防衛大学校という“ジャングル”の日常は、吹き出しそうになるほどおもしろい
ASCII.jp / 2023年11月30日 7時0分
そもそも、なにかと謎が多く実態をつかみにくい場所ではあるのだ。そのせいか、防衛大学校(以下:防大)についてはトピックになりやすい情報ばかりが過度にクローズアップされがちな気がする。
事実、学生時代の私の耳にも、「学生なのに給料がもらえる」とか「そもそも学費が無料だ」など、“魅力的に思えなくもない”情報ばかりが飛び込んできたものだ。だが当然ながら、オイシイ話ばかりではないだろう。もしもいいことづくめだったとしたら、とんでもない数の入学志望者が殺到することになるだろうし。
『今日も小原台で叫んでいます 残されたジャングル、防衛大学校』(ぱやぱやくん 著、KADOKAWA)の著者も、高校卒業後に目を輝かせながら防大に進学したものの、着校初日に「家に帰りたい」と本心から思ったのだそうだ。
・常に集団生活のためプライベート空間は皆無。平日外出やテレビの保有は禁止などの制約が多々あり、「修行僧」のような生活を求められる ・「廊下は戦場」「3歩以上は駆け足」「同期と対番学生以外は全て敵」という不穏なパワーワードが合言葉 ・指導が飛び交い、「命の煌めき」を求められる清掃(「はじめに」より)
このように日常はハードそのものであり、一般社会における常識はあてはまらない様子。そのため、「大学に進む」というよりも「ジャングルへ行く」といった気持ちで進学したほうがギャップは少ないだろうという。
しかしその一方、防大には防大ならではのユーモアやおもしろさがあるようで、著者のなかにも稀有な経験が強烈に焼き付いているようだ。つまり本書にはそんな、経験から得た数々のトピックスが凝縮されているのである。
防大の学生は8パターンの個性に分けられる
防大は「将来の幹部自衛官になる者」を育成する機関だが、先述のとおり学費・衣食住が無料で、給与手当ももらえるため、自衛隊にまったく興味がない人たちも大勢やってくることになる。そのため学生の個性もさまざまで、著者はそれを8パターンに分けている。
1:英雄タイプ
意欲が高く、学力優秀・運動神経抜群で人柄もよく、カリスマ性があるタイプ。防大性にはこういった学生が学年で1人くらいはいるようだ。「あいつには偉くなってほしい」と誰しもが思い、実際、卒業後も戦闘機のパイロットや空挺団などのエリート部隊で活躍することが多いそうだ。
2:あふれる愛国心タイプ
高校時代から国防への意識が高く、「日本の国防は俺に任せろ!」と鼻息荒く防大の門を叩くのがこのタイプ。勉強熱心で真面目であり、防衛学などの講義ではマニアックな知識を駆使してレポートを仕上げてくるという。だがオタク気質であるため、理屈っぽく不器用だという側面も。
3:航空機のパイロット志望
卒業後にパイロットの道に進むことも不可能ではないため、広報官は「パイロットになれるよ! トップガンになろうよ!」とキラーフレーズを連呼し、パイロットを夢見る高校生をその気にさせるらしい。ただし、現実的にパイロットになれる人はひと握り。
4:地方の進学校出身者
防大受験は公務員試験扱いであるため、受験費用は無料。受験時期も秋ごろと早いので、地方の進学校では模試感覚で生徒に受けさせるという。そのため筆記のあとの2次試験では、「興味がないので行きません」と辞退者が続出するはめに。
5:親が現職の自衛官(官品)
自衛隊は世襲制ではないが、親の影響を受けて自衛官を目指す学生も少なくない(そういう人たちを、国の支給品にたとえて「官品(かんぴん)」と呼ぶらしい)。小さいころから「防大は最高だぞ」と吹き込まれてきているが、よくも悪くも防大や自衛隊に詳しいので、「こんなもんだよね」とドライな目を持っているようだ。
6:苦学生タイプ
学費無料で給与手当も支給される防大には、家庭の事情を考慮して進学してくる学生も。他の学生よりも壮絶な人生を歩んでいることが多いせいか、優秀で優しい人が多く、苦境に対してもポジティブだそうだ。
7:自衛隊生徒からの進学組
自衛隊にはかつて「自衛隊生徒」という、自衛隊の高校バージョンが陸海空で存在していたという(現在は陸自の高等工科学校のみ)。自衛隊生徒の成績優秀者は防大推薦がもらえるので、3年間の修羅場を乗り越えた彼らは防大にやってくる。いうまでもなく優秀で、自衛官としての基礎ができているため、防大でもリーダー的存在になるケースが多いらしい。
8:型破りタイプ
「高校卒業後の1年間は放浪の旅に出ていた」「元ビジュアル系バンドマン」「起業して失敗した」などエキセントリックな経歴を持ち、型破りで規格外。となるとすぐに辞めてしまいそうだが、要領がよくバイタリティがあるので、ちゃんと卒業できる人が多いようだ。
個性派だらけの日常がおもしろい
もちろんこれらは一部の例だろうが、とはいえこうした個性派が共同生活を送る防大の日常が普通であるはずがない。だからこそ本書の内容も普通ではなく、ときに吹き出しそうになるほどおもしろいのだ。
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今日も小原台で叫んでいます 残されたジャングル、防衛大学校ぱやぱやくんKADOKAWA
筆者紹介:印南敦史
作家、書評家。株式会社アンビエンス代表取締役。 1962年、東京都生まれ。 「ライフハッカー[日本版]」「ニューズウィーク日本版」「東洋経済オンライン」「サライ.jp」「マイナビニュース」などで書評欄を担当し、年間700冊以上の読書量を誇る。 著書に『遅読家のための読書術』(PHP文庫)、『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書する家族のつくりかた 親子で本好きになる25のゲームメソッド』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(以上、星海社新書)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、などのほか、音楽関連の書籍やエッセイなども多数。
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