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ポタフェス2023冬で感じた4つのトレンド、MEMS、低遅延など

ASCII.jp / 2023年12月10日 13時18分

ポタフェス2023冬 秋葉原

 e☆イヤホン主催の「ポタフェス2023冬 秋葉原」がベルサール秋葉原で12月9日から10日まで開催中だ。入場は無料、フリー入場制。興味深い展示がたくさんあったので、ピックアップして紹介する。

次の波が来そうなMEMSスピーカー搭載イヤホン

 エミライはMEMSスピーカーを採用したNoble Audioの新製品を展示した。USB接続の有線イヤホン「XM-1」と完全ワイヤレスイヤホン「FALCON MAX」が展示予定だったが、残念ながらXM-1の展示は見送られた。FALCON MAXは製品版と一部カラーリングに違いがある試作機が展示されていた。音質については最終版とのことだ。

FALCON MAX

 X878では、SoCが内蔵する2個のDACとアンプ(通常は左右2chの再生に使う)をフル活用。ソフトウェア処理で高域成分をMEMSスピーカー、低域成分をダイナミック型ドライバーに振り分け、それぞれを駆動する仕組みを採用している。これはハイエンドオーディオにおけるチャンネルデバイダー/バイアンプ駆動の形式と同じ。クロスオーバー回路が不要となるので、高音質化が期待できる。SoCには「QCC5171」を使用。QCC5000系のチップは、LDACデコード機能を始めとしたソフトウェア処理に注目されがちだが、NUARLではDACの方に着目したということだ。

X878

 音は試作段階ということだが、試聴してみると、音の透明感が高いのが特徴で、ヴォーカルがとてもリアルだ。中高域の透明感はFALCON MAX同様、あまり聞いたことがないほど高い。MEMSスピーカーの特性によるものだと考えられる。

低遅延はワイヤレスイヤホンの大きなキーワード

 ソニーマーケティングはゲーミングイヤホン「INZONE Buds」を展示。スマホとの接続(Bluetooth)はLE Audioのみという、現時点では珍しい制限がある。こ理由を担当者に聞いた。

ポタフェス2023冬 秋葉原
INZONE Buds、LEAudio専用という興味深い仕様

 まず、INZONE Budsはゲーミングイヤホンなので、遅延の大きなBluetooth Classicとの接続を残してもユーザーにメリットが少ないという考えがある。音楽用の「WF-1000XM5」との住み分けを意図しているそうだ。LE Audioのみという仕様にすることで、ANCをオンにして最大11時間の長時間再生を可能にした。LE AudioとBluetooth Classicの両方に対応する場合、Bluetooth Classicを使用しない場合も接続待機などで電力を消費するからだという。

 以前、Bluetooth SIGのケン・コルドラップCMOにインタビューした際、「Bluetooth ClassicとLE Audioの両方をサポートしている機種で、LE Audioを使っても、Bluetooth Classicのオーディオ規格に引っ張られて消費電力が増すことはないと考えている」という回答をもらった。これと齟齬があるようにも思えるが、実装によって差異が出るのかもしれない。

 INZONE Budsでは、USBドングル接続が推奨されていて、LE Audioについてのみ将来性を踏まえてワイヤレス接続を許すという考え方だ。遅延はUSBドングル接続(2.4GHzの独自方式)時は約30ms未満、LE Audio使用時は48ms。LE AudioはUSBドングル経由よりも遅延が高いことになる。

ポタフェス2023冬 秋葉原
INZONE BudsとUSBドングル

 面白いことに、付属のドングルはUSB-C対応モデルならばiPhoneでも使用できる。手持ちの「iPhone 15 Pro Max」を使用してINZONE Budsに接続してみた。iPhoneはUSB接続のヘッドホンとして認識する。

 価格は抑えているが、音質はコンシューマーモデルによくあるドンシャリサウンドではなく、帯域バランスがいい音だ。低音も抑えてある。ゲームでの使用を考え、低音のマスキング効果で中音域が聞こえにくくなることを防いでいると考えられる。音場は広く、細かい音もよく聞こえる。音楽を聞いても悪くはないが、ゲームのBGMに適した音傾向に思える。遅延はかなり小さく、ゲームで試してみるとほとんど画面タッチと同時に音がする感覚だ。

 なお、INZONE Budsはソニーの製品なのでAUDEZE買収の影響というのはないとのことだ。

高音質な有線イヤホンは根強い人気

 ミックスウェーブはFAudioの注目機種「Project X」を展示した。

 FAudio技術の集大成ともいうべき製品で、ダイナミック型ドライバー、バランスド・アーマチュア(BA)型ドライバー、ESTドライバー、ピエゾドライバーの4種類のドライバーが搭載されている。FAudioの担当者に聞くと、音の広さに重点を置いた設計で、ヘッドホンのようなサウンドをイヤホンで楽しめるよう設計しているという。試聴してみると、たしかに音の広さには驚かされる。左右の音場の広さはあまりイヤホンでは聞いたことがないほどだ。

ポタフェス2023冬 秋葉原
FAudio Project X

 担当者に「普通はドライバー数が多いと位相の問題で音場感は悪くなるはずではないか」と聞いてみたところ、「FAudioではドライバーを全て自社で管理していてパーツナンバーまで揃えている。そのようにして特性を一致させたドライバーを使用することで位相の問題を軽減して音場感を向上させている」という回答をもらった。

 音の広さ以外でも楽器音が鋭くインパクトがある。帯域バランスも良好で音質が高いモデルだと感じた。

 Pentaconnブースでは、ブランド初のイヤホン製品「Scyne α01」を展示していた。Pentaconnは端子のメーカーだったが、ケーブルも扱い始め、その延長線上でイヤホン本体を開発したという。設計は完全に自社で行い、OEMなどではないそうだ。ドライバー構成は非公開。もちろんイヤホンとケーブルを繋ぐ端子はPentaconnだ。音を聞いてみると躍動感があり、中高域も聴きやすいリスニングよりの音のように感じられた。

ポタフェス2023冬 秋葉原
Pentaconn Scyne α01

 また、人気の金属入りイヤーピース「COREIR」のアルミバージョンも試聴可能だった。従来のBRASSバージョンに比べるとより硬質で金属感の高い音がするように感じられた。イヤーピースの材質でこのように音が変わるのは面白い。

右側がアルミの軸を採用した新製品。左側は真鍮の軸の従来版だ

 finalブースでは、DITA Audioブランドの新製品「Project M」の試聴に長い列ができていた。Project Mは、DITAとしては初めてBA型ドライバーとダイナミック型ドライバーのハイブリッド方式を採用したイヤホンで、ステンレスの内殻(チャンバー)を透明で樹脂製の外部シェルで隙間なく包み込むというユニークな設計がなされている。ハイエンド製品が多いDITAとしては価格も手ごろだ。

Project M
Project M
Project M
カルダス製のケーブルに独自デザインのAwesome Plug(端子交換機構)を採用

 実機を手に取ると軽量で装着感が高い。一般的なアクリルシェルは中が空洞だだが、樹脂が内部に隙間なく詰められているせいか遮音性も高い。音はハイブリッド型イヤホンらしいパンチのある低音とクリアな中高域がミックスされたもの。とても滑らかで美しい音が楽しめる。

ASMRなど用途特化のイヤホンも

 アユートはAZLAの「ASE-500」のASMR版を展示した。

ポタフェス2023冬 秋葉原
ASE-500 ASMR、柔らかな筐体を使用し、耳の外側にも出っ張らない「寝ホン」と呼ばれるカテゴリーの製品

 ASMR版は標準版のダイナミック型ドライバーとは異なり、BA型ドライバーを搭載している。さらに人気のイヤーピース「SednaEarfit」のASMR版である「SednaEarfit MAX ASMR」が標準添付されている。このイヤーピースは単体販売もするようだ。開口部を小さくすることで音を減衰させ、ヴォーカルを際立たせる手法が取られているほか、従来モデルよりも密着感を高めて、ASMRに適した設計にしたという。軸は短く設計されていてTWSでも使いやすい。反面、軸が長い有線イヤホンでは使いなくい場合もあるので、購入前に確かめたほうがいいだろう。

ポタフェス2023冬 秋葉原
AZLA SednaEarfir ASMR

 ASE-500のASMR版はヴォーカルがかなり近接して聞こえ、ささやき声のようなASMR音源に適していると感じた。

ポータブルオーディオのリスタートと飛躍を期待するイベントに

 ポタフェス2023冬 秋葉原は、MEMSスピーカーがようやく市場に出てき始めたことを確認できるイベントになった。会場を歩いていたら、Head-FiのリーダーであるJude Mansilla氏に出会って旧交を温めることができた。4年ぶりの来日で、会場では熱心に日本の製品を試聴していた。

 ポータブルオーディオ業界でも新たな動きが始まり、止まっていたこともまた元のように動きだした2023年。来年は、さらにオーディオ界が活性化することを期待したい。

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