSteamOSやドライバーの熟成不足、もしくはバッテリー駆動時間を優先するあまりパワーを絞り気味にしている可能性が考えられる。
無論HDR設定が何らかの足を引っ張っている可能性も考えられる。このあたりは分析のしやすいWindows環境(後述)が整うか、MangoHUDがキッチリ動く環境を作ってからリベンジしてみたい。
ただ全てのゲームにおいて、Steam Deck OLEDのCPU/ GPU温度はLCD版よりも明らかに低い値を示しており、プロセスルールのシュリンクや冷却機構の改良がプラスに働いていると考えられる。ただパワー設定をやりすぎた結果の温度差である可能性もあるため、発売日直前の状況における観測ということでご勘弁いただきたい。
Windowsドライバーはしばしお預け
Steam Deck LCDはWindowsをインストールする手順やドライバーのDLリンクが公開(リンク:https://help.steampowered.com/ja/faqs/view/6121-ECCD-D643-BAA8)されている。Steam Deck OLEDに対するWindowsの導入手順(ブートローダー選択など)はLCD版と全く同じだが、Steam Deck OLED用のドライバーは発売日以降の公開となるため、現状ではWindows PCとして運用できないのだ。
ValveによるとAPUドライバーは発売後あまり日を置かずにリリースされるが、オーディオドライバーのリリースが遅れ、発売日から2~3週間かかる見込みだ。
失望もあったが、初代Steam Deckの完成形としては評価できる
以上で簡単ではあるが、Steam Deck OLEDの解説およびパフォーマンス検証は終了だ。先にも述べた通り、Ryzen Zシリーズのような最新かつ強力なアーキテクチャーを採用せず、パフォーマンスターゲットを据え置いたという点に関しては、ハードウェア好きとしては失望したことは確かだ。
だがその一方でSoCのプロセスルールをシュリンクし、OLEDを載せ、さまざまなパーツの設計を丁寧に見直して完成度を上げたことは評価しているし、何よりSteam Deck対応検証プロセスを煩雑化させない(そんなことはユーザーに関係ないのは承知だが)というビジョンをしっかり持ち、コストや納期のできる範囲で仕上げる、というValveの信念を再確認できた。
OLEDの画質は素晴らしいが、Steam Deck LCDユーザーが慌てて買い換えるほどの差異はない。だがこれからSteam Deckを買おうと考えているなら、ストレージが増量され、画質も向上したSteam Deck OLEDをまずチェックすべきだろう。
Valveによれば、本当の意味でパワーアップされたSteam Deck(Steam Deck 2みたいな製品)はまだ暫く出ないという。安易に後継機を出して型落ちモデルを出さないという点は消費者にも販売店にとってもプラスだが、筆者は後継モデルの発売に関して、Valveはもっと前のめりになるべきだと考える。
Steam DeckはSteamでリリースされているゲームを遊べる携帯ゲーム機ではあるが、無敵ではない。OS周り(主にProtonだが)の制限でWindows版と同じように遊べないゲームもあるし、何より直近の大作系ゲームでは「Starfield」のように“Steam Deckでは快適に遊べない”という判定が下ったゲームもある。
OS周りのトラブルはソフト的になんとかできても、重すぎて遊べないゲームがあるのはなんとも悔しい。その悔しさが定常化してしまう前に、なんとか次世代Steam Deckを出していただきたいものだ。
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