LINEヤフーの情報漏えいはソフトバンクの致命傷になりかねない
ASCII.jp / 2023年11月29日 17時0分
LINEヤフーは、11月27日、第三者による不正アクセスが発生し、ユーザーや取引先、従業員に関する情報が漏えいしていたと発表した。
可能性を含めて、漏えいが確認されている個人情報は30万2569件、取引先情報は8万6105件、従業員などの個人情報は5万1353件となっている。ただし、二次被害の報告は受けていないとのことだ。
原因はLINEヤフーや韓国NAVER Cloudの委託先企業の従業員が所持するパソコンがマルウェアに感染。旧LINEの社内システムへのネットワーク接続を許可していたため、NAVE Cloudのシステムを経由し、10月9日、LINEヤフーへのシステムへ第三者が不正アクセスできる状態になっていたという。
LINEヤフーでは10月17日に不審なアクセスを検知していたが、公表まで1ヵ月以上を要したことになる。
LINEヤフーでは2021年3月、旧ヤフーの親会社であるZホールディングスの経営統合直後、中国の業務委託先の従業員が日本サーバー内の利用者情報にアクセスできる状態になっており、画像などのデータが韓国のサーバーに保管されていたという問題も起こしている。
当時、ユーザーのデータなどは日本国内だけで管理するなどの対策が発表されていたはずだが、結局、現段階でも海外からLINEヤフーに不正アクセスできるようになっていた。
ソフトバンクの戦略において致命傷になりかねない
無料メッセージアプリ「LINE」は9500万のユーザーを抱える巨大なプラットフォームであり、スマホユーザーにとってみれば、最も身近で頻繁に使うアプリと言える。
そんな生活に欠かせないアプリで不正アクセスが起こっていたとなれば、ユーザーからすればどうしても使っていく上で「不安」にさせられてしまうだろう。
LINEヤフーがユーザーから信頼感を失うことは、ソフトバンクの今後の戦略において致命傷になりかねない。
ソフトバンクの傘下にあったZホールディングスとLINEは2019年11月に経営統合に関する基本合意書を交わし、2021年3月1日に経営統合が完了。しかし、2年間、全く経営統合の成果が出なかったため、ソフトバンクの宮川潤一社長がしびれを切らし、2023年10月1日にヤフーとLINE、Zホールディングスが合併して、「LINEヤフー」が誕生したばかりだ。
ソフトバンクがLINEを喉から手が出るほど欲しかったのは、9500万というスマホユーザーとの「接点」が得られるからだった。
ソフトバンクには「ヤフー」があるものの、どちらかといえば、パソコンユーザーが中心であり、必ずしも若者にリーチしているかといえば微妙であった。しかし、LINEがあれば、若者だけでなく、あらゆるスマホユーザー、下手をしたら、スマホを持つあらゆる日本国民との接点を持てる可能性が出てくる。
ここ最近のソフトバンクの決算会見では、4000万のソフトバンクユーザー、8500万のヤフーユーザー、5800万のPayPayユーザーとともに、9500万のLINEユーザーに対して、ソフトバンクが開発した生成AIを展開し、他社の差別化をしていくと明言されているほどだ。
ソフトバンクとしては、ヤフーとLINEのID統合、その先にはPayPayとのID統合を絶対に成功させなくてはならない。
ソフトバンク「経済圏」は必ずしもうまくいってない
NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天における通信キャリアの戦いは、単なる通信サービスや料金に留まらず、いまや「経済圏」の拡大競争にシフトしている。
通信サービスは圧倒的に他社を追いかける立場の楽天グループではあるが、楽天IDとポイントを中心とした「経済圏」の大きさやユーザーの支持においては、他の3グループを大きく引き離しているといえるだろう。
一方、ソフトバンクは、いまでは通信ネットワーク品質においては、4社の中でナンバーワンの評価を得ているものの、「経済圏」としては必ずしも上手くいっていない。
もちろん、ヤフーでのショッピングやオークション、さらにはPayPayなどのスマホ決済サービスはしっかりと機能しているものの、LINEとの統合がさっぱり進んでいない状況にあるのだ。本来であれば10月1日に合併し、これからLINEとヤフー、さらにはPayPayの連携が加速すべきはずだったのに、今回のような不正アクセス騒動が起きてしまっては、ユーザーからすると「LINEとヤフー、さらにはPayPayのID連携は辞めておこうかな」という機運が高まってしまいかねない。
LINEとヤフー、PayPayの連携が上手くいかないようでは、ソフトバンクとして楽天グループにガチンコの勝負を挑みにくくなってしまうのだ。
LINEのグループ入りは拙速だったのではないか
個人的にはソフトバンクは「LINEを傘下に収められる」と欲をかきすぎて、グループに招き入れてしまったのは拙速だったのではないかという気もしている。
LINEとヤフーとでは、個人のプライバシー情報に対する考え方が違うようで、ヤフーとして、いまのLINEの考え方や体制を改めてもらおうと必死に動き回っているという話も聞くほどだ。
このままでは「LINEとヤフーは昔のように別の会社として競争し合っていたほうが、日本のインターネットサービスは活性化されたのではないか」という評価になってしまいかねない。
「LINEとヤフーの経営統合は失敗だった」と烙印を押されないよう、LINEヤフーは早急にユーザーからの信頼を回復、PayPayとの連携を進め、「便利で楽しく安心なソフトバンク経済圏」の構築を目指さなくてはならないだろう。
筆者紹介――石川 温(いしかわ つつむ)
スマホ/ケータイジャーナリスト。「日経TRENDY」の編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。ケータイ業界の動向を報じる記事を雑誌、ウェブなどに発表。『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞)『未来IT図解 これからの5Gビジネス』(MdN)など、著書多数。
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