楽天プラチナバンド計画、厳しいツッコミにも三木谷会長は「どこ吹く風」
ASCII.jp / 2023年11月15日 7時0分
10月23日、総務省は楽天モバイルにプラチナバンドとなる700MHzの周波数帯を割り当てると発表した。
しかし、同時に明らかになった楽天モバイルの開設計画に対して、競合他社が異論を唱えはじめたのだった。
計画値が控えめで「本当にやる気があるのか」と言いたいようなのだ。
楽天モバイルが提出した開設計画では、プラチナバンドでのサービス開始を2026年3月頃としているが、同社では「準備が整えば、期日を前倒して運用開始する」という。
このスケジュール感に対してKDDIの髙橋誠社長は「すごい遅いペースだと思う」と語り、ソフトバンクの宮川潤一社長も「ちょっと寂しい計画だった」と本音を漏らす。
ライバルの社長が指摘するのはスケジュールだけでない。開設計画では「10年間で544億円」という設備投資額に対しても疑問の声を上げるのだ。
ソフトバンク宮川社長「2兆円投資してもつながらないと言われた」
宮川社長は「10年で1万局、500億円の投資はさすがにできるとは思わない」と語り、さらに「ソフトバンクは900MHzが欲しい欲しいと大騒ぎして、3年間で2兆円を投資して頑張ってもつながらないとい言われ続けた。そこから細かなチューニングを続けて10年かけて、ようやくここまでのインフラになった」と振り返った。
基地局を建設するには、アンテナや無線機などの機材のほかに、設置する場所を確保するという課題が発生する。運良く借りられる場所を見つけた際、地主に対して毎月、賃貸料を支払い続ける必要が出てくる。
さらにKDDIの髙橋誠社長は「楽天モバイルの鉄塔はギリギリ(の高さ)で作ってこられている。同じ鉄塔にプラチナバンドの設備を積むのは苦しいだろう。新たな鉄塔が必要ではないか」と推測する。
当然のことながら、プラチナバンドは楽天モバイルが持つ1.7GHz帯よりも遠くに飛ぶというメリットがある。既存3社の基地局を見ると、特に地方などではかなり高い位置にアンテナを設置することで、電波を遠くに飛ばし、一気にエリアカバーを広げている。
他社からすれば「楽天モバイルがプラチナバンドを生かすならば、今よりも高い鉄塔が必要なはずだ」と見ているようだ。
楽天モバイル三木谷会長「544億円で十分、おつりがくる」
そんな競合他社からのツッコミに対して、徹底的に反論してきたのが三木谷浩史楽天モバイル会長だ。
設備投資額に対しては「544億円で十分、お釣りが来る」と主張。これまで培ってきた完全仮想化技術により、新たにかかるコストはかなり抑えられるというわけだ。
アンテナに関しても、従来の1.7GHz帯の基地局に新たに700MHz帯の無線機器を貼り付けるような手法をとると明らかにされた。
これまでの1.7GHzで使っていたアンテナは、700MHzも利用できるマルチなアンテナに付け替える必要がありそうだが、三木谷会長は「我々のアンテナは業界内でも1、2を争うパワーだと思っている。小さいが高性能であり、大きければいいというものではない」と業界内の懸念を一蹴した。
決算会見で明らかになった無線機器のイメージ図を見る限り、1.7GHzと同じ場所にプラチナバンドのアンテナが収容されるようで、プラチナバンドの特性を生かすため、設置位置を高くするといった手法はとらないようだ。
宮川社長「1000万ユーザー超えたら帯域足りなくなる」
もうひとつ、楽天モバイルのプラチナバンドにおける懸念材料が、3MHz幅しかないという点だ。
競合3社はいずれも25MHz幅を持っている。今回、この3MHz幅の割り当てを楽天モバイルに提案したNTTドコモによれば、3MHz幅あれば、1100万契約分を収容できる一方で、通信速度は下り30Mbps程度に留まるとしている。業界内では「楽天モバイルはNTTドコモに貧乏クジを引かされたのではないか」と見る向きもあるが、ソフトバンクの宮川社長は「私は貧乏クジだとは思わない。持っていると持っていないでは似て非なるものだ」と、プラチナバンドがあるだけでも相当なメリットがあると主張する。
宮川社長は「3MHz幅があれば、相当なエリアカバーを実現できる。ただし、1000万ユーザーを超えるようになれば、その帯域では足りなくなるだろう」とNTTドコモの試算と同様の見方を示した。
では、楽天モバイルが1000万ユーザーを超えることはあり得るのか。
現在、楽天モバイルには542万人のユーザーがおり、10月の純増数は19.2万人を計上している。このままのペースであれば、2024年末までには800〜1000万の契約回線数を達成する見込みだという。
楽天モバイルでは現在のネットワークでは1000万人以上の契約回線をサポートできるキャパシティを確保しており、2024〜2025年にかけて多額の設備投資は不要とみているようだ。
とりあえず、あと2年間程度はネットワークキャパシティを拡大させる設備投資は回避できるようだが、1000万契約を超えてくると、さらなる追加投資が必要となるだろう。
プラチナバンドしか吹いていないような場所では、トラフィックがひっ迫し、「データが流れてこない」という事にもなりかねない。
宮川社長が救いの手差し伸べるも、三木谷会長はどこ吹く風
宮川社長は「(プラチナバンドの)使い方をよく検討した方がいい。トラフィック対応の1.7GHz帯と隙間を埋める700MHz帯を運用するにはチューニングに相当、ノウハウが必要だ」というのだ。
さらに「いまの開設計画では700MHzを生かせない。1.7GHz帯と700MHz帯を組み合わせる際、ソフトバンクの基地局の場所が適しているなら、議論に応じてもいい」と救いの手を差し伸べる発言をしたのだった。
ただ、「楽天モバイルへのラブコール」というわけではなく、宮川社長の暴走、いや思いつきでの発言だったようだが、三木谷会長は「(宮川さんの発言は)報道でしか聞いていない。今後、ソフトバンクだけでなく、KDDI、ひいてはNTTドコモも含め、協調するところ、競争するところ、いろんな形で話をしていければ嬉しい」と含みを持たせた。
KDDIやソフトバンクの社長が心配する楽天モバイルのプラチナバンド展開。三木谷会長としては、絶対の自信を持つ完全仮想化技術で、他社の心配なんて「どこ吹く風」のようだ。
※お詫びと訂正:楽天モバイルが総務省に提出した開設計画について、プラチナバンドでのサービス開始を2024年3月頃としていましたが、2026年3月頃の誤りでした。ただし楽天モバイルでは2024年内のサービス開始を目標としています。該当箇所の表現を変更します。(11月16日 9時28分)
![](https://ascii.jp/img/2018/08/10/1510370/x/9edac237d487442f.jpg)
筆者紹介――石川 温(いしかわ つつむ)
スマホ/ケータイジャーナリスト。「日経TRENDY」の編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。ケータイ業界の動向を報じる記事を雑誌、ウェブなどに発表。『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞)『未来IT図解 これからの5Gビジネス』(MdN)など、著書多数。
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